株式アナリストの鈴木一之です。
今回の「市場交差点」は半導体素材メーカーに関してまとめてみます。
この原稿を書いている2025年11月、3月決算企業の中間決算の発表が佳境を迎えています。
厳しい経営環境の状況下にあって、化学セクターの中堅クラスの業績がすこぶる好調です。
扶桑化学工業、太陽ホールディングス、第一工業製薬など、これらの企業は主に半導体の製造工程で用いられる原材料、素材を供給しています。
半導体メーカーの業績は、先端的な半導体を製造しているか、それとも旧型の半導体かによって業績の良し悪しがかつてなく差がついていますが、素材メーカーの多くは高収益をしっかりと維持しています。
その理由は大きく分けて、3つ挙げられます。
(1)半導体需要の再拡大
生成AI向けのサーバーや高性能GPUの需要が急増しており、台湾のTSMCや韓国のサムスン電子が最先端のロジック半導体の増産に走っています。
自動車分野でもEV化とADAS(自動運転支援)は着実に進展しており、1台あたりの半導体の搭載個数が増加しています。
このような「AIとモビリティ」の2つの需要増から半導体素材メーカーの受注が拡大していると見られます。
(2)高付加価値素材の採用が拡大
微細化が極限まで進み、高性能化にも拍車がかかっていることから、半導体の素材に求められる耐熱性や誘電特性が一段と高まっています。
扶桑化学工業の高純度ポリシリカ、太陽HDの絶縁インキ、第一工業製薬の洗浄剤、封止材など、最先端プロセスで採用される比率が高まっています。
これらは代替が効かないため単価引き上げが容易で、それだけ利益を押し上げています。
(3)在庫調整の一巡、設備稼働率の回復
2023年から続いたメモリとロジックの在庫調整がいよいよ終わろうとしています。
これまで何度も見通しが後ろにずれてきましたが、顧客である半導体メーカーの稼働率が回復に向かい、素材メーカーの出荷状況も回復基調にあります。
円安も追い風となって輸出も改善しつつあります。
以上の3つの要因から化学セクターを中心に、半導体素材の中堅メーカーの業績が大きく押し上げられています。
以下に関連する銘柄を挙げてみます。
銘柄ピックアップ
扶桑化学工業(4368) 扶桑化学工業(4368)
リンゴ酸・クエン酸などの果実酸や、半導体製造に不可欠な超高純度コロイダルシリカなど、世界にここにしかないオンリーワン製品を製造する。
リンゴ酸・クエン酸は食品の酸味づけのほか、医薬品(pH調整剤、緩衝剤)、化粧品、サプリメントに使われる。
超高純度コロイダルシリカは半導体・ウエハ研磨剤の主原料で、同社ならではの高い粒径・形状制御技術、超高純度化技術なくしては作れない。
先端半導体には不可欠で通期見通しを増額修正(営業利益:140→175億円)。

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第一工業製薬(4461) 第一工業製薬(4461)
戦前は絹紡織用の繊維油剤、戦後は界面活性剤を製造。
現在はウレタン材、樹脂用材料、電子デバイス用材料などさまざまな化学素材を手がける。
さまざまな技術を組み合わせて幅広い産業分野に工業用薬剤を提供することが強み。
ハイエンドサーバー向けの低誘電樹脂材料や、リチウムイオン電池向けの負極用複合接着剤への引き合いが一段と強まり中間期は+56%の大幅な増益。
通期見通しを増額修正(営業利益:68→82億円)。
研究開発投資にも積極的。

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太陽ホールディングス(4626) 太陽ホールディングス(4626)
プリント配線板の保護膜、半導体実装に用いるレジストインキ(絶縁材インキ)で世界トップの60%シェアを有する。
業績好調の背景として、レジストインキはパッケージ基板用でメモリ向けを中心に引き合い強く販売数量が増加。
リジッド基板用でも車載、スマホ用部材を中心に堅調。
通期見通しを増額修正(営業利益:247→269億円)。
11月末を基準日として1対2の株式分割を予定。
2030年度を目標にROE30%の遠大な目標を掲げる。

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長瀬産業(8012) 長瀬産業(8012)
化学メーカーではないが、先端機能材料(電子部品、半導体)、スペシャリティケミカル(合成樹脂)を扱う化学専門商社。
業界トップの実力と伝統を誇る。
特に先端機能材料の分野では、半導体(回路形成、封止材)の分野で精密洗浄・加工技術、表面処理技術、感光性樹脂設計技術を基礎として自社開発した変性エポキシ樹脂、現像液を供給する。
モバイル向けは低調だったが、AIサーバー用半導体向けが堅調に推移。
通期見通しを増額修正(営業利益:395→407億円)。

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以上
鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える
核融合発電(2025.10.17)
自動運転技術(2025.09.11)
活発化するスタンダード市場のTOB、MBO(2025.08.15)
内需関連株(2025.07.18)
株主総会直前レポート(2025.06.12)





