株式アナリストの鈴木一之です。
「フィジカルAI」に対する関心が社会全体で急速に高まっています。
きっかけとなった出来事のひとつが、産業用ロボットメーカーの世界最大手、ファナック(6954) ファナック(6954)とエヌビディアとのタイアップです。
12月1日にファナックが開催した技術発表会の席上で、ファナックの山口賢治社長がエヌビディアとの協業を発表しました。
AI=人工知能は「生成AI」に代表されるように、データに基づいて文章や画像をデジタル空間で処理するものです。
すべてはコンピューターの中で処理されモニターに表示されます。
これに対して「フィジカルAI」は、リアルの世界で実際に動くAIを指します。
AIがフィジカルを手に入れて、コンピューターの画面から飛び出して、現実の空間で自分の身体を動かすものです。
意思決定はAIが自ら行い、手足となるロボットがセンサーを通じて自分の置かれている空間的な状況を自分で認識して、物理的な作業を自律的に行います。
この点においてモニターの中にとどまっていた従来のAIとはまったく異なります。
鉄腕アトムやドラえもんのように、自ら判断して行動する「とても賢いロボット」ということになります。
エヌビディアとタイアップすることになったファナックは、まずエヌビディアが作り出した仮想空間での工場でロボットの学習をAIが行い、その後で学習を終えたロボットが実際の工場に配置されるという仕組みです。
工場向けに設計されたこれまでの産業用ロボットは、決められた動作を黙々と繰り返すだけでした。
それが「フィジカルAI」となると、人間の言葉を理解しながら人と一緒に自分の判断で活動するようになります。
そうなると産業用ロボットの普及がこれまで以上に急拡大すると予想されます。
そこで注目されるのがロボットを形づくる基幹パーツの精密減速機です。
精密減速機とは、産業用ロボットの関節(ジョイント)部分に組み込まれる歯車です。
モーターと連動してロボットの手足の動作を制御する役割があります。
アーム(腕)を動かすのはモーター(サーボモーター)です。
回転数は高いのですが、トルク(物を回転させる力)は低いので、そのままではロボットが物を持ち上げたり、細かい作業をするには力が足りません。
そこでモーターを減速機につなげて回転数を落としトルクを増幅させます。
そうすることによって高い精度で動作を制御することができるようになります。
ロボットの性能は「精度」、「速度」、「剛性」、「耐久性」などの要素から決定されます。
性能のレベルを決めるのが減速機であり、それだけに最も重要な部品のひとつとされています。
その精密減速機の性能は、歯面の研磨技術と加工技術、材料の熱処理技術、耐摩耗性能の設計、精密な組み立て技術、などで決定されます。
それだけに大量生産がむずかしく、高い品質を保持することはさらにむずかしいとされています。
参入障壁の高い精密減速機メーカーをご紹介します。
銘柄ピックアップ
ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324) ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)
精密減速機の世界トップ企業。
減速機だけでなくモーター、センサー、ドライバー、コントローラーなどの周辺機器を組み合わせたモーション・コントロールの技術をトータルで提供。
世界を牽引する自他ともに認めるリーディングカンパニー。
精密な切削技術、薄肉の金属を加工する技術、小さな歯車を加工・組み合わせる技術、計測技術などをコア技術として抱え、減速装置のさらなる高性能化を目指している。

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ナブテスコ(6268) ナブテスコ(6268)
2003年にナブコと帝人製機が経営統合して誕生。
モーション・コントロールの世界的企業。
自動ドアでは世界トップ企業。
航空機のフライトコントロール・アクチュエーション・システム(航空機の垂直・水平尾翼、補助翼を動かす制御システム)では国内100%、鉄道車両用ブレーキでも国内5割のシェアを有する。
産業用ロボットの精密減速機も世界シェアは6割に達する。

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住友重機械工業(6302) 住友重機械工業(6302)
創業は明治21年。
別子銅山(現・住友金属鉱山)の機械製造部門として誕生。
現在は精密機械、建設機械、船舶、プラント、港湾用大型クレーン、医療機器(がん治療装置)まで手がける総合機械メーカー。
精密減速機も得意としており、コンパクトで剛性の高い減速機を多数供給する。
精密制御用のEサイクロ減速機「ECYシリーズ」は最大トルクが同等の一般的な減速機よりも1.5倍あり、それだけ機器の小型化が可能となっている。

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以上
鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える
半導体素材メーカー(2025.11.13)
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自動運転技術(2025.09.11)
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