株式アナリストの鈴木一之です。2022年4月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
全体相場の振り返り
4月相場は世界の株式市場が厳しい売り圧力に直面しました。
米国のナスダック総合株価指数は4月の月間下落率が▲13%に達し、「リーマン・ショック」が起こった直後の2008年10月の▲18%以来の下落率となりました。
NYダウ工業株の下落率は▲5%、S&P500も▲9%の下げを記録しています。
ロシアーウクライナ戦争は膠着状態に陥っています。
ロシア軍は首都・キーウ周辺から東部に軍隊の大部分を移動させ、いずれ総攻撃をかけるという体制が1か月続いています。
それ以上に心配なのが、中国におけるコロナウイルスの感染拡大です。
上海市では4月中旬に新規の感染者数が2万7,700人を数えて、これまでの最多を記録しました。
3月末から始まった上海市でのロックダウンはずっと続いています。
4月30日に国家統計局より発表された、中国の4月の製造業PMIは47.4となり、前月比▲2.1となりました。
景気の分岐点となる「50」を2か月連続で下回っています。
非製造業も41.9(▲6.5)で、どちらもコロナ禍の初期の2020年2月以来の水準です。
上海市ではロックダウンにより経済が全面的にストップしています。
この影響で日本でも自動車メーカーを中心に影響が広がっており、これが足元の景況感をさらに弱い方向に引っ張っています。
中国で生産が滞ると、それは自動車産業を通じてドイツ、フランスに影響を与えるため欧州の景況感も弱まります。
4月19日、IMFは2022年の世界経済見通しをそれまでの+4.8%から+3.6%へ、▲0.8ポイント引き下げました。
ウクライナ情勢、インフレ加速、各国の利上げ、そして中国のゼロコロナ政策が世界経済を押し下げている主因と指摘しています。
米国は3.7%(前回比▲0.3p)、ユーロ圏は2.8%(▲1.1p)、日本は2.4%(▲0.9p)、そして中国は4.4%(▲0.4p)がそれぞれの新たな見通しです。
世界経済のカギを握っているのが米国の金融政策です。5月3~4日にはいよいよFOMCが開催され、金融引き締めのスピードが明らかになります。
現実化するスタグフレーションへの警戒心の下で、どこまで強硬な政策を打ち出すのか、世界中の関心がこの一点に集中しています。
4月相場の月間パフォーマンスは、日経平均は3月末の27,821円から4月末は26,847円へ、1か月で▲3.5%の下落となりました。
3月相場では今年初めて上昇しましたが、早くも軟調な動きに戻ってしまいました。
それでもNY市場の下げ幅から見れば比較的軽微な下げと言えそうです。
金利上昇局面でのバリュー株の底堅さがここでは光っています。
TOPIXも3月末の1,946から4月末は1,899へ▲2.4%の下落となりました。
厳しいのは小型成長株です。東証マザーズ指数は3月相場で+8.97%の大幅な上昇を記録したものの、4月相場では▲12.2%という激しい下落に逆戻りしてしまいました。
東証の市場再編によって4月よりマザーズ市場はなくなり、新たに「グロース市場」としてスタートしましたが、金利上昇下では厳しいパフォーマンスが避けられないという習性はそのまま引き継がれています。
「HOTな銘柄」
ここからは4月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」を取り上げます。以下の3つの切り口から傾向の似た銘柄をくくることができます。
- 業績好調の銘柄
- エネルギー関連株
- 資本移動、大株主の変化
(1)業績好調の銘柄
4月相場では前月に続いて決算発表に関連した好業績銘柄が個々に評価されました。
アルバイト募集の専用サイト「バイトル」、総合求人サイト「はたらこねっと」で知られるディップ(2379、第4位、3,360円→4,260円、+26.7%)は2月期の本決算の発表をきっかけに大きく上昇しました。
経済活動の再開から飲食店を中心にアルバイトを募集する動きが全国的に広がっていることが背景にあります。
4月14日に発表されたディップの前2022年2月期の決算は、売上高が395億円(前年比+21.6%)と大きく伸びましたが、営業利益は56.0億円(▲23.4%)と減少に転じました。事業拡大のために広告宣伝費を大きく積み増したことが響いています。
しかし今2023年2月期の見通しは(ゾーンで提示しており上限値を取ると)、売上高は593億円(+50.1%)、営業利益は169.0億円(+201.7%)と期初の段階からかなり大幅な伸びを見込んでいます。
経済再開に伴う求人需要の回復と相まって大幅な売上高の伸びにつながると見ています。コロナ前の水準を超えて過去最高益に迫る勢いとなってます。
また半導体、電子部品商社の佐鳥電機(7420、第6位、992円→1,234円、+24.4%)も好決算の発表から株価が大きく動意づきました。
4月14日に発表された佐鳥電機の2022年5月期の第3四半期の決算は、売上高が933億円(+21.6%)、営業利益は19.0億円(+338.1%)とこちらも大幅な伸びとなりました。
リモートワークが定着したことでパソコンの需要が増え、それに伴ってPC向けに電子部品が大きく伸びたこと、および半導体製造装置を中心に産業インフラ向けの事業が拡大したことが業績の大幅な伸びを支えています。
合わせて通期の業績も、売上高が1,280億円(+20.9%)、営業利益が26.0億円(+189.0%)に従来の見通し(1,240億円、18.0億円)からそれぞれ上方修正されましたが、それでもまだ上振れ余地があると見られます。
株価は決算発表前の900円台から、決算発表直後のストップ高を交えて1,300円台まで急騰しましたが、株価純資産倍率(PBR)はいまだ0.70倍と資産価値から見て割安な状態にあります。
3月決算企業では、東京製鉄(5423、第29位、1,164円→1,343円、+15.3%)も同様に決算発表の直後から株価が大きく動きました。
4月22日に東京製鉄が発表した2022年3月期の通期業績は、鋼材市況の高騰を背景に、売上高は2,708億円(+91.5%)、営業利益は317.7億円(+695.3%)といずれも大幅な増加となりました。コロナ禍からの回復で世界的に鋼材需要が盛り上がり、製品出荷数量が+27%も増加しました。加えて出荷単価も年間で6割も上昇したことがその理由です。
この決算発表に合わせて上限280万株(発行株数の2.42%)、金額で30億円の自社株買いを発表したこともあって、株価は決算発表前の1,200円から1週間後には1,400円を超えるまでに上昇しました。
同じように決算発表をきっかけに株価が動意づいた銘柄としては、ソフトウエアテストのSHIFT(3697、第32位、21,660円→24,810円、+14.5%)、時間管理システムのアマノ(6436、第35位、2,197円→2,509円、+14.2%)、電源装置の山洋電気(6516、第37位、4,925円→5,610円、+13.9%)、電炉メーカーの大和工業(5444、第39位、3,715円→4,200円、+13.0%)が挙げられます。
(2)エネルギー関連株
4月相場では引き続きエネルギー関連企業の株価が堅調な値動きでした。
緊迫度を高めるウクライナ情勢に連動して、ロシア産原油、天然ガスを西側社会から排除する動きが強まっています。
頼みの綱は温暖化ガスの排出の少ない天然ガスですが、原子力発電の再稼働にもいよいよ世界の目が向けられてきました。
ポンプ大手の酉島製作所(6363、第5位、1,026円→1,281円、+24.8%)が4月を通じて堅調な動きを見せました。
発電用の高効率ポンプでは国内トップシェアを有しています。業績は前2021年3月期の時点で最高益を更新しており、それでもPBRは1倍を下回っています。
原発再稼働に関連して、中核的な存在の東京電力HD(9501、第57位、403円→448円、+11.1%)と三菱重工(7011、第65位、4,020円→4,435円、+10.3%)が引き続き堅調です。
大阪ガス(9532、第48位、2,092円→2,345円、+12.0%)と東京ガス(9531
、第52位、2,232円→2,491円、+11.6%)の株価も堅調です。両社はいずれも業績の安定したガス供給会社という側面とともに、海外におけるLNG開発会社としての面も評価されつつあります。
(3)資本移動、大株主の変化
4月相場ではアクティビティストの活動も盛んに見られました。代表的な銘柄としてはコスモエネルギーHD(5021)です。
4月上旬、コスモエネルギー(5021、第11位、2,630円→3,210円、+22.0%)の筆頭株主に、アクティビストとして知られる「シティインデックスイレブンス」が登場しました。大量保有報告書への記載ではコスモエネルギー株を500万株弱、5.81%保有しています。
シティインデックスイレブンスは村上世彰氏が関わる投資会社です。
コスモエネルギーHDは、かつて筆頭株主であったアラブ首長国連邦の政府系ファンドが3月に保有株をすべて売却しており、その後の行方が注目されていました。
この事例にとどまらずシティインデックスイレブンスは、4月半ばにクレディセゾン(8253、第46位、1,303円→1,463円、+12.2%)に対しても5%を超える株式を取得したことが大量保有報告を通じて明らかにしました。
東洋建設(1890、第13位、775円→931円、+20.1%)にも動きがありました。
任天堂(7974)の創業家の資産運用会社である「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」が東洋建設の株式を買い進め、新たに買収提案を行ったことが4月下旬に判明しました。
東洋建設には、これより前にインフロニアHD(5076)(旧・前田建設工業)がTOBを行っています。任天堂創業家の運用会社はそのあとを追う形で東洋建設株を26%以上も買い集めており、大量保有報告を通じて「状況に応じて重要提案を行う」との態度表明を行いました。
TOB価格はインフロニアHDが提示している770円を上回る1,000円です。その上で東洋建に対しては、企業価値の向上を図る観点から双方から提示されている買収提案をよく検討するよう求めています。
上記の3社のケースだけを見ても、アクティビティストが狙いをつける企業の顔ぶれがこれまでとはずいぶん変わってきたように感じられます。これまでであれば目をつけなかったような企業にも、新たな収益獲得の余地が生まれている可能性もあります。このような傾向は今後の株式市場でも注目すべき動きです。
「COOLな銘柄」
続いて4月相場で値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。このグループにはやはり小型成長株がまとまって上位に登場しています。
これらの小型成長株のグループは1月から株価の下落基調が鮮明となり、3月にいったん底入れしたようでしたが、その反発も4月上旬で一巡してしまいました。
その後は再び金利上昇の圧力から、4月相場では再び大きく下落に転じるようになりました。
下落率トップとなったPRTIMES(3922、第1位、3,255円→2,152円、▲33.8%)は、企業からのプレスリリースを配信するサービスを展開しています。
外出自粛要請が強まった一昨年と昨年は、企業の広報活動がプレスリリースに頼るという時間が長く、それが収益の拡大に大きく貢献しました。
4月13日の決算発表で、今2023年2月期の見通しとして売上高は59.5億円(+22.6%)と堅調なものの、営業利益は16.0億円(▲12.8%)と減益見通しに転じたことを明らかにしました。
マーケティングとシステムの両面で先行投資を強めたことがその理由です。(前期は単体決算から連結決算に変更しているため前年対比の伸び率が出せません。)
同じように電子書籍のメディアドゥ(3678、第2位、2,559円→1,737円、▲32.1%)も、4月14日の決算発表にて、今2023年2月期の見通しを減収・減益としました。売上高は1,000億円(▲4.5%)、営業利益は20.0億円(▲28.9%)です。
コンテンツ業界が変革期に差しかかっており、その中で勝ち抜くためにビジネスモデルの転換を図るため新たな中期経営計画を策定しています。その初年度にあたって費用が先行することから減収・減益の見通しとしています。
気象情報サービスのウェザーニューズ(4825、第9位、9,060円→6,840円、▲24.5%)、キムチ、漬物のピックルスコーポレーション(2925、第18位、1,623円→1,266円、▲22.0%)も決算発表をきっかけに下げ基調を強めています。
半導体関連株でもイビデン(4062、第33位、6,050円→4,940円、▲18.3%)、アルバック(6728、第35位、6,300円→5,160円、▲18.1%)、TOWA(6315、第41位、2,459円→2,055円、▲16.4%)などが軟調です。
「業績相場」の色彩が強まる状況下で、個々の企業の株価はそれぞれの業績をそのまま反映しているような傾向を強めています。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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