投資ストラテジスト河合達憲による市況解説!
年内の高値予想と年明けのプロローグ
~年初来高値奪回は、年内時間切れながら、年度内ならば射程距離は充分届く!?~
G20通過で期間限定「平和の配当」師走相場の見通し
さて、11月最終から12月初日にかけて開催されたG20では、「保護主義のと闘う」という文言は盛り込めなかったが、閉会後の米中首脳会談では1月発動予定の制裁関税引き上げを90日間の猶予期間を設けるということで‘手打ち’となった。そもそも両国間の貿易問題は根が深いことから、ここからの両国の歩み寄りはさほど期待しづらいが、猶予期間で足元は‘時間稼ぎ’ができたことは確かだろう。マーケットは、両国の期間限定の‘手打ち’で、米中貿易戦争は一時休戦となり、株式市場は「平和の配当」という上値追い環境への追い風が吹いたとみられよう。
いよいよ2018年も年内最後の月、12月の師走相場に入り、各メディアからの年末の日経平均予測についての取材依頼を多く受ける時期になってきた。
日経平均に関して予測すると、いくつかのポイントを整理すれば年末予測が割り出される。
- 外部環境が好転しつつあること
- 為替と株価の水準論において、現株価水準が大きくカイリしていること(水準論のキャッチアップ)
- 中間決算が終了(11/15)、業績DIが上向きとなりPERが効きだすこと
- 年初来高値(10月)までの時間的猶予と月間平均値動き
12月という月が強いというアノマリーについては、2012年以降、前月比では4勝2敗、月間陰陽線では月末高を示す陽線が3勝2敗1分けだ。最も注目すべきは、12月に年間の高値形成が、5勝1敗と圧倒的に12月は年間の中でも強い月であることが検証される。よって、素直に12月は月末にかけて強い動きを示すことが確率的に示される。
外部環境は、為替が円安水準を維持していることや、米国株がようやく底入れを示していることが、12月相場の日本株の追い風となる主因といえよう。外部環境が逆風の間は、たとえ国内の市場内要因が堅調であっても力強い反騰相場の望みは薄い。世界は、ワンワールド・ワンマーケット化が近年特に進んでいる。世界中の株式・債券・為替・商品が絶妙なバランシングで価格形成され、連動して動いているという事だ。
ただ、為替については、12月18・19日にFOMCが開催され、2015年12月から9回目となる利上げが検討されている。現時点では利上げ観測がやや遠のいた感があるが、打ち止めという予測ほどでもない状況だ。先の11月28日にパウエルFRB議長は、現状の政策金利を中立金利に‘わずかに低い(Just below)’という表現で発言した。市場では、2019年も通年の金融政策が引き締め的を続けるとの警戒感が後退し、利上げピッチが緩まるとの期待感からNYダウは前日比600ドル以上の急騰を示し、11月23日の2万4268ドルの二番底を確固たるものにした。
米10年債利回りは3%前後を堅持しており、ドル高円安の方向性に動き易い環境といえよう。ただ、Fedの利上げの行方については良し悪しだ。こうすればこうなるというマーケットの公式的なものは無いに等しい。よって、利上げする前にマーケットの動きに予測として組み込むのは複雑系すぎるといえよう。
例えば、同FOMCで利上げを見送った場合、そこまで米国景気が不透明なのかとマーケットが解釈すれば、米国株はNYダウから崩れ出すだろう。見送った場合の逆のケースとしては、見送ったことで景気回復への配慮とマーケットが解釈すれば、長期債の買いで金利は低下し、米国株は益利回りとのバランシングから買い進まれるだろう。つまり金融政策による利上げに纏わる予測を加えると、どうも悩ましい不確実な予測になるということを付け加えておきたい。
また、為替と株価の水準論については、全てが水準論で連動するわけではないが一定の効能はある。今年1年で検証しても、為替の円安水準と日経平均の高値水準は時間軸と共にほぼ合致している。例えば、年初113円台水準と日経平均の1月の年初高24129円が合致しており、その後の円高への振れは3月下旬の104円台中盤とほぼ同時期の20347円は完全一致の応当値の範疇だ。また直近では、10月初旬の114円台中盤と日経平均の戻り高値である年初来高値24448円も応答値としては一致している。ところが、10月の急落から水準論において為替と株価が大きくカイリを示し出した。現在の為替水準113円台後半は、水準論の応当値としては、日経平均の24000円台が応当する。よって、現日経平均の水準は約2000円程、水準論の応当値から減価された水準だ。これは為替が113円~114円を維持する限り、株価が応当値にキャッチアップする大きな理由となるのではないか。
次に、バリュエーションが効果を発揮するタイミングに入ってきたことは念頭に入れておいたほうが良いだろう。精緻にPER分析を突き詰めると、実はPERというバリュエーションは単純化して使わない方が賢明だ。
例えば、日経平均は、13倍以下は割安・17倍以上は割高など、これはあまりにも短絡的な知見といえよう。PERは、業績が上振れに向かう“方向性”が重要であり、下振れする“方向”の局面ではPERは歯止めとして作用しづらい。これは計算式をみれば明らかだ。
今更ながら、PERの計算式は、分子に株価、分母にEPS(1株当たり利益)であるが、厄介なのは、分子・分母ともに固定値ではないということだ。分子・分母ともにどちらにも動くのである。これが重要だ。つまり、分母であるEPSが増額していく“方向”にあるならば、分子の株価が下落すれば、初めてPERの割安測定の効果が出始める。よって、分母のEPSが増額の“方向”にあるならば、そこに割安・割高のジャッジが入っても有効性を発揮するのである。PERとは簡単なようで、案外、この不確実な分母のEPSの“方向性”を読み抜かねば、効能を間違うことになる。
日経平均採用の225種の今通期の最終利益予想は、期初段階では前期比▲6.7%減益予想からスタートしたが、四半期毎に業績見通しが上振れており、第1Q段階では同▲4.6%減益予想、直近の中間期段階では▲1.9%減益予想とじりじりと前期水準まで盛り返している。今後、年明け2月15日の第3Q終了時点では前期比トントン水準まで切り返すと見通される(期末の着地では小幅増益と想定している)。先述の“方向性”の重要性でいえば、今期は期中を通じてEPSが上振れる“方向”にあることから、そろそろPER12倍台という現株価の割安さがクローズアップされるタイミングといえるだろう。
さらに、12月の高値については、年初来高値更新と予見したいところだが、10月の年初来高値24448円までは少々距離が遠いといえるだろう。同高値は、現株価水準からは約2100円幅の上昇となり、残りの立会い日数から換算すればいささかハードルが高いのではないか。
なぜなら、日経平均のここ10年間の1ヵ月間の高値-安値幅を検証すると、概ね月間値動きは1050円程度がアベレージだ。もちろん、maxが3002円という月もあるがそれはレアケースだ。このような味気ない平均値だけで予測に当てはめる気は毛頭ないが、あまりに突飛な数字は信頼性が低いのではないか。
もう少し精緻に確率論でアプローチすると、月間で2100円以上動いた月は、120ヵ月のうち5回しかない。これは確率では4%程となる。わずか4%の確率で「高値奪回」を予測するのは無謀ではないだろうか。ところが、1000円以上動いた月は52回が示され、4割以上の確率となる。さらに12月だけに絞り込むとこの確率は6割に高まる。この確率なら予測に耐えうるのではないか。つまり23000円奪回は狙える可能性は高いが、24500円回復は“時間切れ”という確率が高いということである。(期待値をオンして23500円というのが12月高値の予測としているが・・・)
但し、これは時間軸を限定した場合であり、「年度末」の3月末までという時間軸ならば、24500円超は充分値幅の確率に耐えうる水準といえよう。
蛇足ではあるが、先の日経平均の高値-安値の値動きであるが、過去10年間の年間値動きでは、幅4200円・率40%と頭の片隅に置いておけば良いだろう。つまり、年一回の波動をうまく予測できれば年間3割程度のパフォーマンスは充分狙えるということだ。参考にされたし。
マザーズ指数がキャッチアップ!
このままメイン市場をアウトパフォームするのか!?
最後に、日本市場のなかで個別の指標の動きを分析すると、マザーズ指数と日経JQ平均がいよいよ出番到来となってきたのではないか。ただでさえ、12月は荒い動きをする。そこに小型株や新興銘柄の集合体であるマザーズ指数やジャスダック指数は、威力を発揮する時間帯といえよう。
本年4月の年度初めを100とした指数化チャートを点検すると、1-3月までは4つの国内株価指標はほぼ連動して推移していたが、年度初めの4月を基点に非連動化が進行した。日経JQ平均とマザーズが急落し、日経平均は単独アウトパフォームしている。
実は、日経平均が年度初めの株価を割り込んだのは、今回10月の急落の最終局面のみである。現在も再び100(=年度初め株価)を上回っており、運用サイドからすれば‘さほど悪くない’パフォーマンスといえよう。加えて、TOPIXは金融当局のETF買い入れがTOPIX型にシフトしたというフレコミにも関わらず、10月以降アンダーパフォームしている。新興市場の指標とされるマザーズ指数にいたっては、一時70を割り込む場面もみられ、散々たる状況だ。これは、春以降、個人投資家の売買代金が約6割とされる同市場の下落が著しいことで、個人投資家の‘痛み’が激しく、投資家が離散するのもムリはない状況であったといえるだろう。
ところが、日経平均が本年の戻り高値(=年初来高値)を示した日を100とした指数化チャートで点検すると、マザーズ指数の急速なキャッチアップと11月初旬以降のアウトパフォーム化が判る。現況では、他のどの指標よりも最もパフォーマンスが高い動きとなった。谷深ければ山高しというわけか。
いよいよ12月の師走相場は新興市場のアウトパフォームが進行し、新興市場の6割を占める個人投資家の出番到来といえるのではないか。
特に、小型株や新興市場への物色が始まる要素は揃っている。一つは、先述のとおり外部環境が改善し、全体の地合いが好転しつつあることでリスクマネーが動き出す環境が整ってきたことだ。新興市場はリスクを取っても良いというマネーが動き出さねば物色は向かわない。さらに、11月15日で中間決算が終了し、メインの金融イベントが終了したことで、物色は材料株に向かい易いカレンダーとなる。12月相場はただでさえ、‘餅つき相場’と例えられ、荒っぽい動きをするとされている。小型株や新興市場が動意づくことでマザーズ指数や日経JQ平均のさらなるアウトパフォーム到来ではないか。
結論は、日経平均の年内高値予測は23500円をミッドレンジとして、掉尾の一振でひと伸びした場合に24000円も(期待値として)想定できよう。そして年明けには、ご祝儀相場の後、節分天井(2月)→彼岸底(3月)を順当に想定していきたい。勿論、1-3月期という時間軸ならば、10月2日の2万4448円奪回も射程圏に捉えられよう。
末尾ながら、2018年の「戌(いぬ)は笑い」に続いて、来年2019年は「亥(い)固まる」です。2018年度業績の着地は前期比トントンならばまぁ結果オーライですが(当中間期段階で通期最終益は▲1.9%減益予想→下期経過後の期末には前期比トントンを予想)、来年2019年度業績は、2012年11月のアベノミクススタートから利益好調で順調に積み上がり、ここ7期(2012年度~2018年度)の間に利益ハードルはますまず高くなっています。つまり、2019年度が今年度の2018年に続いて業績停滞もしくは踊り場局面とすれば、この「亥(い)固まる」もマーケットに当てはまるのではないだろうか。
(執筆:河合達憲)
好業績・ウリ長銘柄で反発初動を狙う
株価 | 経常利益伸び率[%] | 信用倍率 | |||||||
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決算 | 12/3 | 前々期 | 前期 | 今期予 | 三期平均 | 合算 | |||
5002 | 昭和シェル | 石油・石炭 | 3月期 | 1,805 | 460.2% | 94.3% | 37.7% | 197.4% | 0.97倍 |
5021 | コスモHD | 石油・石炭 | 3月期 | 2,785 | 325.5% | 43.5% | 34.4% | 134.4% | 0.65倍 |
5101 | 浜ゴム | ゴム製品 | 12月期 | 2,385 | 128.0% | 0.2% | 64.1% | 0.33倍 | |
9983 | ファストリ | 小売業 | 8月期 | 58,580 | 114.3% | 25.5% | 11.3% | 50.4% | 0.26倍 |
8015 | 豊田通商 | 卸売業 | 3月期 | 3,935 | 83.5% | 48.9% | 8.2% | 46.9% | 0.79倍 |
4516 | 日本新薬 | 医薬品 | 3月期 | 7,830 | 81.5% | 7.4% | 8.9% | 32.6% | 0.91倍 |
4151 | 協和キリン | 医薬品 | 12月期 | 2,309 | 30.3% | 27.1% | 28.7% | 0.81倍 | |
6923 | スタンレー | 電気機器 | 3月期 | 3,395 | 16.0% | 26.1% | 4.1% | 15.4% | 0.39倍 |
7532 | ドンキHD | 小売業 | 6月期 | 6,890 | 3.9% | 25.7% | 13.6% | 14.4% | 0.98倍 |
2871 | ニチレイ | 食料品 | 3月期 | 3,195 | 36.0% | 5.3% | 1.1% | 14.2% | 0.10倍 |
(注)母集団:日経500種採用銘柄。【抽出条件】経常利益、前々期・前期・今期予の三期で減益及び赤字除く153社対象。
うち信用倍率(合算)が1倍未満のウリ長銘柄40社。経常利益、三期平均伸び率高順にランキング。
経常利益今期予想は日経予想ベース。信用倍率は11月22日現在。株価12月3日現在。(カブドットコム証券 作成)