「ニッケル・チタン・エネルギー」ウクライナ情勢がインフレを加速!?HOTな銘柄、COOLな銘柄 「ニッケル・チタン・エネルギー」ウクライナ情勢がインフレを加速!?HOTな銘柄、COOLな銘柄

「ニッケル・チタン・エネルギー」ウクライナ情勢がインフレを加速!?HOTな銘柄、COOLな銘柄

日本時間の2月24日(木)昼過ぎ、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始しました。この出来事によって世界の在り方はそれまでとがらりと変わりました。

世界中が驚き悲しみ、声を大にしてロシアを非難していますが、ロシアは一向に耳を貸しません。武力による国境線の変更には断固反対します。一刻も早くロシアは戦争行為を停止して話し合いによる問題解決を図るべきです。

すでに1月相場から、物色の流れが大きく変わりつつありました。それまではコロナウイルスの感染拡大がもたらしたグローバルな物流の混乱、国境をまたいだ人の交流の減少、サプライチェーンのミスマッチが物価の上昇をもたらしていました。

コロナ禍で傷ついた世界経済は、大規模な経済対策のおかげで再び拡大に転じつつありますが、それとともに物価上昇も加速しています。高騰する賃金と物価を抑えるために、米国の金融当局をはじめ先進国は一斉に超金融緩和政策の幕引きのタイミングを探っているところでした。

長期金利は上昇し、インフレと金利上昇がもたらされることによって、株式市場では好調だったグロース株が一斉に下落に転じるようになりました。
反対にそれまで不振を極めたバリュー株、低位株が一斉に上昇に転じつつあるところです。2月相場はその状況でロシアがウクライナに対して軍事侵攻を開始するという、巨大な地政学リスクが加わったのです。
「加わった」というよりも、まったく新しい世界の扉が開いたという方が実感に近いように思います。
インフレの到来が本物であると明確に意識され、コロナ禍で痛手をこうむった需要と供給のミスマッチの解消、物流網の回復は一段と遠のいた感があります。

世界中の株式市場が軟調な動きをたどり、国際商品市況は混乱のうちにも激しく上昇しています。
資源・エネルギー株だけが堅調で、リスク回避の流れから金(ゴールド)が再び上昇基調に入っています。

遅ればせながら「有事のドル高」が効いてきてドル高・円安の方向に拍車がかかりつつあります。

全体相場の振り返り

2月の月間のパフォーマンスとしては、日経平均は1月末の27,001円から2月末には26,526円へ、1か月で▲1.76%の下落となりました。世界的な株価下落が強まっていますが、それでも1月の下落基調よりは大きく改善しました。

TOPIXも1月末の1,895から2月末は1,886へ▲0.47%のわずかな下げとなりました。大型株を中心にリスク回避の換金売りが見られましたが、日経平均ほどの下げには至っておりません

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マザーズ市場は厳しい状況が続いています。マザーズは1月相場で▲23.20%もの大幅な下落となりました。空前のIPOラッシュが裏目に出た格好です。2月相場もそれに続いて▲4.35%の下げとなっています。引き続き小型成長株の集まるマザーズ市場にはなかなか買いが入ってこない状況です。

米国市場では、NYダウ工業株は2月、▲3.53%(35,131→33,892)となりました。S&P500も2月は▲3.15%(4,515→4,373)と軟調な展開に終始しました。NASDAQは▲3.43%(14,239→13,751)と続落していますが、1月の▲8%を超える下落と比べれば、少しばかりグロース株の下げが緩やかになってきたようです。

原油価格は急騰しました。WTI先物価格は1月末の88.37ドルから2月末には95.68ドルへ大きく上昇しています。ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、いよいよ本物の有事に突入した影響が現れています。

金利の上昇は一服となっています。米国の10年国債金利は、1月末の1.78%から2月末は1.82%に上昇しました。2月初旬に2年半ぶりの2%大台乗せとなりましたが、ウクライナ戦争が現実のものとなり、世界経済の先行きに対する警戒感から金利上昇にブレーキがかかったようです。

ドル円相場は2月も小さな動きにとどまりました。1月末の115円09銭から2月末には114円96銭と、有事にもかかわらず膠着感の強い動きとなりました。ただし3月に入るとドル上昇の勢いが強まり、117円台までドル高・円安が進行しています。

世界が固唾を飲んで見守るウクライナ情勢

第二次世界大戦以来、大国が武力を直接行使する行為は初めてです。冷戦が冷戦でなくなり、「鉄のカーテン」がロシアと西側諸国との間に大音響をとどろかせて降ろされました。両国の外相間で停戦交渉がもたれましたがお互いの主張の隔たりは大きく、事態は簡単には解決する雰囲気ではありません。世界の歴史が大きく塗り替えられる事態に直面して、国際金融市場はこれから起こる事態に身構えています。

現実を直視すれば、軍事力の格差から言ってロシアとウクライナとの軍事力の差は歴然としています。
2月24日の戦闘開始の直後からロシア軍は空爆によってウクライナの主要な軍事施設を次々と破壊しています。
すでに70か所以上の軍事施設が撃破され、軍事施設ばかりでなく民間のアパートや市街区域にも着弾し大変な被害をもたらしています。

戦争開始から2週間が経過しても状況は好転せず、ロシア軍はウクライナの首都・キエフに向かって進撃を続けています。いつキエフに対して総攻撃が始まるのかという点に焦点が移っています。

首都の機能が破壊される前に停戦合意がなされるのか・・・
武装解除、NATO加盟の阻止というロシアの求める厳しい条件をウクライナが受け入れるのか・・・
その後のウクライナの政治体制は。NATO加盟を希望する旧ソ連邦の他の中央アジア諸国は・・・
ロシアに対する西側諸国の経済制裁の効果は・・・
次から次へと疑問が湧いてきます。

コロナウイルスの拡大によって世界経済が傷んでいる時期に、エネルギーや食品価格の高騰によって世界経済には強い下押し圧力がかかり始めたようです。今後の状況を全世界が固唾を飲んで見守っています。

「HOTな銘柄」

ここからは2月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」です。

ここではやはり、ロシアとウクライナ間の戦争開始に即した銘柄の上昇が目立ちました。以下の何点にまとめてみます。

(1)資源・エネルギー関連株、海運株
(2)経済再開期待銘柄
(3)決算関連銘柄

(1)資源・エネルギー関連株、海運株

2月相場は資源・エネルギー価格の上昇に沿って収益改善が期待できそうな銘柄に物色が集中しました。

中でも大平洋金属(5541、第6位、2,266円→3,380円、+49.2%)はニッケル市況の大幅な上昇に連動して株価も急上昇しています。
大平洋金属はニッケルを原料としたフェロニッケルの製錬で国内最大手です。フェロニッケルはステンレス鋼を作る際の添加物として用いられます。
ここ数年、ニッケルの価格は上昇基調にあります。電気自動車全盛の時代を目前にして、リチウムイオン電池の正極材に用いられるニッケルは、昨年暮れにトン当たり20,700ドルまで上昇しました。およそ10年ぶりの高値水準です。
そのニッケルはインドネシアが世界最大の産出国で、ロシアは埋蔵量、産出量ともに世界第4位です。西側諸国がロシアとの貿易を全面的に停止すると、ロシア産ニッケルの調達が困難になることが予想され、需給ひっ迫の懸念から2月24日のウクライナ戦争の開戦をきっかけに、ニッケルはトン当たり26,000ドルまで急騰しました。

さらにニッケルの製錬で、ロシア最大の金属採鉱会社「ノリリスク・ニッケル」が世界トップの9%強のシェアを有していることから、一段の供給不足への懸念から投機マネーを呼び込み、ニッケル市況は48,200ドルまで信じられないほど高騰しました。先物価格は3月初旬に実に10万ドルまで記録したほどです。

ロンドン金属取引所(LME)は、3月のニッケルの取引を白紙に戻すという異例中の異例とも言える措置を講じることでこの混乱の決着を図る模様です。3月半ばになってもLMEでのニッケルの取引は停止されたままの状態となっており、混乱はまだ完全には収集しておりません。

ニッケル製錬と言えば住友金属鉱山(5713、第267位、5,248円→5,746円、+9.5%)もよく知られています。
こちらの銘柄は1月相場で大きく上昇した後だけに、2月相場では比較的穏やかな上昇率にとどまっています。

非鉄セクターでは、亜鉛市況に連動しやすい東邦亜鉛(5707、第98位、2,363円→2,746円、+16.2%)の堅調さが目を引きました。

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そしてニッケルと同じような状況がチタン市場にも現れています。
チタンの主産国はロシア、ウクライナ、カザフスタン、米国です。
日本はチタンを製錬したスポンジチタンの主産国でもあります。
チタンは熱に強く、きわめて強固でもあるため主に航空機用エンジンに用いられます。そのほか、原子力発電、火力発電のガスタービンにも多く使われています。

ニッケルと同様、ロシアからのチタンの供給が細るという懸念があり、それとともにロシアからの原油の輸入が減少した場合に、エネルギー自給率の低い日本では、海外からのエネルギー自立を図る上で原発の再稼働論議が持ち上がることも考えられます。
そこでチタンの需要が増加するとの思惑も急浮上しました。それもチタンの需要増の見通しにつながります。

そこから世界有数のスポンジチタンの製錬会社である大阪チタニウムテクノロジーズ(5726、第8位、822円→1,143円、+39.1%)、および東邦チタニウム(5727、第42位、884円→1,091円、+23.4%)の株価が急上昇しました。

さらにニッケルを主原料とするステンレス鋼メーカーで、日本金属(5491、第5位、979円→1,488円、+52.0%)と日本冶金工業(5480、第39位、2,263円→2,826円、+24.9%)の株価も、ニッケル市況高に連動して「原料高→価格転嫁→売上げ増加」との連想から株価は大きく上昇しました。

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このほかにもエネルギー関連株として、再生可能エネルギーのイーレックス(9517、第46位、1,506円→1,852円、+23.0%)、原発関連の木村化工機(6378、第47位、728円→895円、+22.9%)の上昇が目立ちました。
いずれもロシア産原油が日本に入ってこなくなることによって、エネルギー自給率の観点から再生可能エネルギーの普及促進、原発再稼働の議論の高まりが背景にあります。

電力会社でも原発比率の高いJパワー(9513、第56位、1,501円→1,825円、+21.6%)、東京電力HD(9501、第74位、306円→362円、+18.3%)の上昇が見られました。

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原油の禁輸措置が取られるとなると、1970年代のオイルショック時の記憶がよみがえります。当時はタンカーを有する海運会社の株価が急騰した経緯もあって、海運会社では飯野海運(9119、第4位、534円→883円、+65.4%)、ユナイテッド海運(9110、第11位、3,025円→4,175円、+38.0%)、明治海運(9115、第19位、702円→917円、+30.6%)が大きく上昇しました。

海運大手3社はコンテナ船不足を手がかりに、すでに年初から大きく上昇しているだけにこの局面では株価の上昇率という点では見劣りしました。それでも日本郵船(9101、第65位、8,900円→10,670円、+19.9%)は2月相場でも堅調な値動きを示しています。

インフレ局面では新たに船を作る建造船の需要も増えると見られ、名村造船(7014、第9位、195円→271円、+39.0%)の株価も堅調でした。

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(2)経済再開期待銘柄

ロシアがウクライナに軍事侵攻したことで世界経済にはダウンサイドのプレッシャーがかかることになりましたが、その一方で世界のコロナウイルスの感染拡大は徐々に収まりつつあります。
まだ香港、韓国では感染拡大が続いているものの、これも3月中旬には峠を越すとの予想が経ち始めており、世界は経済再開への期待を再び強めています。

日本は世界でも類を見ないほど水際対策を強化してきましたが、これも海外諸国からの批判を受けてビジネスマン、外国人留学生に対して門戸を開く方針に転換しました。

それに伴ってオンラインチケットのオープンドア(3926、第27位、1,507円→1,919円、+27.3%)、ウェディングのエスクリ(2196、第12位、324円→443円、+36.7%)、おみやげ用スウィーツの寿スピリッツ(2222、第17位、4,640円→6,130円、+32.1%)などの株価が底入れ反転の機運を強めています。

実際に「トラベルコ」を展開するオープンドアの四半期ごとの売上高と営業利益の推移は「Q1→Q2→Q3」の順に、
売上高:232→297→357(百万円)、営業利益:▲235→▲160→▲110(百万円)というように徐々に改善傾向が見てとれます。

同じように寿スピリッツも「Q1→Q2→Q3」の数字の流れで見ると、売上高:5,758→6,200→10,963(百万円)、営業利益:▲759→▲659→2,278(百万円)と改善傾向が見られます。

この中で「Q3」は10-12月期という人の移動が活発な時期でもあり、コロナウイルスの感染拡大が一服した時期でもあります。この四半期ごとの改善傾向が一時的な季節性なのか、それとも今後も続く傾向なのか、その辺をマーケットは注視していると推察されます。
名古屋鉄道(9048、第91位、1,807円→2,108円、+16.7%)も株価は堅調でした。2月相場では民間鉄道各社も一斉に反発局面を迎えています。これらの銘柄はバリュー株人気に乗ったという側面も強く見られました。

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(3)決算関連銘柄

どんなに市場全体が混乱しても、株式市場では業績相場の流れが一貫して続いています。
2月は3月決算企業の第3四半期の決算発表シーズンでもあり、12月決算企業の本決算もあります。それに伴って決算内容の良好な銘柄が大きく上昇しました(逆に業績の悪かった銘柄は大きく下落しました)。

化学分野に強い専門商社の稲畑産業(8098、第14位、1,724円→2,321円、+34.6%)は、2月7日に2022年3月期の第3四半期の決算を発表しました。
売上高は5,049億円で、収益認識基準を新たに採用しているため前の期との比較ができないものの、営業利益は163億円(前年比+54.0%)と大きく伸びました。
半導体用のフォトマスクやノートPC用パネル、EV用電池が好調でした。
稲畑産業は業績の好調に合わせて増配を発表しています。当初40円としていた期末配当金を80円としました。中間配当の30円と合わせて年110円となります。
昨年4月からスタートした中期経営計画の中で、株主還元の基本方針を引き上げています。それによれば、今後3年間で政策保有株式の50%を売却する方針としており、売却して得た資金は株主還元に積極的に回してゆく方針です。
減配は極力行わず、継続的に配当金を増額することも合わせて明記しており、このような株主還元策が好感されて株価は決算発表の翌日から大きく上昇しました。

DVD・CDレンタルやゲームソフトを販売するゲオHD(2681、第16位、1,132円→1,518円、+34.1%)も決算発表をきっかけに株価は大きく居所を変えた銘柄です。
2月10日にゲオHDが発表した2022年3月期の第3四半期の決算では、売上高は2,449億円(+0.7%)にとどまったものの、営業利益は56.6億円で+27.0%と大幅な伸びとなりました。
リユース衣料を扱う「2nd STREET」が「まん延防止等重点措置」による外出自粛の影響を受けていたものの、その自粛ムードが緩んだことによって売上げの伸びが回復したことがプラスに作用しました。新型「iPhone」が発売され中古販売が好調だったことも業績の回復に寄与しています。
この発表に合わせて2022年3月期の通期業績見通しを、売上高で3,200億円→3,300億円、営業利益を40億円→70億円にそれぞれ引き上げています。最終利益は前期の▲7.5億円から今期は40億円に大きく回復することになり、株価は大きく上昇しました。

同じように、オペレーションリースのFPG(7148、第20位、655円→851円、+29.9%)、農業機具のやまびこ(6250、第26位、1,041円→1,330円、+27.8%)、PTCAガイドワイヤーの朝日インテック(7747、第31位、1,946円→2,456円、+26.2%)も好調な決算内容や増配をきっかけに株価は大きく上昇しています。

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なお、2月相場で値上がり率が第1位のソウルドアウト(6553、第1位、950円→1,806円、+90.1%)は、親会社である博報堂DYホールディングスによるTOB、同じく第2位のアイオデータ機器(6916、第2位、757円→1,297円、+71.3%)は経営陣によるMOBが発表され、それぞれ株価が急騰しました。
ともに上場廃止になる予定です。

「COOLな銘柄」

「COOLな銘柄」は2月相場で下落基調の目立った銘柄です。

1月相場に続いて小型グロース株の軟調さが目立ちました。その中でも半導体関連株の一角に弱い動きが見られました。

レーザーテック(6920、第29位、25,075円→20,840円、▲16.9%)は、最先端の半導体の回路製造に欠かせないEUV露光装置用のマスク検査装置で世界シェア100%を有しています。
この2年間だけでも株価は20倍に上昇しましたが、それが1月4日につけた上場来高値の36,090円から、あっという間に半値近くまで下落しました。
半導体不足が長期化する予想が強まれば強まるほど、需要家は必要量を確保しようと本来であれば必要ない分まで発注する「仮需」が膨らみます。かつての半導体サイクルの終盤ではしばしば見られたことですが、どうやら今回の半導体景気もそのような仮需の段階まで来た、という見方が浮上しています。

それに加えて、今回のウクライナ戦争が半導体の製造工程に影響する点も指摘されています。
半導体の製造には希少金属ならぬ「希少ガス」、ネオン、クリプトン、キセノンなどが欠かせません。
この希ガスに関してはウクライナが世界の主要生産国のひとつであり、中でも半導体の回路を基盤に書き込む露光工程で用いられる「ネオン」は、ウクライナが世界シェアの70%を占めていると言われます。
ロシアがウクライナに軍事侵攻したことによって、ウクライナからの「ネオン」のサプライチェーンが寸断され、それが世界の半導体製造工程をさらに混乱させると見られることからさらなる混乱が予想されます。

レーザーテックは、あらゆる上場企業の中でもこの2年間の株価の上昇率が最も高かっただけに、機関投資家のポートフォリオの組み入れ対象の中核銘柄になっていると予想されます。その分だけ下げが厳しくなったと考えられます。

レーザーテックほど下落は大きくはありませんが、半導体の検査用プローブカードで高いシェアを持つ日本電子材料(6855、第13位、2,494円→1,973円、▲20.9%)、半導体封止材の住友ベークライト(4203、第61位、5,470円→4,755円、▲13.1%)、同じく封止材のイビデン(4062、第72位、6,300円→5,520円、▲12.4%)の下落が目を引きました。

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半導体関連に限らず、これまで成長株としての評価が定着していた銘柄の下げが目立ちます。

福利厚生サービスのアウトソーシングを受託するベネフィット・ワン(2412、第10位、3,465円→2,641円、▲23.8%)、臨床検査大手のシスメックス(6869、第34位、10,830円→9,124円、▲15.8%)、アクティビティストに対抗するための株主調査のIRJホールディングス(6035、第20位、5,020円→4,060円、▲19.1%)などが軟調でした。

いずれもこれまで2~3年にわたって飛び抜けて上昇した成長企業ばかりです。
それがいずれも軟調なのは、世界的に広がるリスク回避の売り急ぎの渦中で、機関投資家のポートフォリオで組み入れ比率の高い企業に換金売りが集中していることが想像されます。
同様に、小型グロース株の中でも1月相場に続いて軟調な銘柄が数多く見られました。名刺管理ソフトのSansan(4443、第18位、1,246円→998円、▲19.9%)は、昨年11月まで一貫して値上がりを続け、マザーズから東証1部への上場を果たしました。
しかしその後は金利上昇懸念の台頭と、それに伴って株式市場でのグロース株からバリュー株へのシフトによって、株価は昨年11月16日の上場来高値3,642円から2月24日には876円まで4分の1に下落しています。
1月中旬に発表された2022年5月期の第2四半期の決算では、売上高は95.7億円(+25.4%)と大幅に伸びていますが、営業利益は▲1.3億円の赤字です。
会社側の予想では通期は8億円の営業利益を挙げるとされていますが、株価が1000円を割り込んだ水準まで下がっても予想PER(株価収益率)は120倍を超えています。現在の株式市場では、高いバリュエーションの銘柄は評価されにくくなっている様子が見てとれます。

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同様に、「楽楽精算」をクラウドで提供するラクス(3923、第27位、2,270円→1,877円、▲17.3%)は予想PERが250倍、不動産取引にAIを利用したサービスを提供するSREホールディングス(2980、第32位、4,385円→3,665円、▲16.4%)は予想PERが50倍、電子マネーで企業向けにギフト券を発行するギフティ(4449、第3位、1,203円→846円、▲29.7%)は予想PERが120倍など、いずれも高いバリュエーションまで評価されているグロース株が下落を余儀なくされています。
2月相場で下落率ワーストワンとなったのがネットプロテクションズHD(7383、第1位、1,208円→562円、▲53.5%)です。12月に東証1部にIPOしたばかりの新興企業で、「バイ・ナウ・ペイ・レイター」と呼ばれる後払い決済の第一人者です。
やはり高い成長と将来の利益水準を見越して、株価は公開直後に1,698円の高値を記録しましたが、それがピークから3分の1を下回るまであっという間に下落しました。それでも予想PERは170倍となっており、株式市場での評価が先行したケースと見られます。

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1970年代以降、近年は久しくなかったインフレが現実のものとなりつつあります。貴金属や地下資源などリアルな物(ブツ)の価値が高まり、反対に通貨や債券類に代表されるペーパー的な資産は忌避されやすくなります。
そのような環境下では、「将来における高い成長」という基準は、それ自体が評価対象として成立しにくくなっているような状況にあります。そうなるとやはりここでも、金利の動向が大きなカギを握っています。

全体相場の振り返り

ここからは2月相場の全体的な概況について振り返ります。

2月相場のスタートは、不透明ではあったものの、今と比べればはるかに穏やかな雰囲気に囲まれていました。

それまでのマーケットでの懸念材料は、
(1)オミクロン変異種の感染拡大による医療体制のひっ迫懸念
(2)米国の金融緩和政策の終了、インフレ高進による利上げ催促
(3)供給サイドの問題による資源エネルギー価格の高騰
でした。そこに昨年暮れから徐々に緊迫してきたウクライナ情勢が加わるというものでした。

2月4日(金)には北京オリンピックが開幕し、米国、英国、日本など西側諸国の一部の首脳クラスは開会式への出席をボイコットしたものの、まだこの時期は平穏に過ぎました。その中でプーチン大統領と習近平国家主席は、親密さを世界に向けて強くアピールしていた印象があります。

1月末に米国のアップルが発表した10-12月期の決算では売上高は+11%の伸び、純利益は+20%の346億ドルに達するという好調な内容でした。「iPhone13」の売れ行きが順調で、半導体不足を克服して「Mac」をはじめとする高価格帯の製品が売れ行きを伸ばしました。

業績相場の流れを取り戻したい株式市場は、アップルの好決算を手がかりとして、1月相場では下落の目立ったグロース株に徐々に安心感が戻ってきたところでした。1月28日(金)から2月2日(水)までNYダウ、NASDAQはそろって4日続伸を記録したほどです。

暗転したのは2月2日(水)のメタ(旧・フェイスブック)の決算発表です。メタの10-12月期の決算は、純利益は102億ドル(▲8%)と10期ぶりのマイナスに落ち込んだことが判明しました。これによって株式市場では再びグロース株、主にテクノロジー株に対して警戒的な見方が戻ってしまったと見られます。

メタの1-3月期の売上高の見通しは前年比+3~11%の増加にとどまり、多くのアナリストの予想を下回ることとなりました。収益の9割以上を占めるネット広告事業が失速しつつあることが主因とされています。メタの株価は2月2日(水)のアフターマーケットで▲20%以上も急落し、2月3日(木)の東京株式市場では寄り付きからグロース株が一斉に売られるという大きな衝撃を与えました。

メタの時価雄額は▲2,300億ドル(26兆円)も減少し、1日の消失額としては2020年9月に起こったアップルの▲1,800億ドルを上回って過去最大に達したとブルームバーグ通信は伝えています。

メタの収益がこれほどまで減退したきっかけは、アップルが導入した広告規制の影響と見られます。アップルは昨年4月より「iPhone」や「Mac」でネットを閲覧する際に個人のプライバシーを保護する機能を強化しています。サイトをアクセスする際に利用者が承認しない限り、企業がアプリの利用状況を捕そくできないよう規制がかけられています。

メタの主力サービスである「フェイスブック」は、膨大なデータを通じて判断するターゲティング広告による広告収入です。アップルの採った規制によってターゲティング広告の配信効果は大きく低下しているとされています。結果的にメタ以外の企業に広告の出稿が流出しており、メタ自身は2022年を通じて100億ドル、1兆円以上の売上げの減少につながると見ています。2月初旬はこのようなムードで推移しました。

 

2月中旬になると、混迷の一途をたどるウクライナ情勢を打開しようという動きが広がりました。フランスのマクロン大統領は単独でモスクワを訪れ、プーチン大統領と会談を行いました。

会談内容の詳細は明らかではありませんが、ウクライナとロシアの国境で現在行われている「合同の軍事演習」が終了次第、軍隊を撤収するとのプーチン大統領の言質を取った、と海外メディアでは伝えました。

しかし地続きのヨーロッパ諸国が必死で事態の打開に向けて外交努力を続ける一方で、米国からはロシアが一触即発の状態にあるという緊迫した情報が次々と発信されました。2月7日(月)に米国のサリバン大統領補佐官は、テレビのインタビューに答えて、ロシアがウクライナに軍事侵攻する可能性は「早ければ明日かもしれない、数週間後かもしれない」と発言しました。その上でロシアが侵攻したら、ウクライナでは最大5万人の民間人が死傷するとも指摘し、それに合わせて3,000人の米国兵のNATO加盟国への増派も明らかにしました。

2月10日(木)にはロシアとベラルーシによって、8~10万人規模に達する大規模な合同軍事演習が開始されました。これに対して米国や欧州は東欧に軍隊を増派して対抗しています。2月11日(金)の記者会見においてサリバン補佐官は、ウクライナに滞在する米国人に対して「48時間以内に退避するよう」に勧告を発しました。北京オリンピックが開催されている期間中には軍事行動はないだろう、と誰もが想像していましたが、その楽観的な観測も当てにならなくなってきました。

 

ウクライナ情勢の緊迫化もあって、原油をはじめとするエネルギー価格の高騰が次第に抜き差しならない状況となってきました。原油価格は2月中旬にはWTI先物で93ドル台まで跳ね上がりました。ウクライナは世界有数の穀倉地帯でもあり、小麦など穀物価格も一斉に上昇し始め、庶民の生活を直撃しつつあります。

コロナウイルスの影響で、ただでさえ供給面での制約と物流の混乱が生じている時に、ロシアが軍事侵攻した場合に科される経済制裁の影響を懸念する声が日増しに強まっています。

米国の1月の消費者物価指数は、前年比+7.5%という40年ぶりの高い伸びとなりました。これによって米国の10年国債金利は一時、2.0%の大台を突破するまでに上昇しました。これは2019年8月以来の高い水準です。

FRBは3月のFOMCにおいて、政策金利の引き上げを始めると予想されています。問題はそのペースです。1度の利上げ幅は0.5%に拡大し、利上げの回数も年3~4回という見通しから「年5~7回」へと増えつつあります。ECBも金融緩和の縮小にカジを切っており、世界的に金利上昇モードが強まっています。株式市場ではグロース株からバリュー株への資金シフトがさらに強まる結果となりました。

一方、日銀は金融緩和スタンスの継続をあらためて表明しました。建国記念日の3連休を前にした2月10日(木)の夕方、長期金利が0.2%を超えて誘導目標(0.25%)の上限に接近したことから、週明けにも「指し値オペ」を実施すると公表しました。0.25%の長期金利の上限を維持する構えを明確にしました。

 

忘れてならないのがコロナウイルスの感染状況です。世界各国で猛威を奮っていたオミクロン変異種は多くの国で徐々に下火に入りつつあります。日本では当初「2月中旬にもピーク」との予想が大勢でした。しかし世界各国に遅れて感染の拡大局面に入った分だけ、ピークの到来も遅れているようです。

全国の新規陽性者数は2月18日(金)に87,633人となりました。2月中旬にピークをつけるとの予想は正しかったのですが、直近のピークだった2月5日の105,500人と比較すると減少しているものの減り方のペースが鈍っています。東京都の2月19日(土)の感染者数は1万3,516人で、2週間ぶりに前の週の同じ曜日を上回りました。1日の亡くなった方の数は27人に達し、今年最も多くの方が亡くなっています。

先進国は3回目のワクチン接種を急ぎ、経済再開を急ピッチで進めています。オミクロン変異種の感染拡大はピークを越えつつあるとして、行動規制も相次いで緩和されています。

日本では海外諸国に遅れて、12月から始めた海外からの全面的な入国禁止、評判の悪かった水際対策を3月1日よりビジネス目的、留学生、実習生に限って限定的に解除することとなりました。国際的な人流の遮断がようやく緩められることになります。

オミクロン変異種は、重症化リスクは小さいと言われますが、それだからこそ人々の行動抑制にはつながりにくく、感染者数がピークを打っても大幅な減少にはつながっていないようです。外食ビジネスは店をたたむところが広がりつつあります。

ある程度は予想されたことですが、日本は今回の感染拡大の第6波でも医療体制の整備、ワクチン接種、治療薬の調達の準備、実施が遅れています。2月に入ってようやく3回目のワクチン接種の準備が整いつつありますが、岸田政権からは強い働きかけがあまり感じられません。内閣支持率も徐々に低下傾向に向かっています。この点でも日本の株式市場には下押し圧力が強まっているように感じられます。

 

2月下旬になると物価上昇の圧力がより強く意識されるようになりました。足元でのエネルギー価格の上昇は、ふたつの要因によってもたらされています。ひとつはコロナウイルスの拡大、もうひとつはウクライナ情勢の緊迫化です。

ウクライナ情勢に関しては、世界中がプーチン大統領ひとりの動静に釘づけとなっています。ウクライナとの間で戦争は不可避との報道が世界中のメディアを通して連日のように流れています。そのたびに原油価格をはじめ、資源価格が大きく刺激されます。

2月11日(金)、サリバン大統領補佐官はホワイトハウスでの記者会見で、「ロシアによるウクライナ侵攻はいつ行われてもおかしくない、北京五輪の開催中にも起こり得る」と述べ、ウクライナ在住の米国人に対して即刻退避するよう勧告を発しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は「2月16日(水)」と日時を限定して、その日にロシアが軍事侵攻を開始すると発表し、この日を「国民統合の日」と位置づけました。ウクライナ国旗の色である水色と金色のリボンを胸につけるようにうながし、巨大なウクライナ国旗を持ってスタジアムを行進するウクライナの人々の姿が映像で世界中に流されました。

その一方で、当事国のロシアもウクライナも、そしてアメリカも、互いに相手がフェイクニュースを流していると非難し合っています。2月15日(火)にはウクライナとの国境からロシア軍の一部が撤収を開始したとのニュースが世界を駆け巡り、その様子を伝えるビデオ映像も公開されました。ロシア国防省からも正式に部隊の撤退が発表され、これによって世界の株式市場が一斉に大きく上昇するという一幕もありました。

しかし欧米首脳は当初からこのようなロシア軍の動きに対して懐疑的で、とりわけ米国のブリンケン国務長官は撤収とは逆に、大規模な部隊がウクライナ国境に進行しつつあるとあらためてロシアを非難しました。ドイツのショルツ首相もロシア軍の撤退は確認されていない旨の声明を明らかにしました。

楽観ムードは1日で消え去り、2月17日(木)日本時間の昼過ぎ、今度はロシアの国営通信社「スプートニク」が、ウクライナ国境の親ロシア派武装勢力の支配地域で、ウクライナ軍が砲弾と手りゅう弾を発射したと報じました。そこから東京株式市場は急に下げ足を早めるという状況で終わりました。何が真実で何がフェイクなのか、情報が錯綜しており、それほどまでに世界の金融市場はウクライナ情勢に神経をとがらせています。

2月18日(金)にバイデン大統領が演説を行い、「数日中にロシア軍はウクライナを攻撃する。プーチン大統領が決断したと確信する。そう信じる理由がある」と強いトーンでロシアを非難しました。

2月19日(土)、G7緊急外相会合がミュンヘンで開催され、ウクライナ国境でのロシアの軍備増強に対して「重大な懸念」を表明する、という共同声明が発表されました。その上でロシアがウクライナに対して軍事侵攻すれば、「経済制裁を含めて甚大な結果を招く」との警告を発しました。

2月19日(土)、これに対してプーチン大統領は、弾道ミサイルを発射する軍事演習の開始を命令し、ウクライナへの軍事圧力は緩めないとの姿勢をあらためて示しました。軍事侵攻という重大な事態がまるでゲームの一場面のように次々とメディアから流され、どれが本当に必要な情報なのか、あるいは単なる話題に過ぎないのか、境界線がきわめて曖昧で世界が混乱している感があります。

そのような状況の下で、2月20日(日)に北京オリンピックは閉会式を迎えました。週明けの月曜日、米国は「プレジデントデー」の祝日です。株価下落の続いている市場には不安と安堵の入り混じった週末となりました。

そして2月24日(木)、ロシアはウクライナに軍事侵攻を開始したのです。2015年の「ミンスク合意」の当事者であるフランスとドイツは、ぎりぎりまで外交努力を続けましたが、プーチン大統領の翻意は得られませんでした。

ミンスク合意はロシア系住民の支配するドネツク州、ルガンスク州の東部地区紛争の停戦合意の文書です。その合意は今回の軍事侵攻で完全に破棄されました。

プーチン大統領は東部2州の住民をジェノサイド(集団殺害)から保護するという名目で軍事行動を開始しました。ロシア軍はベラルーシからも国境を越えウクライナへの侵攻を開始しています。2月25日(金)にはチェルノブイリ原発を占拠し、首都キエフに迫っています。

これによってNATO加盟国を中心に、ロシアに対する経済制裁が発動されつつあります。ロシアの大手銀行2行行に対して取引停止が決定され、その段階では決定が先送りされた「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からのロシア排除も実施される見通しとなっています。

「SWIFT」から排除されると国際間の銀行取引が決済できず、影響はロシアばかりでなく貿易の相手国にも及びます。「金融の核爆弾」と呼ばれるほどの措置で被害は計り知れないものとなると見られています。

2012年にイランに対して「SWIFT」排除が実施された時は、イラン経済はその年に輸出取引がまったくできず、▲7%を超えるマイナス成長を余儀なくされたほどです。イランの通貨は厳しい下落に見舞われ、庶民生活にも多大の影響が広がりました。

ロシア経済およびルーブルも同様の過程をたどると見られます。ルーブルの価値が急落すると1998年に起きたロシア国債のデフォルト、いわゆる「ロシア危機」の悪夢がよみがえります。

 

ウクライナ国境で戦争が開始されたとたん、その時刻に市場がオープンしていた東京株式市場は2月24日(木)昼過ぎから下げ幅を急拡大しました。日経平均の終値は▲478円で取引を終了。続いて取引が始まった欧州市場も軒並み大幅安となりました。しかしNY市場だけは違っていました。

2月24日(木)のNYダウ工業株30種平均は、取引時間中に一時▲859ドルまで下落しましたが、そこから急速に切り返し、終値では33,223ドルの+92ドル(+0.27%)まで反発。6日ぶりのプラスで引けました。NASDAQはさらに大きく上昇し13,473ポイントの+436ポイント(+3.34%)で終わりました。翌日もNYダウ、NASDAQはそろって上昇しています。

最大の焦点である原油価格は、2月24日(木)に終値で94.40ドルまで上昇した後、翌金曜日には91.94ドルにわずかながら下落しました。その翌週には100ドルの大台を突破して130ドル台にまで急騰することになりますが、少なくともウクライナ戦争の開戦直後はいったん反落する形となりました。長期金利も上昇が鳴りをひそめ、米10年物国債金利で1.96%~1.99%にとどまっています。

ロシアの軍事行動に対して国際世論は圧倒的にロシア不利の方向に傾いています。国際法違反のとがめや人道的な非難は当然で、その上で西側諸国の打ち出す経済制裁の影響が出てくることになります。

ロシアに対する大規模な経済制裁は相当の長期にわたって科されることになるはずで、それがロシア経済、ひいては世界経済に対してマイナスの影響をもたらすものと予想されます。コロナ禍での物流のひっ迫もあって物価の上昇圧力がそう簡単に緩和するとも考えにくくなりました。

ただし国際政治のことですので、一寸先は闇という世界です。状況の展開次第では、FRBの金融政策の運営にこれまでにはない変化が生じることも十分に考えられます。2001年9月11日、「9.11」で知られる同時多発テロ事件に直面して、FRBは臨時のFOMCを開催し果敢に金融緩和を実施して市場に大規模な資金供給を実施しました。当時のブッシュ大統領は「これは戦争である」と宣言し、戦時下の非常事態を強調しました。

今回は米国が戦場となっているわけではありません。しかしインフレの高進を通じて米国とロシアは新たな戦争に対峙している言っても過言ではありません。

物価と金利の上昇に伴う株価の動揺をどこまで食い止めるのか。インフレを食い止めるために金利を引き上げるのか、金融市場の動揺を抑えるために金利を引き下げるのか。米国のみならず世界の政治と経済を救済する責務を、FRBはその双肩に背負っていることとなります。

値上がり率上位・下位(東証1部)

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鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
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