金融システム不安から銀行セクターが下落 HOTな銘柄、COOLな銘柄 金融システム不安から銀行セクターが下落 HOTな銘柄、COOLな銘柄

金融システム不安から銀行セクターが下落 HOTな銘柄、COOLな銘柄

株式アナリストの鈴木一之です。
2023年3月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお届けいたします。
最初に3月の株式市場を振り返ります。

日経平均の3月の月間騰落率は+2.17%と、最近では大きめの上昇を記録しました。
3か月連続して月間では上昇を記録しました。

それでも米国の物価上昇に対する警戒感と、FRBの引き締め気味の金融政策によって依然としてマーケットでは神経質な展開が続いています。
さらに3月相場では、突如として金融システム不安が発生しました。

これに関してのちほど詳しく述べることとして、株価指数の連続した上昇に見られるほどには楽観的な状況ではなかったように見られます。

TOPIXも3月相場では続伸しました。
しかし上昇率は+0.50%にとどまり、日経平均の上昇率には及びませんでした。
東証マザーズ指数はさらに上昇が限定的で、3月相場は+0.01%と2月末とほぼ変わらずという状況でした。

2023年3月 全体相場 日経平均 TOPIX 東証マザーズ

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米国ではテクノロジー株が集まるNASDAQの上昇が目立ちました。
NASDAQ総合指数は3月相場で+6.69%の大幅な上昇です。
米国で金融システム不安が急速に高まったことから長短金利が大きく低下して、それが年後半の利下げ転換への期待につながり、テクノロジー株が総じて上昇しています。

NYダウ工業株も上昇しましたが、上昇率は+1.89%にとどまりました。
NASDAQの上昇率との比較では遅れをとる形となりました。

米国の10年国債金利は、2月末の3.92%から3月末には3.47%まで大きく低下しました。
インフレに対する金利引き上げ懸念が後退し、金融システム不安に端を発する景気後退リスクが前面に浮上しています。
長期金利の低下幅は昨年11月と並ぶ▲0.45ポイントに達しました。

3月相場は初旬の段階では堅調なスタートを切りました。
月初にアトランタ連銀のボスティック総裁は、3月21-22日に開催される次回のFOMCにおいて「0.25%の利上げを支持する」とのハト派的な発言を述べ、これを歓迎して米国および日本の株式市場は大きく上昇してスタートしました。

実際に景況感は徐々に悪化する傾向となっています。
3月1日に発表された2月のISMの製造業・景況感指数は47.7(+0.3)と弱い内容となり、非製造業・景況感指数も市場予想を下回ったことから、ボスティック総裁の示す米国経済の弱さが現実のものとなりつつありました。

株式市場では「経済にとって悪いニュースは、マーケットにとって良いニュース」と受け止められ、株価の上昇に弾みがつく状況ができあがっていったと見られます。

そこに突如として金融システム不安が起こりました。
米国西海岸を本拠地とするシリコンバレーバンク(SVB)で取り付け騒ぎが起こり、わずか数日のうちに経営破綻に至りました。

FRBによる急ピッチな利上げでSVBが保有する債券に含み損が発生し、それを察知した預金者から預金の引き出しが少しずつ始まりました。
その噂がSNS上で拡散し、預金の引き出しが急激に増え始めたことから、資金不足を穴埋めする目的で保有債券を売却したところ、それまでの含み損が実現損失になって表面化したのです。

その実現損を埋め合わせるために増資を行ったことが、SNS上でさらに信用不安を煽るような形となり、ネット経由で預金が次々に引き出され、とうとう取り付け騒ぎに発展してしまいました。

コロナ禍の救済策でここ数年、緩和マネーの一部が米国西海岸のベンチャー企業に流れ込みました。
その資金が今度は一斉に引き出されたと見られます。
資金が集まるのも早ければ、流出もかつてなく早くなっています。
ここに現代の金融機関が直面している、過去の経験則の通用しない経営上のむずかしさが見られます。

FRBと財務省は週末のうちに、SVBの預金のうち25万ドルまでは全額保護されると発表しました。
しかしすでに疑心暗鬼がマーケットを包み込んでおり、週明けの3月13日(月)には米国の地銀株の株価が軒並み▲30~▲60%も急落しました。

金融不安の流れは欧州に飛び火し、3月16日(木)に欧州のクレディ・スイスが金融当局に対して資金支援を要請。
スイス国立銀行はすかさず、最大で500億スイスフラン(7兆円)の資金支援を発表しました。
クレディ・スイスの手元資金を厚くして市場の動揺を最小限に抑える方法を選択したのです。

SVBの経営破綻とクレディ・スイスとは、問題の所在がまったく異なります。
しかし金融市場ではすでに動揺が広がっており、次はどの金融機関が破綻に追い込まれるのかと、噂が噂を呼ぶ状況に陥っています。

そのような信用不安の連鎖を食い止められるのは、主要国の中央銀行しかありません。
各国の金融当局は迅速に行動し、株価が急落していた米国のファースト・リパブリック・バンクには、財務相とFRBが裏で動いて、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループなど、大手金融機関が共同で資金を拠出して、300億ドル(4兆円)の預金を預ける方式を採りました。

3月19日(水)、UBSによるクレディ・スイスの買収が発表されました。
救済買収の色彩が強い案件で、資産規模が1兆円とされるクレディ・スイスの買収額は当初1,000億円とされ、最終的には4,200億円で決着しました。

その際に「AT1債」と呼ばれるクレディ・スイスの発行した劣後債が無価値とされる判断が下され、社債市場は再び大きく混乱するという事態が生じましたが、しかし結果的にはこれが今回は陰の局となりました。
シリコンバレーバンクの受け入れ先の決定をきっかけとして、金融市場の動揺は徐々に冷静さを取り戻す方向に向かったのです。

NYダウ工業株は3月最終週にかけて4日続伸し、NASDAQも3日続伸してこの週の取引を終えました。
中でもNASDAQ100は今年の高値を更新し、市場で大きな話題を集めました。
金融システム不安によって米国の長期金利が低下し始めたことがテクノロジー株を押し上げていると見られます。

インフレリスクを警戒して、金利の上昇を警戒していた金融市場ですが、SVB破綻が表面化した3週間は反対に金利の低下を警戒するようになりました。
インフレで物価や金利が上昇することは避けたいところですが、金融システム不安が発生し世界が不況に陥ることはもっと避けたいという、極端な選択しか許されない部分で3月のマーケットは揺れ動きました。

しかしまだ事態は完全に落ち着いたわけではありません。
この話題は4月以降も持ち越されそうなムードです。

ここからは3月相場で上昇の目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。

引き続き半導体関連株が人気の中心となりました。
米国で金利の低下が進み、フィラデルフィア取引所の半導体関連株指数(SOX指数)が昨年4月以来の高値水準に上昇したことも支援材料となりました。

NASDAQに代表されるテクノロジー株の値動きが復活していることから、日本でも半導体セクターを物色する動きが活発化しています。

プライム市場の値上がりトップが安永(7271、第1位、686円→1,025円、+49.4%)です。

安永は自動車エンジンの中核部品であるコネクティングロッド(コンロッド)やシリンダーブロックなどを製造する企業です。
エンジン関連の部品が売上げの7割を占め、残りの部分は工作機械などの機械装置、エアポンプやディスポーザーシステムなどの環境機器で構成されています。

半導体のシリコンウエハーを薄く切断するワイヤーソーも同社の製品です。
次世代のパワー半導体に有望とされる酸化ガリウムのシリコンインゴットの切断に用いられ、それを手がかりに株価が大きく上昇しました。

値上がり率第2位となったサムコ(6387、第2位、3,460円→5,080円、+46.8%)は、化合物半導体向けにCVD(chemical vapor deposition:化学気相堆積)、エッチング装置、洗浄装置を製造しています。

3月10日に発表された2023年7月期・第2四半期の決算では、売上高が38.4億円(+32.2%)、営業利益が9.6億円(+84.3%)と大幅な増収増益を達成しました。
半導体レーザー、シリコン欠陥解析、表面処理、洗浄装置などがいずれも大きく伸びています。

通期の業績も連続して史上最高益を更新することが確実と見られ、サムコも決算発表をきっかけに株価は大きく上昇しました。

半導体向けテストハンドラーや精密洗浄装置を手がけるワイエイシイHD(6298、第6位、2,142円→2,751円、+28.4%)、半導体リードフレームおよびEV向けモーターコアの三井ハイテック(6966、第22位、7,010円→8,360円、+19.3%)もそろって力強い上昇を見せています。

2023年3月 安永、サムコ、ワイエイシイ

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3月相場は小型グロース株の復活も話題となりました。
背景にはやはり米国の金利低下です。
ここで上昇の目立ったのがサンリオ(8136、第3位、4,125円→5,930円、+43.8%)です。

サンリオは2月に不正会計が発覚しました。
2017年3月期以降のロイヤリティの計上時期に関して、一部の役職員が計算期間を空白にした「ロイヤリティ報告書」を使って、本来計上すべき時期に売上計上せず、任意の月に売上計上を行う会計操作を行っていた事案が発覚しました。

この一件で2月に発表するはずだった2023年3月期の第3四半期決算の発表を遅らせるという事態に至りました。

3月16日に1か月遅れて発表された2023年3月期の第3四半期の決算は、売上高は516億円(+33.9%)、営業利益は106.0億円(+420.7%)と大幅な伸びとなりました。
コロナ禍で苦しんだ経済活動が再開されて、キャラクター商品の販売が伸びていること、テーマパークの入園者数も大幅に改善していることがその要因です。

決算発表に合わせて通期の業績見通しの大幅な増額修正(売上高:623億円→706億円、営業利益:70億円→129億円)を明らかにしており、さらに不正会計処理に関する特別調査委員会の報告書も公表しました。

不正会計の一件は決して許されるものではありませんが、本業部分は順調に拡大しており、事件に対する対処策も時間をかけずに迅速に策定したことから、マーケットでは信頼感が徐々に戻っていると見られます。
それが株価の大幅な上昇につながったと見られます。

小型グロース株の代表的な存在でもある自動車メンテナンスのKeePer技研(6036、第9位、3,905円→4,925円、+26.1%)、システム開発のベース(4481、第11位、4,615円→5,770円、+25.0%)、人工知能を活用した市場予測のHEROZ(4382、第24位、1,161円→1,376円、+18.5%)、ビッグデータ解析のユーザーローカル(3984、第26位、1,790円→2,113円、+18.0%)も株価の上昇が顕著となりました。

2023年3月 サンリオ、Keeper、ベース

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続いて3月相場で下落の目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。

米国でシリコンバレーバンクが経営破綻した影響から、銀行セクターの株価が軒並み下落しました。

シリコンバレーバンクから大量の預金が引き出されるきっかけとなったのが、保有する債券の含み損です。
それは日本も同じことで、地方銀行を中心に金利上昇による保有債券の含み損が問題となりつつあります。

もともと銀行セクターの株価は、2月に株価が大きく上昇したこともあって、3月はその反動で売り物が出やすくなっていたと見られます。
りそなHD(8308、第21位、750円→640円、▲14.7%)がメガバンクの中では下げが目立っています。

より体力の弱い山形銀行(8344、第7位、1,242円→1,013円、▲18.4%)、琉球銀行(8399、第8位、1,130円→926円、▲18.1%)、栃木銀行(8550、第9位、333円→274円、▲17.7%)など、地方銀行株が一斉に下落する展開となりました。

2023年3月 りそなHD、山形銀、琉球銀

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同じようにT&Dホールディングス(8795、第5位、2,061円→1,641円、▲20.4%)、第一生命ホールディングス(8750、第13位、2,904円→2,435円、▲16.1%)という生命保険株も売られています。

金利が上昇することで運用収益の拡大が期待され、それがここまでの株価上昇につながっていましたが、それがまったく反対の方向に展開し、金利の上昇は保有債券の損失拡大につながると悪材料視されるようになりました。

3月相場の「HOTな銘柄」として取り上げた小型グロース株は、そのまま「COOLな銘柄」にも登場します。
代表格はブイキューブ(3681)です。

2月14日にブイキューブ(3681、第30位、606円→521円、▲14.0%)が2022年12月期の決算を発表しました。
売上高は122億円(+6.0%)、営業利益は19.4億円(▲26.6%)となり、増収にもかかわらず大幅な減益となりました。
得意とするWeb会議システムの需要がコロナ特需の反動で減少していることが主因です。

同じように、高齢者向け配食サービスのシルバーライフ(9262、第1位、1,951円→1,355円、▲30.5%)、Eコマース用のプラットフォームを提供するラクーンHD(3031、第2位、1,088円→823円、▲24.4%)、ネット販売サイト「BUYMA(バイマ)」を運営するエニグモ(3665、第6位、615円→499円、▲18.9%)など、かつて株式市場で成長期待から買い人気を集めた銘柄が、いずれも軟調な動きに終始しました。

2023年3月 ブイキューブ、シルバライフ、ラクーンHD

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金利が乱高下しており、金融市場全体で不透明感が増しています。
業績相場の下でしっかりした業績内容を示す銘柄にますます資金が集中する展開となりつつあるようです。

2023年3月 東証プライム市場 値上がり率・値下がり率上位表

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
また将来の株価または価値を保証するものではありません。
投資の最終決定はご自身のご判断と責任で行ってください。
詳しくは「ご注意事項」をご確認ください。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
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