執筆者:『会社四季報』編集部
本記事は会社四季報公式ガイドブックからの転載記事となります。
「株式投資のバイブル」とも呼ばれる『会社四季報』。投資先を選ぶうえで欠かせない業績や財務などの情報がギュッと詰まっていることから、1936年の創刊以降、長く投資家に愛されてきました。しかしその一方で、あまりにも多くの情報が詰め込まれているがゆえに、初見では取っつきにくさを感じてしまうのもまた事実です。
本連載「四季報AtoZ」では、全11回にわたって『会社四季報』の読むべきポイントをわかりやすく解説。著名投資家の四季報活用法も紹介します。全11回を読破して、あなたの株式投資に『会社四季報』をフル活用してください。
上場する市場や本社所在地も大事な判断材料
設立や上場した時期、上場市場、本社所在地なども、会社のことを知るうえで重要です。『会社四季報』では、【企業情報】欄の中に、【設立】【上場】として、株式会社としての設立年月と上場年月を、【本社】として本社所在地を記載しています。
【設立】は原則、株式会社として登記した年月を示しています。株式会社として登記する前に事業を始めていた場合、創業年が用いられることがありますが、『会社四季報』では設立年を基準に掲載しています。
【上場】はその会社が株式を初めて公開した年月を示しています。東京証券取引所(東証)の場合、1部、2部、JASDAQ、マザーズの4つの市場がありましたが、2022年にプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに再編されました。
なお、設立や上場の周年記念で定期的に記念配当を実施する会社があります。その場合、【設立】【上場】を確認することで、次の記念配当がいつになるのかを推測することができます。
【従業員】から優良企業を見つける
『会社四季報』の【従業員】は、役員やパートなどを含まない、いわゆる正社員の従業員です。連結決算会社は子会社を含めたグループ全体の従業員数と、その会社単独の従業員数の両方を記載。非連結決算の会社は単独の数値ベースです。
【従業員】は、有効活用すると優良企業を見つけるのに役立ちます。まず、四季報に記載されている売上高や営業利益を従業員数で割ってみることをおすすめします。1人当たりの売上高や利益を算出できるので、人員の効率性を測る手がかりになります。同じ業種の企業同士を比較すれば、どの企業の経営効率が優れているかが見えてきます。
さらに平均年齢をチェックしてみましょう。従業員の平均年齢は会社の活力や成長性を見る指標として有用です。伸び盛りの会社では、新入社員を大量に採用しているため、平均年齢が若くなる傾向があります。一方、成熟段階にある会社や、成長が一服して踊り場にある会社では、全従業員に占める新卒採用の比率が少なく、平均年齢は高くなりがちです。
従業員数や平均年齢に続き「年」と表示しているのが、平均年収です。平均年収は、残業代やさまざまな手当て、賞与を含めた年収です。同じ業界の会社同士を比較して見た場合、平均年齢が同程度なのに平均年収が高い企業では、待遇のよいことが採用力につながり、競争を勝ち抜くための人材獲得において有利に働くことが想定できます。
「誰が大株主か」を知っておくとためになる
『会社四季報』では、【株主・役員構成】欄に本決算期末、または第2四半期末における大株主上位10人と、その持ち株数、持ち株比率を掲載しています。【株主・役員構成】の横に記載しているのが株主数、カッコの中の数値は年月で、いつの時点の株主であるかを示しています。
❶株主数、カッコの中の数値は年月で、いつの時点の株主であるかを示している
❷証券管理業務に特化した金融機関の「カストディアン」が1、2位の株主に名を連ねる
❸三菱系の明治安田生命保険が上位に入っている【株主】や、【証券】【銀行】を見れば、三菱グループであることがわかる。“三菱”が社名につかないグループ会社はほかにキリンホールディングス、日本郵船、東京海上ホールディングス、ニコンなどがある
原則として年2回、本決算期末と第2四半期末の株主を掲載していますが、第3者割当増資などで大幅な変更があった場合には、判明している範囲で最新の株主を掲載することもあります。
株主は会社にお金を出す代わりに株式を受け取った出資者で、その会社の持ち主です。上位の株主を見れば、誰がその会社を所有、すなわち支配しているのかがわかります。どの企業グループに属しているか、どの会社の子会社なのか、あるいはオーナー企業なのかを知ることができます。
実際に【株主・役員構成欄】を見ると、証券管理業務に特化した金融機関である「カストディアン」が多くの会社で上位株主として名を連ねていることがわかるはずです。具体例を挙げると、日本カストディ銀行や日本マスタートラスト信託銀行、海外勢ではバンク・オブ・ニューヨーク・メロンやステート・ストリート、JPモルガン・チェースなどです。
ただ、カストディアンは真の株主から証券の保管や配当の受け取りなどの業務を委託されているにすぎず、本当の株主は別にいます。多くの場合、真の株主は年金基金や投資信託などの機関投資家です。機関投資家は企業価値の向上による株価上昇や、配当などによる積極的な株主関連を強く求めます。カストディアンが大株主に登場している会社は株価上昇や配当に対する株主からのプレッシャーが強いと考えてよいでしょう。
オーナー企業かどうかも非常に重要なポイントです。創業者やその資産管理会社が筆頭株主の場合、トップダウンで迅速に経営や投資の判断をすることが可能になります。オーナー企業の場合、こうした強みがある一方、独善的なワンマン経営に陥るリスクもはらんでいる点に注意しましょう。
取引銀行と幹事証券
【銀行】には取引銀行を載せています。上場会社でも必要資金のすべてを株式市場が調達しているわけでもなく、多くの会社が銀行からの借り入れを活用しています。新たに仕入れ先を獲得したり、販売先を広げたりする際に、取引銀行が役立つこともあります。取引銀行がどこかは、その会社を知るうえで重要な情報の1つといえます。
取引銀行が複数ある場合、どの銀行が最初に記載されているかも重要なポイントです。一般的に、最初に名前が出てくる銀行がメインバンクであることが多いでしょう。また、取引銀行をチェックすることでその会社がどのようなグループに属しているかを知ることもできます。
【証券】には幹事証券を掲載しています。幹事証券とは、会社が株式を公開するときや、上場したあとに新株や社債などを発行するときの引き受け業務を行う証券会社です。
(主)は幹事の中心となる主幹事、(副)は副幹事を示しています。会社の新規上場に際しては、上場への準備作業、上場審査のアドバイス、株式公開価格の決定など、主幹事証券会社は最も大きい責任を担います。
幹事証券は、上場後も重要な役割が求められます。新株発行や社債発行など会社の根本に関わる資本政策をどうしたらよいか、他企業から買収提案があったときの対応はどうすべきかなど、会社が抱える課題に対して助言を行います。
【証券】の中に「監」として掲載している監査法人にも要注目です。株式を公開している会社は公認会計士によって決算内容が適切であるかどうか、監査を受ける義務があります。
ただ、過去には粉飾決算に監査法人が関与したこともあり、監査法人に対する信頼はときに揺らぐことも。どの監査法人が監査しているのか、株式市場も厳しい目で見ています。
監査法人と会社の間で意見が食い違うケースも発生しています。頻繁に監査法人が変わるような会社は、意見の食い違いを回避することを目的にしている場合があり、注意したほうがよいでしょう。
販売先や仕入れの把握も忘れずに
『会社四季報』では、【仕入先】【販売先】の欄にその会社の主要な取引を掲載しています。仕入れ先や販売先が日本の上場会社であれば、その会社の業績動向もチェックしてみましょう。その会社の仕入れ先や販売先を探していけば、連想の幅はさらに広がっていきます。
主要な取引先についてさらに詳しく調べたい場合には、有価証券報告書の「生産、受注及び販売の状況」の項目に、全体売上高の10%以上を占める取引先の社名や直近2期の売上高、全体に占める割合が記載されています。特定の取引先に売り上げの大半が集中している会社については、その取引先の動向によって業績が大きく左右されるリスクがありますので、その点にも注意が必要です。
仕入れ先や販売先にどのような会社が名を連ねているかは、銀行など金融機関が融資を実行するかどうかの判断でも重要な材料となるそうです。販売先に優良会社の名前が並んでいれば、販売代金の回収を心配する必要はないでしょう。
しかし、あまり多くないとは思いますが、仕入れ先や販売先に先行きが不安視される会社があった場合は販売代金の回収の遅れや、最悪の場合は回収できなくなってしまうリスクに注意したいところです。
ご注意事項
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