バリュー株!テクノロジー株!HOTな銘柄、COOLな銘柄 バリュー株!テクノロジー株!HOTな銘柄、COOLな銘柄

バリュー株!テクノロジー株!HOTな銘柄、COOLな銘柄

株式アナリストの鈴木一之です。
2021年12月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けします。

12月相場は、株価の動きだけを見れば緩やかな上昇基調を取り戻したことになりますが、その中身は1か月を通して活躍銘柄が大きく入れ替わるという、気迷いムードの強い展開となりました。

日経平均やTOPIXなどの株価指数は、11月末に突如として襲いかかったコロナウイルスの変異種「オミクロンショック」を修復する形で順調に値を戻しました。
海外市場の方が先行して値を戻し、そのあとを追いかけて東京市場も上昇基調を取り戻しました。

しかし経済再開と並行して進む物価の上昇と、超金融緩和からの脱出。
米国を中心とした金融政策の転換が早くも始まっており、それと連動するかのように株式市場での物色の流れがグロース株からバリュー株へと急速にシフトする転換が広がりました。
1年の締めくくりでもある12月相場は、物色の方向性が定まらず、相場の柱がなかなか見つからないというむずかしい相場展開を余儀なくされました。

オミクロン変異種に対する警戒心は、クリスマス商戦という年を通じて最も消費が活発化する欧米を中心に急速に高まっています。
ただし感染力の強さとは反対に、重症化リスクはさほど大きくないという事実も少しずつ判ってきました。
日本でも経済活動が少しずつ戻りつつあります。
しかしそれがまた金利の上昇をもたらしており、物価の上昇とインフレ心理の高まりにつながって、株式市場は年末に向けて不透明感が強まる展開となりました。

全体相場の振り返り

月間のパフォーマンスとしては、日経平均は11月末の27,821円から12月末は28,791円へと、1か月で+3.49%の上昇へと反発しました。
TOPIXも11月末の1,928から12月末は1,992へ+3.32%の反発となりました。

2021年12月末の日経平均・TOPIXパフォーマンス

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その一方でマザーズ市場は11月末の1,070から12月末は987へ▲7.76%とかなり大きめの下落となり、4か月連続で下落しました。
空前のIPOラッシュもあって、マザーズ市場を中心に小型グロース株には厳しいアゲンストの地合いとなっています。

NYダウ工業株は11月に▲3.73%下落しましたが、12月は反発し+5.38%の上昇を記録しました。
オミクロン変異種は重症化のリスクが小さいということが次第に判明し、米国でもバリュー株を中心に幅広い上昇が見られました。
S&P500も12月は+4.36%の上昇を遂げました。

一方でNASDAQは+0.69%の小幅な上昇にとどまっています。
続伸してはいるものの、ここでも高バリューのグロース株の上値の重さが見られます。

原油価格はWTI先物価格で、11月末の67.05ドルから12月末には75.45ドルへ大きく値を戻しました。
オミクロン変異種の感染拡大で急落した11月末の動きが反転し、経済の再開と冬場の寒波襲来がエネルギー需要を高めると相場を押し上げました。

それに伴って金利の上昇が再び強まっています。
米国の10年国債金利は11月末の1.44%から、12月末には1.51%に上昇しました。
年が明けると1.70%を超え2021年3月の1.74%に迫る動きとなってます。
米国での金利上昇を受けてドル高・円安が進行し、ドル円相場は11月末の113円02銭から12月末には115円07銭まで、ドルが5年ぶりの水準まで上昇しました。

オミクロン変異種の急拡大によるパニック売り

12月相場を支配したのは、コロナウイルスのオミクロン変異種と、FRBによるテーパリングの前倒し、というのふたつの大きな材料です。

最初のオミクロン変異種に関しては、11月末に南アフリカで発見されました。
デルタ種の感染拡大の波をようやく抑え込んだ世界各国にとって、新たな変異種の出現は悪夢のような出来事でした。

このニュースが広がった11月最後の週末は、世界中の株式市場で軽いパニック的な売り物が広がりました。
11月26日(金)の日経平均は28,751円で▲748円の下落となり、同じ日の米国市場もNYダウは34.899ドル▲905ドルと2021年で最大の下げ幅を記録しました。

この時点ではオミクロン変異種は発見されたばかりでわからないことが多かったのも事実です。
ウイルス表面のスパイクたんぱく質に30か所の変異があり、感染力がきわめて強いとされ、WHO(世界保健機関)は発見とほぼ同時に最も警戒レベルが高い「懸念される変異型(VOC)」に分類しました。

ただしオミクロン変異種は感染力の強さとは裏腹に、重症化リスクは低いというのが当初から指摘された特徴でした。
そのほかの特徴と合わせて各国の医療当局が全貌をつかむのに2週間を要するということだったので、欧米諸国および日本は一斉に、歩調を合わせて行動規制の強化を敷きました。
過去何度かの感染拡大を経て、ウイルスに対する国際協調はここまで迅速になっています。

12月に入るとすぐに各国はクリスマスシーズンに入ります。
世界中どこでも年間で最も個人消費が拡大する季節です。
その時期に行動規制を取ることは各国政府にとっても苦渋の選択でした。
それでも背に腹は代えられません。
欧米では新規の感染者数が過去最高を記録するようになり、オランダは早々にロックダウンを発動しました。
イギリスでも厳戒態勢を敷くという物々しい状況に一変しています。

それでも感染拡大は止まらず、12月末には米国で+38万人、イギリスで1日に+13万人、フランスで+18万人、スペインでも+10万人、ドイツで+6万人と過去最高を記録する新規の陽性者数が増加するまでに至りました。
クリスマスから年末に向けて、医療体制は緊迫度を増していましたが、それでも死亡する人の数は過去の感染拡大期ほどには増えませんでした。
ワクチン接種の効果もあると考えられます。

日本の感染者数は不思議なことにケタ違いの少人数にとどまっていました。
それでも年末年始の休み中に人の移動が増えたこともあって、年が明けると一気に+4,000人にまで新規の陽性者数が急増しています。

各国はワクチン接種を加速も人手不足からのインフレは継続か

岸田首相はオミクロン変異種の発見当初から、間髪を入れず断固たる措置を講じました。
11月末には外国人の日本への渡航を全面的に禁止しました。
この措置は世界との比較でもかなり厳しいものであり、発動直後には各国メディアが日本のこの強硬な規制を一斉に報じたほどです。

オミクロン変異種による重症化リスクは低いとは見られているものの、感染者数が増加すれば医療体制がひっ迫します。
欧米では年末にかけて医療従事者への感染が拡大し欠勤が急増しました。
それだけで医療体制に綻びが生じる恐れがあります。

オミクロン変異種への対処から、各国はワクチン接種を加速させています。
2回目の接種から時間が経過した高齢者を中心に3回目の接種を急いでおり、イギリスとフランスは追加接種の間隔を3か月に短縮しました。
イスラエルはすでに4回目接種に着手しています。
ただ、イスラエル国民の間では4回も打ったのに感染リスクは低下しないと厭戦気分が広がっており、国民からは不満の声が高まっているのも事実です。

日本は「2回目の接種から原則8か月後」としている3回目の接種の時期について、かなり混乱する場面もありました。
医療従事者と高齢者に対する3回目接種の時期を1~2か月前倒しして、年明けの2月から始めるとしただけで、それ以外の一般国民向けへの接種時期のめどは立っていません。
ワクチンの調達がネックとなっています。

そこで国産ワクチンの開発が急がれていますが、これも治験例が少ないこともあって認可が遅れています。
日本は菅政権時代の年6月に、国産ワクチンの開発戦略を策定し、開発の支援強化を打ち出しましたが、それでも3回目の接種には間に合わない見通しです。
国内では最も先行している塩野義製薬(4507)が海外での治験を交えてペースをあげていますが、実用化は2022年春ごろになると見られます。
第一三共(4568)も2022年の年末ごろになりそうです。
そうなると引き続きファイザー、モデルナ製の海外メーカーからの調達に頼らざるを得ない状況です。

塩野義製薬・第一三共

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そうなると国境を越えての人の移動は当面むずかしいことになり、人手不足はさらに長期化することとなります。
どこの国でもいわゆるエッセンシャルワーカーが足りず、特にレストランの厨房、小売店の販売員で人のやりくりがつかないという状況が長引くと見られています。
どの国も時給を引き上げて人の確保を急いでいますが、それが物価の上昇に拍車をかけることとなります。

同時に港湾労働者やトラック運転手の不足も長期化することが予想され、物流網の停滞はますます長びくこととなります。
年末年始にかけて再びコンテナ船の需給がひっ迫しました。
ここでも雇用者を集めるために賃金を引き上げざるを得ず、人件費の高騰が企業収益を圧迫し、インフレに拍車をかけます。
各国の金融政策に再び負荷がかかる事態となっています。

注目が集まる金融政策

そこでふたつ目の話題である中央銀行の金融政策に注目が集まります。
中でも米国のFRBの意向には世界中の市場関係者の耳目が集中しました。
これが12月相場を巡るもうひとつの大きな材料です。

そのFRBは12月14日から15日にかけてFOMC(公開市場委員会)を開催し、テーパリング(国債など資産買い入れの縮小)を前倒しすることを決めました。
買い入れ終了の時期はそれまで2022年6月としていましたが、それを3月に加速させます。

さらに2022年のうちに合計で3回の政策金利の引き上げを実施することも明らかにしました。
具体的に利上げ計画を述べたわけではなく、メンバー各自が将来の政策金利の見通しを表明する「ドットチャート」の形状からそのように判断されます。

ドットチャートでは、FOMCに参加した18人のメンバーの予想値の中央値は、2022年にゼロ金利を解除して、年内に3回の利上げを行うことが予想されています。
9月の前回予想では2022年中の利上げは0.5回となっていました。

その上で2023年中に3回、2024年のうちに2回、3年合計で8回の利上げが想定されます。
11月の消費者物価指数の上昇率は前年比で+6.8%に達し、39年ぶりの高いレベルとなりました。
FOMCの声明文からは、それまでのインフレは「一時的」という表現は削除され、11月に決定されたばかりの金融正常化へのスケジュールは早くも軌道修正されたことになります。

FOMC後に行われた記者会見でパウエル議長は、テーパリングの終了から政策金利の引き上げまでのタイムラグは「それほど長い時間の遅れではない」と述べました。
さらに、テーパリング、政策金利の引き上げに続く、3段階目の保有資産の縮小に関しては「まだ何も決めていない」との見解を示していました。

ところが年が明けて1月5日(現地)に公表された12月のFOMC議事要旨では、2022年3月の利上げ開始の議論とともに、さらに踏み込んで「利上げ再開から早い時期に保有資産を縮小するのが適切」と明記されていました。

これを受けて年明け以降の市場では、2022年は4回の利上げが実施され、それは3月から政策金利が引き上げられる可能性が現実のものとなり、その上でFRBはバランスシートの圧縮、いわゆる「量的引き締め」にも早々に踏み込むとの見方に急速に傾いています。

米国の長期金利は再び上昇を開始し、株式市場では金利上昇に弱いとされる高バリューのグロース株が売られ、反対にバリュー株が買われる流れへを変貌しつつあります。
これが12月相場のふたつ目のポイントとなります。

さまざまなニュースが飛び出した2021年12月

このほかにも12月相場ではさまざまなニュースや株価の材料が飛び出しました。
それぞれに世の中を大きく突き動かています。
それらを列挙しておきます。

中国の不動産大手、恒大グループのデフォルトが確定したこと、中国の景気鈍化が懸念から現実のものとなりつつあり、中国人民銀行は預金準備率の引き下げ、ローンプライムレートの引き下げを相次いで実施したこと、トルコリラが暴落に近い下落を演じたこと。

バイデン大統領肝いりの歳入・歳出法案がマンチン上院議員の造反で年内成立が困難になったこと、米国は北京オリンピックに政府高官を送らない「外交的ボイコット」を決定したこと、それに英・豪・加は追随し独仏は一線を画したこと(日本は政府代表団を送らないことを決定)、バイデン大統領が「民主主義サミット」を主宰し、対抗して中国とロシアはより親密に接近しつつあること、ロシアはウクライナとの国境に15万人の軍隊を集結させていること。

国土交通省が建設受注のデータを長年にわたって二重計上していたこと、財務省は森友学園の訴訟案件に関して被告と和解に転じ賠償金の支払いに応じたこと、来年度予算が閣議決定され「16か月予算」107兆円の大台に乗せたこと、10年連続で過去最大の予算規模となること、岸田首相が上場企業の自社株買いに関して「一定のガイドラインを設ける」と言及したこと。

トヨタ自動車(7203)がEV戦略ロードマップを2030年の200万台から350万台に大幅に引き上げたこと、東急不動産HD(3289)が「東急ハンズ」をカインズに売却したこと、エーザイ(4523)が開発した認知症治療薬「アデュヘルム」に対して厚生労働省は継続審議と判断したこと、日立(6501)の戦略子会社である「日立アステモ」が長期にわたってブレーキとサスペンションの部品検査で不正を行っていたこと。

トヨタ自動車・東急不動産HD・エーザイ・日立

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品川リフラクトリーズ(5351)がイソライト工業(5358)にTOBを実施して完全子会社としたこと、第一生命HD(8750)が銀行業務への参入を表明したこと、マザーズなど新興市場で32社が新規公開し記録的なIPOラッシュとなったこと。

品川リフラクトリーズ・イソライト工業・第一生命HD

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これらすべてが12月の1か月間で起こりました。
決着したものもあれば、未解決の問題もあります。
株価は堅調に推移していますが、マーケットの波乱の芽は至るところに潜んでいます。
そのような状況で2022年を迎えることとなりました。

日本では感染者数の増加が低く抑えられていたということもあって、消費の現状は意外なほど堅調です。
百貨店大手の高島屋の2021年9ー11月期の営業利益は7四半期ぶりに黒字に浮上しました。
コロナ後では初めての四半期ベースの黒字転換です。
10月からそれまでの緊急事態宣言が解除されたこと、冬物衣料と食料品がよく売れており、冬のボーナスが3年ぶりにプラスに転じたことが寄与しています。

12月1日に発表された日銀短観では、「小売」の業況判断は9月調査の「▲4」から12月は「+3」とプラス圏に浮上しました。
同じくジムやマッサージなど「対個人サービス」も9月の「▲45」という記録的な低水準から、12月は「▲9」まで大きく改善しています。

師走の東京都心部では、旅行客と見られる大きなキャスター付のスーツケースを持って歩いている人の姿をしばしば見かけました。
早朝のターミナル駅では、到着したばかりの長距離バスから降りてくる旅行の人々の姿も目に見えて増えています。
少しずつですが日本の消費の現場は明るさを増している状況です。

「HOTな銘柄」

12月相場で値上がりの顕著だった銘柄、いわゆる「HOTな銘柄」は次のようなグループに分かれるようです。

(1)バリュー株(または名古屋銘柄)
(2)テクノロジー株
(3)環境関連株、その他

これらを順に見てまいります。

(1)バリュー株(または名古屋銘柄)

12月の東証1部の「HOTな銘柄」のかなりの部分がバリュー株に占められました。
ここで言う「バリュー株」とは、資産価値に対して株価が割安なもの、および配当利回りの高い銘柄が中心です。

資産価値に対して割安な銘柄とは、具体的にはPBR(株価純資産倍率)がひとつの基準となります。
銀行セクターが久しぶりににぎわっています。

値上がり率で第2位に登場した中京銀行(8530、1,185円→1,817円、+53.3%)は愛知県を地盤とする中堅の地方銀行です。
時価総額は370億円とかなり小規模ですが、筆頭株主は三菱UFJ銀行(8306)で自己資本比率も8.8%を超えており、経営基盤は安定しています。

その中京銀行はPBRが0.3倍程度で、配当利回りも2%台後半にありました。
株価は1年近くにわたって低落していたため、11月末の底入れ反転から一貫して上昇基調をたどっています。

インフレリスクの高まりと、米国がテーパリングを前倒しして政策金利の引き上げに早い段階で踏み切るという見方が強まってきたころから、銀行セクターに幅広く買い物が向かうようになりました。
背景には長期金利が本格的に上昇に転じたことがあり、短期で資金を調達して長期で運用する(貸し出す)銀行業界は本業部分がこれまで以上に安定する、という見方が固まりつつあります。

中京銀行のほかにも、愛知銀行(8527、第17位、3,505円→4,665円、+33.1%)は株価が大きく上昇した12月末の時点でも、PBRが0.20倍にとどまり、配当利回りは5.50%に達していました。
名古屋銀行(8522、第37位、2,193円→2,744円、+25.1%)も同様で、PBRは0.20倍、配当利回りは2.74%を維持しています。

中京銀行・三菱UFJ銀行・愛知銀行・名古屋銀行

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愛知県に地盤を置く銀行、上場企業の株価がことのほか堅調です。
電子部品商社のミタチ産業(3321、第20位、890円→1,164円、+30.8%)は、自動車向けに半導体、電子部品、センサーを幅広く供給しています。
トヨタ自動車向けにハイブリッド車に搭載される電子部品を多数取り扱っています。
PBRは0.85%、配当利回りは2.56%もあり、やはりバリュー株としての色彩が前面に出ています。

日本トランスシティ(9310、第30位、554円→709円、+28.0%)は旧・四日市倉庫として中部地区最大の倉庫を有しています。
港湾輸送を中心に陸上運送倉庫サービス・国際輸送などを総合的に展開しており、自動車輸出に深くかかわっています。
12月末のPBRは0.62倍とやはりバリュー株としての魅力が大きい銘柄です。

これらのような「愛知県銘柄」が一斉に急上昇した理由として、バリュー株としての位置づけとともにもうひとつ、トヨタ自動車の生産計画の加速があると見られます。

12月24日にトヨタ自動車は11月までの生産実績を発表しました。
それによればトヨタの11月の世界生産は82万台となり、年間での生産計画(900万台)の進捗度合いに若干の遅れが見られました。
半導体不足が影響している模様です。

トヨタは12月も80万台の生産計画を続けるとしており、そうなると年間900万台の生産を達成するには、2022年1~3月に月産90万台~100万台を生産しなくてはなりません。
これは生産ラインに相当の負荷がかかりますが、トヨタのことですから計画達成に向けてかなり力が入ると見られます。
新聞報道などによれば、人手不足対策としてすでに12月中旬には工場に1,000人規模の応援派遣を実施すると労使間で合意したとのことです。

トヨタのおひざ元の名古屋地区、中京地区の製造現場には、この生産達成に向けて熱がこもっている模様です。
トヨタ自動車(7203)をはじめ、それを支えるデンソー(6902)、トヨタ紡織(3116)、豊田合成(7282)、豊田通商(8015)など、グループ各社の株価も堅調です。
それがさらに広がって愛知県を地盤とする周辺銘柄の堅調さに現れていると見られます。

トヨタ・デンソー・トヨタ紡織・豊田通商

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なお、名古屋関連株ではありませんが、バリュー株として栃木銀行(8550、第18位、174円→231円、+32.8%)もPBR0.13倍、配当利回り2.28%の魅力から値上がり率の上位に入っています。

(2)テクノロジー株

12月も米国の株式市場は堅調でした。
インフレとタカ派的な金融政策でテクノロジー企業が集結するNASDAQの上値が徐々に重くなってきましたが、それでもアップルは上場来高値を更新して、1企業としては初めて時価総額が3兆ドルの大台を超えました。

日本でも半導体関連株を中心に、テクノロジー株の一角には堅調な値動きが続きました。
代表格は三井ハイテック(6966、第45位、9,160円→11,270円、+23.0%)です。

1月決算の三井ハイテックは半導体製造の後工程で多用されるリードフレーム材の大手企業です。
コロナ禍をきっかけとして世界的にデジタル投資が急拡大しており、半導体需要は根強いまま推移しています。

合わせてEV需要も本格的に高まっており、三井ハイテックが新たな収益源と位置づけているEV向け駆動・発電用モーターコアも急速に拡大しています。
業績は絶好調で、12月10日に発表した第3四半期(2月~10月)の決算は、売上高は986億円(前年比+42.0%)、営業利益は95.5億円(+407.0%)と大幅な伸びとなりました。

四半期決算に合わせて今年3度目の通期の業績見通しの上方修正を行いました。
2022年1月期の売上高は、従来の1,348億円から1,380億円(前年比+42.0%)に、同じく営業利益は116億円から130億円(+407.0%)に、それぞれ過去最高の水準をさらに更新するまで引き上げられています。
株価は決算発表をきっかけに上昇し上場来高値を更新しました。

三井ハイテックの決算好調と株価の高騰を受けて、他の半導体、電子部品関連株に物色人気が一段と広がっています。
中心はやはりEV関連株です。

プリント配線基板の最大手である日本CMK(6958、第14位、504円→693円、+37.5%)は、前期まで2期連続で最終赤字を余儀なくされましたが、売上げの8割が今では自動車向けに出荷されており、今期はその自動車向けプリント基板が大きく回復する見通しです。

同じくプリント配線板のメイコー(6787、第46位、3,870円→4,760円、+23.0%)も堅調な動きとなりました。
メイコーは、元はゲーム機、アミューズメント向けのプリント基板に強みを有していましたが、今では自動車向けが売上げの50%、スマホ・タブレット向けが21%を占めています。

自動車向けは半導体不足でメーカーの生産水準が落ちているものの、前年度下期から急拡大している勢いを引き継ぎ、高水準の受注と売上げを維持しています。
電動化に加えて自動運転、コネクテッド、センシング機能が今後はますます高まるとの見通しから、メイコーの株価も11月半ばから12月にかけて大きく上伸しました。

三井ハイテック・日本CMK・メイコー

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半導体関連株では、出遅れ感のある銘柄が物色されています。
前工程の検査用プローブカードの日本電子材料(6855、第21位、2,194円→2,859円、+30.3%)、半導体製造工程で欠かせない特殊ガス、超純水、薬液を管理するジャパンマテリアル(6055、第50位、1,552円→1,894円、+22.0%)が値上がり率の上位に登場しました。

EV用バッテリー関連株として、戸田工業(4100、第28位、3,440円→4,410円、+28.2%)はリチウムイオン電池の正極材で高シェアを持っており、保土谷化学(4112、第29位、4,625円→5,920円、+28.0%)は有機EL用の正孔輸送材の一角として、それぞれ人気化しています。

日本電子材料・ジャパンマテリアル・戸田工業・保土谷化学

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(3)環境関連株、その他

バリュー株人気から派生して、12月相場では個別材料株の物色にも流れが傾いています。
気候変動対策、環境関連株の一角にも物色が広がりを見せました。

駒井ハルテック(5915、第9位、1,720円→2,476円、+44.0%)は高層ビルや橋梁の鉄骨が本業です。
その技術を生かして風力発電用のブレード(風車の羽根)製造から風力発電システムの構築に進出しています。
PBRが0.4倍台という低い位置にあるため、12月はバリュー株人気と環境関連株の人気に乗ったと見られます。

機械セクターのカワタ(6292、第33位、857円→1,076円、+25.6%)は、プラスチックの成形機械メーカーです。
原油からナフサが精製された後、カワタの技術によってポリエチレンやポリプロピレンのプラスチック製品が作られます。

カワタは技術開発の一環として、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による新技術開発事業で全固体リチウムイオン電池の量産化に取り組んでいます。
10月にはそこで一定の評価が得られたと公表し、株価が急騰した経緯があります。
PBRは0.8倍台の割安圏にあり、そこからバッテリー関連株として再び株価が動意づきました。

海運株にも人気が戻ってきました。
オミクロン変異種が急拡大したことで、国境をまたぐ人の交流がまたしばらく途絶えるとの見方が強くなっています。
港湾労働や長距離トラック運転など、人手不足が甚だしいとされる分野は、必要な人員がひっ迫する状態が続くと見られ、川崎汽船(9107、第10位、4,870円→6,920円、+42.1%)、商船三井(9104、第19位、6,500円→8,540円、+31.4%)が再び騰勢を強めました。

駒井ハルテック・カワタ・川崎汽船・商船三井

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同様の理由から資源エネルギー価格の上昇も再開されており、海外に石炭鉱区を有する三井松島HD(1518、第6位、1,293円→1,891円、+46.2%)も騰勢を強めています。

「COOLな銘柄」

続いて12月相場で値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。

ここではバリュー株の対極に位置するグロース株が広範囲に下落しました。
代表格はスノーピーク(7816、第24位、3,875円→3,180円、▲17.9%)です。

スノーピークはキャンプやトレッキングなどアウトドア用品の大手メーカーです。
高級感のあるオリジナル製品を企画・デザインして販売しており、全国的に熱烈なファンが数多く存在します。

コロナ禍で三密を回避するレジャーとしてアウトドアブームが沸き上がっており、それが昨年から現在までずっと続いています。
この間に業績は急拡大し、11月12日に発表された2021年12月期の第3四半期(1月~9月)の決算では、売上高が183億円(+61.0%)、営業利益は25.5億円(+222.0%)と大幅な伸びを記録しました。

通期の業績見通しも大幅に上方修正され、売上高で245億円→254億円(+51.5%)、営業利益で30.0億円→36.5億円(+144.4%)に達する見通しです。
これほどの業績好調を背景に、株価はこの1年前の800円台から、11月半ばには4,475円の上場来高値まで、ほぼ一本調子の上昇を続けました。

しかしその好調な値上がり基調が12月に入ってから反転し、今度は逆に調整色を強めています。
このあたりからグロース株が総じて不人気となりました。

12月の株価下落率ランキングの上位には、名刺管理ソフトのSansan(4443、第13位、3,130円→2,507円、▲19.9%)、人工知能を活用して不動産鑑定を行うSREホールディングス(2980、第14位、9,050円→7,260円、▲19.8%)、産業廃棄物処理業者として高い参入障壁を築いているミダックホールディングス(6564、第23位、4,965円→4,070円、▲18.0%)など、2021年の年間を通じて株価が大幅高となった銘柄がずらりと下落率上位に並びました。

これらはいずれもコロナ危機からの2年間にわたって、小型成長企業として名を馳せた銘柄ばかりです。

スノーピーク・Sansan・SREホールディングス・ミダックホールディングス

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このほかにも、ネットを経由して電子チケットを贈るサービスを定着させたギフティ(4449、第5位、2,592円→1,957円、▲24.5%)、在宅勤務を容易にするグループウェアでトップシェアを持つサイボウズ(4776、第32位、2,163円→1,831円、▲15.3%)、デジタルマーケティングのオロ(3983、第42位、3,400円→2,909円、▲14.4%)、オーケストラHD(6533、第46位、3,970円→3,420円、▲13.9%)、自動車メンテナンスのKeePer技研(6036、第50位、2,574円→2,224円、▲13.6%)などが値下がり率の上位に入りました。

ギフティ・サイボウズ・オロ・オーケストラHD

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レノバ(9519、第1位、5,350円→2,082円、▲61.1%)は太陽光発電、風力発電を主軸とする再生可能エネルギーを利用した発電事業者です。
経済産業省によって昨年5月から秋田県沖の洋上風力発電設備の入札が行われていましたが、その入札結果が12月に明らかになりました。
最終的に受注したのは三菱商事(8058)のグループ企業で、レノバは不首尾に終わりました。

ここから株価が急落し、同じように再エネ発電事業を手がけるイーレックス(9517、第12位、2,558円→2,041円、▲20.2%)、テスHD(5074、第38位、2,422円→2,061円、▲14.9%)も軟調に推移しています。

レノバ・三菱商事・イーレックス・テスHD

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厳正な入札の結果とは言え、プロジェクト規模が大きくなるほど資本力に秀でた巨大企業が落札する可能性が高くなります。
ベンチャー企業はどうしても不利になりがちで、そのような失望感がマザーズ市場などの中小型株全体の下落に波及しているとの指摘も見られました。

過去に類を見ないほどの超金融緩和局面が終了する時期が近づき、ここからは金利が上昇しやすい状況が訪れます。
それに合わせて物色の流れが大きく変化すると見る投資家が増えており、物色対象もそれまでとはがらりと変わりました。
12月相場はまさにそのような転換点に当たっていたと見ることができるでしょう。

2021年12月値上がり率上位・下位(東証1部)

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。

また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
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