株式アナリストの鈴木一之です。2022年7月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。
全体相場の振り返り
7月相場は米国を中心に世界の株式市場が一斉に反発局面を迎えました。
6月半ばに開催された米FOMCでは、今年3度目の利上げが0.75%引き上げと決定されました。
それをきっかけに警戒されていたインフレに対する懸念が、今度は景気後退のリスク、いわゆるリセッション懸念に変わってゆきました。
これが高止まりしていた長期金利の低下を促しました。
具体的には、米10年物国債金利は6月14日に記録した3.47%をピークとして、7月末には2.65%までじわじわと低下しました。
FRBは景気の拡大を取るか、インフレの抑制を取るかという二者択一の選択を迫られていましたが、インフレ抑制を重視するスタンスを鮮明に打ち出したことから、先行きを見越して早くも長期金利は低下し始めたことになります。
それに合わせて、高値に張りついていた原油価格もWTI先物価格で、6月8日の122.30ドルから7月上旬には100ドルの大台を割り込むに至りました。
景気後退への警戒感とFRBの金融政策の舵取りに不安を覚えながらも、世界のマーケットはインフレ抑制へのスタンスを一段と強めた金融当局の行動に徐々に前向きの評価を示すようになりました。
米国ではNYダウ工業株が、6月に月間騰落率で▲6.71%もの大幅安を記録しましたが、7月には逆に+6.73%の大幅な上昇となりました。
テクノロジー株の多いNASDAQは、6月の▲8.40%の下落率に対して、7月は+12.35%もの記録的な上昇を遂げました。
同じように東京市場でも、日経平均は6月の月間騰落率で▲3.25%も下げを演じた後に、7月は+5.33%の反発となりました。
TOPIXも6月の▲2.20%の下げに対して、7月は+3.74%の上昇を記録しました。
これまで金利上昇によって頭を抑えられていた小型成長株が息を吹き返しました。
東証マザーズ指数は4月に▲12.2%、5月に▲3.3%、6月も▲1.49%と大きく下落した後に、7月は+8.62%と4か月ぶりの上昇となりました。6月後半からの小型成長株の反転の動きが、一段と広がった点が7月相場の特徴と言えるでしょう。
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日本における7月の最大の出来事は、安倍晋三・元首相が参院選の選挙運動中に一般市民の目の前で銃撃され絶命するという衝撃的な事件が発生したことです。
銃規制が厳格であったはずの日本で、これほどの重大事件が白昼に起こったことに誰もがショックを受けました。
警備上の不備も指摘されますが、自家製の武器を取り締まるローンウルフ型の犯行を取り締まるのは至難の業です。
その2日後に投開票された参院選では、自民・公明の与党は大勝を収めました。
これで岸田政権は相当の長期政権を担うことが確実と見られますが、どこか沈鬱な空気が頭上に立ち込め、浮かれたムードはどこにもありません。
大切なことは、参院選でも大きな争点となった物価高騰への対策を急ぐことです。
そして来年度予算の概算要求を含めて防衛予算の問題、さらに記録的な猛暑で浮かび上がった電力不足、豪雨などの災害対策、日本が遅れている「人への投資」。
アベノミクスでは解決しきれなかったこれらの数々の問題を、現政権で少しでも着手することが何にも増して急がれます。
「HOTな銘柄」
7月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
7月相場は、4月から6月まで続いた下落基調が一転して反発局面を迎えました。
したがって今年前半に大きく売り込まれた銘柄の上昇力が強まった月となりました。
物価が上昇する局面は基本的に経済の基調が強い時です。
業績相場で物色される好業績の銘柄に加えて、成長期待の高い小型グロース株の反発が目立った相場展開でした。
- (1)好業績銘柄
- (2)売り込まれた小型成長株の反発
(1)好業績銘柄
引き続き業績のよい銘柄が、セクターを問わず幅広く物色されました。
7月の値上がり率ランキングの上位には、KOA(6999、第5位、1,617円→2,131円、+31.8%)が登場しました。電子部品のひとつである固定抵抗器で世界トップシェアを持っています。
抵抗器のほかにも温度センサーやコイルを製造しており、あらゆる家電製品、機械類に組み込まれています。それだけにEV(電気自動車)にも欠かせないパーツとなっており、KOAも今期から取り組む3か年の新中期経営計画の中で、EV向けを中心に飛躍を図る大きな構想を描いています。
7月25日に発表した2023年3月期の第1四半期の決算では、売上高は186億円(前年比+16.8%)、営業利益は26.7億円(+39.0%)と大幅な伸びを記録しました。
第1四半期が終わった時点で早くも、中間期および通期業績の上方修正を発表しました。
それによれば、2023年3月期の売上高は、それまでの713億円から728億円(前年比+12%)、営業利益は64億円から98億円(同+24%)となります。当期純利益もそれまでの50億円から74億円に引き上げられ、史上最高益を大幅に更新する見通しです。
同様に、2月決算の小売セクターからも好決算が相次ぎました。
パルグループHD(2726、第13位、1,799円→2,271円、+26.2%)は、傘下に「ナイスクラップ」を有するレディース中心のアパレルブランドです。
店舗は全国で900店を超えており、ファッションのほかにも「3COINS」が若い女性の間で人気です。
7月12日に発表した2023年2月期の第1四半期の決算は、売上高が391億円(会計基準の変更で前年比は出さず、ちなみに前年度の実績は312億円)、営業利益は44億円(前年比+146%)となりました。
行動規制が緩和されて店舗に顧客が戻ってきたこと、「3COINS」のおしゃれグッズが好調を持続していることが収益の伸びを支えています。
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ほかにも小売セクターでは、トレジャー・ファクトリー(3093、第28位、1,219円→1,501円、+23.1%)が業績好調で株価は大きく上昇しました。
中古の家具、家電製品、ブランド品、スポーツ用品など10のブランドで総合的にリユースを扱っています。
日本でもデフレからインフレへ経済の枠組みが変化しつつあり、生活防衛のために良いものを少しでも安く購入しようとリユースの人気が高まっています。
「メルカリ効果」があらゆる世代に浸透してきたことも背景にありそうです。
7月13日に発表した2023年2月期の第1四半期の決算は、売上高が67億円(前年比+18%)、営業利益は7.6億円(+123%)となりました。社会にSDGsの波が浸透しており、リサイクル、リユースに対する心理的な抵抗が大きく低下していることも追い風になっています。
トレジャー・ファクトリーも第1四半期の時点で、早くも中間期および通期業績の上方修正を発表しています。
2023年2月期の売上高は、それまでの253億円から260億円(前年比+11%)に、営業利益は10.9億円から14.0億円(同+40%)と大きく伸びます。
ソフトウェアやシステムを高速化する技術を得意とするフィックスター(3687、第22位、951円→1,181円、+24.2%)、Web、SNS、動画を駆使した広告戦略を提案するベクトル(6058、第20位、966円→1,206円、+24.8%)が好決算から大きく買い進まれました。
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(2)小型成長株
7月相場では好決算を発表した銘柄もにぎわいましたが、それ以上に目立ったのが小型成長株のリバウンドです。
ここでの代表格は、エムスリー(2413、第49位、3,898円→4,615円、+18.4%)です。
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エムスリーはこの10年間、最も事業が拡大した代表的な成長企業のひとつです。株価はこの10年間で100倍以上に上昇しました。
ソニーグループ(6758)の子会社で、医師・薬剤師・看護師など医療従事者向けの専門サイトを運営しています。
医師の会員数は日本全国の医師の数の9割に達するほどの巨大な存在となりました。
コロナ禍において、製薬会社の営業マンが病院を訪問できない期間中に、医師の方からエムスリーのサイトにアクセスして、まだよく解明されていないコロナウイルスの最新情報を入手するのにおおいに威力を発揮しました。
コロナ禍によって会員数が伸び、売上げ・利益もさらに大きく伸びたことから、いつしか「ウィズ・コロナ銘柄」の代表格と見なされるようになりました。
そのように名実ともに成長企業の代表格ともなったエムスリーも、株価が大幅高を遂げた後に、ついに2021年1月に天井を形成しました。
当時のマザーズ上場の小型成長株が、2020年秋ごろから次々と株価のピークを形成するのと時期が重なります。
さらに米国の金融政策が、コロナ危機対応を前面に打ち出した超緩和策から、手のひらを反すようにインフレ抑制を重視した引き締め政策に転じたのと機を一にしています。
エムスリーの株価は2021年1月の高値(10,675円)から、1年半後の2022年6月の安値(3,380円)までほぼ3分の1に下落しました。
この間も売上げと利益は大幅な伸びを続けましたが、ファンダメンタルズの好調さはひとたび下落基調に入った株価を止めるには効果がありません。
そしてFRBが3度目の政策金利の引き上げを決定した今年6月、エムスリーの株価はようやく底値に達しました。
さらに4度目の利上げを決めたこの7月に、インフレ見通しが緩和し始めたのをきっかけに反転、再上昇を開始したと考えられます。
同じような動きは、半導体のレーザーテック(6920、第39位、16,150円→19,335円、+19.7%)、介護・看護の人材マッチング大手のエス・エム・エス(2175、第46位、2,674円→3,175円、+18.7%)、在宅勤務に欠かせないグループウェアのサイボウズ(4776、第32位、938円→1,141円、+21.6%)、名刺管理ソフトのSansan(4443、第2位、920円→1,321円、+43.6%)、後払い決済のネットプロテクションズHD(7383、第6位、476円→624円、+31.1%)、医療データサービスのメディカル・データ・ビジョン(3902、第8位、1,012円→1,305円、+29.0%)などにも見られます。
7月相場の本当の主役は、むしろこれらの銘柄群と見るべきかもしれません。
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「COOLな銘柄」
7月相場で値下がりの目立った銘柄はそれほど多くはありませんが、中でも目を引いたのがコロナウイルスからの「経済再開期待銘柄」の下落です。
3月中に行動規制が全国一斉で解除され、5月のGWは3年ぶりに行動規制がないと喜んだのもつかの間。6月末から再びコロナウイルスの感染者数が増加し始めました。
7月第3週の終わり頃には、日本で初めて1日の全国の新規感染者数が20万人の大台を超えました。
世界でも類を見ないほどの増加です。大相撲・名古屋場所は休場する力士が後を絶たず幕の内の取組で「不戦勝」が相次ぎました。
プロ野球も延期されるカードが続出しました。専門家はコロナ感染の「第7波」に入ったと宣言しましたが、政府は主要国と同様に特段の行動規制は取らないとの方針を打ち出しました。
それでも3月から6月にかけて客足が戻っていた小売、流通、アパレル、外食、レジャー、ウェディング関連の、いわゆる「経済再開期待銘柄」は、それまでの堅調な動きが止まってしまいました。
アパレルのUアローズ(7606、第4位、2,091円→1,756円、▲16.0%)、
同じくレディースのアダストリア(2685、第11位、2,239円→1,992円、▲11.0%)、
美容器具のヤーマン(6630、第17位、1,728円→1,549円、▲10.4%)、
レンタルWi-Fiルーターのビジョン(9416、第20位、1,291円→1,159円、▲10.2%)、
外食のロイヤルHD(8179、第22位、2,386円→2,152円、▲9.8%)、
ドラッグストアのマツキヨココカラ(3088、第30位、5,490円→5,020円、▲8.6%)、などがそれに該当します。
大阪ガス(9532、第34位、2,596円→2,391円、▲7.9%)は少し事情が異なります。
同社の投資先でLNG調達先でもある、米国の「フリーポートLNGプロジェクト」が6月初旬に火災を起こしました。
復旧時期がいつになるかと不安視されていましたが、当初の早期再開の見通しから、10月上旬にずれ込むことが判明して株価は軟調に推移しました。
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当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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