株式アナリストの鈴木一之です。
今回の市場交差点では「核融合発電」について述べてみます。
10月4日(土)に投開票が行われた自民党総裁選では決選投票の結果、高市早苗氏が自民党の新しい総裁に選出されました。
公明党が自民党との連立政権から離脱することとなったため、臨時国会において高市新総裁が内閣総理大臣に選ばれるかどうか不確定な部分があります。
それでも株式市場では高市氏の掲げる政策に沿った銘柄の物色が活発化しています。
中でも期待の高いのが「夢のエネルギー源」と期待される核融合発電です。
高市氏が岸田政権の経済安全保障相だった2024年7月、それまでの核融合発電に関する国家戦略を改定すると発表しました(その後、2025年6月に改訂版を正式に発表)。
2023年に策定されたそれまでの国家戦略は、核融合発電の実現を「2050年ごろ」としていました。
それを今回の改定で「2030年代」まで大きく前倒ししています。
世界に先駆けての発電実証となりますが、エネルギー自給の要請がそこまで急がれるほど、経済安全保障の領域が重大な責務となっていることが示されています。
核融合発電の利点と実現への動き
核融合発電の「核融合」とは、原子核同士が衝突してより重い原子核に結合する現象です。
結合する際に放出される膨大なエネルギーを利用して発電します。
核融合は、太陽の中心で常に起きている現象です。
太陽の中心部では1600万度の高温と2400億気圧という想像を絶する高温・高圧で、水素の原子核がヘリウムの原子核に変換されて莫大なエネルギーが生み出されています。
この現象を地上で再現しようとするのが核融合発電です。
重水素と三重水素を結合させてヘリウムに変え、その時に出るエネルギーを取り出して水を沸騰させ、その水蒸気でタービンを回して電気を起こします。
燃料となる重水素と三重水素は海水から採取でき、地球上にほぼ無尽蔵に存在します。
二酸化炭素を出さないので脱炭素の点でも最適です。
核融合は外部からのエネルギーの追加がなければ自動的に停止します。
この点が現行の原子力発電の「核分裂」とは大きく異なっています。
後者は、核分裂の際に放出されるエネルギーを利用して発電しており、ひとたび核分裂が制御不能に陥ると連鎖反応によって重大な事故につながるという大きな弱点があります。
核融合は放射性廃棄物がほとんど出ないという特徴もあります。
良いところずくめの核融合発電にも欠点があります。
プラスの電荷をもつ原子核同士をくっつけるために、地上で太陽と同じような高温・高圧の環境を作り出さなくてはなりません。
これが最大の難関です。
1億度近い高温と高気圧を保つこと、放出された中性子によって装置が損傷されることなど、克服すべき課題がまだたくさんありますが、米国ではさまざまなスタートアップ企業の手によって難問は徐々に克服されつつあります。
日本、EU、米国など7か国が共同で「ITER」(イーター)という核融合の実験炉を作り出す超大型プロジェクトが進められています。
この実験炉は半径6メートル、超伝導コイルによる磁場と電流との作用でプラズマを閉じ込めるドーナツ型の「トカマク型」の設計です。
「ITER」の目標は、核融合による50万キロワットの出力を長時間にわたって実現するもので、核融合エネルギーが科学・技術的に実現可能であることを示すことにあります。
ここでは日本の研究機関も大きな役割を果たしています。
人類の創意と工夫で「夢のエネルギー」核融合発電が実現する日が近づいていることが実感されます。
以下に関連銘柄を挙げてみます。
銘柄ピックアップ
古河電気工業(5801)
古河電気工業(5801)
電線御三家の一角で光ファイバーでは世界有数の企業。
現在の事業部門は、情報通信、エネルギー、自動車部品・電池、電装エレクトロニクス、機能製品の5つを展開し、生成AI向けのデータセンター用冷却装置や光ファイバーが急速に伸びている。
核融合プロジェクト「ITER」では電磁機能部品であるCS(中心ソレノイド)に用いる超伝導導体を構成するCS素線を製造する。
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
EVERチャートを開く
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
大同特殊鋼(5471)
大同特殊鋼(5471)
世界最大規模の特殊鋼メーカー。
現在の売上の5割以上が自動車向けで日産・ホンダ向けが多いが、自動車のCASE、半導体製造装置、グリーンエネルギー、航空・宇宙、医療機器など高機能特殊鋼(ステンレス鋼、高合金、磁石、軟磁性材料、チタン)の将来に向けた需要は旺盛。
レアアースを使わないモーターも持つ。
ITERでもダイバータの外側ターゲット用の特殊ステンレス鋼を担当する。
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
EVERチャートを開く
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
有沢製作所(5208)
有沢製作所(5208)
ガラス繊維から始まってプリント基板向けの電子材料、産業用構造材料(ボーイング向けの航空機内装材、海水淡水化用の圧力容器)、電気絶縁材料、ディスプレイ材料を製造する。
スマホ向けが中心だが車載、半導体など高付加価値製品に力点を置く。
「ITER」計画では超伝導トロイダル磁場コイルの極低温耐放射線電気絶縁材の開発に技術面、品質管理面で貢献したとして表彰された。
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
EVERチャートを開く
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
助川電気工業(7711)
助川電気工業(7711)
熱制御技術に特化した原子力・火力発電所向け機器を製造。
熱のシステムエンジニアリングを得意とする研究開発型企業。
半導体製造装置の特殊加熱機から自動車生産向けの電磁ポンプまで、すべて独自に開発した機器を組み合わせて装置全体を設計・製造する。
核融合炉では、「ITER」と並行して日欧が共同で進める「JT-60SA」プロジェクトに総合試験装置を供給。
ブランケット候補剤である液体金属のリチウム鉛ループや超伝導マグネットを供給している。
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
EVERチャートを開く
三菱UFJ eスマート証券のチャートツールEVERチャートで作成
週足表示、2025年10月14日まで
以上
鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える
自動運転技術(2025.09.11)
活発化するスタンダード市場のTOB、MBO(2025.08.15)
内需関連株(2025.07.18)
株主総会直前レポート(2025.06.12)
株式分割(2025.05.16)




