株式アナリストの鈴木一之です。
今回は「HOTな銘柄、COOLな銘柄」にかわり、米国大統領選挙をテーマにしたコラムをお届けします。
目まぐるしい展開でヒートアップ、佳境を迎えた米国大統領選挙
猛暑続きの今年の夏は、ひときわ暑い夏となりそうです。
米国の大統領選挙が佳境を迎えています。
11月の本選挙まで3か月を切った時点で、民主党と共和党の選挙戦が日を追ってヒートアップしてきました。
当初は共和党のトランプ前大統領が優勢だった選挙情勢が、ここにきて流れが大きく変わりつつあります。
民主党の巻き返しが明らかに広がっています。
民主党の大統領候補にカマラ・ハリス副大統領が指名されることになったのがきっかけです。
6月末、テレビ討論会の初回でのバイデン大統領の失態から一連の目まぐるしい展開が始まりました。
米国民のみならず世界中が固唾を飲んで民主党の動きを見守りました。
同盟国の安全保障と表裏一体となったバイデン大統領の高齢問題は、もはや看過できないところまで進んでいます。
その現状が白日の下にさらされ、このままでは大統領選における共和党のトランプ候補の独走を許してしまうとあって、民主党内から強烈な「バイデン降ろし」が表面化しました。
1か月の迷走ののちに、バイデン大統領は自らの選挙戦に幕を引き、その後にカマラ・ハリス副大統領が正式に大統領候補として指名されることとなりました。
副大統領としては特段の実績がなく、むしろ移民問題担当として評価を落としていたハリス副大統領は、当初は候補者としての力量は弱いと見られていました。
ところが正式に大統領候補に選ばれたところから、評価がよい方向に一変しています。
黒人女性、インド系、元検事、州司法長官、女性初の副大統領、など数々の経歴に加えて、忘れられた中間層、ヒスパニック、アジア、インド、黒人など少数派からも支持を広げています。
大企業や富裕層にしか目を向けていないトランプ氏に対する批判票が結集しつつあり、無党派層を動かす大きな力になるとの期待が徐々に高まっています。
バイデン大統領時代には動きの鈍かった民主党の選挙マシーンが再び機能するようになっているようです。
「スイング・ステート(揺れ動く州)」の獲得を巡って活発化する選挙活動
米国の大統領選挙は独特のシステムによって行われます。
米国民は州ごとに割り当てられる選挙人を選出するために投票し、選ばれた選挙人が誰を大統領にするかを投票して多数決で決定します。
州によって伝統的に共和党、民主党どちらが強い州かとの色分けがなされ、民主党が強い州は「ブルー・ステート(青い州)」、共和党が強い州は「レッド・ステート(赤い州)」と分かれています。
この区分は容易には覆りません。
その一方で民主・共和どちらにも属さず、選挙のたびに優勢な政党が入れ替わる州が「スイング・ステート(揺れ動く州)」と呼ばれます。
大統領選の結果はこの「スイング・ステート」の結果で決まるとされ、これらが激戦州と位置づけられています。
最近の選挙での激戦州は、ネバダ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州、アリゾナ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、の7つとされています。
いわゆる「ラスト・ベルト(錆びた地帯)」、白人の貧困層を多く含んでいます。
2016年にトランプ氏が大統領選で勝利した時は、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州、ミシガン州の3つの州を取ったことで決まったとされています。
反対に2020年の大統領選挙ではバイデン氏がこの3つの州を制しました。
ハリス氏は副大統領候補として、激戦州のひとつであるミネソタ州の現職の知事であるティム・ウォルズ氏を指名しました。
ここにも中間層やブルーカラー層にアピールするため狙いがあると見られます。
一方のトランプ氏も白人貧困層を描いてベストセラーとなった「ヒルビリー・エレジー」の著者、J・D・バンス上院議員を副大統領候補に指名しました。
バンス氏の演説内容はトランプ氏以上に過激とされています。
いずれにしても民主・共和どちらの選挙対策本部も、終盤戦はこの7州を中心に選挙活動を予定しています。
9月の第2回目のテレビ討論会を前に、7~8月は勝負どころと位置づけて、激戦州での選挙運動を活発化させています。
勝敗を左右する両陣営の政策、揺るがぬトランプと具体策が待たれるハリス
勝敗を決定するのはどのような政策が大きいのでしょうか。
トランプ氏は8月3日のジョージア州アトランタで行った演説で、米国の労働者を保護することを主眼として、「中国が100%、あるいは200%の関税をかけたら「相互貿易法」を制定する」と述べました。
中国のWTO(世界貿易機関)での最恵国待遇も取り消すと主張しています。
対中国への強硬路線は第2期トランプ政権でも揺るがぬ柱で、貿易紛争がエスカレートする可能性があります。
同じ演説でトランプ氏は、石油資源開発の拡大を今まで以上に推進し、エネルギー価格を引き下げると強調しました。
バイデン政権下ではEVの普及促進策が図られましたが、それも「就任した最初の日に義務化は終わらせる」と述べています。
ウクライナ戦争に関して「解決するのは私しかいない」と述べ、力による平和を取り戻すことを訴えています。
イスラエル寄りの立場は以前から変わらず、同盟国に対して防衛費の負担をこれまで以上に求めてゆく姿勢も明らかにしています。
別の会場では、前政権時に成立させた「トランプ減税」の恒久化に加えて、「労働者のための大規模な減税も成立させる」ことに言及しています。
社会保障政策では公的医療保険は削減せず、一方で不法移民は強制的に排除することも唱えています。
トランプ政権が誕生すると財政負担は今まで以上に増えることになりそうです。
一方のハリス陣営は、具体的な政策はまだ漠然としたままの状態です。
8月19~22日の予定で民主党・全国大会が開催され、ここでハリス氏が正式に民主党の大統領候補に選出されることになって初めて、党綱領とともに大統領選に向けての政策が明らかになります。
それでも最近のハリス氏の言動からうかがえるのは、中間層に向けた厚い配慮です。
8月6日にペンシルベニア州で実施された演説では、一部の富裕層や大企業のためだけでなく「当選すればすべての米国人のための政治をする」ことを強く訴えかけました。
ペンシルベニアでは「高すぎる物価を下げ、生活費を下げることでよりよい暮らしができる」と語りかけました。副大統領候補のティム・ウォルツ氏も「中間層を強化することが明確な目標だ」と訴えかけました。
社会保障政策は、低所得者層を中心とした生活配慮の政策になると見られます。
これは民主党の基本的な政策の綱領でもあります。
富裕層に恩恵の多いトランプ減税を是正する意味合いから、富裕層への増税も盛り込むと見られます。
気候変動に関してはバイデン政権の政策を引き継ぎ、再エネ拡大、気候変動投資の活発化を促すものになりそうです。
さらに妊娠中絶の権利保護に対して、副大統領職に就いた最初の女性として、トランプ氏が訴える中絶禁止の阻止を争点として取り上げる意向を強く持っていると見られます。
まさに全面対決といった様相を帯びています。
競い合いが続けば財政政策の規模が大きくなり、どちらの候補が勝利を収めても財政負担の圧迫から長期金利は上昇しやすくなる雲行きです。
米国のリサーチ機関「リアル・クリア・ポリティクス」によれば、7月22日-8月4日の全米を対象とした調査では、ハリス氏が47.4%、トランプ氏が46.9%で、ハリス氏の支持率が上回っていました。
勝負の行方はわかりません。
ここからの3か月間の帰趨が握っていると見られます。
政権がどちらになろうとも、日本の防衛負担は変わらず増え続ける、という前提に立って防衛関連株が最も有望な銘柄と見られます。
三菱重工(70117011)を筆頭に
IHI(70137013)、
NEC(67016701)、
東京計器(77217721)、
日本製鋼所(56315631)が注目を集めると予想されます。
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以上
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