株式アナリストの鈴木一之です。
2021年11月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
11月相場は前半と後半で株価の方向性がはっきりと変わりました。
前半は3月決算企業の第2四半期の決算発表シーズンだったことから業績相場の色彩が強まりました。
業績のよい銘柄が買われて、そうでない銘柄が大きく売られるという展開でした。
4年ぶりに実施された衆院選で与党の自民・公明が予想以上の勝利を収めたこともあって、経済政策に対する期待からも株価は強含みで推移しました。
それに対して後半は小型成長株に軟調な動きが目立ちました。
とりわけ月末にかけて、新型コロナウイルスの変異種、オミクロン株に対する警戒心が世界的に高まったために、世界中の株価が一斉に急落するという場面がありました。
リスク回避の動きが強まり、割高感の強い成長株から投資資金が避難する傾向が強まり、コロナ禍がもたらしたインフレ動向と、FRBによる米国の金融政策への関心が高いまま推移しました。
全体相場の振り返り
月間のパフォーマンスとしては、日経平均は10月末の28,892円から11月末は27,821円へと、1か月で▲3.71%の下落となりました。
月末値の比較だけで見れば、今年5月に記録した▲5.24%に次いで11月は今年2番目の下げ率となります。
TOPIXも10月末の2,001から11月末は1,928へ▲3.65%の下落を記録しました。
マザーズ市場も10月末の1,107から11月末は1,070へ▲3.34%の下落でした。
9月相場に続いて日経平均やTOPIXよりもマザーズ市場の下げが大きいまま推移しています。
NYダウ工業株は10月の+5.84%の上昇に対して、11月相場では▲3.73%下落しました。
それまでの上昇が大きかっただけに、年末の節税対策の売り物も多く見られたようです。
それに対してS&P500は、11月相場は▲0.83%の下落にとどまりました。
NASDAQは小幅ながら+0.25%の上昇となり、11月中旬にかけて連騰して史上最高値を更新しました。
四半期決算において各企業が事前の予想を大幅に上回ったことが評価されています。
原油価格はWTI先物価格で、10月末の83.22ドルから11月末には67.05ドルへと急落しました。
インフレ懸念の高まりで月初には84ドル台まで大きく上昇する場面もありましたが、月末にかけてオミクロン株の感染が拡大して反転した格好です。
それに伴って金利の上昇は一服しました。
米国の10年物国債金利は10月末の1.55%から、11月末には1.44%に低下しました。
月末値としては4か月ぶりの低下です。
為替市場では、米国の金利上昇が一服したことに連動してドル高・円安はいったん止まりました。
ドル円相場は10月末の114円01銭から、11月末には113円02銭まで下落しました。
オミクロンがマーケットを揺さぶるも次第に冷静に
11月相場も新型コロナウイルスの感染症が世界経済を揺さぶりました。
北半球が本格的な冬シーズンを迎え、クリスマスシーズンの書き入れ時を迎えた欧州では感染拡大が強まりました。
オーストリアは全国規模でロックダウンに踏み切り、ドイツでも新規の感染者数が1日でそれまでで最高の4万人を超える日が記録されました(12月初旬には1日で10万人を超えています)。
日本は不思議なことに、感染者数がまったく増えず記録的な低水準で推移しています。
1日の新規の陽性者数は200人を下回り、重症患者数も100人以下という安定した状態にあります。
これ以上は減らないという水準で下げ止まっているので楽観できる状況ではありませんが、それでも飲食店やイベント会場での入場制限が緩和され、日本中で経済再開に向けた動きが強まっています。
そのような状況の中で、11月下旬には南アフリカでコロナウイルスの変異種「オミクロン」が発見されたことから世界中が大騒ぎとなりました。
11月26日(金)の東京株式市場では日経平均が一時▲800円を超える値下がりとなりました。
全面安の展開となり、ワクチン接種の進展で経済リオープン関連株と目されていた航空会社、旅行会社、アパレル、イベント関連株が特に大きく下落しました。
感染者数が急増している欧州各国のマーケットはさらに厳しい下落となっています。
この日のドイツとフランスの株式市場はそろって▲4.5%の下落。
ロンドンは▲3.6%安となりました。
インフレの震源地となっていた原油価格は激しく売られ、WTI先物価格は1日で▲13%安となっています。
11月25日(木)が感謝祭の祝日だった米国市場でも、金曜日の祝日明け、短縮取引でしたがNYダウ工業株は▲2.5%の下げとなり、一時は▲1,000ドルを超える下落場面もありました。
NASDAQも▲2.2%となっています。
欧米市場はいずれも今年最大の下げ幅です。
変異種「オミクロン株」は、11月25日(木)に南アフリカの国立伝染病研究所が、感染例が急増していると警戒情報を発表したことから世界中で関心が一気に高まったようです。
オミクロン株の特徴として、ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」が30か所も変異しており、そのために感染力が高いとされています。
これまでに開発されたワクチンが効かない恐れもあり、それがさらに不安を増幅させています。
WHO(世界保健機関)は11月26日(金)、オミクロン型の変異種を「VOC(最も警戒レベルが高い変異型)」に分類しました。
ロイターによれば、オミクロン型のウイルスによる感染事例は、11月26日(金)にオランダで、27日(土)にドイツとチェコで確認されたということです。
その直後に香港、ベルギー、イスラエル、英国でも感染例が見つかり、すでに世界中に拡散している可能性も指摘されます。
日本は経済再開に向けて国境の水際対策をようやく緩和に踏み切ったばかりですが、11月26日(金)より南アも含めた9か国からの入国者の検疫を再び強化するに至りました。
オミクロンの発見以前に、欧州ではすでに感染者数の爆発的な再拡大が始まっていたために、行動規制が早々と発動、もしくは強化され、ワクチンの3回目接種も急がれることとなります。
今後のポイントは
(1)実際にオミクロン株の感染が拡大するのか、重症化リスクは高いのか、
(2)既存のワクチンで対処できるのか、
(3)ロックダウンが再び広がるのか、
(4)物流が寸断され、人の流れは滞り工場も閉鎖されるのか、
という点です。
それらを裏付けるデータがそろうまでに2週間を要するとされ、その間に世界のマーケットはボラティリティの高い、方向感のない不安定な動きを余儀なくされました。
結果的には、金融市場における今回のオミクロン騒動は、12月6日に米国のファウチ首席医療顧問より、懸念されているほどオミクロン株の感染力は強くない、との見解が発せられ、それを機に急速に鎮静化してゆきました。
しかし今後もオミクロンのような第2、第3の変異種が出現すると覚悟しなければなりません。
おそらく今回のような経験を繰り返すことで、金融市場は少しずつ慣れて冷静になってゆくのでしょう。
岸田首相の手腕はいかに
日本の政局に関しては、岸田政権の経済対策、内閣運営へのお手並み拝見といった状況が続きました。
11月相場は衆院選の投開票(10月31日・日曜)で幕を開けました。
自民党が苦戦するとの事前の予想を覆して、終わってみれば自民党が単独で絶対安定多数を確保する大きな勝利を収めました。
最大野党の立憲民主党は、禁じ手とされていた共産党との共闘で打開を図りましたが、それがあと一歩のところで不首尾に終わったことから、枝野幸男代表の辞任表明に至りました。
野党陣営として来年の参院選をどのように戦うのか、自公政権の優位性が早くも固まったように感じられます。
盤石の態勢を整えた第2次岸田政権は、スタート段階から選挙公約どおりに、さっそくコロナ対策を中心とした経済対策を打ち出しました。
予算規模は選挙期間中からどんどん拡大し、30兆円から40兆円を超える見通しとなり、最終的には財政支出が55.7兆円、民間の資金も含めた事業規模は78.9兆円に達する史上最大、超大型の予算規模となりました。
主な支出項目としては、コロナ感染症対策で35.1兆円(財政規模で22.1兆円)。
ここには事業者向けの支援金、無利子・無担保の資金繰り支援金などが入ります。
また、コロナ予備費を含めた経済対策で35.1兆円(財政規模で22.1兆円)で、ここには新しい「GoToトラベル」が含まれています。
さらに目玉としての「新しい資本主義」、成長戦略に28.2兆円(財政規模で19.8兆円)。
ここには大学への10兆円ファンド、先端蓄電池の補助金、介護士、保育士への賃上げ支援金が含まれます。
そして防災・減災・国土強靭化に5.0兆円(財政規模で4.6兆円)という内訳です。
しかし規模の割に内容が乏しく、実際の効果が伴わないと早々に各方面から非難が集中しています。
とりわけ公明党が選挙公約に掲げた18歳以下の国民に1人一律10万円の給付金は評判が芳しくありません。
自民党の抵抗もあって「年収960万円以下」という所得制限がつけられましたが、支給しても貯蓄に回るばかりで経済に対する実際のインパクトがなく、財源の裏づけもはっきりとしないという点が評判の悪さにつながっています。
世論調査では国民の3分の2は「給付金など必要ない」と回答しています。
他の経済対策に関しても、地方創成交付金の拡充やデジタル化の推進、雇用調整助成金の拡充、GoToトラベルの復活にとどまり、目玉となる政策の柱が見えません。
成長や改革はあと回しにされ、規模ありきの姿勢が強くなっています。
岸田首相は財源として「赤字国債をはじめ、あらゆるものを動員する」と述べ、増税は考えていないことを明言しましたが、いずれにしても補正予算ではなく正式な一般会計として来年度予算や税制改正においてきちんと議論する必要があります。
岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」も具体的な全体像がいつまでたっても見えず、世界中の株式市場が「オミクロン・ショック」からの反転で急回復する中にあって、日本株だけが取り残されてしまっているような感があります。
立ち上げたばかりの「新しい資本主義実現会議」での有識者会議において、これからどのような具体案を政策として打ち出してゆくのか、「デジタル臨時行政調査会」、「デジタル田園都市国家構想実現会議」、「全世代型社会保障構築会議」、「公的価格評価検討委員会」という、新設した4つの政策立案の組織がどれほど機能するのか、12月からの臨時国会での予算審議を含めてマーケットは固唾を飲んで見守っています。
米国の金融政策の行方 インフレ懸念は一旦後退
米国では引き続き金融政策の行方が市場の関心を独占しています。
物価の上昇が容赦なく続いており、10月の消費者物価指数は前年比+6.2%まで上昇しました。
5月のような「CPIショック」が再来するのかとマーケットは再び緊張に包まれました。
政策動向に敏感な2年債利回りは上昇し、それに対して長期金利の上昇は以前ほどではありません。
イールドカーブは長期金利ほど低下する「フラット化」をたどっており、景気の鈍化を示すものとして警戒されています。
FRBは11月3日(水)に公開市場委員会(FOMC)を開き、大方の予想通りにテーパリング(量的緩和の縮小)の開始を決定しました。
国債の買い入れ額を毎月150億ドルずつ減じてゆき、来年6月にも現在の量的緩和策は終了することとなります。
その先にはいよいよ政策金利の引き上げが待っていますが、大方の市場予想では利上げの決定は2023年以降になるだろうと見られています。
財政政策に関しては、バイデン大統領が推進した1兆ドルのインフラ投資法案が下院でようやく可決されました。
中国とのグローバル競争を見すえた次世代インフラの整備が目的です。
老朽化したインフラの改修ばかりでなく、EV向けの充電設備や高速通信網の整備にも視線は向かっています。
一方で子育て支援などに向けた1.75兆ドル法案は、議会通過に手間取り、採決は先送りされています。
テーパリングの開始が決定されましたが、マーケットは当分の間、インフレと景気動向に神経質な状況が続くと見られます。
心配された資源・エネルギー価格の上昇は11月に入って一服しつつあります。
LMEアルミニウムは10月19日の3,176ドル/トンでピークをいったんつけました。
その後、11月5日には2,490ドル/トンまで下落しました。
LME銅も10月19日に10,652ドル/トンがピークとなりました。
11月18日には9,445ドル/トンまで下落しています。
マーケットでは「噂で買って、事実で売る」という表現がありますが、米国の金融政策が歴史的な緩和政策から縮小の方向に決定されると、物価高はひとまず収まる方向に向かっています。
テーパリング、量的緩和の縮小が決定されても、利上げに踏み切るのはまだ当分先との見方が優勢となっています。
8月以降のマーケットを支配していた「インフレ懸念による金利上昇」の材料は少しずつ遠のいてゆく方向にあります。
「COP26」が開催 脱炭素銘柄の注目続く
11月の出来事はもうひとつ、イギリス・グラスゴーにて気候変動に関する国際会議「COP26」が開催されたことです。 各国の利害が激しく対立し、簡単には議論はまとまらない姿が浮き彫りとなっています。
それを象徴するのが、石炭火力発電の廃止に関する共同声明です。
インドと中国が難色を示したことによって、最終日になっても合意が得られず、会期を1日延長してかろうじて合意文書をまとめました。
それでも内容は満足のいくものではなく、議長国のイギリスが強く打ち出した石炭火力発電の利用に関して、当初の「段階的な廃止」から「段階的な削減」に表現が弱められました。
「パリ協定」では気温の上昇を産業革命前から1.5度以内に抑制することを目指しており、それには2030年に温暖化ガスの45%削減が必要です。
しかし今のままでは+13.7%も増えることになります。
今回の合意ではそれすらも危ういものとなりました。
会議が紛糾することは開催前から十分に予想されていました。
温暖化ガスの削減量で合意を形成しようとする先進国と、厳しい数値目標を拒んで資金援助を求める途上国との間でまったく意見が合わないのはわかっていたことです。
環境規制に厳しい欧州では、EV(電気自動車)の市場シェアがじわじわと高まっています。
欧州の主要18か国の今年7~9月の新車販売では、EVが30万3,273台で全体の比率では12.7%に達しました。
前年の2倍です。
9月単月ではテスラの「モデル3」がすべての新車販売のトップとなりました。
EVのシェアが10%を超えた国は13か国に広がり、前年の3か国から大きく上昇しています。
テスラの株価が急騰し、11月4日には史上最高値を記録しました。
時価総額は1兆ドルの大台を突破しています。
生産台数が年間70万台のテスラの市場価値が1兆ドル(114兆円)を超え、1,000万台規模のトヨタ自動車が28兆円にとどまります。
イーロン・マスク会長は保有株式の10%分を売却し、納税資金に充当すべきかどうかツイッターで意見を問いかけました(実際に売却を実施)。
「第2のテスラ」を狙って株式市場ではEV関連企業の人気が一段と高まっています。
アマゾン・ドットコムが22%出資するリヴィアン・オートモーティブがNASDAQに上場し、時価総額が9.7兆円に達しました。
GMの規模とほぼ同額です。
リヴィアンは三菱自動車の旧・イリノイ州を買収してEV生産を行っています。
今回初めて市販車を出荷しましたが、まだ赤字の状態で先行投資がかさんでいます。
それでもアマゾンやフォードがバックに控えていることが信頼を呼び、上場に際して発行された新株はブラックストーンやサード・ポイントが引き受けました。
EVは「走る家電」と言われるように、数多くの半導体が搭載されます。
EVの普及によってバッテリー、モーター、回路基板の需要が増えると同時に、さらに大量の半導体が必要になることが必至の情勢です。
2022年に向けて世界中の半導体不足に拍車がかかると見られ、環境関連株のひとつとして半導体株の人気が根強く継続しています。
主要企業の業績は日米ともに良好
11月相場では日米ともに、7-9月期決算の企業が決算発表を活発に行いました。
米国では株式市場全体が調整ムードを強めましたが、主要企業を中心に今回もまた予想を上回る好調さが確認されました。
今回の決算ではコロナ危機後のリバウンドはほぼ一巡し、マクロ経済の伸び悩みもあって、テクノロジー企業を中心に先行きの見通しが減速するのではないか、との懸念が強まっていました。
しかしふたを開けてみれば結果はきわめて良好です。
日本も同様です。
トヨタ自動車の決算が11月4日(木)に発表され、中間期の時点で売上高は15.4兆円(前年比+36%)、営業利益は1.7兆円(+236%)と大幅な増収増益となりました。
半導体の調達不足による工場の減産、操業ダウンの影響が気にならないはずはありませんが、円安の効果も加わってしっかりと増益を確保しました。
トヨタは11月からフル生産に戻す計画で、年間の生産計画は当初見通しを死守する構えです。
他の自動車メーカーが苦戦する中にあって、まったく動じない姿が印象的です。
日本でも全体として業績回復が進んでいます。
3月決算企業の純利益は、11月初旬までの発表分で前年比+45%の増益となりました。
5月の時点では+28%の増益でしたが、これが8月には+36%に増額されて、11月はさらに上積みされています。
時間が経過するごとに増益見通しが拡大し、コロナ禍の落ち込みが急速に修復されています。
10月からは緊急事態宣言が解除されたものの、消費の現場では客足の戻りは今ひとつという状態です。
それでも全国の観光地では旅行客が増えており、消費関連企業の月次売上げの伸びも徐々に回復していることが実感されつつあります。
コロナ禍がもたらした数々の難問を乗り越えて、相当数の上場企業が堅調な業績を取り戻しつつあります。
株式市場はまさに業績相場に向かっています。
「HOTな銘柄」
11月相場で値上がりの顕著だった銘柄、いわゆる「HOTな銘柄」は次のようなグループに分かれるようです。
(1)半導体、および電子部品株
(2)業績好調の銘柄
(3)資本政策の変化に関連する銘柄
これらを順に見てまいります。
(1)半導体、および電子部品株
半導体関連株の人気が途切れません。
11月相場は指数上では月間を通して軟調な値動きでしたが、半導体およびその周辺銘柄は一切構わず抜群の強さを維持しています。
筆頭格がレーザーテック(6920、第46位、25,030円→29,745円、+18.8%)です。
同社の名前はすっかり有名になりましたが、回線幅が2~3ナノメートルという最先端半導体を製造する時に不可欠のEUV(極端紫外線)を利用した露光装置のマスク検査装置で世界シェア100%という独占企業です。
世界中で半導体を奪い合うという需給ひっ迫の状態が長引く中で、レーザーテックの人気は一向に衰えません。
いまやデイリーの売買代金ではトヨタ自動車やソニーグループを抜いて東証1部のトップにランクされることもしばしばです。
株価はこの2年間だけですでに30倍以上に上昇していますが、いまもなお上昇余力は衰えることなく株式市場の人気を集めています。
レーザーテックが10月末に発表した2022年6月期の第1四半期決算では、売上高は91億円(前年比▲30.8%)、営業利益は20.1億円(同▲55.4%)となっており減益ですが、四半期の受注高は1,083億円まで積み上がっており、同社史上の最高額を更新しています。
そこまで需要が強いということが四半期決算で明らかになり、株価は11月半ばに上場来高値を記録し一段高に進みました。
レーザーテックに刺激される形で、半導体関連株が歴史的な好業績をバックに軒並み大幅高となりました。
理研計器(7734、第3位、3,155円→5,370円、+70.2%)は産業用のガス保安器、計測器で国内トップの座にあります。
半導体の製造工程ではシリコンウエハーの洗浄で特殊ガスを大量に用いるため、その計測器需要が伸びています。
11月11日に発表した2022年3月期の第2四半期決算では、売上高が182億円(+19.0%)、営業利益が43.4億円(+53.4%)の大幅な伸びとなりました。
同時に通期の業績見通しを従来予想より3割以上も引き上げて(営業利益で59億円→78.5億円)、史上最高益を大きく上回ることとなりました。
株価も過去最高値を大幅に更新しています。
このほかにも値上がり率の上位には半導体関連株が数多く登場しています。
電源ICを得意とするトレックスセミコンダクター(6616、第7位、2,633円→3,785円、+43.8%)がベストテン入りとなりました。
半導体の製造工程では欠かせない真空チャンバー用の精密加工品に強いマルマエ(6264、第16位、2,209円→2,993円、+35.5%)、TOWA(6315、第23位、2,470円→3,200円、+29.6%)の超精密金型は半導体の樹脂封止において用いられます。
半導体の検査に用いるソケットの大手である山一電機(6941、第19位、1,744円→2,305円、+32.2%)、半導体の電気特性を検査する際に欠かせないプローブカードで高い世界シェアを持つ日本マイクロニクス(6871、第43位、1,503円→1,794円、+19.4%)など、好決算を背景にいずれも株価が大きく上昇しました。
さらに11月相場では、半導体関連株から物色が広がってエレクトロニクス製品の部品、部材メーカーが幅広く上昇しました。
デクセリアルズ(4980、第6位、2,298円→3,345円、+45.6%)の主力製品は「異方性導電膜」という樹脂製の特殊なフィルムです。
このフィルムを用いることで液晶や有機ELなど薄型ディスプレイの基板上にドライバーICを直接実装することができるため、デバイスをより薄く小型化することができます。
11月1日に発表されたデクセリアルズの第2四半期の決算では、パソコン、タブレット、スマホ向けに好調で、売上高は445億円(+44.9%)、営業利益は122.9億円(+164.3%)も大幅に伸びていることが確認されました。
翌日の株価はストップ高を記録し、その後もさらに一段高を続け上場来高値を大きく更新しています。
液晶関連では、恵和(4251、第22位、4,710円→6,130円、+30.1%)は売上高の7割近くを光拡散フィルム、偏光制御フィルムが占めています。
第3四半期の売上高は124億円(+14.6%)、営業利益が19.9億円(+133.1%)となり、デクセリアルズと同じように決算発表の直後から株価は大きく動意づきました。
同社も上場来高値更新です。
さらに水晶デバイスの専業メーカーである日本電波工業(6779、第2位、929円→1,684円、+81.3%)と大真空(6962、第4位、1,010円→1,570円、+55.4%)がそろって大幅高となりました。
プリント配線基板の日本CMK(6958、第48位、427円→504円、+18.0%)、メック(4971、第20位、3,120円→4,120円、+32.1%)、メイコー(6787、第36位、3,145円→3,870円、+23.1%)もそろって買い進まれています。
デジタル革命のうねりは日本社会の隅々に浸透しつつあり、それがエレクトロニクス業界に久々の高収益、好決算の状況をもたらしています。
(2)業績好調の銘柄
業績好調はエレクトロニクス業界ばかりではありません。
消費動向に直結した内需系セクターの中にも業績が飛躍的に伸びている企業が数多く存在します。
国内消費はコロナ危機によって少なからぬダメージを受けましたが、外出を控えている分だけ消費者のふところは意外と潤沢です。
そこからコロナ禍でかえって消費が伸びている分野もあり、限られた可処分所得がピンポイントで向かう先で売上げを拡大している業界も少なからず存在します。
不動産セクターでは、首都圏の主に郊外で戸建て住宅を販売するケイアイスター不動産(3465、第17位、6,340円→8,530円、+34.5%)の業績が好調です。
11月9日に発表された第2四半期の決算は、売上高は914億円(+38.6%)、営業利益は124億円(+227.8%)と大幅に増加しました。
在宅勤務の広がりによって、戸建て住宅の需要が郊外を中心に延びています。
同社の追及する「高品質で低価格のデザイン住宅」が不動産の一次取得層に受け入れられ、最高益を大幅に更新する見通しとなりました。
それに伴って株価も上場来高値を更新しています。
同じようにアグレ都市デザイン(3467、第35位、1,349円→1,698円、+25.9%)の株価も急上昇しました。
「アグレシオ」「エグゼ」「イルビュアルト」のブランド名で東京、神奈川を中心にデザイン性を高めた低・中・高価格帯の戸建て住宅を分譲しています。
11月1日に発表した第2四半期の決算では、売上高は77億円(▲5.9%)減少したものの、営業利益は5.5億円(+226.5%)の大幅な伸びとなりました。
今期は最高益を大きく更新する見通しが確固たるものとなり、株価も順調に値上がりしています。
好調な不動産業界に建材を供給するJKホールディングス(9896、第44位、864円→1,030円、+19.2%)や、企業の健康保険組合や個人向けにカフェテリア方式の健康管理サービスを提供しているバリューHR(6078、第14位、1,840円→2,506円、+36.2%)、スタイリッシュで堅牢なアウトドア用品で人気のスノーピーク(7816、第27位、3,000円→3,875円、+29.2%)が、いずれも業績好調を背景に買い進まれました。
(3)資本政策の変化に関連する銘柄
株価の大幅な上昇要因として目立っているのが、資本政策の変更に関連する企業です。
具体例ではJALUX(2729、第5位、1,704円→2,552円、+49.8%)が挙げられます。
社名のとおり、JALUXは日本航空の子会社として設立された商社です。
羽田空港や成田空港で「BLUESKY」ブランドの免税店を展開しており、ほかにも国際空港の運営や航空機エンジン部品販売を手がけています。
順調に業績が拡大していましたが、コロナ危機によってインバウンド消費による売上高がほぼゼロになり、前期の最終損益は赤字に転落しました。
配当金も無配としています。
折しも東証の市場改革が実施されています。
JALUXがもし来年4月以降に創設されるプライム市場への上場を狙うのであれば、流通株式の時価総額と親会社保有の基準をクリアしなければなりません。
そこで大株主である日本航空と双日はTOB(公開買付)を実施してJALUXの株式を100%取得し、完全子会社として上場廃止の道を選びました。
株価はTOB前の1,700円前後からTOB価格である2,560円まで大きく上昇し、そこに定着しています。
同じようにトッパン・フォームズ(7862、第10位、1,092円→1,546円、+41.6%)も流通株式基準への抵触という理由から、親会社である凸版印刷がTOBを通じて完全子会社、非上場とする方針が明らかにされました。
株価はTOB発表前の1,000円からTOB価格である1,550円まで大きく上昇しました。
OKK(6205、第1位、340円→742円、+118.2%)の場合は上の2例とは異なります。
工作機械メーカーのOKKはユーザーの海外シフトに遅れを取り、ここ数年は業績が低迷していました。
会計報告で不透明な取引が見つかり、決算報告書の作成が遅れ、東証に改善報告書を提出するまでに至りました。
そこへ日本電産が救済の手を差し伸べました。
工作機械分野の強化を図っている日本電産はOKKの発行する第三者割当増資を55億円で引き受け、OKKは日本電産グループの一員となる決定を下しました。
企業としての存続すら危ぶまれる状況から一転して、日本電産という有力資本のバックが付いたことから、株価は11月相場の上昇率トップという大幅高となりました。
「COOLな銘柄」
続いて11月相場で値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。
ここでは引き続き、業績悪化を公表した銘柄が下落しています。
それとともに「オミクロン」変異種の出現に翻弄された「経済再開」に期待する銘柄も厳しい1か月間でした。
「経済再開」に期待する銘柄
8月下旬をピークに日本全国で新型コロナウイルスの感染者数が急減しています。
ピークでは1日25,000人を超えた全国の新規陽性者は、10月初旬には1,000人を下回るようになり、11月になるとさらに低下して100人以下になりました。
欧米の主要国で感染者数が再び増加傾向に向かっているのとは対照的です。
11月最終週になってオミクロン株が発見されても、日本の感染者数は一貫して抑えられたままです。
特別の措置を取っているわけでもないのに、なぜ日本だけがそのように安定した状態を保っているのか、専門家でもきちんと説明ができないようです。
10月は全国で発出されていた緊急事態宣言が解除され、経済再開への期待が関連銘柄に集まりました。
真っ先に名前の挙がる業界は、旅行会社とウェディング関連企業です。
そのウェディング業界に属するエスクリ(2196、第17位、589円→412円、▲30.1%)とT&Gニーズ(4331、第27位、1,241円→900円、▲27.5%)は11月相場を通じてそろって大幅安となりました。
期待とは正反対の値動きです。
いずれも8月から9月にかけて株価は期待を先取りして大幅に値上がりしており、その反動安が期待から現実に変わったことで表面化したと考えられます。
同じことは旅行会社のオープンドア(3926、第29位、2,517円→1,827円、▲27.4%)とエイチ・アイ・エス(9603、第42位、2,559円→1,941円、▲24.2%)にも見られました。
外食業界のきちりHD(3082、第28位、638円→463円、▲27.4%)、百貨店の松屋(8237、第52位、1,085円→838円、▲22.8%)も同じように値下がりが顕著となっています。
企業業績の芳しくない銘柄
「COOLな銘柄」にはもうひとつ、企業業績の芳しくない銘柄がそろってランクインしています。
造船・輸送機の三井E&S(7003、第7位、578円→379円、▲34.4%)は、11月5日に第2四半期の決算を発表しており、売上高が3,563億円(+9.9%)、営業利益が▲44.8億円の赤字継続と判明しました。
船舶、海洋開発、エンジニアリング部門で営業損失が発生しており、全社収益の悪化をけん引しています。
子会社の三井海洋開発(6269、第22位、1,960円→1,398円、▲28.7%)も第3四半期の決算で▲80億円の営業損失を計上したことから、親子そろって大幅安が避けられませんでした。
健康食品や化粧品の通販システムを手がけるテモナ(3985、第8位、735円→483円、▲34.3%)は独自のサブスクリプション課金モデルが評判です。
11月12日に発表した2021年9月期決算は、売上高が24億円(+4.5%)、営業利益は4.5億円(+175%)と前年に比べて急回復しています。
しかし今2022年9月期の見通しを売上高で22億円(▲5.4%)、営業利益で2.0億円(▲55.9%)と大幅な減益の見通しとしたことから、株価はそれまでの下落基調に拍車がかかることとなりました。
テレビ電話会議システムのブイキューブ(3681、第9位、1,720円→1,135円、▲34.0%)、スマホゲームのエイチーム(3662、第5位、1,650円→1,058円、▲35.9%)、企業向けIRコンサルティングのアイ・アールジャパンHD(6035、第10位、10,510円→7,090円、▲32.5%)、IT人材派遣のメンバーズ(2130、第11位、3,455円→2,333円、▲32.5%)など、デジタル系・IT系業務をメインとする企業が11月半ばを折り返し地点として、株価が暗転するケースが数多く見られました。
ちょうど同じ時期に東証マザーズ指数がそれまでの順調な戻り歩調から、目先のピークを打って軟化しています。
マザーズ上場企業と連動するように、東証1部のIT企業の株価が総じて下落しました。
成長期待で割高な水準まで買い進まれていたグロース銘柄から、回転の速い資金が逃避するような状況と見られます。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
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ご注意事項
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