鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える  「株式分割」 鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える  「株式分割」

鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える  「株式分割」

株式アナリストの鈴木一之です。

今回のテーマは「株式分割」です。

株式分割とは、上場企業がすでに発行した株式を小さく分割することです。
1株を2株、3株、5株などに細かく分けることを指します。

1株を2株に分割する場合、「1対2(1:2)の株式分割」と表わします。
それまで100株を保有していた株主は、株式分割が実施された後は自動的に200株を保有することになります。

保有している株数が2倍に増えるので、株価は(理論上は)2分の1に値下がりします。
「1対2」の分割前に6,000円だった株価は、分割後は3,000円になります。

株価は表面的には半値に下がりますが、株数が2倍に増えるので、株主として有している価値は分割前と分割後では基本的に変化しません。

ただしこれはあくまで理論上の話です。
実際には株式分割が行われると往々にして株価は理論値よりも高くなります。
上の例で言えば、「1対2」の株式分割後に理論上は3,000円に低下するはずの株価は、実際には3,200円だったり3,500円だったりと、わずかですが理論値を上回るケースが数多く見られます。

なぜ分割後の株価が理論上の株価よりも高くなるのでしょうか。
明確な理由はありませんが考えてみると、それまでは60万円(6,000円×100株)を用意しないと投資できなかった銘柄が、「1対2」の株式分割によって30万円(3,000円×100株)で買えるようになるので、それなら投資をしてもよいと考える投資家が増えるためではないでしょうか。

そうなると買い需要の方が、売りによる株式供給を上回ることになり、そのため理論値よりも高い値段で分割後の株価が形成されることになると見られます(株価のことですから常にそうなるとは限りません)。

株式分割は決算期末が近づくと増えます。
株式分割の発表は、実際に分割が行われる日(分割の効力発生日)に先立って行われます。
そのために分割後の株価上昇を期待して、発表直後から株価が大きく上昇するケースが多々見られるようになります。

とりわけ「1対5」、「1対10」のような大幅な株式分割になると、発表直後から株価は大きく値上がりする事例が多々見られ、それが積み重なることで「(大幅な)株式分割は買い」というある種のパターンが株式市場には浸透しているように見られます。

東京証券取引所はこれまで、上場会社に対して最低投資単位(単元株=100株)での投資金額が50万円未満になるように努力することを要請してきました。
株価にすると5,000円以下になるように株式を分割してほしいと要望を出し続けてきたのです。

その結果、2022年末には最低投資金額が50万円以下となる上場企業の数が、東証全体の95%にまで低下しました。

それでも東証は投資単位引き下げの要請を緩めることはなく、上場企業にはなお一層の投資金額の引き下げを求めています。
2025年4月には最低投資金額の目安を、従来の50万円から新たに10万円として、上場企業に対してさらなる引き下げを働きかけています。

個人投資家にアンケートをとると、最低投資金額は「10万円程度」という要望が最も多く、それがきっかけで東証の求める最低投資金額の目安が10万円程度となった模様です。
このような要請を受けて、これからも株式分割を実施する企業はさらに増えると見られます。

ご参考までに、最低投資金額の高い企業を今後の注目銘柄として挙げてみました。

銘柄ピックアップ(株価は2025年5月2日時点)

ファーストリテイリング(9983) ファーストリテイリング(9983)

株価:47,990円
世界の「ユニクロ」を展開するアパレルの巨人。
商品企画、デザインから製造、流通、販売まで自社で手がける製造小売企業でもある。
「Life Wear」という手ごろな価格の普段着をコンセプトに世界26か国・地域で展開する。
セカンドブランドの「GU(ジーユー)」も若い世代に支持されて着実にヒットを重ねる。
売上高は3兆円を突破した。
株価は2021年3月に110,000円に乗せ、この時点で最低投資金額は1100万円に達した。
そこで1対3の株式分割を行ったが、上昇に弾みがつき再び500万円近い水準となった。
世界企業を投資しやすくするためにも大幅な株式分割が待たれる。

ファーストリテイリング(9983)

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キーエンス(6861) キーエンス(6861)

株価:62,840円
各種センサー、測定器、画像処理機器、制御・計測機器などを開発し、製造・販売を行う。
顧客のニーズを聞き出してそれに合った製品を数多く開発するが、中心はファクトリーオートメーション(FA)用センサー。
クライアントは自動車、半導体、電気機器、通信、機械、化学、薬品、食品など国内外の製造業で幅広いが、たとえば食肉メーカーであればソーセージの寸法や外観を、レーザー変位を使って全数検査する。
ミートの充填量が少ないものや変形しているものを選別することができ、食肉メーカーの省人化、合理化、生産性向上に貢献している。
最低投資金額が大幅に下がることを熱望する投資家は多い。

キーエンス(6861)

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任天堂(7974) 任天堂(7974)

株価:12,360円
家庭用ゲーム機の世界的メーカー。
1980年代の「ファミコン」、90年代の「スーパーファミコン」、2000年代の「Wii」、「ニンテンドーDS」など数々の歴史的作品を世に送り出してきた。
ゲーム専用機を製造するだけでなく、ゲームソフトも自社で開発する。
「スーパーマリオ」、「ポケモン」、「ゼルダの伝説」「どうぶつの森」、「スマッシュブラザーズ」などこちらも数え切れないほどの名作ゲーム、キャラクターが集積する。
目下のところ最大の話題が今年6月5日に発売予定の「Nintendo Switch 2」(ニンテンドースイッチ2)。
1億5000万台を販売した「Nintendo Switch」の後継機種で、どれくらい販売台数が伸びるか世界中が注目している。
2022年に「1対10」の大幅分割を実施したが、株価はそこからさらに上昇して再び1万円を大きく超えている。
再度の大幅分割が待たれる。

任天堂(7974)

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HOYA(7741) HOYA(7741)

株価:18,055円
光学ガラスの世界的メーカー。
1962年にメガネレンズの製造を開始。
1972年にはコンタクトレンズに進出して以来、一貫して目と光にかかわるライフサイエンス分野の研究を続けている。
近年は低侵襲治療(大きく切開しない手術法)で早期診断と早期治療を実現する医療用内視鏡、先進国の高齢化で需要は高まる一方の白内障用眼内レンズなど、医療用製品を数多く提供する。
情報・通信分野では、半導体チップの製造で不可欠なフォトマスク、マスクブランクス、HDD用ガラス基板、ガラスの組成だけで5万件のデータベースを活用するデジカメ用光学レンズも手がける。
連続最高益更新の見通し。
2004年に「1対4」の分割を行って以来、大きな株式分割なし。
次の分割発表に期待が寄せられる。

HOYA(7741)

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以上

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

呼びかける時は「スズカズ」、「スズカズさん」と呼んでください。

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