株式アナリストの鈴木一之です。
2021年6月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
最初に株式市場の全体から見てゆきます。
全体相場の振り返り
6月もショック安発生。焦点は金融政策
6月の株式市場ではまたもやショック安が発生しました。
今回は「FOMCショック」と呼ばれます。
米国の金融政策を巡って、マーケットが考えていた近い将来の金融緩和の出口シナリオが大きく修正を余儀なくされました。
これに伴って株式市場も、それまでのこう着した状態から打って変わって、かなり荒れ模様の展開となりました。
米国を中心とした物価上昇、インフレ懸念と、それにリンクした米国の金融政策の行方にマーケットの関心が集中し神経質な展開が続きました。
最大の焦点は、6月中旬に開催された米国の公開市場委員会、FOMCです。
ここで米国の金融政策が決定されます。
コロナウイルスの感染拡大によって急速な縮小を余儀なくされた米国経済を、バイデン政権は大規模な財政政策と金融緩和によってかろうじて支えています。
ワクチンが前例のない猛スピードで開発され、これまでのところ米国経済も急速に修復されつつありますが、それがいつまで続くのか、そろそろ超金融緩和と財政政策の大盤振る舞いは終了に向かうのか、マーケットはいつになく緊迫した状況に直面しています。
それが5月の物価上昇と6月のFOMCで問われることとなりました。
この点は後述します。
6月の月間パフォーマンスは、日経平均は28,860円から28,791円へと、1か月で▲69円(▲0.24%)という非常に小さなマイナスとなりました。
もっとも5月相場も+0.17%の上昇という小さな値動きで推移しており、終値ベースでは2か月続けて狭いレンジ内の変動にとどまりました。
TOPIXは1,922から1,943へ、6月は+1.1%の上昇でした。
5月の+1.26%に続いて、こちらも小さな動きですが、日経平均の軟調さと比べればまだ動きがありました。
トヨタ自動車(7203)が6月前半戦で上場来高値を更新して、史上初の1万円大台に到達したことが大きかったようです。
株価指数以上に、個々の銘柄の動きは活発です。
規模別指数では、大型株指数が+0.83%、中型株指数が+0.98%、小型株指数は+3.09%です。
小型株の動きは総じてしっかりした展開となりました。
日経ジャスダック平均が+2.75%、東証マザーズ指数は+4.96%なので、6月相場は小型株優位の展開であったことがはっきりと見てとれます。
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これは米国市場も同じです。
6月はNASDAQが2か月の調整を経てついに史上最高値を更新するに至りました。
月間では+5.5%の上昇です。
同じくS&P500も月間で+2.2%の値上がりで最高値を更新しました。
一方で、NYダウ工業株はで▲27ドル(▲0.078%)の下落となりました。
小さな値動きにとどまり、わずかながら高値更新には至りませんでした。
6月相場の焦点は引き続き米国の長期金利ですが、先月末の1.58%から1か月で1.46%まで低下しました。
インフレの高進を意識しながらの展開でしたが、長期金利は緩やかな低下傾向を続け、米国の株価は上昇しました。
そのインフレリスクの一端を示しているのが原油の動向です。
WTI先物価格は5月末の66.63ドルから73.53ドルまで上昇しました。
世界経済の前回ピークとなった2018年10月以来の70ドル乗せとなっています。
インフレ懸念からポジションの巻き戻しへ
6月相場を振り返ると、焦点は何と言っても6月15~16日にかけて開催されたFOMCです。
この席上において突如として、政策金利の引き上げの予定が当初の2024年から2023年に1年前倒しされるとの見方が浮上しました。
ゼロ金利解除の1年前倒しとは言っても、明確な言及があったわけではありません。
具体的にはそれはドットチャートの形状で示されます。
FOMCに参加したメンバー18人が示したドットチャートでは、中期的な見通しとして、2021年、2022年は前回と同様に中央値はゼロ金利のままですが、2022年中に利上げを見込む参加者が、前回の4人から今回は7人に増えました。
さらに2023年に関しては、前回の7人から今回は13人が利上げを開始するとの見通しを提示しました。
そして2023年には、0.25%の利上げを2回実施するという内容を中央値は示していました。
これが最大のポイントです。
米国経済の回復は急ピッチで進んでいます。
FRBも今回の会合で、前提となる2021年の経済成長率を7.0%に引き上げました。
同じように物価見通しも2020~2023年の上昇率は平均で2.2%と、3月の1.9%から引き上げました。
これまでの目標だった2%を上回っており、これだけでも今回の利上げ開始時期の前倒しは、ある意味では自然な流れとも考えられます。
6月のFOMCに臨む事前の市場の見方としては、大半の市場参加者の視点が、テーパリング(資産買い入れの圧縮)の時期はいつか、という点に集中していました。
金融政策の順序としては、まずテーパリングを行い、資産買い入れを縮小させ、あるいは資産買い入れを終了させたあとで、その次の段階として政策金利が変更されるのが通例です。
それが6月のFOMCではテーパリングの時期を飛ばして、いきなり政策金利引き上げの時期に論点が飛躍することとなりました。
理由として考えられるのは、ダラス連銀のカプラン総裁の言葉を借りれば「米国の経済見通しが劇的に改善している」ことを反映したものです。
コロナ危機への経済対策が「効果を発揮し過ぎて」インフレ懸念をもたらしています。
そこからハト派的な政策スタンスが、タカ派的なスタンスへと大きく舵取りが変わりつつあることをFOMCのメンバーが示したと受け止めました。
パウエル議長はこれまで一貫して「足元の物価上昇は一時的」という見方を支持してきました。
それが表面的にはともかく、本心では決してそれほど楽観視しているわけではないことが表立って指摘されるようになりました。
それでも景気と雇用の回復を確実なものとするために、金融緩和は今後も続けるとパウエル議長はFOMC後の記者会見で強調しています。
FOMCの結果を受けて、世界中のマーケットで積み上げられていた「インフレトレード」(あるいは「リフレトレード」)的なポジションが一斉に反対方向に修正される状況が起こりました。
すなわち、それまでの「景気敏感株、バリュー株の買い、テクノロジー株の売り」のポジションを変更して、「景気敏感株、バリュー株売り、テクノロジー株の買い戻し」を行う動きがここから加速していったのです。
パウエル議長は早期利上げ観測をけん制。
現実の問題として「リフレトレード」の巻き戻しだけでもマーケットにはかなりの動揺をもたらすこととなりますが、問題はさらにその後です。
FOMCが終わったことでFRB幹部からの市場に対して活発に発言が飛び交うようになりました。
6月18日(金)、セントルイス連銀のブラード総裁が「インフレが加速すれば、2022年後半にも最初の利上げを行う」と発言したことが伝わりました。
テーパリングどころか、利上げはドットチャートが示している2023年よりもさらに前倒しされる、という点に踏み込んだ発言です。
ブラード総裁のように相当にタカ派的な発言が飛び交うようにもなり、FOMCの週末、6月18日(金)のNYダウ工業株は▲533ドルの下落を記録しました。
そして週明けの東京株式市場では月曜日の寄り付きからほぼ全面安の状況となり、日経平均はザラ場中に▲1,100円を超える下落となりました。
終値では▲953円で「FOMCショック」と呼ばれるようになります。
その日のうちにFRBの他のメンバーからは、タカ派に走り過ぎる内容を修正するような発言が飛びかうようになりました。
NY連銀のウィリアムズ総裁は、「現在の高いレベルでの物価上昇はいつまでも続かない、金融政策の変更はまだ早い」とハト派的な見解を表明。
6月22日(火)にはパウエル議長が米下院で議会証言を行う予定の証言内容のメモが公表され、ここでもマーケットの動揺をなだめるハト派的な内容が盛り込まれました。
これによって翌6月22日(火)日の東京株式市場は早くも全面的に値を戻す展開となりました。
日経平均は+873円と今年最大の上昇幅を記録する反発を記録しました。
パウエル議長の議会証言では、FOMCのすぐ後から市場に広がった利上げの前倒し観測をけん制するような内容で、実際にハト派色のかなり濃いものでした。
かつてグリンスパン議長が採用した、インフレの高進を抑えるための先回りの「予防的な利上げ」も行わないと明確に否定しています。
これによって、これまでの超緩和的な金融政策がまだしばらくは続く、との見方が市場に広がり、マーケットはようやく落ち着きを取り戻すようになりました。
NASDAQは6月22日(火)に2か月ぶりに史上最高値を更新し、そこから3日間にわたって最高値を更新しました。
同じようにS&P500も最高値を更新しています。
景気敏感株やバリュー株から、再びグロース株へと資金の流れが明らかにシフトして、マイクロソフト、フェイスブック、アルファベット(グーグル)が次々と上場来高値を更新してゆきました。
今後は金融相場から業績相場へ移行か
果たしてFRBはタカ派なのか、ハト派なのか。
市場はその点で疑心暗鬼にかられています。
実際の問題として、FRB内で物価と金融政策に対する意見が大きく分かれていることは事実です。
ダラス連銀のカプラン総裁は6月21日の講演で、「現在の状況ではテーパリングを早めに始める方が健全である」と発言しています。
セントルイス連銀のブラード総裁も「インフレ率が2%目標を上回る時代に入った」と述べています。
6月10日に発表された米国の5月・消費者物価指数は+5.0%となり、13年ぶりの高い伸びを記録しました。
「CPIショック」、5月に起きた株価下落は4月のCPIが+4.2%に高まったことから引き起こされましたが、5月はその伸びをさらに上回りました。
しかもコア部分の伸び率は+3.8%で、30年ぶりの高水準に達しています。
6月25日に商務省から発表された5月のPCE(個人消費支出)物価指数は、食品とエネルギーを除いたコア指数が前年比+3.4%を記録しました。
前の月から+0.3ポイントの拡大となり1992年4月以来、29年ぶりの高水準に達しました。
ワクチン接種の広がりがもたらす経済再開への期待。
それが需要面を強く刺激しており、一方で半導体不足、人手不足に見られるように供給面はそう簡単には整いません。
コロナ危機がもたらした異常なまでの供給面での制約が、パウエル議長の指摘している「非常に強い需要と弱い供給が同時に発生」しているのが、いまの物価上昇です。
ただし見方によっては、これまでマーケットに充満していた「インフレトレード」に傾き過ぎたバブル的な状況に対して、金融当局がガス抜きを図っているともとらえることができます。
実際に利上げが前倒しされるとなれば、それに先立ってテーパリング、量的緩和の縮小の開始時期も早まることになります。
早くも市場予想としては「9月のFOMCでテーパリングを決定、11月に開始」という線も浮上しています。
現在のようなコストプッシュ型のインフレは、従来の金融政策では容易には解消することができず、今後もFRB内のタカ派とハト派の意見の相違が何度も明らかになることが予想されます。
そのたびにマーケットでは警戒心と楽観論が交錯することになるでしょう。
7月末の次回のFOMCと、8月末に開催されるジャクソンホールでのパウエル議長の講演に向けて、今後も様々な議論が引き起こされそうな雲行きです。
世界に広がったコロナウイルスのまん延に対処して、1年以上にわたって前例のない金融緩和によってFRBは資産拡大によって株式市場を支えてきました。
そのような類を見ないほどの金融政策、経済対策がその役目を終えて、大きな転換期を迎えようとしています。
ハト派からタカ派への変化は仕方がないとしても、それが本当にタカ派への転換なのか、これから市場が見極めてゆくことになります。
ただし変更といっても、これまでの「超緩和から引き締め」、「利下げから利上げ」という直線的なものではありません。
利上げ開始の時期が市場参加者の予想よりも早まる、という誠に微妙なニュアンスです。
それだけのことを市場に認識させるために、6月中旬の2週間が費やされました。
今後予想されることは、歴史的な金融相場はこれで終わり、ここからは業績相場へと向かうだろうという点です。
長期金利はむしろ低い位置で安定するようになりました。
企業の業績と経営戦略がますます問われることは変わりません。
金融政策の変更がスケジュールにのぼってきたことによって、株式市場では景気敏感株やバリュー株から再びグロース株に物色が移り、NASDAQやS&P500をはじめ株価指数は最高値を更新しています。
6月相場の最大の変化はこの1点に集約されることになるでしょう。
「HOTな銘柄」
続いて個別銘柄の動向です。
6月相場は「FOMCショック」が発生して月半ばに日経平均が急落しましたが、その前後のわずかな期間を除けば基本的に株式市場はこう着感の強い展開となりました。
「金融相場から業績相場へ」と株式市場の性格が変わりつつあるとの認識が、次第に市場に浸透しています。
したがって収益状況を確認するまでは市場には活発に動けないというムードが日を追って充満しつつあります。
東証1部の値上がり率の上位銘柄で+20%以上値上がりした銘柄数は、6月相場では59銘柄となりました。
4月相場では20銘柄に低下しましたが、5月相場では55銘柄まで増えていたので、個々の銘柄の騰勢という点では6月相場はそれなりに活況だったと見ることができます。
これが3月の110銘柄、2月の131銘柄と比較すると依然として減少していますが、株価の水準自体も上がっており、全体相場のこう着感と照らし合わせれば、6月相場はそれなりに健闘したと言えそうです。
上昇基調にある銘柄がより一段と浮かび上がったと考えるべきでしょうか。
6月相場で値上がりの顕著だった「HOTな銘柄」の顔ぶれは以下の通りです。
- (1)半導体関連株
- (2)小型グロース株
- (3)個別の材料株(東京オリンピック、脱炭素、DXなど)
(1)半導体関連株
年初から続いている半導体関連株の流れは、引き続き6月相場でも活発に見られました。
これまでのリード役だった東京エレクトロン(8035)やレーザーテック(6920)のような主力銘柄の騰勢はさすがに鈍っており、代わって決算発表を含めて好材料の伴った銘柄や、これまではさほど人気化していなかった出遅れ気味の小型製造装置メーカーに物色の人気が集まりました。
その代表格が三井ハイテック(6966、騰落率で第2位、4,120円→6,390円、+55.1%、以下同じ)です。
三井ハイテックは精密加工技術を得意とするプレス用の精密金型メーカーです。
モーターの中心に位置するモーターコアから工作機械、半導体用リードフレームへと事業を拡張してきました。
半導体ビジネスが活況を呈するたびに、リードフレーム市場の高いシェアが評価されて株価は歴史的に何度も高騰と下落を繰り返しました。
社名には「三井」とありますが、旧財閥の三井グループに属しているわけではありません。
近年ではEV用モーター向けにモーターコアが伸びており、6月11日に発表した2022年1月期の第1四半期の決算では、売上高が310億円(会計変更で単純比較はできませんが、前年実績は216億円)、営業利益は26.1億円(同じく1.4億円)と大幅な伸びを発表しました。
引き続き5G、情報端末向けに半導体市場が急拡大しており、リードフレームの需要は旺盛です。
また車載用モーターコアおよびその金型が好調で、第1四半期が終了したばかりの時点で2022年1月期の通期の業績見通しを上方修正しました(売上高は1,100億円→1,234億円、営業利益は47億円→80億円)。
それでもまだ上方修正含みと見られ、株価は決算発表の直後からストップ高を交えて大きく上昇しました。
「FOMCショック」による株式市場全体の動揺にもびくともしない強さを見せつけています。
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トレックスセミコンダクター(6616、第9位、2,209円→3,140円、+42.1%)も大きく上昇しました。
トレックスセミコンは電源ICに特化したアナログ半導体の専門メーカーです。
主な製品はDC/DCコンバーターや電圧レギュレーターです。
旧トレックス・セミコンダクターが特別清算したあとにアナログ電源IC部門を引き継ぐ形で1995年に設立されました。
売上高のほとんどをアナログ電源ICが占めています。
アナログといっても古くさいものでは決してなく、スマホ、デジカメ、パソコンからカーナビなどの車載製品、ロボット、POSレジスター、測定器、セキュリティ機器、心電計、血糖値計など、あらゆる電源装置はアナログ半導体なくしては動きません。
5月半ばに発表した2021年3月期の通期の業績は、売上高が237億円(前年比+10.3%)、営業利益が12.1億円(同+78.3%)とこちらも大幅な伸びとなりました。
車載向け半導体市場が活況を呈していることが背景にあります。
続く今2022年3月期も、売上高は260億円(+9.6%)、営業利益は20.0億円(+65.4%)と引き続き大幅な伸びを見込んでいます。
トレックスセミコンの株価は決算発表の直後から上昇力を強め、6月半ばからは他の半導体株の上値が重くなってきたあたりから、逆に一段と騰勢を強めています。
有機合成薬品工業(4531、第15位、297円→405円、+36.4%)も隠れた半導体関連株として遅ればせながら人気を集めました。
有機合成薬品の主力製品は「グリシン」です。
同社のグリシンは日本初の合成酒のうまみ成分として開発されました。
それ以来、コンビニのおにぎりやかまぼこなど練り物製品の日持ちを向上させる食品添加剤やうまみ調味料として広く社会で利用されています。
同社は世界最大規模のグリシン製造設備を有しています。
それと同時に有機ケイ素化合物を製造しており、これが半導体の製造工程で欠かせないシリコンウエハの表面処理剤として伸びています。
ほかにも船底塗料の原料やタイヤコード接着剤としても使われており、今2022年3月期の営業利益が3.6億円、+64.4%の大幅増益に転換する会社側見通しを手がかりに、6月半ばから株価は大きく上昇しました。
このほかにも、半導体および液晶製造用の真空チャンバーを手がけるマルマエ(6264、第22位、1,904円→2,474円、+29.9%)や、半導体製造工程のエッチング装置、洗浄装置を開発する芝浦メカトロニクス(6590、第30位、6,480円→8,180円、+26.2%)が出遅れ感から大きく上昇しました。
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(2)小型グロース株
米国の長期金利が低下する方向に動き出すようになって、再びグロース株(成長株)の流れが生じてきました。
その米国ではマイクロソフト、フェイスブック、アルファベット(グーグルの持ち株会社)が史上最高値を更新しており、テクノロジー銘柄に対する見方が高まっています。
日本でもジャスダックやマザーズを中心とした小型成長株に視線が向かっています。
それは東証1部市場でも顕著に現れています。
ラクス(3923、第4位、2,026円→3,035円、+49.8%)は2015年にマザーズに上場し、2021年3月に東証1部に上場したばかりの企業です。
クラウドとIT技術者の派遣を主力事業としており、中でもメール管理の「メールディーラー」と経費精算システムの「楽楽精算」が中心です。
売上高はこの5年間で50億円から200億円まで4倍に増加しています。
これに伴って営業利益も10億円弱の水準から前期は40億円近くにまで拡大しました。
急成長の小型株の典型的な事例となります。
東京都では新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、6月に3度目の緊急事態宣言の発出が解除されたと思いきや、7月には4度目の宣言発令となりました。
リモートワークが推奨され「楽楽精算」をはじめクラウドサービスが伸びています。
6月14日に発表された5月の月次売上は15.0億円で、前年比+34.8%の増加となりました。
4月の+31.7%を上回る好調さを維持しています。
前年のコロナ危機の第1波が襲いかかっていた時期にあたり、その時の特需的な高い伸びを現在もはるかに上回っていることが評価されています。
マネジメントソリューションズ(7033、第11位、2,020円→2,800円、+38.6%)の株価も、6月14日に発表された2021年10月期の第2四半期の決算から、株価は同じような足取りをたどって上昇しました。
同社はマネジメントの実行支援を行うコンサルティング会社です。
2018年7月に東証マザーズに上場し、2019年10月に東証1部に市場変更しました。
創業以来、クライアントである企業と業務委託契約、人材派遣契約を結んで、プロジェクトマネジメントのコンサルティングや研修プログラムを提供しています。
リモートワークが浸透する状況下にあってもマネジメントコンサルティングの需要は衰えず、第2四半期の売上高は32.7億円(+32.2%)、営業利益は2.9億円の黒字(前年は▲0.7億円の赤字)を計上し、ここから株価の上昇に弾みがついて上場来高値を更新するに至りました。
同じようにAIを駆使して不動産価格の査定を行うSREHD(2980、第18位、5,550円→7,330円、+32.1%)や、ディスカウント店「業務スーパー」を展開する神戸物産(3038、第29位、2,764円→3,500円、+26.6%)も、抜群の好業績を背景に株価が大きく変貌しました。
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(3)個別の材料株(東京オリンピック、脱炭素、DXなど)
上記の「小型グロース株」と重なる部分が多いのですが、個別の材料株に対する人気も根強く見られました。
デサント(8114、第1位、1,903円→3,095円、+62.6%)は6月相場の上昇率第1位となりました。
メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスで大活躍する大谷翔平選手と2014年よりアドバイザリー契約を結んでおり、がぜん注目度が高まりました。
7月23日にはいよいよ東京オリンピックが開幕します。
新型コロナウイルスの影響で1年延期されて開催されることもあって、アスリートの活躍に注目が集まります。
デサントは大谷翔平選手のほかにも、競泳の入江陵介選手、女子ソフトボールの上野由岐子選手、男子ゴルフの松山英樹プロ、サッカーの柴崎岳選手らと契約しています。
デサントのほかにも、米国ではナイキの株価が史上最高値を更新し、日本ではアシックス(7936)が好決算から5月に急上昇しました。
コロナ危機で人々の関心が健康・体力・免疫力の維持に向かっており、それがスポーツウェア、シューズなどアスリートの愛用するスポーツ用品へのニーズとして顕在化しているようです。
マネーフォワード(3994、第24位、5,490円→7,090円、+29.1%)は6月14日にそれまでのマザーズ市場から、東証1部に市場変更され、それがきっかけとなって株価が大きく上昇しました。
マネーフォワードは、法人向け、個人事業主向けに「MFクラウド会計」などのクラウドを活用したサービスを提供し、同時に個人向けにはスマホを利用した家計簿作成サービス、資産管理サービス「マネーフォワードME」を提供しています。
売上げは急速に拡大しているものの、スタートアップ企業の常として投資先行型のため営業利益は赤字の状態です。
それでもマザーズ上場時から法人向けサービスが中小・零細企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するビジネスとして注目されていました。
時価総額はすでに3,000億円を大きく超えており、東証1部に変更されたことでTOPIX連動型ファンドの組み入れ対象として無視できない存在となっていたことが株価を継続的に押し上げました。
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イーレックス(9517、第7位、1,843円→2,702円、+46.6%)は再生可能エネルギーを活用した電力小売事業者です。
パーム椰子の種からパーム油を採油したあとの残渣物を燃料として用いるバイオマス発電所を日本で初めて運転しています。
カーボンニュートラル、脱炭素銘柄の中核として多方面から注目されているところへ、6月19日付の日本経済新聞が、イーレックスが大手電力会社より既存の石炭火力発電所を買収してバイオマス発電所に転換する、とのニュースが報じられました。
この直後から株価が大きく動いています。
日本の電力会社は石炭火力発電所を活用していますが、温暖化ガス排出を削減する観点からはいずれ別の発電設備に転換せざるを得ません。
レガシーとならざるを得ない既存の石炭火力発電をイーレックスが買い取ってバイオマス発電所に転換できれば、まさに一石二鳥です。
イーレックスからは「会社からの正式なリリースではない」と、記事の内容を否定する見解が出されましたが、同社は2013年にすでに太平洋セメントの休止中の石炭火力を買収してバイオマスに改造した実績があります。
今回の報道が実現すれば、日本のエネルギー構成比率の転換にも貢献が大きいと考えられます。
思惑が先行する形で株価が上昇していますが、太陽光発電・風力発電のレノバ(9519、第58位、3,640円→4,375円、+20.2%)も同じように連想買いが及びました。
再エネ関連銘柄としてはむしろこちらの方が投資家には人気があります。
それだけ脱炭素銘柄への市場の期待は高いことがうかがえます。
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「COOLな銘柄」
「COOLな銘柄」は6月相場で軟調だった銘柄です。
下落の目立った銘柄にもふたつの流れがあります。
ひとつは機械セクターで、もうひとつが経済再開期待銘柄、アフターコロナ銘柄です。
まずは機械セクターですが、これは6月の値下がり率のランキングを見れば一目瞭然です。
精密減速機のナブテスコ(6268、第8位、5,020円→4,200円、▲16.3%)、建設機械のコマツ(6301、第17位、3,203円→2,761円、▲13.8%)、建機用油圧フィルターのヤマシンフィルタ(6240、第28位、802円→706円、▲12.0%)、自動化装置のCKD(6407、第44位、2,606円→2,340円、▲10.2%)、などがそろって2ケタの下落率を記録しました。
ナブテスコは4月に上場来高値を記録したばかりでした。
CKDも年初から半導体製造装置の一角として人気を集めていました。
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もう少しランキングの下の方を見ても、総合重機の川崎重工(7012、第52位、2,632円→2,375円、▲9.8%)、ごみ焼却炉など環境機械のタクマ(6013、第54位、1,860円→1,679円、▲9.7%)、農業機械のクボタ(6326、第56位、2,488円→2,247円、▲9.7%)、ベアリングの日本精工(6471、第58位、1,039円→939円、▲9.6%)、総合重機の住友重機械(6302、第59位、3,385円→3,060円、▲9.6%)が同じように下落しています。
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この理由は明確ではありませんが、背景として考えられる要因がふたつあります。
ひとつは大きな需要先のひとつである中国の工業生産がスローダウンしていることです。
中国の工業生産は2月の+35.1%、3月の+14.1%の伸びに対して、4月は+9.8%、5月は+8.8%とペースダウンしています。
半導体不足の影響で自動車の生産量が▲4.0%減少し、2020年3月以来のマイナスとなったことが鈍化の一因と見られています。
ただ、前年の水準がコロナ危機の影響で大きく落ち込んでいるために、前年比では単純に比較することができません。
コロナ危機が広がる前の2019年5月と比べると工業生産そのものは+13.6%となっています。
もうひとつの理由が、交易条件の悪化です。
鋼材価格や銅市況など、機械産業が原材料とする資材価格が大きく値上がりしています。
そのために輸入品と輸出品の交換比率である交易条件は、機械セクターは他の産業と比較して大きく低下しています。
あるいはより単純に「インフレトレード」の終息の動きとして、代表的な景気敏感株である機械セクターが集中的に下落したのか、それまでの「景気敏感株、バリュー株の買い、テクノロジー株の売り」のポジションが巻き戻しに向かい、「景気敏感株、バリュー株売り、テクノロジー株の買い戻し」という動きが加速しただけなのか、明確には説明しきれません。
日本の機械セクターの収益状況は、自動車および電機セクターと関連しており、年初からの株価が高止まりしていました。
代表的な景気敏感株でもあり、機械セクターの株価の動向には市場参加者は常に注意を払っています。
6月は自動車、電機セクターが堅調さを維持しているのに対して、機械株だけが集中的に下落したことに対して、はっきりとした理由を特定できるようになるにはもう少し時間がかかるかもしれません。
6月相場で軟調だったふたつめのグループがアフターコロナ銘柄です。
格安旅行プランを販売する「トラベルコ」のオープンドア(3926、第10位、2,634円→2,229円、▲15.4%)が軟調でした。
同じように青山商事(8219、第50位、858円→773円、▲9.9%)もこれまでの上昇基調が一服しました。
新型コロナウイルスの感染拡大は依然として衰えていません。
日本でもようやくワクチン接種が軌道に乗ってきましたが、それと並行して新規感染者の数も増えており、特に20代から50代の比較的年齢の若い世代に広がりを見せています。
コロナ危機が収束すれ収益の回復が期待できるとみなされるのが「アフターコロナ銘柄」です。
その対極に位置するのが、コロナ危機下で収益を伸ばすことのできる「ウィズコロナ銘柄」です。
6月相場では、その「ウィズコロナ銘柄」も軟調な動きをたどりました。
東京都競馬(9672、第9位、5,380円→4,535円、▲15.7%)は巣ごもり消費の筆頭格で、1年前の最初の緊急事態宣言で株価の上昇が顕著でしたが、それが下落しました。
世界的な電子楽器メーカーのローランド(7944、第32位、6,380円→5,630円、▲11.8%)や、通販で人気のベルーナ(9997、第45位、1,088円→977円、▲10.2%)もそろって軟調です。
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6月相場の全体を概観して言えることは、これまでの物色の方向性がいったん見直され、年初から堅調だった銘柄やセクターの中から、上昇基調に限界が見えてみたもの、売られるものが出ている点です。
一方では、これまであまり評価されてこなかった銘柄に出遅れ感を修正するような買いのホコ先が向かった、という点が少しずつ浮かび上がっています。
これも金融相場から業績相場への転換点に差しかかっている兆候のひとつととらえることができそうです。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
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