鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「活発化するスタンダード市場のTOB、MBO」 鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「活発化するスタンダード市場のTOB、MBO」

鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「活発化するスタンダード市場のTOB、MBO」

株式アナリストの鈴木一之です。

今回のテーマは、活発化するスタンダード市場のTOB、MBOです。

観測史上最高に暑い今年の夏、その暑いさなかの8月8日(金)に、株式市場ではTOPIX(東証株価指数)が史上最高値を更新しました。

日経平均は少し足踏みしていますが、それでも最高値目前の42,000円台にタッチしています。
※8月12日(火)に日経平均も史上最高値を更新

目下の株価上昇の要因として次の3点が指摘されています。
(1)トランプ大統領による日本への相互関税が15%に決着して、この水準であれば企業のコスト削減努力で吸収できる範囲内に収まったこと。

(2)実際に発表される3月決算企業の4-6月期の決算は順当で、むしろ低く見積もり過ぎた通期業績見通しを引き上げる動きも見られること。

(3)米7月雇用統計で既発表分の雇用者数が大幅に下方修正され、市場では米国景気の後退リスクの懸念よりも、FRBによる利下げ時期の見通しが前倒しされたこと。

TOPIXの最高値更新と歩調を合わせて、米ナスダックも最高値を記録しています。
世界同時株高の様相も強まっていますが、日本の場合さらにもうひとつ、(4)東証市場改革の進展、という要因が挙げられるように思います。

東証スタンダード市場では、MBOやTOBによる「市場からの退出」が静かに進行しています。

プリンター、スキャナー、複合機などの大判デジタル機器を製造する 桂川電機(6416) 桂川電機(6416)は、同社の渡邉社長と田辺取締役が中心となってMBOを実施して非上場化を進めます。

MBO価格は@960円で発表前の株価(723円)に対するプレミアム(上乗せ幅)は+32.7%です。
発表前の株価水準におけるPBR(株価純資産倍率)は0.24倍でした。

この日はさらにもう2件、スタンダード市場から同じようなTOBによる非上場化の案件が発表されました。

自動車部品(シートベルト、エアバッグ、電動リアサンシェードなど)を主に製造する 芦森工業(3526) 芦森工業(3526)が、事実上の親会社である豊田合成(7282) 豊田合成(7282)によるTOBで非上場化します。

芦森工業へのTOB価格は@4,140円で、発表前の株価(2,880円)に対するプレミアムは+43.7%です。
これによって芦森工業は豊田合成の完全子会社となります。
発表前の株価水準における芦森工業のPBRは0.69倍です。

さらにセメント製造・販売に特化した管理システム、ソフトウエアを開発する パシフィックシステム(3847) パシフィックシステム(3847)は、親会社の 太平洋セメント(5233) 太平洋セメント(5233)にTOBによって非上場化されます。

パシフィックシステムへのTOB価格は@6,850円で、発表前の株価(5,250円)に対するプレミアムは+30.4%です。
発表前の株価水準におけるPBRは1.16倍でした。

パシフィックシステムは、もともと太平洋セメントのシステム部門が分離独立して設立されたという経緯があります。
今回のTOBによる完全子会社化によって、AI開発やERP(統合基幹システム)、画像処理へとじっくり幅広く取り組むことができるようになります。

このほかにもスタンダード市場では、歯愛メディカル(3540) 歯愛メディカル(3540)フロイント産業(6312) フロイント産業(6312)TAC(4319) TAC(4319)ソフト99コーポレーション(4464) ソフト99コーポレーション(4464)など、TOBやMBOが相次いで発表されています。

いずれも東証からの市場改革の要請に沿って上場維持基準をクリアしようと努力していたのですが、それぞれの企業の事業戦略や現在の資本関係の中で最善の道を歩み始めたものと理解されます。
上場維持ばかりがベストの選択ではありません。

PBRの低さがもたらすプレミアムの高さは投資家にとって魅力です。
主にスタンダード市場を中心に低バリュー株をピックアップしてみます。

銘柄ピックアップ

藤倉化成(4620) 藤倉化成(4620)
化学品の中間材メーカー。
フジクラの持分法適用会社でフジクラが筆頭株主。
21.3%の株式を保有する。
主力製品は自動車向けのプラスチックコーティング材で、自動車用の内装部品用、外装部品用、電装用塗料で、製品のラインナップは300種類以上。
世界でも高シェアを誇る。
また建築用塗料はハウスメーカーごとにカスタマイズした専用の塗料を製造。
年間3万棟以上の戸建て住宅の外装仕上げに使われている。
借入金負担は少なくPBRは0.4倍台と低い。

藤倉化成(4620)

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ユタカフーズ(2806) ユタカフーズ(2806)
東洋水産が筆頭株主で40%を保有。
液体調味料、チルド食品、麺用粉末が主軸。
東海地方より西のエリアで「マルちゃん」ブランドのチルド麺(焼きそば、ワンタンなど)の製造を担う。
「うなぎのたれ」は業界トップクラスの生産量を有する。
めんつゆ、だしも今や主力製品に。
OEM製品もつゆ、たれ、だしなどしょうゆ、みそ加工品を広く扱う。
新工場の稼働で減価償却の負担が増すが、完全無借金でPBRは0.6倍台と低い。

ユタカフーズ(2806)

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ミライアル(4238) ミライアル(4238)
半導体シリコンウエハを運搬するプラスチック容器で世界トップシェア。
ほかにも半導体工程内での容器など半導体関連製品が主軸。
シリコンウエハに代表される半導体の製造工程では極端なほどにホコリや汚染を嫌う。
そのリスクからウエハを防ぐクリーン技術、成形の際に寸法の誤差が出ない成形技術が強み。
半導体不況の中にあって中間期は減配、通期見通しいまだ公表できずだが、完全無借金でPBRは0.4倍台と低い。

ミライアル(4238)

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大成ラミックグループ(4994) 大成ラミックグループ(4994)
食品包装フィルムと液体高速充填機をダブルで提供。
しょうゆ、マヨネーズ、ドレッシングなど食品用の液体・粘体包装用フィルムで製造・販売とも国内トップ。
3割超の高シェアを有する。
サトウキビから抽出したバイオエタノール原料のポリエチレン配合フィルム、液体を小袋に充填する際の高いスキルを必要としない新型充填機など、消費者や食品メーカーの要望に即した製品を供給している「小さな巨人」。
完全無借金でPBRは0.6倍台と低い。

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以上

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト
1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)
主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)
公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

呼びかける時は「スズカズ」、「スズカズさん」と呼んでください。

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