鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「日米協調介入」 鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「日米協調介入」

鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「日米協調介入」

株式アナリストの鈴木一之です。

この夏、為替市場で大きな変化が起こっています。
7月30日から31日にかけて日米両国による協調介入が実施されました。

まさに寝耳に水のことでした。
「奥の手」とも言えるような日米協調介入です。
2011年の東日本大震災で協調介入が実施されましたが、自然災害時での発動を除けば、1998年のアジア通貨危機以来、28年ぶりの協調介入です。

これによってドル円相場はプラザ合意(1985年)以来の164円台手前から157円台半ばまで、一方的なドル高・円安に歯止めがかかりつつあります。

協調介入の直後に三村財務官は、記者団に対して「今回の協調介入は日米通貨同盟の完成形である」と説明しました。

「通貨同盟」と「完成形」というどちらもなじみのない言葉です。
財務官の真意はいつでも非常にとらえにくいのですが、今回はこの財務官発言の意味するところを(手探りですが)掘り下げてみたいと思います。

三村財務官のいう「日米通貨同盟」は、制度として新しい同盟ができたということではないように思います。

石破茂・前政権の時の昨年9月、当時の加藤勝信・財務相とベッセント財務長官による日米財務相会合で交わされた共同声明において、「為替レートの過度の変動、無秩序な動きは経済・金融市場に対して悪影響を与える」との認識があらためて確認されました。

この共同声明の中で日米両国は、貿易上の競争優位を得るために為替レートを目標とするような政策運営はしないことを確認しましたが、その上で、介入が必要な場合には日米双方が適切に対処することが盛り込まれました。

翌10月に財務相が現在の片山さつき氏に代わっても、日米の財務当局は為替市場における協議を続けています。
その結果が今回の協調介入(7月30日から31日にかけて)として実現したと見られます。

この間に交わされた日米間の協議と行動が、三村財務官が言及した「日米通貨同盟の完成形」になったものと考えられます。

「通貨同盟」という何か具体的な枠組みが新たに形成されたものではないと予想されますが、確かなことはわかりません。
それでも通貨政策の重責を担う財務官によって「同盟」という表現が用いられる以上、これまでとはまるで異なる新たな方向性が始まっている可能性も捨てきれません。

「通貨同盟」という強いトーンを用いた結果として、マーケットの投機筋に対しては日本政府だけを相手にしているのではないと印象づけることができます。

これまでのような日本単独での円買い介入では、日本の財務省によるドル売りには外貨準備高という限界がありました。
介入資金の限界が見透かされて効果が薄れる点が問題とされてきました。

それが今回は米国政府までが円買い介入に参加しており、さらに日本の介入資金に対しても、日本が保有する米国債を担保に米財務省が資金を融資するスキームまで導入されています。

日本が円買い・ドル売り介入を続ければ、外貨準備として保有している米国債などドル資産を売却する必要がありました。
日本による米国債の売却は、米国の長期金利の上昇につながります。

そうなると米国の住宅ローン金利や企業の資金調達コストの上昇につながりかねず、市場の不安感は増大する一方でした。
今回の介入はこの点も回避して行われています。

結果として世界最大の基軸通貨国である米国が、日本と同様に円安の修正を望んでいるという強いメッセージを発することができました。
現在もまだ進行中で具体的な結果は得られていませんが、今年に入って何度もドラマを演じたドル円相場はひとつの大きな転換点を迎えたと考えられます。

折しも3月決算企業の第1四半期の決算が集中的に発表されています。
為替メリットの大きかった割安銘柄を取り上げてみます。

銘柄ピックアップ

資生堂(4911) 資生堂(4911)

化粧品大手、中国からのインバウンド需要を軸にコロナ前まで大きな成長が見られたが、それがコロナ禍で暗転。
6年間にわたって苦しんだ後にようやく回復の糸口が見えてきた。
8月5日に発表された第2四半期の決算では、売上高が実質的に増収に転換。
本業部分のコア営業利益も前年比+211億円の444億円と2倍以上に拡大。
構造改革から再成長期へと移行しつつある。
日本、中国、欧州、米国と幅広い地域で販売の回復が進んでいる。
海外売上比率は7割弱。

資生堂(4911)の株価チャート

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三菱マテリアル(5711) 三菱マテリアル(5711)

非鉄製錬の大手企業で銅、金、タングステンに強い。
電子材料、超硬工具も扱う。
8月6日に発表した第1四半期の決算では、売上高が前年比+38%の5,970億円、営業利益は329億円の黒字転換を果たした(前年は▲26億円の赤字)。
タングステン、銅、金などの金属製品の市況上昇と、為替市場での円安がプラスに作用した。
金属市況や為替差益を加えて通期予想を増額修正。
株価は決算直後に急騰したがもう一段上もあり得る。

三菱マテリアル(5711)の株価チャート

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ADEKA(4401) ADEKA(4401)

中堅化学メーカー、かつては電解ソーダを中心とする旭電化工業。
現在の主力は自動車や建材用の塩ビ用安定剤、難燃剤などの樹脂添加剤と、半導体向け材料の電子化学品。
8月7日に発表した第1四半期の業績は、営業利益が+42%の156億円に急拡大。
データセンターの拡大で電線被覆用の塩ビ安定剤、先端メモリ向け高誘電材料、フォトレジストが好調。
海外売上比率は55%。
本業の好調が続き為替メリットも上乗せされる可能性が高い。

ADEKA(4401)の株価チャート

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UBE(4208) UBE(4208)

かつての宇部興産が2022年にセメント事業を持分法適用会社に移して、現在の「UBE(ユービーイー)」に変身。
成長領域を機能材料に絞り込んだ構造改革を続けている。
柱のひとつが世界でも高いシェアを持つウレタンシステム。
軟質フォームではマット、ソファ、ベッドに、硬質フォームはビル・住宅の断熱材として使用される。
建設、自動車、塗料、接着剤などあらゆる産業で使用される。
円安効果もあって第1四半期の営業利益は9割近い増益。

UBE(4208)の株価チャート

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以上

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鈴木一之

株式アナリスト
1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)
主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケットマスターズ・マンデー」(ラジオNIKKEI第1、月曜日)
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

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