株式アナリストの鈴木一之です。
2022年9月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
全体相場の振り返り
ジャクソンホール パウエル講演を受けて株価急落
9月相場は世界経済の先行きに暗雲が立ち込め、株式市場が激しい下落圧力にさらされました。
震源地はやはり米国市場です。
9月早々から波乱の展開となりました。
8月25日・木曜日(現地)、ジャクソンホールにおいて行われたパウエル・FRB議長の講演を受けて、翌日の8月26日(金)のNY株式市場はNYダウ工業株が一日で▲1,008ドルも下落する波乱の展開となりました。
今年3番目の下げ幅です。
パウエル議長の講演は8分間という短いものでしたが、論旨はきわめて明確です。
「インフレを抑制するまで、金融の引き締め政策を続ける」というものです。
パウエル議長はこの内容を「やり遂げるまでやり続ける」という短い言葉でまとめています。
物価の上昇を抑え込むためには景気を犠牲にすることもやむを得ない、とこれまでになくタカ派的な態度を強調しました。
金利上昇の影響は、成長期待の強いテクノロジー株の集中するNASDAQに表れます。
NASDAQ総合指数はジャクソンホール会合のあと、9月6日まで7日続落を記録しました。
その後も「金利上昇、株価下落」という軟調な地合いが世界各地で見られました。
NASDAQ総合指数の9月の月間下落率は▲10.50%に達し、リーマン・ショックからの立ち直りの時期に当たる2010年以降では2番目の下げとなりました。
(最も大きく下げたのは2022年4月の▲13.26%、コロナ危機でWHOがパンデミック宣言を発した直後です。)
同じようにNYダウ工業株の9月の月間下落率は▲8.84%となり、これも2010年以降では3番目の記録です。
(第1位は2020年3月の▲13.74%、第2位は2020年2月の▲10.08%、いずれもパンデミック宣言の前後です。)
東京市場も大幅な株価下落が避けられませんでした。
日経平均の9月の月間下落率は▲7.67%となりました。
2010年以降の月間の下落率ランキングでは15番目の記録となります。
軟調ではありますが、日本は相対的に下げが小さいとその後の9月相場で指摘され続けました。
TOPIXは▲6.52%、東証マザーズ指数は▲6.33%でした。
ちなみに、2010年以降の日経平均の月間下落率の第1位は、2010年5月の▲11.66%です。
この時は、後になって欧州債務危機に発展するギリシャの財政危機が表面化し、それに対してEUとIMFが協調して7,500億ユーロの財政支援を発表した時です。
(第2位は2020年3月の▲10.52%、第3位は2018年12月の▲10.46%です。)
歴史的な出来事が相次いだ2022年9月
9月は世界史に残るような大きな出来事がいくつも起こりました。
9月19日(月)にはイギリス女王・エリザベス2世の荘厳な国葬が行われました。
ウクライナ戦争ではウクライナ軍が次第に勢力を盛り返し、東部の占領地域からはロシア軍が撤収していると伝えられました。
ロシアのプーチン大統領は「部分動員令」に署名して、30万人にのぼる予備役の召集を始めました。
ロシアから大量の人々が国境を越えて脱出しています。
日本では台風が9月下旬の3連休に2度も上陸し、西日本、東海、東北地方に記録的な大雨をもたらしました。
自然災害の被害が以前と比べて格段に大きくなっています。
3年ぶりに対面式で開催された国連総会で岸田首相が演説を行い、その後の記者会見で現在の厳格な水際対策を緩和して、1日あたりの入国者数の上限を撤廃することを表明しました。
短期ビザの取得も免除され、これで海外から日本を訪れる外国人観光客への規制はほぼゼロとなります。
これらの措置は10月11日から実施されます。
加えて日本国内の観光旅行の振興策として「全国旅行割」や「イベント割」を同じ日程でスタートすることも決定しました。
コロナでダメージの大きかった観光業、サービス業への支援策がこれまで以上に整い、株式市場でも消費関連株を中心に「経済再開期待銘柄」がにぎわいました。
各国の金融引き締めと政府日銀による円買い為替介入
9月20~21日に開催された米国のFOMCでは、0.75%の政策金利の引き上げが決定され、FF金利は3.00~3.25%になりました。
3%を超えるのはリーマン・ショック前の2008年1月以来のことです。
FRBの金融引き締めの強固な意志とは反対に、日銀は大規模な金融緩和を継続しています。
9月22日(木)には日銀の金融政策決定会合も開催されました。
そこで日銀は現在の金融緩和政策の維持を決定し、短期金利はマイナス0.1%、長期金利はゼロ%の「イールドカーブ・コントロール」が継続されました。
スイス中央銀行もすでに利上げを実施しており、今では世界を見回してもマイナス金利を持続しているのは日本だけです。
金融政策の現状維持は予想された内容ではありましたが、日銀の発表直後から為替市場ではドル高・円安が進み、発表直後には円は24年ぶりの145円台まで下落しました。
1998年8月以来の円安水準です。
9月23日(金)は「秋分の日」の祝日で、3連休を控えていることから連休中に円安が進む恐れがありました。
1998年の147円台まで下落するかもしれない、と覚悟した矢先のことです。
9月22日(木)の夕方5時過ぎ。
黒田総裁の記者会見の直後に、政府と日銀は24年ぶりとなる円買い・ドル売り介入を実施しました。
145円の半ばを超えていたドル円相場は、瞬間的に1円以上も円高に振れました。
前週の9月14日(水)に「レートチェック」、いわゆる口先介入が行われており、円買い介入があるかもしれないとは噂されてはいましたが、タイミングとしては市場の意表を突く形となりました。
その後は月末まで介入はないまま、143~144円台で推移しています。
ただ、円高を食い止める円売り介入とは違って、円安に立ち向かう円買い介入には限界があります。
外貨準備(18兆円)は大部分を外国債券として保有しているため、全額を介入資金として使うわけにはいきません。
円買い介入に投じられる資金には限度があり、政府・日銀だけで現在の円安・ドル高を食い止めることはむずかしいと見られます。
任期の近づいている黒田総裁の後任人事も取りざたされ、日銀の政策変更はあるのか、あるとすればいつごろか、どのような形になるのか。
その際の市場へのインパクトはどの程度か。
為替介入は続くのか。
それまで株価と景気は持ちこたえられるのか。
市場が山ほど抱えている疑問の多くが答えを得られないまま、9月相場が終わり10月相場へと続きます。
「HOTな銘柄」
9月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
小売・消費関連株
株価の堅調だったセクターは小売・消費関連株です。
3月末でコロナ禍の行動規制が全面解除されて以来、消費回復、経済再開に関連する銘柄が花開いています。
中でも際立っているのが百貨店株です。
高額商品が驚くほどよく売れており、高級ブランドを専門的に扱うデパート各社の月次の売上高が大きく伸びています。
東京・銀座と浅草に店舗を構える松屋(8237、第15位、888円→1,037円、+16.8%)は、8月の月次売上高が前年比+42.7%も伸びました。
売り場面積を2割拡大した化粧品が+54%も伸びたのを筆頭に、ラグジュアリーブランドは+53%、時計は前年比2倍の伸びを記録しています。
松屋カードを保有する顧客を中心に「秋の感謝祭」を開催したところ、2日間の売上高が16億円に達し過去最高を更新したそうです。
松屋は9月も+37.6%の伸びとなりました。
2週続けて台風が日本列島を直撃するなど、週末の天候はよくなかったのですが、引き続き高額商品を中心に売れ行きは好調です。
国内の富裕層にブランド品のニーズが強いと見られます。
同じように三越伊勢丹HD(3099、第33位、1,102円→1,227円、+11.3%)は、8月が+46.5%、9月が+30.2%とこちらも大きく伸びました。
大阪の阪急百貨店と阪神百貨店を中心とするH2Oリテイリング(8242、第26位、982円→1,107円、+12.7%)も、8月は+42.6%、9月は+36.1%と好調です。
高島屋(8233、第35位、1,543円→1,711円、+10.9%)は8月が+23.6%、9月が+20.3%と大きく伸びています。
今後は現在の好調さに加えて、インバウンド消費の上乗せが期待でき、さらに東京都心部を訪れる地方からの観光需要が見込まれることから、デパート各社は年末商戦に向けてさらに期待を高めている様子です。
好調な消費は高級品を扱うデパート各社ばかりではありません。
今年の夏は観測史上最高の猛暑となった地域が多く、クール商材を扱うドラッグストアも売上げの堅調な伸びが観測されました。
業界トップのマツキヨココカラ&カンパニー(3088、第28位、5,540円→6,230円、+12.5%)の株価は8月~9月にかけて堅調な上昇を続け、上場来高値を更新しました。
8月半ばに発表された2023年3月期の第1四半期決算では、売上高が2,272億円(前年比+65.3%)、営業利益は123億円(+72.8%)の微増となりました。
昨年10月に経営統合したココカラファインの上乗せ分もありますが、コロナの感染者数が増えても行動規制はもはや発動されず、病院が通常の業務に戻ったことから調剤薬局の売上げが回復しています。
そこに食品部門とクール商材の好調さが上乗せされ、過去最高益を更新する見通しとなりました。
5月決算のツルハHD(3391、第45位、7,750円→8,490円、+9.5%)も9月20日に発表した第1四半期の決算で、売上高が2,431億円(+3.2%)、営業利益が133億円(+3.3%)と堅調な内容でした。
コロナ感染の初期にマスクや消毒液などの特需で大幅な増収増益となりましたが、その後は反動減に苦しみました。
しかしそのような期間に精肉、青果、百円ショップなど新たな商材を取り込み、顧客の便利さに沿ったサービスを導入する努力が実っているようです。
同じように旅行需要でシューズが回復しているABCマート(2670、第34位、5,610円→6,230円、+11.1%)や、キャスター付き旅行かばんの売り上げ回復でサックスバーHD(9990、第18位、618円→710円、+14.9%)、化粧品のコーセー(4922、第27位、13,240円→14,900円、+12.5%)、ホテルの共立メンテナンス(9616、第48位、5,470円→5,980円、+9.3%)などの株価も堅調に推移しました。
外食ビジネスでも、鳥貴族HD(3193、第36位、2,165円→2,400円、+10.9%)、ハブ(3030、第47位、565円→618円、+9.4%)など最後まで厳しかった業態の株価に値上がりが顕著に見られます。
コロナ禍で収益が大きく落ち込んだ企業の復調がはっきりと出ています。
個別材料株
それとともに9月相場は、個別材料株の上昇が目立ちました。
相場全体の地合いが軟調だったことも影響しています。
東証プライム市場の上昇率トップはエーザイ(4523、第1位、5,697円→7,749円、+36.0%)でした。
9月28日(水)の早朝のプレスリリースでは、米国のバイオジェンと共同開発しているアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」が臨床第Ⅲ相の検証試験において、有意な成果を達成し良好なトップライン結果を取得したことが発表されました。
人類共通の夢であるアルツハイマー型認知症の治療の可能性に一歩近づいたとして、この発表直後から株式市場では買い注文が殺到。
2日連続でストップ高となりました。
3日目に値幅制限が拡大されて、ようやくすべての買い注文が執行されましたが、その後の株価も値崩れすることなく堅調に推移しています。
値上がり第2位のアルヒ(7198、第2位、1,057円→1,375円、+30.1%)は9月14日にSBIホールディングスと資本・業務提携を締結し、その内容に基づいてSBIホールディングスがアルヒ株の51.0%の取得を目指してTOB(@1,500円)を実施しています。
ハピネット(7552、第20位、1,616円→1,848円、+14.4%)は9月26日に2023年3月期・第2四半期の決算を上方修正したことから、株価は月末に向けて大きく上昇しました。
トレーディングカードやカプセル玩具が好調で、第2四半期の収益見通しを上方修正しています。
売上高は従来の1,250億円から、新たに1,400億円へ。
営業利益は24.0億円の減益見通しから、32.0億円の増益見通しに引き上げられました。
玩具流通を仲介しておりこれからの年末商戦が楽しみです。
通期の見通しは変更しておりませんが、現在の好調が維持されれば最終的には史上最高益に手が届くところまで伸びると見られます。
「COOLな銘柄」
ここからは9月相場の「COOLな銘柄」を取り上げます。
月間を通して軟調だった9月相場は、東証プライム市場の8割強の銘柄が前月比で値下がりしました。
中でもそれまで物色の中心となっていた銘柄に下げが集中したようなところが見られます。
代表格がリチウムイオン電池関連株のダブル・スコープ(6619、第1位、2,350円→1,322円、▲43.7%)です。
リチウムイオン電池の正極と負極の間にはさむ絶縁材「セパレーター」を韓国で生産する専業メーカーです。
サムスン電子など韓国の大手メーカーを取引先としていることから、業績が急拡大していました。
5月、8月と四半期決算を発表するたびに、株価は大幅高を続けました。
8月だけでダブル・スコープは+25%も値上がりし、3月の安値(687円)から9月中旬の高値(3,175円)まで4倍以上に上昇しています。
その上昇トレンドが9月中旬から一転し、激しい下落に見舞われました。
ダブル・スコープの韓国子会社を「KOSDAQ」(韓国の新興市場)に上場する事案で、当初は8万ウォン超と想定された公募価格が6万ウォンにとどまったことが売り材料となった模様です。
軟調な地合いの9月相場において、市場の話題を一手に集める人気銘柄だっただけに投資家の心理に与えるマイナスの影響はかなり大きかったと見られます。
同じように人気銘柄のひとつである日本郵船(9101、第3位、3,563円→2,467円、▲30.8%)も大きく軟化しました。
9月7日(水)の日本経済新聞に日本郵船の長沢仁志社長のインタビュー記事が掲載され、その中で「今年末のリセッションは避けられない。コンテナ船の運賃も今年いっぱいで平時に戻る」と伝えられたことが影響しています。
折しも米国の厳しい政策金利の引き上げによって、世界経済の行方に並々ならぬ関心が集まっているところでした。
川崎汽船(9107、第2位、2,960円→2,032円、▲31.4%)、商船三井(9104、第6位、3,655円→2,602円、▲28.8%)も月間の下落率が大きくなっています。
個別企業の決算に関するニュースが市場全体を揺さぶります。
この時を起点として、株式市場全体の先行き、海運セクター以外の業種、銘柄への警戒心がより強まったと感じられます。
景気動向に連動した株価の下げは半導体関連株にも見られます。
レーザーテック(6920、第13位、19,405円→14,695円、▲24.3%)、東京エレクトロン(8035、第39位、44,160円→35,700円、▲19.2%)を中心に、三井ハイテック(6966、第20位、8,720円→6,810円、▲21.9%)、新光電工(6967、第32位、3,930円→3,115円、▲20.7%)も大きく値下がりしました。
主力銘柄ではソニーグループ(6758、第64位、11,135円→9,286円、▲16.6%)も1万円の大台を割り込むまでに下落しています。
世界経済のリセッションを巡る議論はまだしばらく続きそうな雲行きです。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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