株式アナリストの鈴木一之です。2022年8月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
全体相場の振り返り
8月相場は月の前半と後半で相場展開が大きく変化しました。
前半は前月に続いて、米国株を中心に世界の株式市場が一斉に反発する堅調な動きとなりました。
米国のFRBが実施している急ピッチの金融引き締め政策が奏功して、インフレが抑制されるという期待が株価を押し上げました。
それに対して後半は、金融政策だけでそう簡単にはインフレは抑制できず、引き締め局面は長引くとの見方から軟調な株価推移に戻りました。
市場の期待値、長期予想、相場のセンチメントだけで株価が上下に大きく揺さぶられた1か月間でした。
例年この時期は市場参加者の多くがお盆休みに入っており、出来高が減って俗に言う「夏枯れ」相場に入ります。
それが今年に関してはかなり様相が異なりました。
日経平均は7月末からの上昇基調が続き、8月17日には8月相場の最高値となる29,222円を記録するまで上昇を続けました。
8月は米国の金融政策を決定するFOMCは開催されません。
その代わりに8月末にはワイオミング州ジャクソンホールで金融政策のシンポジウムが開かれます。
そこでパウエル議長がどのような講演を行うのか。
その点に市場の関心が集中した1か月間でもありました。
日米ともに株高が続いた8月前半の相場でしたが、機関投資家による実需の買いが入っていたようには見えませんでした。
とりわけ月間の高値を記録した8月上・中旬は、先物市場やオプション市場からの売り方のショートカバーが優勢だったと見られており、それらのポジション組み替えによる買いのエネルギーで上昇し、その勢いが途切れた中・下旬からは反対に軟調な動きが続きました。
物色の中心となるような銘柄も見当たらず、手ごたえのないままに日経平均などの株価指数だけが上下する展開に終始したように見られます。
米国市場は、NYダウ工業株が7月に+6.73%の大幅な上昇を記録した後、8月相場は反対に▲4.06%と軟調な展開に終始しました。
テクノロジー株の多いNASDAQ市場も同様に7月の+12.35%の大幅高から、8月は▲4.63%と再び大きな下落に転じました。
長期金利は8月に一貫して上昇基調をたどりました。
米10年国債金利は、7月末の2.65%から8月末には3.19%まで上昇しています。
景気に対して金融引き締めが悪影響を及ぼすとの見方から、原油市況は下落しています。
WTI先物価格は7月末の98.30ドルから8月末には89.01ドルへと値下がりしました。
これらの変動を受けて、東京市場では日経平均は7月の+5.33%の大幅な反発が、8月相場は+1.04%と小幅の上昇にとどまりました。
ただし小幅高とはいえ、米国のような大幅なマイナスは回避され、底堅さも見られます。
TOPIXも7月の+3.74%の上昇に続いて、8月は+1.19%と小幅続伸を記録しました。
小型成長株は徐々に上値を追い始めています。
東証マザーズ指数は4月▲12.2%、5月▲3.3%、6月▲1.49%と大きく下落した後に、7月は+8.62%と4か月ぶりの反発を記録しました。
そして金利上昇局面に入った8月も上昇の勢いは止まらずに、8月は+3.34%と大きく続伸しました。
金利の上昇にもかかわらず、小型成長株に投資家が戻り始めていることがうかがえます。
タカ派色を鮮明にしたパウエル議長ジャクソンホール公演
8月26日、ジャクソンホールにおけるパウエル議長の講演は非常に印象的なものでした。
講演時間は予定の30分間に対して、実際にはわずか8分強で終了。
必要なこと以外には一切触れず、伝えたいメッセージを絞り込んで「金融引き締め政策をしばらく維持する」と言う点だけが強調されました。
1970年代末のインフレ期を引き合いに出し、「歴史は早すぎる金融緩和を強く戒めている」、「今後明らかになる経済データを踏まえて総合的に判断する」とも述べました。
かつてのようなハト派、市場に優しいパウエル議長の復活を期待していたマーケットには、これはかなり強烈なトーンとして失望売りを招いたようです。
8月26日のNYダウ工業株は▲1,008ドルもの大幅安を記録しました。
すべてはここから発表される経済のデータ次第ということになります。
9月のFOMC(9月21日)までは経済統計や要人発言に振り回される市場環境が続く気配が濃厚です。
「HOTな銘柄」
ここからは8月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
「EV関連銘柄」、「再生可能エネルギー関連株」
8月相場は米国の金融引き締め政策を巡る神経質なムードが一段と増幅された展開に終始しました。
上中旬にかけて株価は上昇し、そして一転して下旬からは軟調に推移するという目まぐるしい動きとなりました。
そのような神経質な状況で株価が上昇トレンドを維持した銘柄は、大半が業績好調の銘柄です。
あるいは著しく業績が回復しつつある銘柄に絞られました。
その代表的な銘柄が、ダブルスコープ(6619、第26位、1,870円→2,350円、+25.7%)、三菱自動車(7211、第48位、460円→559円、+21.5%)、レノバ(9519、第50位、2,507円→3,045円、+21.5%)の3銘柄です。
いずれも「EV関連銘柄」、「再生可能エネルギー関連株」に位置づけられる次世代のハイテク産業です。
ダブルスコープ(6619)はリチウムイオン電池の正極と負極の間にはさむ絶縁材「セパレーター」の専業メーカーです。
韓国・サムスン電子に勤務していた崔元根社長が2005年に日本で創業した異色の企業です。
本社は日本にありますが開発や生産は韓国で行っています。
半導体で世界をリードする韓国は、リチウムイオン電池でも世界トップクラスの生産国となりました。
セパレーターはリチウムイオン電池の正極と負極の間にはさみ、ショートや発火を防ぐフィルム状の重要な部材です。
サムスン電子を中心に韓国メーカーが主な取引先で、ここに来てEV向けの引き合いが急増しており、業績も急拡大しています。
5月に発表した2022年12月期の第1四半期の決算では、売上高は88.9億円(前年比+46.2%)、営業利益は4.4億円(同+171.1%)と大幅な伸びとなりました。
民生用電子機器向けに加えて、EVなど車載向けが大きく伸びており、原材料高、人件費高を吸収して大幅な増収増益を果たしました。
続いて8月12日に発表した2022年12月期の第2四半期の決算では、売上高は201.9億円(+59.2%)とさらに大きく伸び、営業利益も27.5億円(前期は▲1.1億円の赤字)と急拡大しています。
上海市のロックダウンによる自動車メーカーの生産調整の影響はありますが、それ以上にEV用のセパレーターの需要は加速しており、韓国と欧米を中心に受注の勢いが強まっています。
それが利益率を向上させ、マクロ経済的に心配されるほどの景気鈍化の悪影響は出ていないようです。
ダブルスコープの株価は8月に一貫して緩やかな上昇を続けました。
9月に入ってもその騰勢は衰えておりません。
株価は2016年以来の高値水準まで上昇しています。
三菱自動車(7211、第48位、460円→559円、+21.5%)も業績の好調さを背景に株式市場での評価が急速に高まっています。
7月27日に発表された2023年3月期の第1四半期の決算は、売上高が5,286億円(+22.4%)、営業利益は307.8億円(+190.8%)と大幅な伸びとなりました。
上海ロックダウンの影響や資材価格高騰の影響はありますが、東南アジアでの販売が急速に伸び、北米でも販売奨励金を減らすことができて採算が改善しています。
この好調さを受けて、2023年3月・通期の売上高を2億2,900万円→2億3,500万円(+12.3%)に、営業利益も900億円→1,100億円(+26.0%)に早くも引き上げました。
三菱自動車と言えば、2009年に日本のEV第1号となる「i-MiEV」を発売した実績があります。
当時は充電ステーションの整備など社会インフラ上の後押しがなく、売れ行きは今ひとつでしたが、しかしその実績と経験が今年発売した「eKクロスEV」に生かされています。
「eKクロスEV」は、日産自動車の「サクラ」と同じプラットフォームを使っており「兄弟車」という位置づけです。
1回の充電で180キロメートル走行し、価格も132万円からと購入しやすい価格帯に設定されています。
それに加えてEV購入の際の公的な補助金も受けられます。
ルノーとの3社連合では、三菱自動車のEV開発・生産体制をどのように位置づけてゆくかが議論の焦点になっています。
三菱自動車の場合、ルノーとの協業になったとしても、逆に単独でEV市場に乗り出したとしても、EVへの取り組みに関しては遅れを取ることはないとの評価が株式市場では確立されつつあります。
円安を好感する流れにも乗って、株価は自動車株の中では8月は一貫して上昇基調をたどる数少ない銘柄となりました。
レノバ(9519、第50位、2,507円→3,045円、+21.5%)も業績好調からあらためてマーケットでの評価が高まっている銘柄です。
レノバは昨年暮れに、経済産業省が実施した秋田県沖の洋上風力発電事業の入札で三菱商事グループに大敗を喫し、この受注の失敗から株価が大幅に下落するという苦い記憶があります。
経済産業省はその後、1社だけが大半の案件を落札する現在の入札方法を見直すことを明らかにしています。
価格の低い入札ばかりでなく、できるだけプロジェクトを完成させ、早く稼働させるという時間軸の要素を盛り込む方針です。
これに伴って複数の事業体に落札するチャンスが巡ってくる方式にも改められます。
レノバをはじめ、他の事業体にも次回以降の案件が落札しやすくなることが期待されます。
業績は好調です。
8月8日に発表された2023年3月期の第1四半期決算では、売上高は85.2億円(+39.4%)、営業利益は61.1億円(+146.0%)と大幅な伸びを記録しました。
新たに苅田バイオマス発電と軽米尊坊ソーラー発電が寄与しており、下期も新しい再エネ発電施設が完成します。
株価は9月に入って年初来高値を更新しており、昨年12月の入札失敗による株価急落より前のレベルまでほとんど値を戻しています。
このほかにも8月相場で値上がり率の大きかった銘柄としては、クレジットカードを軸に金融決済システムの開発に強いクロスキャット(2307、第4位、979円→1,432円、+46.3%)があります。
8月3日に発表された2023年3月期の第1四半期の決算では、クロスキャットの売上高は35.3億円(+33.9%)、営業利益は3.8億円(+209.7%)の大幅な増加となりました。
クラウドやAIなど最先端技術を組み込んだシステム開発が活発化しています。
精密プラスチック加工を得意とするエンプラス(6961、第6位、2,978円→4,235円、+42.2%)も、7月29日に発表した2023年3月期の第1四半期の決算で、売上高は101.1億円(+22.9%)、営業利益は19.5億円(+124.5%)に到達したことが判明しました。
軽量化が急がれる自動車メーカー向けに、熱や衝撃、摩耗に強い小型の高性能プラスチックギアのニーズが急増しています。
それと同様に、半導体の加熱試験用のバーンインソケットや、医療機器用の超微細加工ギアなど、ナノメートル単位の高い精度が求められる製品を数多く提供しています。
これらのほかにも、自動車向けにコネクターが急伸しているイリソ電子工業(6908、第7位、2,983円→4,180円、+40.1%)、経営再建中で収益が急回復している日本板硝子(5202、第9位、386円→534円、+38.3%)、コラーゲンの需要が伸びている新田ゼラチン(4977、第15位、618円→804円、+30.1%)、二次電池生産用にポンプの需要が急増しているイワキポンプ(6237、第30位、999円→1,247円、+24.8%)など、各セクターから業績の好調さが確認された銘柄が、頭ひとつ抜け出しています。
「COOLな銘柄」
ここでは8月相場の「COOLな銘柄」をご紹介します。
業績相場の色彩が一段と強まった8月相場では、値下がりの目立った銘柄はやはり業績のかんばしくない銘柄がずらりと並びました。
立ち食いステーキ店「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス(3053、第1位、377円→268円、▲28.9%)は、コロナ禍での客足の落ち込みに加えて、赤身肉のブームがすでにピークを過ぎたこともあって業績は苦戦が続いています。
8月12日に発表された2022年12月期の第2四半期の決算では、売上高は72.0億円(▲23%)と大きく落ち込み、営業利益も▲7.9億円と赤字継続となりました。
第2四半期の決算発表に合わせて、通期の業績見通しを下方修正(営業利益で▲1.6億円→▲11.1億円)しており、さらに今12月末時点の株主優待を廃止したことも重なって、株価は決算発表の直後から大きく下落しています。
医師向けのソーシャルネットワークサービスを運営するメドピア(6095、第2位、2,181円→1,602円、▲26.5%)は、急激な成長の反動で利益率の低下が嫌気されて株価が下落しました。
既存事業は順調な伸びが続いているものの、次なる成長性の原動力と期待された新規事業の多くで想定したほど売り上げが伸びず、その分だけ人件費や償却費の負担が大きくなっています。
8月9日に発表された2022年9月期の第3四半期の決算では、売上高は64.4億円と前年比で1.2倍に増加したものの、営業利益は9.1億円と前年比▲3割の減少となりました。
システム開発に伴う評価損を計上したことも響いています。
成長性への高い期待が定着していただけに、株価はたまらずに急落しました。
経営再建中のダイヤモンドエレクトロニックHD(6699、第4位、1,639円→1,322円、▲19.3%)、アウトドアのスノーピーク(7816、第6位、2,655円→2,184円、▲17.7%)も、マーケットが期待していたほどの高収益に届かずに、株価は決算発表の直後から軟調な値動きを余儀なくされています。
金利上昇の圧力を吹き飛ばすほどの、高い収益の伸びが今ほど求められていることも少ないように思います。
これがまさに「業績相場」というものなのでしょう。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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