基準価格は変動する
投資信託は、運用の専門家が多数の投資家から集めたお金を1つにまとめ、株や債券などの金融資産や不動産などに投資し、 その運用成果を投資家に還元する金融商品です。投資信託の値段ともいえる基準価額は、 投資対象である株や債券などの時価評価の総額に利息や配当金を加え、運用コストを差し引いた金額を総口数で割って算出されます。 したがって、基準価額は、投資の対象となる資産自体の値動きにより変動することになります。
投資信託の種類 | 投資信託の価格の主な変動要因 |
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国内株式ファンド | 日本企業の株価 |
米国株式ファンド(ヘッジ有) | 米国企業の株価 |
米国株式ファンド(ヘッジ無) | 米国企業の株価、為替(ドル円) |
日本国債ファンド | 日本国債(円金利) |
米国国債ファンド(ヘッジ無) | 米国国債(ドル金利)、為替(ドル円) |
REITファンド | REIT価格(金利、株価、不動産価格) |
米国ハイイールド債券ファンド (ヘッジ無) |
ドル金利、信用スプレッド、為替(ドル円) |
バランスファンド | 投資対象すべて(株価、債券、コモディティ等) |
カバードコール型株式ファンド | 株価、為替、株価のボラティリティ |
カバードコール型REITファンド | REIT価格、為替(ドル円)、米国REIT価格のボラティリティ |
この投資信託の価格の変動は、特に、「為替ヘッジ」の有無で大きく様変わりします。 「為替ヘッジが無い」場合、投資対象資産の価格変動に加えて、 為替(ドル建てであれば、ドル円レートの水準)の影響を受けることになるためです。
さらに、投資信託の価格の変動要因には代表的なものがあり、これを分類・集計することで、 保有している投資信託全体の変動要因を把握することができます。
代表的な変動要因(分類) | 概要 |
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為替 | 異なる通貨間の換算レートのことで、円以外の通貨建ての投資信託の場合に影響 |
株価 | 株式市場での取引価格のことで、株式市場全体(例:TOPIX)と個別銘柄の動きの影響を受ける |
金利 | 債券のクーポンのことで、通貨・期間により水準が異なる |
信用スプレッド (クレジットスプレッド) |
社債等の信用リスクを有する金融商品で上乗せされる金利のことで、信用リスクが高いほど高水準となる |
ボラティリティ | 「オプション」の評価に関する指標のことで、オプションが参照する資産の価格(例:株価オプションであれば株価)の値動きの度合 |
それでは、投資信託の価格変動のイメージをつかむため、「代表的な変動要因」を複数含む、 カバードコール型の投資信託の基準価額を例にとり、投資対象の原資産と為替の変動による影響を見てみましょう。
カバードコール型ファンドの
価格変動のイメージを見る
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オーストラリア株式ファンド
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米国REITファンド
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ところで、こういった変動要因が複数あるカバードコール型の投資信託は、どういった目的で開発された商品なのかを考えてみましょう。
一見、株やREITといった原資産に投資することで、その値上がり益を狙っているように考えられます。 -
ここで、カバードコール戦略がどういったものであったか考えてみましょう。 この戦略では、原資産(上記の例ではオーストラリア株式や米国REIT)を保有したまま、コール・オプションの売却を行い、収益を得ます(オプションのプレミアム収益)。オプションの細かな説明は省きますが、投資対象の原資産の値動きが小さい場合や、今後下落が予想される場合には有効です。 一方で、株やREITといった原資産に投資しているにもかかわらず、これらの値上がり益を得ることはできません。 これはオプション収益の対価と考えることができます。これでは、株を買っても企業の長期的な成長の恩恵を受けることができません。
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では、カバードコール型の投資信託はどういった目的の商品なのでしょうか。
もしかすると、オプション収益を得ることで、通常の株式投資信託よりも分配金を多めに支払うことが目的でしょうか。 オプション収益は比較的安定的に決算上の利益として計上できるため、「翌期繰越分配対象額」という名称の分配金の原資を決算上多めに積むことができます。オプション収益が得られるカバードコール型の投資信託では、分配金を多めに払うことができるというカラクリがあるようです。 -
全てに当てはまるわけではありませんが、カバードコール型の投資信託は、顧客に対して株式投資というイメージを抱かせつつも、実際には株式の値上がり益を放棄させ、分配金を高く見せるためにオプション取引を行っているとも捉えることができ、そのマーケティング手法には注意が必要です。分配金が多ければ、当然基準価額の下がり幅も大きくなります。 決算書上の数値をテクニカルに増やしているだけという側面があるかもしれない点を理解して、 本当に自分の投資目的に合った商品なのか、考えることが重要です。