執筆者:『会社四季報』編集部
本記事は会社四季報公式ガイドブックからの転載記事となります。
「株式投資のバイブル」とも呼ばれる『会社四季報』。投資先を選ぶうえで欠かせない業績や財務などの情報がギュッと詰まっていることから、1936年の創刊以降、長く投資家に愛されてきました。しかしその一方で、あまりにも多くの情報が詰め込まれているがゆえに、初見では取っつきにくさを感じてしまうのもまた事実です。
本連載「四季報AtoZ」では、全11回にわたって『会社四季報』の読むべきポイントをわかりやすく解説。著名投資家の四季報活用法も紹介します。全11回を読破して、あなたの株式投資に『会社四季報』をフル活用してください。
業績予想の根拠は「業績欄」を要チェック!
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❶バーを横へスライドすると、売上高、営業利益、経常利益、純利益、1株利益(1株当たり純利益)、1株配(1株当たり配当金額)が確認できます。
「業績・財務」タブの一番上部にある「業績」は、損益計算書(PL)の中核項目である売上高、営業利益、経常利益、純利益に1株利益(1株当たり純利益)と1株配(1株当たり配当金額)を加えた6つの項目から成り立っています。
上段から順に、本決算の実績(過去に実際に出した業績数値)と会社四季報予想、第2四半期累計(中間決算)の実績と会社四季報予想が並び、第1、3四半期の決算が発表されたあとの号では、各四半期累計の実績も掲載されています。
決算期を示す「24・3」などの数字の前には、決算方式の区別である「連」「◎」「◇」「単」「□」マークがついています。決算期の後ろに「変」とあるのは、決算期間が12カ月以外の変則決算を表しています。
また、決算期の後ろに「予」とついているのが、会社四季報予想です。会社が業績計画を発表している場合は、最下段に会社業績計画を掲載し、決算前に「会」をつけています。(24・2・14)発表などとあるのは、会社が直近の業績計画を発表した日付です。
会社計画と会社四季報予想との乖離率が大きい場合には、欄外に独自予想マークも出ます。また、前号から会社四季報予想が大きく変更されている場合には、欄外に上向きか下向きかの前号比修正矢印が出ます(原則として営業利益予想が対象)。
「業績」に掲載されている数字の根拠を説明しているのが、「企業情報」タブ内の「概要」にある「解説記事」欄の上部分の「業績欄」です。(画像①部分)予想数字と「業績欄」を併せてチェックすることで、その会社の業績動向がより詳しくわかります。
「業績欄」は原則として、進行中であるその期の業績(1期目)の動向について書かれています。ただ、今期の決算末が近い場合には、「〇年〇月期は」という断り書きをして、来期の業績動向について言及します。
例えば、3月期決算会社の場合、3月に発売する『会社四季報』春号では、「業績欄」の半分以上が来期の記述になり、見出しも来期の業績予想を説明する形で付けています。
先ほど述べた変則決算については、「業績欄」の冒頭で「9カ月変則決算。」などとその期が変則決算期であることを明示するルールになっています。これは9カ月間の変則決算となっている期の業績を、それより3カ月長い12カ月間の事業の結果である通常の決算期と単純に比較することができないためです。
同じ理由から、利益についても「営業増益」「営業減益」など、過去実績との増減を明示する表現は使わず、「営業益堅調」「利益高水準」などと記述することにしています。
「業績欄」は営業利益ベースで書かれている
ここで注意してほしいのは、『会社四季報』の「業績欄」で記述される事業や業績の動向については、営業利益の増減についての予想をベースにしていることです。
営業利益は「本業の稼ぐ力」を端的に表します。『会社四季報』では、主要セグメントごとの顧客数増減や販売の状況、原価、販売管理費などコスト要因の変化を踏まえて、この営業利益が前期、あるいは前号に比べて増えるのか減るのかをまとめています。
「業績欄」で「利益続伸」「利益反落」などと「営業益」と明記されていない場合でも、基本的には営業利益予想についての説明をしています。もちろん、営業外損益や特別損益、読者の関心が高い配当についても、動きがある場合には触れるようにしています。
なお、『会社四季報』では、何をもって最高益と評価するかについては、純利益を基準にしています。「業績欄」の本文では「最高純益」「最高純益連続更新」などと純利益であることを示し、営業利益に関する記述と区別がつくように工夫しています。
会社を分析するうえでは、業績予想数値で利益の増減を見るだけではなく、その予想の背景を知ることが重要です。同じ増益でも、どの企業、どの商品が牽引役であるかによって今後の成長性が違ってくるからです。また、売上高が停滞していても、広告宣伝費や将来に向けた投資といった経費の削減を通じて、何とか増益を確保しているケースもあります。
逆にいえば、減益であってもユーザーを増やすために先行投資として広告宣伝費を積極的に投入していたり、事業の成長加速を狙って人員の採用を前倒しで進めていたりと、将来が期待できる前向きなものもあります。もちろん、単純に経営が不振に陥ったことによる減益もありますので、会社の業績の方向性を業績記事から読み取ってください。
また、「業績欄」の記事をひと目で把握するのに便利なのが、業績の勢いを凝縮した見出しです。「業績欄」の見出しには大きく分けると、①過去実績との比較、②『会社四季報』前号に掲載した業績予想との比較、③会社計画との比較という3つの評価軸があります。
「業績欄」の見出しは何を比較し、評価しているのか
1つめの会社の過去実績との比較には、【大幅増益】や【反発】【反落】といった見出しがあります。【大幅増益】とは、文字どおり前期と比べて営業利益が大幅に伸びること、【反発】は前期がその前の期に比べて減益となったものの、今期は増益となることを示します。【反落】は逆に、前期がその前の期に比べて増益となったものの、今期は減益となることを示します。
単なる増益、減益という表現だけでなく、どのような状況から増益、あるいは減益になるのかという、過去と比較しての業績の推移を見出しでコンパクトに表現できるよう工夫しています。
2つめの『会社四季報』前号との比較には、【増益幅拡大】や【下振れ】などがあります。今号の四季報予想の営業利益が3カ月前に発売した前号の予想に対して増えたのか、減ったのかを表しています。会社計画との比較ではなく、あくまで『会社四季報』の独自予想の前号比増減であることに注意してください。
3つめの会社計画との比較には【独自増額】が挙げられます。記者が独自の予想をしていて、なおかつ会社計画との差が大きい場合に使っているため、予想にサプライズがあった場合には、株価へのプラス影響も期待できるでしょう。
『会社四季報』の独自予想はこうして作られる
『会社四季報』の記者はまず、決算短信や決算説明会資料、取材などによって商品の販売単価や数量、受注状況、原材料価格や販促費、為替レートといった会社計画の前提条件を確認。同じ業界の競合他社への取材、マクロの経済環境なども含めて分析します。飲食や小売りの業界であれば、月次の売上状況推移なども参考にしています。
また、期の途中であれば、直近の業績の通期計画に対する進捗率も予想を立てるのに重要な情報です。進捗率とは、通期計画の業績数値を100%とした場合に上期や第3四半期で何%の進み具合かを示す数値です。
ただ、忘れてならない点は、業態によって季節的な変動要因が存在するということです。例えば建設業であれば、官公庁や多くの企業で年度末となる3月にビルなど建築物が竣工することが多く、3月期決算の企業では第3四半期までの進捗率は低い水準となることがあります。
そのため、進捗率は過去の決算期および、その当時の状況と比較してみるのも重要なポイントと言えるでしょう。
ちなみに、会社計画にはその会社特有のクセ(傾向)があります。毎号ではありませんが、『会社四季報』では定期的に、過去2期において会社が上方修正や下方修正を行った回数を集計しています。会社が発表した期初計画に対して、最終的に利益が上振れしたか下振れしたのかを掲載しています。
会社側の計画に対する根拠や説明に十分合理性があると考えた場合は、四季報予想として会社計画の数字を採用します。しかし、会社側の業績計画の前提条件やその説明が実際の事業の進捗や市場環境と食い違っていると判断した場合などは、『会社四季報』は会社計画と異なる独自予想を掲載します。
ここで注目してほしいのが欄外の会社予想比マークです。直近の営業利益予想を対象に、『会社四季報』が会社計画より強気で30%以上乖離しているときは「大幅強気」、3%以上30%未満の乖離や、営業損益ゼロの会社に対して黒字予想としているケースなどは「会社比強気」と表しています。
逆に『会社四季報』が会社計画よりも弱気で30%以上乖離しているときは「大幅弱気」、3%以上30%未満の乖離や、営業損益ゼロの会社計画に対して赤字予想としている場合は「会社比弱気」と表しています。
ただし、好業績の見通しが株価にすでに織り込まれている場合は、上方修正の発表で材料出尽くしや利益確定の売りが出て、株価が下落するケースもあるので注意が必要です。
発売は年に4回!各号の賢い使い方
『会社四季報』は3月、6月、9月、12月の年4回発売され、毎号で活用すべきポイントが変わります。上場会社の約6割を占める3月期決算企業を例に見ていきましょう。
6月発売の「夏号」は、5月までに出そろった前期の本決算の実績を基に、今期決算の見通しを解説する号です。前期の本決算発表日に今期の会社業績計画も発表されるため、記者は取材を通じてその計画が楽観的なのか、慎重な見通しなのかなどを吟味して、前期実績との比較を中心に記事をまとめます。
9月発売の「秋号」では、第1四半期決算の実績を踏まえ、為替や市況などの前提条件に変化はないか、会社計画に誤算が生じていないかを確認。期初からのスタートダッシュに成功して想定以上に勢いがある会社、逆に出だしでつまずいて挽回が難しい会社などがあれば、独自予想に反映します。
12月発売の「新春号」は第2四半期決算までの実績がベースとなる号です。事業年度の折り返し地点を過ぎて、通期計画に対する達成見通しがはっきりとしてきます。記者の腕の見せ場で、独自の増額、減額予想が目立ちます。こうしたことから新春号は、サプライズが最も多い号といえます。
3月発売の「春号」は、第3四半期決算までの実績を踏まえた号です。今期の終わりが近づき、来期の動向に関心が高まるタイミングです。記者の視点も来期に移り、「業績欄」のコメントは半分以上が来期に関するものとなります。見出しも来期の業績についての内容となりますので、次の1年を先取りするにはうってつけです。
こうした各号の注目ポイントを理解することが、有望企業やサプライズ銘柄を探し出す近道になります。
ご注意事項
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