株式アナリストの鈴木一之です。
2023年5月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けいたします。
最初に5月の株式市場の概況です。
全体相場の振り返り
5月の日経平均は月間騰落率が+7.03%となりました。
4月の+3.05%に続いて堅調な値動きを維持しています。
これで年初から5か月連続の上昇となりました。
GWの大型連休をはさんで、東京市場は力強さを増しています。
日経平均は5月中旬には3万円の大台を突破して、月末には一段高となりました。
昨年2月と9月につけた高値を更新しています。
先進国の中でも東京市場の上昇は群を抜いています。
米国のNASDAQ総合指数が5月は+5.79%を記録して昨年8月以来の13,000ポイント乗せとなりました。
日経平均の上昇率はそれ以上で、NASDAQのそれを大きく上回っています。
ドイツは5月半ばにDAX指数が1年4か月ぶりに史上最高値を更新しましたが、月末にかけて軟調な動きに変わりました。
顕著な上昇を示した東京市場の原動力は半導体関連株です。
後段の個別銘柄の動きで詳しく述べますが、半導体関連株の驚くべき値上がりが日経平均を引っ張り上げています。
それとともに、ソニーグループ(6758)や富士フイルムHD(4901)のような、誰もが知っている知名度の高い大型株が順番に買われる好地合いも続いています。
株式市場の動きをより広くカバーしているTOPIXは、5月の上昇率は+3.54%となりましたが、日経平均の+7.03%には届きません。
それでもしっかりした動きと言えます。
一方で小型株にはなかなか出番が回ってきません。
新興市場の小型株は苦戦を余儀なくされていますが、それでも東証マザーズ指数は+0.40%と小幅ながら反発しました。
月末にかけて徐々に堅調さが見られました。
米国は4月の金利低下から、5月は再び金利上昇局面に転じています。
まだ本調子とは言えない状況です。
半導体のエヌビディアが驚くべき好決算の見通しを明らかにして、テクノロジー株が総じて堅調です。
<エヌビディア(NVDA)>
テクノロジー株の集まるNASDAQが勢いを取り戻し、5月は+5%を超える上昇を記録しています。
一方、大型株で構成されるNYダウ工業株の騰勢が鈍り、5月は▲3.48%と3か月ぶりに下落しました。
米国の10年国債金利は4月末の3.42%から、5月末には3.64%まで上昇しました。
年後半に米国はリセッションに向かう、とのこれまでの予想が修正されつつあります。
5月23日にS&Pグローバルが発表した5月の米国PMI(総合)は54.5(+1.1)でした。
分岐点の「50」の水準を4か月連続で上回っています。
水準自体も1年1か月ぶりの高いレベルです。
引き続きサービスセクターの景気の強さが際立っています。
原油価格はWTI先物で4月末の1バレル=76.63ドルから、5月末は67.69ドルに低下しました。
中国経済の回復は鈍く、原油需要は弱い状態が続いていると見られます。
為替市場では円安が進んでいます。
週末のNY市場では1ドル=140円台まで円安・ドル高となりました。
昨年11月以来、半年ぶりの140円台です。
FRBの金融政策に関して再び「タカ派」的な見方が強まっています。
米国政府債務上限問題:市場の関心が集中
5月相場の市場の中心的な関心は、米国の政府債務上限問題に集中しました。
6月1日に米国が債務不履行に陥るとの可能性が警戒され、それに向けて民主党のバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長が議論を重ねました。
来年の大統領選挙を控えて民主・共和どちらもここで弱腰になることはできません。
話し合いを重ねても当初は進展が見られませんでした。
バイデン大統領は5月19日に開催されるG7広島サミットを欠席するかもしれない、という噂が流れるところまで事態は膠着状態に陥りました。
それでもマーケット参加者の多くは楽観的な見方に立っていました。
いずれはなんらかの合意に至り、本当に米国がデフォルトに陥るまで問題をこじらせはしないだろうとの見方に立っていたと見られます。
結果は、6月1日のタイムリミットを前に両者の交渉は合意に至りました。
その後の上院・下院での審議も時間をかけずに通過し、これを好感して5月末から6月初旬にかけてNYダウ工業株は大幅高を記録するに至りました。
歳出のどの部分を削り、どこまで妥協したのか、交渉の細目は明らかになっておりませんが、米国の財政運営の不安が薄れたのは事実です。
逆に国債増発によって金利が上昇することをマーケットは警戒し始めました。
市場は常に何か心配事を抱えています。
G7広島サミット:歴史的な政治イベントのポイント
5月相場のもうひとつの関心がG7広島サミットです。
日本が議長国を務める今年最大の政治イベント。被爆地・広島の地に主要国のリーダーが一堂に会する歴史的なサミットに対して、地元出身の岸田首相のみならず全世界が注目しました。
不参加が噂されたバイデン大統領も「オンラインでの参加」ではなく、正式に参加することとなりました。
広島サミットでの議論のテーマは多岐にわたります。
対ロシア、対中国政策、経済安全保障、金融システムの維持、気候変動、生成AIに関する共通のルール作りなど、西側先進国としてひとつでも多く足並みをそろえたいところです。
5月19日(金)から21日(日)まで3日間の予定でしたが、共同声明は通例である最終日の発表ではなく、2日目の夜に発表されました。
その晩にウクライナのゼレンスキー大統領が突如としてG7に参加するため日本を訪れたためです。
実は突然でもなんでもなく、5月初旬から周到に練られた訪日計画だったことが事後的にわかりましたが、ゼレンスキー大統領が討議に加わったことで3日目の拡大会議の議題は安全保障一色となりました。
ゼレンスキー大統領が訪日した効果は、F16戦闘機の供与となってすぐに現れました。
米国は同盟国によるウクライナへのF16供与をこれまで決して認めなかったのですが、これによってウクライナはロシアへの大規模な反撃に打って出る公算が大きくなりました。
G7広島サミットの直後から防衛関連株の動きが活発になりました。
日本も今年後半にも関連法を改正して、防衛装備品の輸出を解禁すると見られます。
三菱重工業(7011)を筆頭に、川崎重工(7012)、コマツ(6301)、日本製鋼所(5631)などが一貫して堅調な値動きを示しています。
G7共同宣言で「法による支配」が明記されました。
中国は名指しされなかったものの、この表現に対して抗議の姿勢を強め、米国の半導体大手であるマイクロン・テクノロジーの半導体製品の調達を停止措置に踏み切りました。
マイクロンはG7の直前に日本の広島工場に5,000億円の大規模な追加投資を行うことを明らかにしたばかりです。
5月相場では再び半導体関連株の動きが強まりましたが、G7の果たした役割が大きかったと言えます。
「HOTな銘柄」
ここからは5月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
半導体関連株
5月相場の主役は、なんといっても半導体関連株です。
半導体株の人気が再燃しました。
その人気ぶりは、アドバンテスト(6857)がプライム市場の値上がりランキングの首位に登場するほどです。
アドバンテスト(6857、第1位、10,540円→17,910円、+69.9%)
月間騰落率ランキングは通常、上位10位くらいまでは軽量級の小型株が多く登場します。
ところが5月相場では、時価総額が3兆円を越えるかなり大型のアドバンテストが7割近くも上昇して、堂々の月間上昇率トップとなりました。
それほどまでに半導体株人気はすさまじいものでした。
アドバンテストのほかにも、半導体の設計を手がけるソシオネクスト(6526)が第6位、半導体パッケージのイビデン(4062)が第9位、洗浄装置で世界有数のSCREEN(7735)が第22位、ダイシングソーのディスコ(6146)が第24位に登場しました。
ソシオネクスト(6526、第6位、11,260円→16,760円、+48.8%)
イビデン(4062、第9位、5,320円→7,620円、+43.2%)
SCREEN(7735、第22位、11,000円→14,590円、+32.6%)
ディスコ(6146、第24位、15,410円→20,350円、+32.1%)
半導体セクターの主力に位置づけられるこれらの銘柄が、軽々と3~4割も値上がりするほどですから、他の半導体関連株もほぼ棒上げ状態となりました。
半導体セクターは3月相場で顕著な値上がりを演じたあと、4月相場では総じて反落し調整局面を迎えました。
そして5月には早くも調整完了から、軒並み年初来高値、上場来高値更新に進む銘柄が相次ぎました。
半導体関連株をこれほどまで押し上げた要因はふたつあります。
ひとつは、G7広島サミットの直前に、岸田首相は世界の半導体メーカー主要7社の経営トップを東京に招き、一堂が集まった会合で岸田首相は日本に対して直接投資を行うよう要請し、工場誘致を働きかけました。
その要請に対して、すでに広島に工場を有するマイクロン・テクノロジーがさっそく5,000億円の増産投資を行うことを表明しました。
日本政府も2,000億円の助成金を負担します。
<マイクロン・テクノロジー(MU)>
半導体は今や政治色の濃い戦略物資となったことが明白です。
G7広島サミットでも対ロシア、対中国で西側先進国が団結し、半導体やレアアースを戦略物資と位置づけサプライチェーンを強化します。
その一環としての日本に対する直接投資の要請です。
G7終了後には西村康稔・経産相と米国のレモンド商務長官が会談して、半導体分野での技術協力を進める共同声明を出しました。
日米が共同研究を行い、輸出管理で協力し、人材交流の場で協調します。
その上で、工場の集約やサプライチェーンの強化を盛り込んだ「行程表」を近いうちにまとめる予定です。
二つ目の要因は、画像処理半導体大手のエヌビディアの驚くべき決算です。
5月24日(水)にエヌビディアは2-4月期の決算を発表しました。
前四半期に関しては、ゲーム用画像処理半導体が巣ごもり消費の反動で減少したため、売上高は71億ドル(前年比▲13%)でした。
しかし収益性の高い生成AI(人工知能)が大幅に伸びたため、純利益は20.4億ドル(+26%)の大幅な増加となりました。
続く5-7月期の見通しに関して、エヌビディア側は売上高が110億ドルまで急拡大すると見ており、市場予想の71億ドルを大幅に上回ると発表しました。
これにはマーケット参加者が驚き、発表直後の株価はアフター市場で+28%も急騰することとなりました。
<エヌビディア(NVDA)>
「ChatGPT」に代表される生成AIが世界中に大きな話題を投げかけています。
火をつけたのはマイクロソフトですが、グーグル、アマゾンをはじめ大手企業からスタートアップ企業まで、生成AIの開発を急いでいます。
それが画像処理半導体の世界トップ企業、エヌビディアの収益見通しを大幅に引き上げています。
決算説明会でエヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、「需要の急増に対して供給を大幅に増やしている」と述べ、まさに一夜にしてエヌビディアの評価は一変したことになります。
エヌビディアの株価は上場来高値を更新し、時価総額は1兆ドルに達しました。
これまでアップル、マイクロソフト、アルファベットしか達成していない「1兆ドルクラブ」の仲間入りを果たしたのです。
この動きに刺激されて、東京市場でもアドバンテスト、東京エレクトロン、SCREEN、イビデン、新光電気工業(6967)の半導体関連株が軒並み急上昇したのです。
東京エレクトロン(8035、第45位、15,495円→19,315円、+24.7%)
HOYA(7741、第50位、14,210円→17,565円、+23.6%)
ルネサスエレクロニクス(6723、第30位、1,772円→2,290円、+29.2%)
新光電気工業(6967、第47位、4,005円→4,980円、+24.3%)
フジミインコ(5384、第33位、7,010円→8,970円、+28.0%)
野村マイクロ・サイエンス(6254、第7位、4,190円→6,160円、+47.0%)
「COOLな銘柄」
続いて5月相場で下落の目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。
5月に限りませんが、下落トレンドにある銘柄には共通するような悪材料、共通項は意外と少ないように思います。
業績低迷、市況悪化を含めて「COOLな銘柄」というものは、個々の企業それぞれに異なった理由があり、それで下げていることが多く、共通の理由を探そうとしても簡単には見つからないものです。
おのずと個々の企業それぞれに焦点を当てることになります。
5月の下落率トップは日本ケミコン(6997、第1位、2,016円→1,222円、▲39.4%)でした。
アルミ電解コンデンサの大手で、EV全盛時代にはアルミ電解コンデンサの需要が急激に拡大すると予想される期待の星です。
その日本ケミコンについては、米国の子会社がコンデンサに関する反トラスト法違反でカリフォルニア州の裁判所に提起され、5月23日の評決で8,900万ドル(123億円)の損害金が確定したと伝えられました。
他の支払責任額も合わせると208億円の支払い責任が生じることになります。
これは日本ケミコンの営業利益の2年分の金額に相当します。
会社側は控訴することを含めて今後の対応を検討していますが、状況は日本ケミコンにとって厳しいようで、株価は決定直後から急落し6月半ばの現時点でも値を戻すことなく下値不安を残す展開を余儀なくされています。
Fast Fitness Japan(7092、第6位、1,700円→1,229円、▲27.7%)は米国発のフィットネス・スタジオ「エニタイム・フィットネス」を展開しています。
店舗は24時間運営され、フランチャイズ方式のため小回りが効き、店舗数は2022年3月期末で1,000店の大台に乗せました。
2020年12月の株式公開直後からコロナ禍に見舞われ、当初は業績が落ち込みましたが徐々に立て直してきました。
前期の2023年3月期は経済再開の恩恵をフルに享受して、売上高は147億円(前年比+12.9%)、営業利益は33.6億円(同+14.2%)と過去最高益を更新する順調な回復を見せました。
しかし消費者の間で「新常態」が定着しつつあるようで、会員数の伸びが鈍っています。
2022年3月末は64.5万人、半年後の2022年9月末には71.5万人と、+7.0万人の増加を記録しました。
しかし続く2023年3月期末までの半年間は74.0万人と+2.5万人の増加にとどまっています。
店舗の拡大ペースも鈍っており、今2024年3月期の業績見通しは、売上高が152億円(+2.8%)、営業利益は28.0億円(▲16.82%)と、期初段階で慎重とはいえ大幅な減益を予想しています。
人件費やインフラ整備にかかる販管費の増加が影響しています。
株価は決算発表の直前まで「コロナ禍からの回復が期待される銘柄」と見込まれて、1年ぶりの高値圏まで上昇していました。
それが決算発表直後からは、今期の減益見通しに対する失望売りからなかなか株価は戻りません。
同じように、前期の業績は好調でも今期の見通しが慎重という理由で、イーレックス(9517、第2位、1,734円→1,141円、▲34.2%)、飯野海運(9119、第20位、1,017円→803円、▲21.0%)が大きく下落しました。
その反対に、前期の業績がすでに大幅減益となった、IT人材紹介のギークス(7060、第3位、1,111円→754円、▲32.1%)、後払い決済のネットプロテクションズHD(7383、第5位、513円→370円、▲27.9%)、株主情報提供のアイ・アールジャパンHD(6035、第14位、2,127円→1,620円、▲23.8%))が事前の期待が大きかった分だけ、失望感から株価は軟調な動きを余儀なくされています。
総じて5月相場は業績動向による物色の二極化が一段と強まった月と総括できそうです。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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