株式アナリストの鈴木一之です。
2023年6月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けいたします。
最初に6月の株式市場を概観します。
全体相場の振り返り
6月の日経平均は月間騰落率が+7.45%に達しました。
4月の+3.05%、5月の+7.03%に続いてしっかりした値動きが続いています。
これで年初から6か月連続して株価は上昇しました。
同じようにTOPIXも6月相場では+7.42%の上昇を記録し、5月の上昇率(+3.54%)を大きく上回りました。
知名度の高い大型株の上昇が牽引しています。
出遅れ感の強まっていた小型株にも出番が回ってきました。
東証マザーズ指数は6月に+8.96%の上昇を記録し、5月の+0.40%を大幅に上回りました。
引き続き米国市場も堅調です。
NYダウ工業株は6月、+4.56%の上昇でした。
それ以上にS&P500は+6.48%、NASDAQ総合指数は+6.59%の上昇を記録して、NYダウ工業株の上昇率を上回りました。
6月も金利上昇は続いており、米10年国債金利は5月末の3.64%から6月末には3.83%へと上昇しました。
原油市況はまだ弱い基調から脱することができず、WTI先物で5月末の67.69ドルから、6月末には70.45ドルへとわずかな上昇となりました。
マーケットはFRBの金融政策に注目、利上げの見通しに食い違い
堅調な6月ですが、引き続き世界のマーケットは物価の上昇に立ち向かう米国・FRBの金融政策に神経をとがらせる展開となりました。
6月13日に米国で5月の消費者物価指数(CPI)が発表され、前年比+4.0%となりました。
2年2か月ぶりの低い水準を示したことから、FRBの金融政策が奏功しつつあることが確認され、マーケットでは現在の引き締め政策は、年後半には緩和に向かう可能性を真剣に検討し始めました。
6月13日に予定されたFOMCでは、今回の利上げ局面では初めてとなる政策金利据え置きの可能性が早くから指摘され、このような市場の見通しを受けてNYダウ工業株は6月半ばには4か月ぶりの高値、S&P500は8か月ぶりの高値、NASDAQ総合指数は1年2か月ぶりの高値にそれぞれ進みました。
実際にFOMCでは政策金利の引き上げは停止されました。
ただしそれとともに、2023年末における金利見通しも、中央値で5.6%まで引き上げられました。
それまでは5.1%の水準で、仮に0.25%の利上げを続けると年内はあと2回の利上げが必要となります。
この時点で「年内の利上げはあと1回」という市場の見通しとは食い違いが生じています。
パウエル議長はその後の記者会見で、次回7月のFOMCでは「その時々の経済データで」判断が変わることを指摘しました。
(その翌週の議会証言でもパウエル議長は同様の見解を述べました。)
ハト派に傾くマーケットに反してECBは利上げを継続
このCPIの発表とFOMCでの利上げ停止を受けて、マーケットの雰囲気は急速にハト派的なものに傾いたのですが、一方で6月15日(木)に開催された欧州のECB理事会では、前回と同じく0.25%の利上げがあっさりと決定されました。
これで8会合連続での利上げです。
欧州では引き続きインフレ基調が強く、ラガルド総裁は記者会見において「(利上げの停止は)考えていない」と明言しました。
その後に明らかにされた米国の経済データは、大半が経済の強さを示すものとなり、市場参加者のハト派的な予想に対して、データ上では次々にタカ派的なスタンスを取るべき証拠が積み上がってくることになります。
7月に入るとさらに決定的な経済の強さが、実際のデータとして集まってくるのですが、この時点では株式・債券ともに市場参加者は、かなり楽観的な判断を下していたことになります。
中国の経済現状と利下げ措置、消費不振と銀行業績の影響
しかし中国は別の動きを示しています。
物価上昇に喘ぐ先進国とは対照的に、中国は経済面での弱さを露呈しています。
「ゼロコロナ」政策を解除しても、期待されたほどの消費の回復は進まず、逆にいつまたゼロコロナのような統制色の強い状態に戻るかわからないと、人々の間では節約志向が強まっている模様です。
6月20日(火)に中国人民銀行は、最優遇貸出金利(ローンプライムレート)を▲0.1%引き下げると発表しました。
10か月ぶりの利下げで、低迷している不動産市場のテコ入れを図る意図のようです。
中国国内での消費は伸びず、銀行の預金と貸出金の差額は過去最大の水準に迫っています(つまりそれだけ企業の資金需要が少ないということです)。
日本株への海外投資家の買い越し、バフェット氏の影響と日本企業の変化期待
6月相場でも話題を集めたのが、海外投資家による日本株に対する買い越しスタンスです。
東京証券取引所が発表する投資主体別売買動向によれば、6月第3週(6月19~23日)まで海外投資家は12週連続で買い越しを記録しました。
4月上旬に日本を訪れた「相場の神様」ウォーレン・バフェット氏が日本の総合商社株を大量に買い増すことを明らかにし、海外からの眼が日本株に注がれる呼び水となりました。
長らくデフレに苦しめられた日本経済と日本企業は、よくよく見れば企業業績は堅調で、財務体質もしっかりしています。
長らく経営の質が問われてきましたが、東京証券取引所によってROE(自己資本利益率)やROIC(資本コスト利益率)を高めて、PBRが1倍を割り込むような割安状態を脱するように、上場企業に対して異例の要請がかかっています。
変化の見られなかった日本企業の経営姿勢が今度こそ変わるとの期待が高まりつつあります。
世界的に見てもデフレは終了し、インフレへの移行が始まっています。
日本企業が内部留保として積み上げた現預金は、デフレ下では許容されたものの、インフレではそうは行きません。
今後は内部の現預金が設備投資に振り向けられることが期待されます。
一方では人口減少や政治体制の問題で、中国への期待が低下しつつあり、世界の投資マネーが中国を忌避して、その受け皿として日本が浮上するとの観測も高まっています。
それらがすべて集約される形で、海外投資家の日本株に対する買い越しスタンスが継続しているものと見られます。
(結果的に今回の海外投資家による日本株の買い越しは、12週連続でいったんストップしました。)
「HOTな銘柄」
6月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
6月相場では物色動向が相当の範囲にわたり、特定の業種、テーマに沿って物色が集中したという傾向がさほど見られませんでした。
その点において6月相場は、前月の5月相場とは性格がかなり異なっているように見えます。
5月相場では半導体関連株に極端に物色が集中しました。
6月相場はそこまでの物色の集中は見られませんが、それなりにテーマの偏りは見いだせます。
そのいくつかを取り上げます。
生成AI関連株
世界中で旋風を巻き起こしている生成AI(人工知能)「ChatGPT」が日本でも大きく取り上げられました。
きっかけとなったのは、5月24日に米国で発表されたエヌビディア(NVDA)の2-4月期の決算です。
GPU(画像処理半導体)の世界トップであるエヌビディアが発表した2-4月期の決算は、売上高が71億ドルで前年比▲13%の減収だったものの、純利益は20億ドル(+26%)を超えるまでに急拡大しました。
主力製品であるGPUが生成AI向けに大幅に伸びたことが好調の主因です。
同時に発表した5-7月期の見通しも、売上高が110億ドルまで拡大するとしており、事前の市場予想を5割近く上回りました。
決算説明会の席上でジェンスン・フアンCEOは「(生成AIによる)需要が急増しており、GPUの供給を大幅に増やしている」と述べました。
これがマーケットに対して大きなサプライズを引き起こしました。
引け後の時間外取引において、エヌビディアの株価は+28%も急上昇し、時価総額は1兆ドルを突破しました。
これがその後の世界のマーケットで一貫して続く「生成AIブーム」のきっかけです。
目下のところ生成AIに関する多くのプラットフォームは、オープンAI社の「ChatGPT」を使用しています。
オープンAI社の大株主はマイクロソフト(MSFT)です。
「ChatGPT」はブラウザやiOSアプリにて無料で手軽に利用できるため、個人でも簡単に利用でき、それが世界中で人気を博している理由のひとつです。
大手企業向けには有料プランもあり、本業部分に活用する企業も急増しています。
「ChatGPT」に代表される生成AIは、大規模言語モデルによって大量のデータを学習する必要があるため、データセンターの需要がこれまで以上に爆発的に増えると見られています。
6月相場で株価の上昇率がプライム市場のトップとなったのは、独立系のデータセンターを運用するさくらインターネット(3778、第1位、648円→1,300円、+100.6%)です。
6月16日には、同社のクラウドサービス「クラウドプログラム」が経済産業省から助成金の支給対象に認定され、このニュースで株価が急騰しました。
「クラウドプログラム」にはエヌビディアのGPUが2,000個以上使用されています。
月間上昇率が第2位となったJNSホールディングス(3627、第2位、389円→591円、+51.9%)は、ネットサービス向けのシステム開発を手がけています。
今年4月からJNSの子会社である「ネオス」が提供するAIチャットボットサービス「OfficeBOT」が「ChatGPT」と連携しています。
この時点で生成AI関連銘柄として市場では人気化していました。
それが6月5日になると、「OfficeBOT」がマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」とも連携し、より自然な言語処理を行うことができるようになりました。
より高度な質問への応答も可能となったBotサービスを提供することができるようになったのです。
物色対象は一段と広がりを見せ、以前からAIを活用したサービスを提供してきたHEROZ(4382、第10位、1,609円→2,195円、+36.4%)、Appier(4180、第35位、1,385円→1,749円、+26.3%)などのAI関連銘柄もあらためて「生成AI関連株」の流れで評価されています。
半導体関連株
半導体関連株は6月相場でも人気の的となりました。
5月相場ではアドバンテスト(6857)が+70%近くも上昇して、プライム市場の値上がりランキングのトップに登場しましたが、驚くべき半導体関連株の人気はその後も衰えていません。
第四次産業革命の進展によって、半導体市場が長期的な拡大を続けるという見通しが根底にあるのが理由のひとつです。
そこに加えて6月相場では、半導体関連株の多くがそのまま上述の「生成AI」に関連する企業として、新たな位置づけが与えられたという要素が大きいようです。
半導体の設計を手がけるソシオネクスト(6526、第45位、16,760円→20,870円、+24.5%)は、昨年10月に上場したばかりですが株価はついに2万円の大台を突破しました。
このジャンルの銘柄はすでに株価が大変貌を成し遂げた銘柄も多く、そのような銘柄は今からでは手を出しづらいのも事実です。
そこで少しでも出遅れている銘柄を探す動きが活発化しています。
半導体製造装置と検査装置をダブルで手がける東京精密(7729、第20位、6,060円→7,930円、+30.9%)は、6月相場で+3割を超える上昇となりました。
同社のプロービングマシンは、シリコンウエハー上に形成されたチップの電気特性をテストする装置で、これによってチップの良・不良を選別することができます。
ウエハーの洗浄装置では世界トップクラスの芝浦メカトロニクス(6590、第29位、17,400円→22,230円、+27.8%)や、半導体製造工程での薬液塗布装置や洗浄装置を製造するタツモ(6266、第31位、1,917円→2,430円、+26.8%)もあらためて物色されました。
引き続き人気の高い半導体セクターですが、さすがに物色対象はかなり絞り込まれています。
いつ値幅的な調整が入っても不思議ではないという警戒感がつきまとっているようにも見えます。
バリュー株
生成AIや半導体セクターという、人気のテーマに沿った銘柄は、いずれもバリュエーションという観点からは相当に株価は高くなっています。
警戒心も強く、それだけに下値不安の少ない、バリュー的に魅力のある銘柄も業種を超えて物色されました。
電子部品商社の立花エレテック(8159、第6位、2,132円→2,965円、+39.1%)は、好業績にもかかわらずPBR(株価純資産倍率)は1倍を割り込んでいました。
そのような「解散価値割れ」の企業に対して、東京証券取引所は資本効率を高める経営を行ってPBRの1倍割れを回避するように要請しています。
そこで同社は6月5日に「今後3年間で300万株の自社株買い」を行う旨を発表しました。
これは発行済株式総数の12%強に当たる、相当に思い切った内容です。
この会社側からのリリースをきっかけとして株価は急上昇を演じました。
似たような動きは自動車用プレスのジーテクト(5970、第22位、1,328円→1,722円、+29.7%)にも見られました。
業績が徐々に回復途上にあるジーテクトも、PBRは0.4倍程度で1倍を大きく割り込んでいました。
そこで6月中旬に中長期的な事業戦略を策定し、売上高や利益目標を打ち立てるとともに、DOE(自己資本配当率)を2026年3月期に2.0%、2031年3月期に3.0%にするとの目標を掲げました。
(現在はDOE=1.6%程度)
DOEを株主還元策の基準として採用すると、利益水準に左右されやすい配当性向による目標とは違って、年々の配当金がかなり安定すると見られています。
今回の意欲的な目標設定によって、ジーテクトの株価は発表後から一貫して堅調な動きとなりました。
このほかにもPBRが1倍を割り込んでいる銘柄からは、鉄鋼メーカー向け耐火物の黒崎播磨(5352、第13位、6,580円→8,860円、+34.7%)、アルミダイカストのリョービ(5851、第17位、1,541円→2,043円、+32.6%)、大型車用ブレーキのTBK(7277、第28位、313円→400円、+27.8%)などが株価を静かに切り上げています。
「COOLな銘柄」
続いて6月相場で下落の目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。
グロース株
6月に限りませんが下落トレンドをたどる銘柄は、株価を押し下げる共通の悪材料、共通項は意外と少ないものです。
それぞれの企業ごとに業績悪化やプロジェクトの中止などネガティブな材料が浮上しています。
そーせいグループ(4565、第1位、3,135円→1,500円、▲52.2%)は、提携している米ファイザーが糖尿病・肥満症の治療薬の開発を中止したことから株価が大幅に下落しました。
ソフトウェアの不具合を検出するポールトゥウィンHD(3657、第7位、922円→784円、▲15.0%)は、6月9日に発表した2024年1月期の第1四半期の決算で、売上高は109億円(前年比+13.9%)と堅調だったものの、営業利益が2.9億円(▲58.0%)と半分以下に減少したことから、株価は失望売りから大きく下落しました。
積極的な人材の採用による費用の増加と、クライアントの開発スケジュールの影響が収益に響いています。
楽天グループ(4755、第10位、576円→499円、▲13.4%)は通信キャリアの後発組として基地局など通信設備投資の負担が業績を圧迫しています。
今期を含めて5期連続して最終赤字を計上するという、厳しい収益見通しが続いています。
そこで資本増強策として5月末に4億6,800万株の公募増資、および第三者割当増資を発表したことから、株価は希薄化を嫌気して一貫して下落基調をたどりました。
楽天銀行を新規上場させ、楽天証券まで上場スケジュールに組み込んで資金調達を急いでいますが、株価は6月相場を通じて一貫して下値模索の状況が続きました。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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