逆風の小型成長株、堅調の資源エネルギー株 HOTな銘柄、COOLな銘柄 逆風の小型成長株、堅調の資源エネルギー株 HOTな銘柄、COOLな銘柄

逆風の小型成長株、堅調の資源エネルギー株 HOTな銘柄、COOLな銘柄

株式アナリストの鈴木一之です。2022年5月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。

全体相場の振り返り

5月相場は物色の方向性が定まらず、不安定な値動きが続きました。
月間パフォーマンスとしては、日経平均は4月末の26,847円から5月末には27,279円まで、1か月で+1.65%の上昇を遂げました。月間では小さな値動きですが、4月に経験した激しい値下がりからようやく反発しています。

TOPIXは4月末の1,899から5月末には1,912へ+0.7%の反発を示しました。NY株式市場が4月に続いて5月も軟調だったことも軟調な要因のひとつと見られます。

小型成長株は引き続き厳しい状況となっています。
東証マザーズ指数は4月に▲12.2%という大幅な下落に見舞われましたが、5月も▲3.3%と続落しました。
東証市場改革によってマザーズ市場は4月より新たに「東証グロース市場」に生まれ変わりましたが、それによってプラスの効果がもたらされているとは言えない状況です。

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経済環境がそれまでのデフレからインフレ局面に大きく変化しており、それに伴って株式市場では利益の絶対額が評価されるようになりつつあります。グロース市場に上場するような規模の小さな小型株にはそれだけで厳しい逆風が吹いています。

米国金融政策、ウクライナ情勢、スタグフレーション懸念

5月も米国の金融政策に世界中の関心が寄せられました。
5月初旬に開催されたFOMCで0.5%の利上げと6月からの量的引き締めが決定され、FRBによる今後の金融引き締めペースはどのようになってゆくのか、市場は戦々恐々としています。

それだけに企業の業績にマーケットの関心が集まっています。
日米ともに1ー3月期の決算シーズンを迎え、業績の良好な企業には安心買いが入りやすい状況となっています。
それだけマクロ経済の動向と企業業績に株式市場は神経をとがらせています。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はこう着状態に陥っており、戦争の長期化は避けられそうにありません。
中国はゼロコロナ政策を貫いているため、上海市のような大都市でのロックダウンが避けられず、ウイルスの感染拡大は抑えられても、そのために経済活動が弱められてしまうというジレンマを抱えています。

原油価格は強含みで推移しており、それと同時に景気も悪化する方向に向かう「スタグフレーション」が現実のものとなりつつあります。
米国の10年国債金利は、5月6日に3.13%のピークを付けた後は低下傾向に向かいましたが、それほど大きくは低下せず、反対に5月末からは再び長期金利は上昇基調に戻りました。

日本でも物価の上昇は次第に明らかになっているものの、日銀は指値オペを連日のように行うことで長期金利を0.25%に固定しています。
そのために日米金利差は拡大しており、為替市場では1ドル=130円台までのドル高・円安が進行しました。
それでも現在の円安を好感する向きはかつてほど多数ではありません。反対に原材料価格など輸入物価への悪影響が不安視されています。

「HOTな銘柄」

ここからは5月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」を取り上げます。
以下の3つの切り口から相場動向をつかむことができますが、方向性としては前月の4月相場とほとんど変わっていないように見られます。

  • 決算内容の良好な銘柄
  • 資源エネルギー関連株

(1)決算内容の良好な銘柄

5月相場でも引き続き業績好調の銘柄が力強く物色されました。
値上がり率の上位には、海運大手の川崎汽船(9107、第4位、6,850円→10,240円、+49.5%)が登場しました。

川崎汽船は大型連休明けの5月9日に3月期の決算発表を行いました。
そこで前2022年3月期の決算は、売上高が7,569億円(前年比+21.0%)、営業利益は176億円(黒字転換)と大きく伸びたものの、経常利益はさらに大幅に拡充され6,575億円(7.3倍)まで増加しました。

コロナ危機が発生したことがコンテナ船をはじめとする世界的な物流の混乱につながっており、持分法適用会社のオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の業績が大きく伸びて経常利益を大幅に押し上げました。
期初の段階における今2023年3月期の見通しとしては、売上高は7,800億円(前年比+3.0%)、営業利益は410億円(+132%)と安定して伸びるものの、経常利益は4,700億円(▲28.5%)と控えめに見積もっています。
コンテナ船を巡る世界的な混乱がいつ収まるのか、誰にも予想がつきません。期初の時点での慎重な見通しは妥当と見られます。
会社側は前中間期での復配→大幅な期末配当の引き上げに続いて、今期も年間で1,000億円以上にのぼる追加的な株主還元策を検討しています。増配と自社株買いに対する市場の期待はますます高まっていることが株価を大きく押し上げました。

デクセリアルズ(4980、第2位、2,890円→4,350円、+50.5%)の決算も好調でした。
研究開発型企業のデクセリアルズは、ノートPC、タブレット、スマホ向けの光学フィルム、異方性導電膜を得意としており、リモートワークやリモート学習用にこれらの製品が大きく伸びて業績が急伸しています。

前2022年3月期の売上高は957億円(+45.4%)となり、営業利益も266億円(2.3倍)で最高益を5割以上も上回りました。
今2023年3月期も車載ディスプレイに事業の中心をシフトさせることを狙い、売上高は1,100億円(+14.9%)と初の1,000億円超えの見通しです。営業利益も310億円(+16.4%)とこれも初の大台替えとなります。

事務系人材サービスのキャリアリンク(6070、第7位、1,413円→2,058円、+45.6%)が5月13日の決算発表によって、前期・今期ともに業績が大幅に伸びることが確認されて株価が急伸しました。(収益認識基準への会計基準の変更により、前年比での比較は出ておりません。)

芝浦メカトロニクス(6590、第9位、7,390円→10,730円、+45.2%)は半導体のウエハー洗浄装置を得意としており、前2022年3月期の営業7割増益に続いて、今2023年3月期も3割以上の増益を維持する見通しです。

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自動車用ベルト、搬送用ベルトの三ツ星ベルト(5192、第12位、1,991円→2,797円、+40.5%)も前期の決算で5割以上の営業増益で、年30円から110円配へと大幅な増配に踏み切ることから株価が堅調に推移しました。

産業廃棄物処理のミダックHD(6564、第19位、2,121円→2,852円、+34.5%)が前期2割増益、今期も3割増益で急伸。

紳士服大手の青山商事(8219、第22位、661円→876円、+32.5%)も前期の営業利益が21億円の黒字に浮上。
今期もそのまま2.7倍の59億円と急回復が続く見通しです。株価は発表直後から見直し買いが継続しています。

(2)資源エネルギー関連株

資源エネルギー関連株への人気はますます強まっています。

「脱炭素」の地球規模の大きな流れで石油や天然ガスの化石燃料には投資資金が入りにくいところへ、ロシアとウクライナとの戦争勃発で原油市況は一貫して高止まり、上昇を続けています。

5月13日に決算発表を行った三井松島HD(1518、第6位、2,041円→2,991円、+46.5%)は、石炭価格の上昇と為替の円安が重なって、前2022年3月期の営業利益が84.1億円(4.3倍)と大幅に伸びました(売上高は収益認識基準への変更によってわずかに減少)。
今期も営業利益は143億円(+69.9%)と大幅な伸びを打ち出し、株価は発表翌日にストップ高まで買われ、その後も大幅高を続けました。

国内外でガス田と油田を有する石油資源開発(1662、第44位、2,567円→3,155円、+22.9%)も5月相場ではしっかりと上昇を続けました。
前2022年3月期の業績は、石油の販売価格が大きく上昇したこともあって、営業利益が198億円(4.7倍)と大幅に伸びました。ただ、カナダのオイルサンド開発子会社やシェールガス鉱区の権益を譲渡した際に譲渡損失が発生しており、それらを計上したことで最終損益は▲309億円の赤字となりました。
それでも原油と天然ガス価格の上昇が続くという前提で、今2023年3月期は小幅ながら営業増益を見込んでいます。

天然ガスのプラント建設では世界トップの日揮HD(1963、第47位、1,475円→1,809円、+22.6%)の評価も高まっています。水素とアンモニアの生成技術に強いIHI(7013、第48位、2,964円→3,625円、+22.3%)は、ガスタービンの需要増を背景に堅調な動きが続いています。

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5月相場ではチタン関連株の騰勢が再び強まりました。希少金属に属するチタンは高熱に強く衝撃にも耐える特性から、航空機エンジンや火力発電所のガスタービンで多用されています。ロシアとウクライナが世界の主要産出国に名を連ねており、しかもチタン製錬の世界トップ企業はロシア籍です。
ロシアへの経済制裁が強化されると、国際社会におけるチタンの流通量が急減する恐れから、航空機向けのチタンの大口価格は2年連続で大きく上昇しました。東邦チタニウム(5727、第5位、1,486円→2,191円、+47.4%)と大阪チタニウムテクノロジーズ(5726、第8位、1,338円→1,947円、+45.5%)が大幅高となりました。

「COOLな銘柄」

値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。このグループには4月相場と同様に、小型の成長企業が数多く見られました。

代表例はエン・ジャパン(4849、第2位、3,070円→1,996円、▲35.0%)です。
転職サイトを運営するエン・ジャパンは5月12日に3月期の決算を発表しました。
前2022年3月期の決算は売上高が545億円(+27%)、営業利益は96.3億円(+24.0%)と大幅な伸びとなりました。
しかし今2023年3月期の見通しは、売上高の伸びは続くものの、営業利益は30.8億円(▲68.0%)と半分以下に減少する見通しが明らかにされました。

コロナ禍が徐々に一巡して、企業は優秀な人材を集めることに邁進して、転職市場が活発化しています。
その機に乗じて将来の中核事業として「人財プラットフォーム」を育成しようと、広告と投資を積極化することが大幅減益となる理由です。
この発表からエン・ジャパンの株価は5月末に向けて大きく下落しました。

オンライン英会話教育のレアジョブ(6096、第3位、810円→545円、▲32.7%)も同様です。
5月16日に発表された前2022年3月期の決算では、売上高は55.9億円(+5.0)の伸びとなったものの、営業利益は2.9億円(▲56.4%)と前期比で半減しました。
業務拡大に伴って商材の仕入れコストが増していること、販路拡大を狙った反動で人件費、広告宣伝費、システム開発費が増加していることが減益の理由です。

フリーランスに特化した人材紹介のギークス(7060、第7位、1,182円→878円、▲25.7%)、インターネット「楽天市場」と通信キャリアを展開する楽天グループ(4755、第18位、918円→724円、▲21.1%)、飲食店向けに受発注システムを提供するインフォマート(2492、第8位、655円→494円、▲24.6%)、などが同様の理由で下落しています。

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いずれもこれまで、市場では著しい成長が期待される企業として高い評価を得ていた企業ばかりです。それが人件費をはじめコスト高の逆風に直面して、業績が急速に伸び悩んでいます。小型成長株はインフレに弱い、という厳しい現実が突きつけられています。

値上がり率上位・下位(東証1部)

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。

また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
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