株式アナリストの鈴木一之です。
2023年2月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けいたします。
最初に2月の株式市場を振り返ってみます。
全体相場の振り返り
日経平均の2月の月間騰落率は+0.43%と、わずかな上昇にとどまりました。
1月に+4.72%も大きく上昇した反動とも言えますが、世界の株式市場が小さな下落基調で推移していただけに、小幅な上昇とは言え東京市場は堅調な足取りと言えるでしょう。
TOPIXも2月は+0.91%と小幅な続伸にとどまりました。
ただし東証マザーズ指数は1月に+6.16%と大きく反発したこともあり、2月は▲0.35%と反落を余儀なくされました。
米国では再び金利の上昇圧力が強まっています。
それによって2月の世界の株式市場は総じて上値の重い展開が続きました。
NYダウ工業株は2月に▲0.42%と反落しました。
NASDAQも2月は▲1.11%と軟調な展開に戻っています。
米国の10年国債金利は、1月末の3.51%から2月末には3.92%まで大きく上昇しました。
米国経済の基調は強く、インフレに対する市場の警戒感が再び高まっています。
FRBの金融引き締め政策は簡単には終わらない、という見方が浮上しています。
2月は第1週に今年最初のFOMCが開催されました。
そこで0.25%の利上げが決定され、昨年から4会合連続で続いていた0.50%の利上げはひとまずペースダウンに向かいました。
利上げ幅がノーマルな引き締めの0.25%にとどまったことによって、これまでの慌てふためいたFRBのインフレ対応策が少し落ち着いてきた、と市場では受け止められています。
まったく波乱のない、無風のFOMCというものもずいぶんと久しぶりのことです。
会合後の記者会見でパウエル議長は「ディスインフレのプロセスが始まった」と述べ、「ディスインフレ」の部分を何度も強調していました。
マーケットはこの議長発言をはっきりと「ハト派的な内容」と受け止めました。
インフレが徐々に終息に向かうとの期待も高まりましたが、しかしその後の展開はそれほど甘くはありませんでした。
好材料は悪材料?再びタカ派色強めるFRB
FOMC開催の週末、2月3日(金)に1月の雇用統計が発表され、失業率は3.4%まで低下し、非農業雇用者数は+51.7万人も増加したことが判明しました。
この結果を受けて、金融市場では早くもハト派的な見方が否定され、タカ派的な意見が急速に強まったのです。
米国の10年物国債金利は、雇用統計前の3.39%から週末には3.73%へと大きく上昇しました。
パウエル議長は2月7日(火)、ワシントン経済クラブでの対談に登壇し「雇用統計のデータは驚きだった」、「(強いデータが出れば)市場が思っている以上に政策金利を引き上げなければならない」と述べるに至りました。
先日の記者会見とは正反対の発言内容です。
FRBのウォラー理事も「想定よりも高い政策金利が長く続く可能性がある」と述べ、ここからの2月相場を通じて「FRBの利上げは思っていた以上に長期化する」との不安を織り込んでゆくことになります。
2月21日にS&Pグローバル社が発表した2月の米国PMIは50.5となり、8か月ぶりに景気判断の分岐点である「50」を上回りました。
米国経済の好調さを示す経済データがまたひとつ増えて、10年物国債金利はついに3.9%台に乗せました。
昨年11月以来のことです。
同時に2年物国債金利は4.7%台まで高まりました。
金融市場では「米国経済にとってよいニュースは、マーケットにとって悪いニュース」という見方に再び直面しています。
FRBによる金融引き締めの停止、今年中にも予想された利下げへの転換という楽観的なシナリオは一段と遠のき、NYダウ工業株は2月21日に一時▲700ドルの大幅下落に見舞われました。
米国企業の決算は厳しい状況
2月は米国企業の決算発表シーズンです。
マクロ経済の好調さとは裏腹に、企業決算はかなり厳しい状況に直面しています。
アップルの10-12月期の決算は、売上高が▲5%減の1,171億ドル、純利益が▲13%減の299億ドルとなり、15四半期ぶりの減収・減益という結果でした。
アマゾン・ドット・コムは売上高が+9%の増加でしたが、営業利益は▲21%減の27億ドルに落ち込みました。
収益の牽引役だったクラウド事業が減速しています。
ホーム・デポの11-1月決算も市場予想を下回り、通期の利益予想は増益見通しから減益に転じています。
好調なビジネスも存在します。
GMの10-12月期は売上高が+28%も大きく伸びました。
北米市場での売上げ好調が牽引しています。
半導体のエヌビディアは売上げ、利益ともに大きく減少しましたが、しかし決算発表を受けて株価は+14%も急上昇しました。
ブームの様相を帯びている人工知能向けの売上げが堅調だったことが市場では高く評価されています。
2月中頃まで、市場では個々の企業の業績にかなり神経質になっていました。
それが月末にかけて発表事例が出そろうにつれて、少しずつ前向きに受け止めるケースが増えています。
とりわけエヌビディアの決算は、日本でも半導体関連株の反転・上昇につながり、そこからマーケットのセンチメントが大きく変わったように見えます。
日銀新総裁は経済学者の植田和男氏
日本の金融政策に関してもビッグニュースが相次ぎました。
中でも黒田・日銀総裁の後任人事を巡るニュースがマーケットを一貫して揺さぶっています。
当初は雨宮・副総裁がそのまま横すべりで就任するとの見方が大勢でした。
しかしご本人が固辞した模様で、代わって経済学者の植田和男氏が新総裁に就任することに急きょ浮上しました。
(3月に植田新総裁に正式に決定しました。)
植田氏は1998年4月から2005年4月まで日銀審議委員を務めており、当時の「ゼロ金利政策」の導入をリードした経緯があります。
また2000年のITバブル時に、日銀がゼロ金利を解除した際には反対票を投じたことでも知られています。
マーケットでは植田氏の描く金融政策を巡ってすかさず思惑が広がりました。
日本の10年国債金利はさっそく誘導目標である0.50%に張りつき、ドル円相場は瞬間的に1ドル=129円台まで円高が進みました。
この動きだけを見ると、植田新総裁はイールドカーブ・コントロールの早期解除を狙うようにも受け止められますが、実際には金融政策は「現状維持」という線が大方の予想です。
植田氏もその後に行われた国会での所信表明でそのような主旨を述べています。
いずれにしろ黒田総裁の後任者の責務は相当にシビアなものが予想されます。
市場の激変を避けながら、次第に市場実勢に合わせた金利水準に軟着陸を果たすことが何よりも求められます。
「HOTな銘柄」
ここからは2月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
インフレ関連銘柄
まず上昇が目立ったのはインフレ利益を享受する銘柄の上昇です。
マネー市場は世界各地で広がる物価の上昇、インフレ傾向の高まりに神経をとがらせています。
物価の上昇が収まらなければ、いつまでも中央銀行による政策金利の引き上げが続くことになり、景気の先行きが不安視されています。
その市場の心配を逆から見れば、インフレをメリットに変えられる企業、物価の上昇をストレートに業績好転に導くことのできる銘柄、「インフレ関連銘柄」には好影響をもたらします。
2月相場では一貫してインフレ関連銘柄が買い進まれました。
その代表格が鉄鋼と商社です。
鉄鋼株では、合同製鉄(5410、第4位、2,499円→3,575円、+43.1%)、神戸製鋼所(5406、第16位、697円→922円、+32.3%)、中部鋼鈑(5461、第38位、1,736円→2,141円、+23.3%)が、それぞれ2023年3月期・第3四半期の好決算を手がかりに上昇を続けています。
神戸製鋼所は2月9日に発表した第3四半期の決算で、営業利益は538億円(▲29.7%)にとどまりましたが、2023年3月通期の業績見通しを増額修正しました(営業利益が550億円→670億円)。
メタル・マージン(鋼材価格と原材料価格との差)の拡大を背景に利益率の改善が見られます。
株価は決算発表の直後にストップ高まで買い進まれ、その後も一貫して上昇基調をたどっています。
同じく電炉メーカーの大手、合同製鉄も2月2日に発表した第3四半期の決算で、売上高が1,771億円(前年比+17.2%)、営業利益は91.4億円の黒字(前年は▲24.9億円の赤字)と大きく好転しました。
鋼材市況が高水準で推移する一方で、原料である鉄スクラップの価格が下落したことからメタル・マージンが拡大したことが好決算に直結しています。
他の鉄鋼メーカーも同様に高収益を確保しました。
卸売(商社)も、鉄鋼と同じようにインフレ利益を確保しうる業種です。
エレクトロニクス商社の丸文(7537、第3位、1,017円→1,459円、+43.5%)や佐鳥電機(7420、第46位、1,387円→1,677円、+20.9%)は、半導体不足が長引いていることを背景に、売上げ、利益ともに大幅に伸び、株価は一貫して上昇基調をたどりました。
決算内容の良好な銘柄
1月相場に続いて、2月でも企業業績を重視した「業績相場」が継続しています。
好業績を発表した銘柄は引き続き堅調な株価の推移が見られました。
ここでの代表格は、シチズン時計(7762、第12位、616円→825円、+33.9%)です。
2月13日に発表した2023年3月期・第3四半期の決算で、売上高が2,301億円(+6.8%)、営業利益は210億円(+7.1%)としっかり増収・増益を確保しました。
シチズン時計の決算数字を見る限り、前年対比での利益の伸びはそれほど大きくはありません。
それでもこれまでの業績が長らく低迷しており、株価もぱっとしない動きが続いていたことから、意外感や反動高で株価は底値から大きく上昇しました。
全国各地の百貨店では高額品の売れ行きが好調で、高価格帯のブランド腕時計の販売が伸びていることも業績の底入れ反転を支えています。
このほかにも、EV向けにアルミ電解コンデンサーの伸びが好調な日本ケミコン(6997、第14位、1,646円→2,181円、+32.5%)や、車載向けマイクロコンピューターが伸びているルネサスエレクトロニクス(6723、第13位、1,330円→1,764円、+32.7%)、パチンコ・パチスロ店向けの遊技台管理システムが堅調なダイコク電機(6430、第17位、2,009円→2,650円、+31.9%)などが、決算発表をきっかけに株価がプラス方向に大きく反応しました。
バリュー株、低PBR銘柄
2月相場ではバリュー株も広範囲に物色されました。
むしろバリュー株優位の展開が目立った月と言えるかもしれません。
中でもPBR(株価純資産倍率)の低い割安株の活躍が目を引きました。
河西工業(7256、第9位、167円→228円、+36.5%)もそのひとつです。
自動車のドアトリム(ドアの内張り用パネル)、サンバイザー(太陽光をさえぎる日射しよけ部品)、リアパーセルシェルフ(セダンの後席とリアガラス間のトレイ)など、インテリア部品を主に日産向けに製造しています。
河西工業の業績は厳しく、今期で4期連続の最終赤字、しかも無配を継続する見通しです。
業績がかんばしくない状況を反映して、株価は2018年以降、5年間にわたって下げ続けており、その結果として資産価値を大きく割り込んでいます。
PBRは0.2倍台まで低下しましたが、それが2月相場では大きく反転、上昇しています。
半導体の調達がままならず、自動車メーカーは苦戦を強いられていますが、一方で決算内容が良好な銘柄の多くは自動車向けの事業を展開している産業に多く属しています。
それだけに河西工業も今は業績が厳しくても、いずれは明るさが戻り業績が好転する時が訪れるとの期待が高まっていると考えられます。
同じような視点から、ベアリングのNTN(6472、第30位、268円→337円、+25.7%)、トヨタ系の部品メーカーの重鎮である愛三工業(7283、第36位、750円→928円、+23.7%)、ダイカストのリョービ(5851、第49位、1,258円→1,517円、+20.6%)などが大きく買われました。
いずれもPBRは1倍を割り込んでおり、割安銘柄と位置づけられます。
「COOLな銘柄」
続いて2月相場で下落の目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。
先月からの流れをそのまま継続して、決算内容の悪かった銘柄が明らかに売り込まれています。
ゴルフダイジェスト・オンライン(3319、第1位、1,500円→938円、▲37.5%)は軟調でした。
2月14日に発表された2022年12月期の業績は、売上高が460億円(+16.4%)と好調だったものの、営業利益は11.8億円(▲30.3%)と大きく落ち込みました。
コロナ禍によって「3密回避」の需要からゴルフ人気が沸騰しましたが、その好調を維持するために積極的な投資に打って出たため、利益率の悪化が見られました。
続く2023年12月期の見通しは、売上高で530億円(+15.0%)、営業利益で20.5億円(+72.3%)と再び大きく拡大するものの、株式市場は直近の実績値の伸び鈍化を気にしている様子がうかがえます。
ブイキューブ(3681、第19位、732円→606円、▲17.2%)も決算内容の悪化が嫌気されて株価の下落基調が続きました。
2月15日に発表された2022年12月期の業績は、売上高が122億円(+6.0%)、営業利益は6.7億円(▲50.0%)と大幅な減収減益となりました。
主力のテレビ電話会議システムが、「Zoom」や「Teams」の台頭によって、クライアント側のオンラインセミナーの内製化が想定以上に早く進行していることが響いています。
重点市場と位置づけた米国でも、経済活動の再開が進んでリアル回帰が進んでいることから苦戦を強いられています。
このほかにも、蓄電システムのダイヤモンドエレクトリックHD(6699、第2位、1,364円→936円、▲31.4%)、建設機械用フィルターのヤマシンフィルタ(6240、第4位、547円→399円、▲27.1%)が、決算内容の悪化から同じように下落しました。
株式市場では「業績相場」の性格がますます強くなっていると見られます。
当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。
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