株式アナリストの鈴木一之です。
2021年5月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
最初に株式市場の全体から見てまいります。
全体相場の振り返り
5月の株式市場は、3月後半から少しずつ強まっていた調整ムードが、より一段と色濃くなりました。
米国および欧州の株式市場は堅調な動きを続けていますが、さすがに株価の騰勢は鈍ってきました。
株式市場では「5月に売り抜けろ」というウォール街の相場格言がよく知られています。
実際に5月に急落する年も多いことから、1年の中でも調整含みの動きが警戒される時期なのですが、コロナ禍の今年はいつも以上に先行きの見通しがむずかしく、マーケットは不安定な展開を余儀なくされました。
特に5月第2週には、突如としてイスラエルとパレスチナの紛争が激化しました。
パレスチナのハマスは数日のうちにイスラエルに1,000発以上のロケット弾を撃ち込み、イスラエルはパレスチナ人の暮らすガザ地区に地上からの砲撃を始めました。
地上戦ともなれば2014年以来のことで、世界が緊張感に包まれました。
紛争ぼっ発のきっかけはエルサレムでの、イスラエル軍によるパレスチナ人の排除だとされています。
バリケードの設置、それに対する投石が次第にエスカレートして武力行使にまで発展しました。
民間人から死者も多数出ています。
問題を複雑にしているのが米国のバイデン政権の態度です。
中東問題に関してバイデン政権がどの程度関与してゆくのか、前政権のトランプ大統領は極端にイスラエル寄りの政策を採りましたが、それが重石となって直接的な武力紛争は回避されていました。
その間に蓄積した憤懣がバイデン政権になって噴き出している模様です。
今回はエジプトの仲介によって紛争は2週間弱で収まりました。
しかしイスラエルは、イラン核合意の復活を目指すバイデン政権に対して強硬な姿勢を取る構えのようで、今後もこの種の問題が噴き出る事態も予想されます。
それでもマーケットは不安定ながらも微妙な均衡を保っています。
米国では空前の規模の金融緩和政策と、大規模な財政出動の同時発動によって、経済面では世界でも最も力強くコロナ危機を克服しつつあります。
ワクチン接種も先進主要国では米国と英国が最も進んでおり、それだけに経済再開への期待が一段と高まっています。
NYダウ工業株とS&P500は5月前半に史上最高値を更新しました。
月初に発表された4月の雇用統計において、非農業雇用者増が予想の+110万人に対して、実際には+26万人にとどまったことから、心配されていた長期金利の上昇に一服感が生じました。
まさに「経済にとって悪いニュースは、マーケットにとってよいニュース」という典型的な動きです。
株価指数の月間パフォーマンスを比べると、5月相場は日経平均が+0.17%とほんのわずかな上昇にとどまりました。
4月は6か月ぶりに前月比でマイナス幅を記録しましたが、5月はまがりなりにもすぐにプラスを取り返しました。
TOPIXは5月に+1.26%となり、日経平均以上に上昇が目立ちます。
トヨタ自動車(7203)を中心に大型株が堅調さを維持した月でもありますが、4月にTOPIXが日経平均以上に軟調だったことからの反動と見ることもできます。
米国は好調さを維持しており、5月のNYダウ工業株は+1.93%と続伸しました。
2月からこれで4か月連続での上昇です。
S&P500は4月の+5.26%という大幅な上昇に続いて、5月は+0.55%と小幅高にとどまりました。
その一方で、5月のNASDAQは▲1.53%と依然として調整局面にあります。
米国の10年国債金利は4月末の1.62%から、5月末には1.58%へとわずかながら低下しました。
それでも金利上昇に関する議論、テーパリングに関する警戒感が再び蒸し返されています。
5月相場で最も大きな変化は物価の上昇です。
原油市況はWTI先物で4月末の63.49ドルから5月末には66.63ドルまで上昇しました。
経済活動の再開に加えて、5月に開催されたOPECプラスの会合において加盟国の減産継続が決定されたことも一因とされています。
5月相場を通じてマーケットの関心を集めた話題は次の3つです。
- (1)コロナウイルスの感染拡大
- (2)ワクチン相場、経済再開への期待の高まり
- (3)物価の上昇、それがもたらすインフレとテーパリング議論
以下にそれぞれの点を見てまいります。
(1)コロナウイルスの感染拡大
コロナウイルスの感染拡大からすでに丸1年が経過していますが、依然として世界中で猛威を奮っています。
これまでウイルスの感染防止では最も優秀とされていたアジアの台湾、マレーシア、ベトナム、タイでも変異種による感染が拡がっており、それだけ警戒感が高まっています。
日本はGW前に人の流れを抑制する目的で緊急事態宣言を発出しました。
しかし感染防止という点ではさほど効果があがりませんでした。
5連休が明けてすぐに緊急事態宣言の延長が大阪、東京を中心に決定され、飲食店、商業施設、テーマパーク、劇場、旅行会社などの経営がさらに圧迫されています。
5月半ばまで自治体によっては感染者数が過去最高を更新するところが相次ぎました。
5月14日には北海道、岡山、広島の3県に対して緊急事態宣言が発出されました。
これによって9つの都道府県に緊急事態宣言が出され、まん延防止等重点措置も10県、合計で19都道府県が行動制限の対象となりました。
今年1月に出された2度目の緊急事態宣言のケースでは、発出の直前の感染状況が最もひどく、それが発出された後は徐々に感染者数が減少に向かいました。
緊急事態が宣言されればすぐに行動抑制がかかり、発出を境に感染拡大は徐々に改善の方向に向かったものです。
それが今回、4~5月の第3回目ではそうはならずに、もうしばらく時間を要することとなりました。
その理由のひとつとして、「緊急事態に人々が慣れてしまった」という要素が考えられます。
GWということもあって行動抑制の効果が小さくなり、企業でもリモートワークの推進の割合が低下しています。
感染力の強い変異種が拡大しているということもありますが、それを考慮しても感染者数の減少数は鈍くなっています。
頼みの綱はワクチン接種です。
日本は世界の他の国との比較でかなり出遅れが目立っています。
国内でワクチンを製造できないという大きな弱点に加えて、海外メーカーからも調達できないという二重のハンディを背負っているうちに、株価にも徐々に影響が現れるようになりました。
4月以降の日経平均は保ち合い局面に入っていますが、一方で米国や欧州、中でもドイツの株価は史上最高値に近づいています。
これらの国ではワクチン接種が国を挙げて大々的に進められており、英国やユーロ圏では夏のバカンスシーズンに向けて、経済再開の動きが強まっています。
先進国の中でも日本株の劣勢が目立つようになっています。
東京オリンピック・パラリンピックの開催まで2か月に迫っており、東京五輪の開催の是非そのものが海外メディアを中心に議論されるようになりました。
(2)ワクチン相場、経済再開への期待の高まり
その日本でも、5月は遅ればせながらワクチン接種が始まりました。
まず医療従事者、次に65歳以上の高齢の方という順番です。
当初はインターネットでの予約方法がわからない、予約受付センターに電話しても電話が殺到してつながらないなど混乱が見られましたが、時間が経つにつれて徐々にスムーズになりました。
5月24日からは自衛隊を動員して、東京と大阪で大規模接種センターでの接種が始まると、さらに接種率が上がるようになりました。
大規模接種会場を主導するのは政府(自衛隊)でその分だけ命令系統がスムーズに運びます。
1日最大で1万5,000人の接種が可能となり、これを境に5月末に向けて株式市場では「ワクチン相場」、経済再開への期待が株価を押し上げるようになっていきました。
堅調な海外市場では、ここでも先頭を走っているのは米国です。
ワクチン接種と経済対策において世界をリードしている米国は、経済の再開が全米各地に広がりつつあります。
日本がGWの5連休中に、NYダウ工業株は1週間にわたって上昇を続け、連日のように史上最高値を更新しました。
(3)物価の上昇、それがもたらすインフレとテーパリング議論
5月相場はインフレ懸念とテーパリングの議論に終始した1か月間でもありました。
ワクチン接種の進んだ国では経済が再開され、さっそく人々の消費活動が活発化しています。
それがインフレ懸念に直結しています。
原油に始まり鋼材、非鉄金属、レアアース、石油化学製品、農産物、木材、あらゆるモノの値段が急騰しています。
決定的となったのは5月12日に発表された米国の4月・消費者物価指数です。
前年と比べて+4.3%もの大幅な上昇となりました。
事前の市場予想は+3.6%でしたので、それを大きく上回る内容となっています。
米国の10年国債金利は一時1.7%乗せ寸前まで上昇しました。
これによって米国の株式市場が高値圏から大きく下落し、軟調な流れが東京市場にも波及しました。
「CPIショック」です。
日経平均は5月11~13日の3日間で▲2,070円も値下がりしました。
コロナ危機によって、世界規模で物流が滞っています。
ある品目は荷動きがぱたりと途絶え、別の品目は世界中から引く手あまたで調達がむずかしくなっています。
経済のあちこちに普段では考えられないひずみが生じており、モノの需給バランスが大きく崩れています。
物価の優等生である住宅資材の木材価格も高騰して、石油ショックならぬ「ウッド・ショック」と呼ばれるまでになりました。
4月末の時点で「政権発足から100日間」の蜜月期間を終えたバイデン政権は、3月に1.9兆ドル(200兆円)、4月に8年間で2兆ドルのインフラ投資「米国雇用計画」を発表し、さらに今後10年で育児と教育支援に1.8兆ドルを投じる「米国家族計画」を立て続けに打ち出しました。
失言癖のあるバイデン大統領は演説を控える傾向がありますが、蜜月期間の終わる4月28日に議会で初めて演説を行いました(施政方針演説)。
内容は以下の通りです。
- ・バイ・アメリカン、米国製品の購入を促進
- ・企業と富裕層に公平な税負担を求める
- ・世界規模での気候変動問題との戦い
- ・中国との競争を歓迎、しかし衝突は望まない
- ・インド太平洋地域での強力な軍事力を維持
- ・移民は不可欠な存在として、移民問題の解決に取り組む
- ・銃による暴力から米国民を守る
トランプ政権が背を向けた気候変動問題や銃規制問題に本腰を入れて取り組むとともに、トランプ政権以上に中国には厳しく対面してゆく姿勢がはっきりと出ています。
5月末には議会に対して6兆ドルという超大型の予算教書を提示しました。
バイデン政権が策定した初めての予算は、当初予算としては戦後最大の歳出規模、コロナ危機が発生する前の2019年度予算の4兆4,000億ドルを3割も上回る巨大なものとなっています。
予算案は議会で議論されるたたき台に過ぎませんが、まさに民主党政権が目指す「大きな政府」が現実に実行に移される段階に入りつつあります。
果たして現実にどこまでが通るのか、それがインフレ懸念を再燃させることにならないのか、増税を通じて米国経済を圧迫することになってゆくのか。
その点がここから問われます。
5月はさらに「ビットコイン・ショック」もありました。
5月第2週の「CPIショック」に続いて、5月第3週はビットコインが急落したのです。
いまや代替資産のひとつとなったビットコインは、昨年暮れから今年春まで急騰を演じてきました。
それが5月18~19日にかけて、ビットコインを筆頭に名だたる暗号資産(仮想通貨)が急落しました。
ビットコインは5月19日に一時30,201ドルまで下落し、4月の史上最高値から5割以上の下落となりました。
この日はイーサリアム、ドージコイン、リップルなど他の仮想通貨も1日で2~4割下落するものもありました。
機関投資家の一部には仮想通貨から安全性の高い金(ゴールド)に資産を移す動きも出ていると見られます。
仮想通貨の売買が急増したことでシステム障害も発生しており、交換業者では世界最大手クラスのコインベースが取引停止となりました。
日本でも最大手のビットフライヤーも一時的にシステム障害が発生し、乱高下に直面していざという時に売却できない取引機会への不安から、価格が一段と下落するという悪循環が見られました。
さらに暗号資産が全面的な下落を受けて、他の代替資産と見られている銅やニッケルなどのコモディティ市況も同じように急落しました。
これが株式市場にも波及して、5月19日の米国株式市場ではテスラやスクウェアなど暗号資産関連株はもとより、より広い銘柄に売り物が広がりました。
欧米での経済再開の期待が高まるにつれて物価も上昇し、これまでのような大規模な金融緩和は打ち止めとなるのではないか、少なくとも資産の買い入れによる緩和政策は早期に止まる、いわゆるテーパリングに関する議論が活発化していきました。
パウエル議長をはじめFRBは、現在の物価上昇を「一時的なもの」と見ています。
すでにブラジルや新興国の一部では政策金利の引き上げを決定する国も出始めています。
FRBのこのような認識がまだしばらくは維持されるのか、どの時点で市場の見方が変化するのか。
8月のジャクソンホール会合に向けて、まだしばらくはこの議論がマーケットではくすぶり続けるものと見られます。
「HOTな銘柄」
続いて個別銘柄の動向です。
5月相場の株価指数は小さな値動きに終始しましたが、個々の銘柄は4月のこう着状態とは微妙に変わって値動きが激しくなりました。
やはり決算発表を経たことが大きいと見られます。
「業績相場」がいよいよ本格的に始まったという感触が強まっています。
東証1部の値上がり率の上位銘柄で、+20%以上値上がりした銘柄数は4月相場では20銘柄に低下しました。
これが5月相場では55銘柄まで増えました。
3月の110銘柄、2月の131銘柄と比べると少なくなっていますが、5月はGW明けに株価が急落したことを考え合わせるとかなり健闘したと見ることができます。
株式市場全体が急落したことで、逆に基調の強い銘柄があぶり出されたととらえるべきでしょう。
4月相場で値上がりの顕著だった「HOTな銘柄」の顔ぶれは以下の通りです。
- (1)業績の好調な銘柄
- (2)自動車関連株
- (3)いわゆる「アフターコロナ銘柄」
(1)業績の好調な銘柄
業績の好調な銘柄はストレートに値上がりしました。
代表格はランニングシューズの世界的ブランド、アシックス(証券コード7936、第4位、株価4月末:1,735円→5月末:2,625円、上昇率+51.3%)です。
12月決算のアシックスは、5月13日に第1四半期の決算を発表しました。
売上高は1,065億円(前年比+24.8%)と大きく伸び、営業利益も146億円と前年の▲8.8億円の赤字から大幅な黒字転換を果たしました。
前年の1-3月期はコロナ危機の初期にあたります。
販売急減で売上げは大きく落ち込みましたがそれから1年が経過し、世界中で外出を控える生活が長く続いたために、運動不足を解消するためにランニングやウォーキングに励む人が増えました。
それによってアシックスのシューズが売れています。
アシックスの決算資料には「ほぼすべての主要地域において、前年同期比で増収増益となりました。」とあります。
いずれの地域も大幅な伸び率を示しており、北米が前年同期比+20%、欧州が+43%、中華圏が+96%と回復が顕著です。
2021年12月期の通期の営業利益の見通しは「115~135億円」と幅をもたせていますが、その上限の数値を第1四半期ですでに超えています。
これほどの業績の伸びは市場予想を大きく上回っており、決算発表の直後だけでなく、その後も継続して株価は上昇していきました。
アルミ電解コンデンサーの世界トップである日本ケミコン(6997、第5位、1,718円→2,564円、+49.2%)も、アシックスと同様に今期の業績が黒字転換を果たした企業のひとつです。
5月10日に発表した2021年3月期の決算は、売上高こそ1,107億円(▲3.3%)とわずかに減少したものの、営業利益は29.7億円と前年の▲28.9億円から黒字に浮上しました。
アルミ電解コンデンサーは電気回路の中で、電気を一時的に貯めておく重要な部品です。
パソコンをはじめ家電製品、計測機器、工作機械など様々な分野で用いられます。
今後は自動車の電動化の比率がますます高まると見られます。
電気自動車や燃料電池車が主流になれば、アルミ電解コンデンサーの絶対的な出荷量も増えると予想されており、今期の会社側の業績見通しも売上高で1,220億円(+10.1%)、営業利益で62.0億円(+108.7%)と大幅に伸びることになります。
決算が発表されると日本ケミコンの株価は5割近く上昇しました。
それでもPBR(株価純資産倍率)は0.9倍と、解散価値とされる1倍をいまだに下回っています。
それまでのあまりに割安な状態から適正な水準まで、決算発表をきっかけに株価が大きく水準を変えた銘柄のひとつです。
日本ケミコンと同じような範疇の銘柄として、水晶振動子の大真空(6962、第7位、2,423円→3,500円、+44.4%)、電子部品商社の加賀電子(8154、第43位、2,411円→2,954円、+22.5%)、鉄鋼業界向けの耐火煉瓦を製造する品川リフラクトリーズ(5351、第48位、2,987円→3,630円、+21.5%)、を挙げることができます。
これらはいずれも業績の低迷から株価がアンダーバリュー、割安な状態に長くとどまっていた銘柄です。
それが決算発表をきっかけに悪材料はほぼ出尽くしたと見る向きが増え、株価の見直し買いにつながっていると考えられます。
荏原実業(6328、第17位、4,840円→6,370円、+31.6%)も決算発表をきっかけに株価が大きく上昇しましたが、こちらはもともと良好だった業績内容が、コロナ危機をきっかけにさらによくなったというケースです。
荏原実業は、荏原製作所(6361)からスピンアウトした企業で、荏原と同じようにポンプや環境装置を製造しています。
空気清浄機や殺菌脱臭装置も手がけており、同社が製造する病院向けの「陰圧装置」がコロナ病棟の空気清浄の用途で出荷が大きく伸びています。
5月11日に発表した2021年12月期の第1四半期決算では、売上高が147億円(+27.6%)、営業利益は35.4億円(+74.0%)と前年通期の+58%増益に続いてたいへんな好調を持続しています。
このような反応を示した銘柄として、電子楽器のローランド(7944、第12位、4,595円→6,380円、+38.8%)、インターネットイニシアティブ(3774、第39位、2,437円→3,015円、+23.7%)、アルミ二次合金の大紀アルミニウム工業所(5702、第41位、975円→1,198円、+22.9%)、などが月間の上昇率ランキングに登場しました。
インターネットイニシアティブ(3774、第39位、2,437円→3,015円、+23.7%)は決算を公表するかなり前から株価の上昇が顕著でしたが、実際に決算が発表されたことによってさらに一段と堅固な値上がり基調となりました。
5月12日に発表された2021年3月期の決算は、売上高は2,130億円(+4.2%)、営業利益は142億円(+73.2%)となり、過去最高益を大幅に更新しました。
法人向けにはネットサービスの利用増加に伴うクラウドやセキュリティ需要の増加、個人向けには格安スマホの契約増加が順調に拡大しています。
株価は安定的に上昇し、上場来高値を更新するまでに進みました。
(2)自動車関連株
(1)で示した「業績の底入れ期待」が強まった銘柄群として自動車株、および自動車部品株があります。
この分野の代表格は、いすゞ自動車(7202、第24位、1,106円→1,443円、+30.5%)です。
5月13日に2021年3月期の決算を発表し、売上高は1兆9,081億円(▲8.3%)、営業利益は957億円(▲31.9%)でした。
コロナウイルスの世界的な拡大によってサプライチェーンが寸断され、上半期は大幅な販売と生産の減少に直面しました。
2020年の販売台数は、国内が▲14.4%、海外が▲10.2%、合計で▲10.8%減少の45.4万台にとどまりました。
ただし生産と販売台数は、前年の下半期から急速に回復に向かっています。
あわせて発表した今2022年3月期の見通しでは、ピックアップトラックが好調で販売台数は期初の時点で早くも過去最高を更新する見通しとなっています。
2022年3月期は会計変更のため前年度との単純な比較はできませんが、純利益は1,100億円まで拡大するとの見通しで、市場予想の800億円を大幅に上回っています。
株価は決算発表の直後から上昇し、5月後半もそのまま上昇基調を維持しています。
忘れてならないのがトヨタ自動車(7203)です。
5月12日に発表された前期のトヨタの決算は、売上高は27兆2,145億円(▲8.9%)、営業利益は2兆1,977億円(▲8.4%)と小幅の減少となりました。
コロナ危機に直撃された上半期の落ち込みが大きく、2020年の販売台数は、国内が▲5.1%、海外が▲17.8%、合計で▲14.6%減少の764.6万台に落ち込みました。
しかし本業部分の落ち込みを、持ち前の合理化努力、コスト削減で補ったため、税引前利益は2兆9,323億円(+5.0%)、当期利益は2兆2,452億円(+10.3%)と前年比でプラスにまで浮上しました。
トヨタの面目躍如といったところです。
合わせて2,500億円の自社株買い、1:5の株式分割(9月末)を発表したことから、決算発表の直後からトヨタの株価は独歩高を描くようになりました。
自動車業界全体を評価するのではなく、明らかにトヨタに対して特別の評価が下されて買いが向かっています。
決算発表に先立つ5月9日(日)の日本経済新聞には、トヨタの来年度の生産計画を伝える記事が掲載されました。
コロナ危機の直撃で自動車メーカーは今年度の生産でさえどうなるのかまだ定かではない、という時期でした。
しかし新聞記事では、トヨタ関係者への取材から「来年度のグループ生産台数は1,040万台」に達することが明らかになりました。
生産台数で過去最高を更新することが判明し、トヨタがそこまで生産台数を拡大するとなれば、主だったグループ企業、トヨタに部品を納入しているサプライヤーは部品の生産を拡大する必要が出てきます。
その直後に発表されたトヨタの決算内容と重ね合わせて、自動車業界は今期から来年にかけて再び好調な経営環境を迎える、というムードが醸成されていきました。
ラジエーターを製造しているティラド(7236、第8位、1,900円→2,686円、+41.4%)が5月17日に発表した決算は、2021年3月期は売上高が1,130億円(▲13.4%)、営業利益が12.6億円(▲55.5%)といずれも2ケタの落ち込みとなりました。
それが続く2022年3月期の見通しでは、売上高は1,349億円(+19.3%)、営業利益は52.0億円(+311.5%)と大幅に改善する見通しとなっています。
同じようにワイパーのモーターを製造するミツバ(7280、第9位、657円→918円、+39.7%)も、2021年3月期の売上高は2,692億円(▲11.5%)、営業利益は85.4億円(+0.2%)と厳しい状況ですが、続く2022年3月期には、売上高が3,000億円(+11.4%)、営業利益が150.0億円(+75.5%)に急回復する見通しです。
ティラドもミツバも決算発表の翌日の株価が大幅高を記録し、その後も5月いっぱい上値を追い続けました。
ここでも電子部品株と同様に、PBRが1倍を大きく下回っている状態から割安状態を修正する動きが目立っています。
そのきっかけが決算発表によってもたらされたような恰好です。
同様のことが緩衝器のKYB(7242、第23位、2,926円→3,825円、+30.7%)、二輪車用チェーンの大同工業(6373、第27位、850円→1,093円、+28.6%)、シャシー用ばねの中央発条(5992、第31位、958円→1,206円、+25.9%)にもあてはまります。
決算発表をきっかけとして、トヨタ効果、いすゞ効果が自動車業界の株価を幅広く押し上げる結果となりました。
(3)いわゆる「アフターコロナ銘柄」
コロナウイルスのワクチン接種が順調に進んで、日本でも「ワクチン相場」がスタートしました。
4月21日(水)に医療従事者の方を除いて初めて接種した人の数が10万人を突破し、5月1日には40万人を超え、大型連休明けの5月10日(月)には70万人を上回りました。
さらに5月12日(水)には100万人、5月18日(火)には200万人、5月22日(土)には300万人、5月27日(木)には500万人と順調に拡大しています。
コロナウイルスに新規感染する人の数はなかなか減少せず、GW明け直前に延長された東京・大阪など10都市への緊急事態宣言は、5月28日に3度目の延長となりました。
それでもワクチン接種を終えた人の数が増えるにつれて、経済再開への期待の高まりから、5月相場ではいわゆる「アフターコロナ銘柄」が買い進まれるようになりました。
代表的な銘柄が宿泊、航空会社、鉄道会社などの旅行関連株です。
旅行代理店のKNT-CT(9726、第16位、1,033円→1,362円、+31.8%)、格安航空チケットを取り扱うエアトリ(6191、第18位、2,224円→2,927円、+31.6%)、オープンドア(3926、第21位、2,004円→2,634円、+31.4%)、がいずれも大幅高となっています。
このほかにもアミューズメント施設のラウンドワン(4680、第37位、1,208円→1,496円、+23.8%)、外食チェーンのペッパーフードサービス(3053、第42位、284円→348円、+22.5%)、アパレルのルックHD(8029、第47位、1,202円→1,465円、+21.9%)、同じくアパレルの三陽商会(8011、第73位、778円→909円、+16.8%)、人材派遣のアウトソシング(2427、第53位、1,681円→2,021円、+20.2%)などが一斉に人気化しました。
これらの銘柄は、まだ業績の回復に確実な手ごたえは得られてはおりません。
それでもワクチンの接種で先行している欧米諸国が徐々に経済を再開し、国境をまたいだ人の移動も復活し始めています。
そのような事実に照らしても、最悪の状況はひとまず脱したとの楽観的なムードが広がっています。
昨年からの業績の落ち込みが激しく、株価もこれまでに大きく下落していたことから、ひとたび反発に転じると売り物が出にくいことも手伝って、戻り歩調は急激なものとなります。
「アフターコロナ銘柄」として文字通り、経済再開への国民の期待を背負って急速な反発が何度も見られました。
「COOLな銘柄」
「COOLな銘柄」は5月相場で軟調だった銘柄です。
下落の目立った銘柄は、やはり決算発表に関連するものがほとんどです。
ただしこのグループにもふたつの流れがあります。
ひとつは、本当に業績が悪くて株価が下落せざるを得なかったような銘柄です。
もうひとつは、業績は予想された通りによいのだけれど、すでに株価は好業績をかなり織り込む形で上昇していたために、決算発表で好調さが確認されたとたんに売られてしまう銘柄です。
最初の例としては、フジクラ(5803、第30位、563円→468円、▲16.9%)が挙げられます。
フジクラは「電線御三家」の一角として知られ、コロナ禍で電力業界の設備投資が減少したために2021年3月期は売上高が6,437億円(▲4.3%)と減少しました。
それでもスマホをはじめデジタル機器の需要増加、および電線ケーブルの材料である銅市況の値上がりに伴う評価益を加えたことで、営業利益は244億円(+629.8%)と前年比で7倍以上に急拡大しました。
しかし同時にフレキシブル・プリント配線基板事業での減損処理を計上したために、当期利益は▲53.6億円の最終赤字が継続し、配当金も無配に転落したことから(前の期は通期で5円配)、株価は決算発表をきっかけに大きく下落しました。
現在のところ今2022年3月期の会社側の業績見通しは、売上高が6,000億円(▲6.8%)、営業利益は200億円(▲18.1%)、当期利益は65億円(黒転)という慎重な数字にとどまっています。
株式市場では5月中旬以降、徐々に「業績相場」の色彩を強めています。
業績のよい企業をピンポイントで買い進む一方で、先行きの業績見通しのさえない企業は投資家からの厳しい選別にさらされます。
フジクラの期初の利益見通しは、どうしても他社との比較で見劣りしてしまうため、株価はその後も一貫して軟調な動きとなっています。
フジクラと同じような事例としては、オンライン教育のEduLab(4427、第8位、7,180円→5,560円、▲22.6%)、ネット上でリユース買い取りを行うマーケットエンタープライズ(3135、第4位、1,485円→1,083円、▲27.1%)、オンライン対戦ゲームのネクソン(3659、第2位、3,625円→2,584円、▲28.7%)、ネット上で中古カメラの買い取り、販売を手がけるシュッピン(3179、第12位、1,165円→909円、▲22.0%)、などが挙げられます。
これらはいずれも小型のグロース株です。
大半の企業に共通してみられる特徴は、売上げは大きく伸びていても、利益はそれほどには伸びていないという点です。
考えられることは、コロナ危機の渦中で事業を拡張することができたため、ここで攻めに転じて一気に人件費や広告宣伝費を増やして、次のステップに到達することを狙ったという点です。
そのような積極的な経費の増加が、一時的なものにとどまって、狙い通りに市場シェアを拡大して、再び元の高い利益成長のコースに戻ってこられるのか。
それともコロナ危機のような大幅な収益増は再現できずに経費倒れとなって失速してしまうのか。
その点が今後の決算発表のたびに問われることになりそうです。
もうひとつのパターン、株価は業績のよさを先取りして事前に上昇しており、それが決算発表をきっかけに材料出尽くし感から下落に転じるという事例です。
代表格はNEC(6701、第17位、6,360円→5,110円、▲19.7%)です。
5月12日にNECが発表した2021年3月期の業績は、売上高が2兆9,940億円(▲3.3%)とわずかに減少しましたが、営業利益は1,537億円(+20.5%)、当期利益は1,618億円(+43.6%)と過去最高を更新する好調ぶりでした。
コロナ危機への対応で不採算プロジェクトを抑制し、経費を極力抑え込んだことから営業利益の改善が進んだと会社側は説明しています。
当期利益には土地や子会社株式の売却益も加わって大幅な伸びにつながっています。
株価はこの辺を先取りして、4月上旬には15年ぶりの高値まで上昇しました。
しかし同時に発表した今2022年3月期の見通しが、売上高は3兆円(+0.2%)でほぼ横ばいにとどまり、営業利益は1,200億円(▲22.0%)、当期利益は900億円(▲45.6%)と大きく減少する計画となっており、これをきっかけに株価は上昇トレンドが崩れ下落に転じました。
NECと同じような事例としては、ごみ焼却炉のタクマ(6013、第28位、2,241円→1,860円、▲17.0%)、そして「ヴィジョン・ファンド」のソフトバンクグループ(9984、第33位、9,885円→8,256円、▲16.5%)が挙げられます。
ソフトバンクグループは2021年3月期に収益が大幅に伸び、当期利益は4兆9,879億円という空前の域に達しました。
トヨタ自動車を抜いて、日本の歴代最高額を稼ぎ出した点が特に注目を集めましたが、しかしそれにもかかわらず、株価は決算発表の直後から軟調な動きを余儀なくされました。
理由として、米国で再び金利上昇のペースが早まり、NASDAQを中心に米国のテクノロジー銘柄が調整局面に入ったことが多分に影響しているものと見られます。
投資ファンドのとしてのソフトバンクグループにとって、今期のスタートは確かに厳しい経営環境となっています。
同時に、「ヴィジョン・ファンド」の投資先である英国のグリーンシルの経営破綻も懸念材料のひとつに浮上しています。
グリーンシルの融資先であるカテラが「ヴィジョン・ファンド」の投資先でもあり、利益相反の関係にあるとクレディ・スイスが訴訟を検討していると伝えられたことが、株価の低迷に影響しているとも考えられます。
グリーンシルの件は現在も詳しい経緯はわかっておりません。
テクノロジー株とともにソフトバンクグループの株価も5月は軟調な動きを余儀なくされました。
期待と現実の間で揺れ動く最たる事例として、今後もマーケットの注目を浴び続けることになるはずです。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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