執筆者:『会社四季報』編集部
本記事は会社四季報公式ガイドブックからの転載記事となります。
「株式投資のバイブル」とも呼ばれる『会社四季報』。投資先を選ぶうえで欠かせない業績や財務などの情報がギュッと詰まっていることから、1936年の創刊以降、長く投資家に愛されてきました。しかしその一方で、あまりにも多くの情報が詰め込まれているがゆえに、初見では取っつきにくさを感じてしまうのもまた事実です。
本連載「四季報AtoZ」では、全11回にわたって『会社四季報』の読むべきポイントをわかりやすく解説。著名投資家の四季報活用法も紹介します。全11回を読破して、あなたの株式投資に『会社四季報』をフル活用してください。
増益でも見出しによってニュアンスは異なる
❶業績欄
❷材料欄
『会社四季報』で「解説記事」の上部分に記載された「業績欄」(画像①部分)を読む際にまず確認してほしいのが、冒頭に【】で付けられた見出しです。その会社の業績の方向を一言で言い表しており、効率よく有望な銘柄を見つけるのに役立ちます。
見出しは原則として、営業利益が今期どうなるかという視点で考えられています。見出しの付け方には大きく2つの基準があります。まず1つ目は前期との比較を捉えた見出しです。
今期予想の増益率が大きければ【大幅増益】【拡 大】【快 走】【好 調】などの見出しが付けられ、より勢いが感じられる場合には【飛 躍】【急 進】【絶好調】【伸び盛り】といった見出しが候補として考えられます。
前期とあまり変化がない予想ならば、【横ばい(圏)】【前期並み】【足踏み】といった見出しが付くでしょう。横ばいとしても、例えば前期が最高益で同じくらいの利益水準が続くなら、決してネガティブとはいえません。このため、見出しにも【高水準】【高 原】【高水準続く】といったポジティブなニュアンスが候補になります。
2つ目は前号予想との比較です。(auカブコム証券の画面内では前号の確認はできません。)株式市場は新しい情報に敏感に反応します。最新の業績予想からの変化は重要な意味を持つのです。このため、『会社四季報』には前号予想からの変化に着目した見出しも多く載っています。前号より予想が上方修正されて前期比の増益幅が拡大すると、【上振れ】【増 額】【増益幅拡大】といった見出しが付きます。
【独自増額】は、会社側は数字を変えていないが、四季報が独自に数字を強調した見出しです。【減益幅縮小】は、前号と同様に減益予想ではあるけれども、前号想定よりは利益が上振れして、前号比で減益幅が縮むことを意味します。【一転増益】は、前号では減益予想だったのが増益予想に変わった場合につく見出しです。
似た表現にもニュアンスの違い
最後に、四季報でよく見かける見出しのニュアンスの違いについて説明します。
【改 善】【上向く】【好 転】【反 発】【回 復】。これはいずれも「前期が減益で今期予想が増益」の企業に付く見出しです。どれも同じ意味に感じられるかもしれませんが、実はニュアンス的に微妙な違いがあって、『会社四季報』では執筆・編集的にこれらの単語を意識して使い分けています。
【改 善】【上向く】は単に前期比で利益が増えることを表現した見出しです。そこまでポジティブな見出しではなく、低調だった状態から多少良くなる程度のケースで使うことが多いです。
【好 転】【反 発】はそれよりも改善度合いが強いニュアンスを込めた表現で、【回 復】は以前の利益水準に近づくくらいの改善度合いのときに使うことが多い見出しです。
改善度合いのニュアンスがより明確に伝わるよう、【小幅改善】【大幅改善】【小反発】【急反発】【大幅回復】【急回復】【V字回復】など、なるべく程度を表す単語を付けて使うようにしています。
また、【堅 調】と【好 調】もニュアンスに違いがあります。【堅 調】は安定的に推移して前期より多少良い、例年に比べて悪くないぐらいの感じで、【好 調】はもっと強めの「良い」というニュアンスで使っています。
『会社四季報』は配当も独自に予想
『会社四季報』では取材などをベースに、記者が配当予想も独自に予想しています。会社が前期と同額の配当計画を発表している場合でも、業績動向や配当政策などを勘案し、「増配」「減配」の可能性があると記者が判断すれば、レンジをつけるなど独自に配当を予想しています。
最近では、東京証券取引所による市場改革や低PBR(株価純資産倍率)是正要請もあり、積極的な株主還元方針に転換し、大幅な増配に踏み切る会社も増えています。新NISA(少額投資非課税制度)始動による個人の長期投資志向が高まる中、安定して配当を出す企業にも人気が集まっています。
このため、1株益に対する1株当たり配当金の比率である「配当性向」ではなく、配当と自己株買いの合計額を当期純利益で割った「総還元性向」を目安として示す会社も増えています。
また、特別損失などで純利益になっても減配にならないように、「累進配当」を掲げて、減配しない宣言をする企業も増えています。株主資本に対する配当の比率であるDOE(株主資本配当率)の目安を設定する会社も増えていますが、純利益と違って期によって増減の小さい株主資本を使うことで減配にしないようにする手段といえます。
増配は止められない⁉
増配は1株当たりの配当金を増やすことです。【業績】表の「1株配(円)」は株式分割などを調整したあとの年間配当額なので、ここで増配が続いているかを確認しましょう。
かつては安定配当重視で、業績変動に関係なく配当を変えない会社が多かった日本ですが、いまや株主還元策として配当性向の引き上げや積極的に増配を行う会社が目立っています。
高配当銘柄を探す場合に見るべきなのが、「予想配当利回り」です。予想配当を株価で割って算出するもので、「業績欄」の右側に記載されています。
これを見ると、配当の観点から株価が割安なのかがわかります。高利回りなら、多少の悪材料が出ても、一定水準で株価下落に歯止めがかかります。配当金が変わらず株価だけが下がれば、相対的に予想配当利回りが上昇し、投資妙味が増すからです。
また、来期予想が増配の可能性も見込める増配含みなら、現在の株価から見て来期の配当利回りはさらに高まることになります。ちなみに『会社四季報』では、幅のあるレンジの配当予想の場合は、下限額で配当利回りを算出しています。
なお、高配当利回り株は配当を受け取りたいと考える人が多いため、権利付き最終売買日に向けて株価が上がる傾向があります。その反面、配当を受け取る権利がなくなる権利落ち日に急落するケースが多く、配当を取らずに高値時に売却する短期志向の投資案も存在します。
配当利回りで注意すべき点は、特別配当や記念配当など、その期だけ配当が膨らみ、利回りが高くなるケースがあることです。今期だけでなく来期の配当予想にも目を配りたいところです。
『会社四季報』では毎号さまざまな特集を用意しています。配当に関連したものも少なくありません。
例えば、新春号などに掲載している「増減配回数」も活用してほしい特集です。過去10期分の増配、減配、据置、無配の回数を掲載しているので、その企業が減配をしない会社なのか、増配が多い会社なのかなど、会社の配当への考え方がわかります。
減増配回数では「増10」の会社も少なからず存在します。10期以上にわたり連続増配中ということです。ライバルが増配を続けるならわが社もやめられないという判断が働くのか、リース業界など特定の業界に連続増配企業が集中している点も面白いところでしょう。
「材料欄」で成長力を診断する
❶業績欄
❷材料欄
「解説記事」の下部分に記載された「材料欄」は中長期的な業績や経営に影響を及ぼすポイント、その時々の株式市場や業界で話題となっているテーマなどについて記述しています。
例えば、設備投資やM&A、新規事業や海外展開の強化、新中期経営計画、資金調達やその様と、新製品の開発、経営課題、自己株買い・償却、さらに構造改革やリスク情報など、材料欄の記事は多岐にわたります。
「業績欄」とこうした将来に向けた施策などが説明されている材料欄を併せて読み込むことで、その企業の今の状況と将来像について、より深く理解できるよう設計されているのです。
企業、とくに製造業にとって製品の開発・生産のための投資は非常に重要です。将来の成長を実現するためには、魅力的な製品開発と生産能力の引き上げが必要になっています。材料欄では、こうした重要な設備投資について触れるようにしています。
M&Aも成長戦略の重要なトピックです。ここ数年、国内市場の成長力低下から国内外の企業・事業を買収する動きが活発になっています。買収が明らかになった際には、「材料欄」でM&Aの狙いや今後予想されるシナジー、買収金額などについて記載します。また、発生するのれんが大きい際は、その総額や償却年数について触れる場合もあり、中長期的な収益への影響を推し量ることができます。
新中計や株式還元、構造改革も
上場会社の多くは3〜5年程度の期間にわたる中期経営計画を公表し、株式市場に自社の成長シナリオを示します。中期経営計画は最終年度の業績目標に加えて、その目標達成のため具体的な施策が織り込まれるケースが多く、「材料欄」に新たな中期計画で重要と思われる部分を抜粋して記載します。
株主還元も材料欄で注目すべきトピックスです。日本の上場企業も最近は配当を大幅に増やしたり、1株の価値を高める自己株買い・償却を実施する企業が非常に増えています。配当性向の引き上げや自己株買いは投資家にとって重要な情報なので、そうした株主還元強化の動きがあればできるだけ材料欄で具体的に記載するようにしています。
また、収益性改善に向けた構造改革や不振事業からの撤退、テコ入れ策、事業の再編などにも目を配りましょう。そうした施策が中長期的な利益改善につながりうるからです。
ご注意事項
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