株主還元強化の企業に高まる注目! HOTな銘柄、COOLな銘柄 株主還元強化の企業に高まる注目! HOTな銘柄、COOLな銘柄

株主還元強化の企業に高まる注目! HOTな銘柄、COOLな銘柄

株式アナリストの鈴木一之です。
12月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をお送りいたします。

結論から述べれば、12月の株価パフォーマンスは、米国が日本株を大きく上回りました。
NYダウ工業株は金利上昇を克服して史上最高値を更新し、NASDAQもその後を追いかけています。

FRBの金融政策が功を奏してインフレが抑制されつつあることが確認されつつあります。
同時に警戒された景気の後退は見事なまでに回避されています。

日本の株価は米国市場の上昇に追いつけません。
円高がひとつの理由です。11月半ばに1ドル=151円91銭までドル高・円安が進行しました。12月は米国で長期金利が急低下したことから、今度は一転してドル安・円高に転換しています。

円安によって日本の輸入物価が上昇すると、個人消費が打撃を受けると警戒されています。
しかし反対に円高が進むと、今度は企業業績にダメージが生じます。結局のところ、円安、円高、どちらに転んでも日本株の上昇は限られる、というジレンマに直面しているのが現状です。

12月の米国市場は、NYダウ工業株が+4.84%の上昇を遂げました。
11月に+8.77%という、月間では今年最大の上昇を記録した勢いをそのまま継続し、史上最高値を更新しています。

S&P500も11月の+10.70%に続いて、12月は+4.42%の上昇と大きく続伸しました。
NASDAQ総合指数も11月に+8.92%の上昇を記録した後、12月も+5.52%の上昇となりました。最高値の更新までそろってあと一歩というところに迫っています。

長期金利の低下が目覚ましい株価をもたらしています。
米国の10年国債金利は10月末の4.93%から、11月末には4.33%へ低下しました。それが12月はさらに3.87%まで下がりました。
FRB高官から発せられる金融政策に関する意見は、日増しにハト派的な論調に傾いています。

原油価格は引き続き下落しました。
WTI先物価格は11月末の75.58ドルから、12月末は71.33ドルへと3か月連続で値下がりしています。

好調な米国市場の動きに比べて、12月の東京市場は小さな値動きにとどまりました。
日経平均は▲0.06%のきわめて小さな値動きと、1か月間でほとんど変動しておりません。

TOPIXも12月は▲0.34%と小幅反落しました。
12月の東証グロース市場250指数(旧・東証マザーズ指数)も▲1.40%の下落となりました。
年末が近づいて、小型株に対する損失確定の売り物が月末近くまで途切れることなく続きました。

12月は活況の米国市場に対して、日本株は主要3指数がそろって小幅マイナスを記録するという不安定な月でした。

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12月もマーケットの関心は日米の金融政策に集中しています。

米国では12月13日にFOMCが開かれ、ここで政策金利の据え置きが決定されました。
これ自体は事前の予想通りで、合わせて発表されたボードメンバーの政策金利の見通し(ドットチャート)は、2024年末に中央値で4.6%に低下したことが話題を呼びました。

9月時点の中央値から引き下げられ、これによってそれまで「2024年中に2回の利下げが実施される」という市場のコンセンサスから、「3回の利下げ」に利下げ余地が拡大したことが判明しました。

FOMC後の記者会見でパウエル議長は、「利上げサイクルのピークにいるか、それに近い状態にある」と述べました。
FOMCでの議論の内容も「利上げではなく、いつ引き締めを縮小するかを話し合った」とまで明かし、タカ派的な内容を予想していた市場はFRBのハト派路線への転換にびっくりする、といった状況です。

これを機に、先物市場の価格形成から算出される「Fed Watch Tool」に現われる市場の見方は、FOMC直前の「2024年中に4回の利下げ」というものから、FOMC後には「5回から6回の利下げ」に大きく変化しました。

そうだとすると2022年3月の最初の利上げから、今回の引き締め期は1年4か月で終了することになります。
この間の利上げ幅は合計5.25%、1980年以降では最大の利上げ幅となりますが、それが引き締めから緩和方向にいよいよ転換しつつあることが確信されつつあります。
これこそが12月の米国の株高を導いた最も大きな要因と見られます。

日本はどうでしょうか。

12月7日に日銀の植田総裁は、国会答弁において「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と述べました。
この「チャレンジング」という言葉がきっかけで、市場ではマイナス金利が解除されるとの思惑が急速に広がりました。

少なくとも市場がそれまで予想していた以上に、日銀による金融政策の修正時期は近いとの見方が広がるようになったと見られます。

この日、円相場はドルに対して大きく上昇し、1ドル=147円30銭から143円70銭まで1日で大きく動きました。
2か月ぶりの高値となっています。
それをきっかけに株式市場では、自動車セクターを中心に輸出関連株が幅広く下落することとなりました。

ところが実際の行動として日銀は、12月18-19日に金融政策決定会合を開き、金融政策の「現状維持」を決定しました。

2週間前の「チャレンジング」発言で、マーケットではマイナス金利を解除するとの見方が刷り込まれました。
しかしそれが完全に肩透かしに終わり、イールドカーブ・コントロールの修正もなく、フォワードガイダンスにも変更はありませんでした。

ここから事前に積み上がっていた「円買い・株式売り」のポジションが一気にひっくり返り、決定会合の内容が伝えらえた火曜日の昼過ぎからは反対売買の「円売り・株式買い戻し」が急速に進んだと見られます。

日経平均は火曜日、水曜日の2日間だけで合計+917円も急騰し、そして手仕舞いの反対売買が一巡した木曜日には▲535円と今度は大きく反落しました。
ポジションがすっかり閉じられた金曜日以降はすっかり静かな動きとなっています。

日経平均のボラティリティは記録的な低水準に貼りついたままですが、しかしごく短い期間の値動きは以前よりも激しくなっていると実感されます。

一方で日本では、政治とカネの問題が次々と噴出しています。

東京地検はパーティー券販売を巡る政治資金規正法違反の疑いで、自民党の安倍派と二階派の事務所を家宅捜索しました。
これによって松野官房長官、萩生田政調会長をはじめ、安倍派の閣僚、自民党幹部など、政策運営のカギを握るリーダー格5人が辞表を提出し、表舞台からいったん降りました。

岸田政権の内閣支持率の低下に拍車がかかっており、12月の世論調査では軒並み20%に落ち込んでいます。
自民党が政権与党に復活した2012年以降では最低レベルです。

12月という1年の締めくくりの時期に、政治と経済面で明るい話題がなく、来年度予算案も社会保障費の増大、郵便料金の大幅な引き上げなどマイナス面が強調されています。

それでも株式市場はまだしっかりした動きが見られます。その辺の動きを今度は個別銘柄の上昇・下落の視点から見てゆきます。

12月相場で上昇が目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。

12月相場は、日経平均は1か月で▲0.06%の下落にとどまり、ほとんど変動のなかった月でした。
それだけに物色の方向をひとつのテーマや言葉でくくるのがむずかしく、個別銘柄の選別物色がかなり強まった月と言えそうです。

物色の方向性をあえてグループ分けするならば、ここでは「業績好調の銘柄」、「MBO、TOB」の2つのカテゴリーを取り上げてみます。

引き続き好業績を発表した銘柄には根強い買いが継続しています。

単に「発表された決算内容がよかった」というだけにとどまらず、増配、配当性向の向上、株式分割の実施など、株主還元を強化する方針を好決算と合わせて発表した企業に対して高い評価が下されています。

代表格は巴工業(6309)です。

巴工業(6309、第5位、2,876円→3,850円、+33.9%)

巴工業は10月決算の化学機械メーカーです。
12月14日に2023年10月期の決算を発表し、売上高は496億円(前年比+8.9%)、営業利益は40.4億円(同+22.7%)と前期に続いて大幅な増益となりました。
最高益を更新しています。

国内では企業の設備投資が活発化しており、海外市場も好調で同社が得意としている遠心分離機が伸びています。
また化学製品でも、生分解性ポリマーや建材用のコンパウンド、シリコンウェハー用ハブ、ダイシングブレードが好調でした。

好調な決算内容を反映して、配当方針を従来の「安定配当を目指す」という抽象的な表現から、「配当性向40%以上」へとより具体的な数値目標に変更しました。
これによって年間の配当金は1株当たり80円から110円に大幅に増額されることになり、株価は大幅な上昇に転じています。

同じように好調な業績を背景に株主還元を強化する企業が増えています。
人材派遣のアルトナー(2163)もそのひとつです。

アルトナー(2163、第12位、1,807円→2,289円、+26.7%)

アルトナーは技術者派遣の老舗です。
自動車メーカーやエレクトロニクス企業に向けてエンジニアを派遣する事業を展開しています。

創業から70年の歴史を持ち、リーマン・ショックの直後に業績が大きく落ち込んだことの反省から、単なる技術者を派遣するだけの事業には見切りをつけ、企画、開発、設計など派遣先企業の生産工程の「上流部門」に当たる、付加価値の高い技術者に特化した派遣業へとビジネスモデルを大幅に切り替えました。

その事業構造の転換が奏功して、12月8日に発表した2024年1月期の第3四半期の決算では、売上高が75.5億円(前年比+9.6%)、営業利益が11.6億円(同+25.0%)と引き続き大幅な伸びとなっています。

合わせて2024年1月期の見通しも増額修正しています。
新たな見通しでは、売上高は従来の97.9億円から100.5億円に(前年比+8.7%)、同じく営業利益は従来の13.2億円から15.2億円(+27.8%)に、それぞれ上振れしました。
クライアントからの技術者の派遣要請が高まっており、派遣単価が上昇していることが上方修正の理由です。

これによって通期での最高益更新の見通しがより確実なものとなり、配当性向を50%としていることから、期末配当金も従来の32.0円から37.5円に引き上げました。

自動車メーカーを中心に製造業の新製品の開発意欲が強いことから、好業績、高配当はまだ今後も続くとの見方が増えています。
株価は決算発表後から大幅な上昇を続けることとなりました。

タムロン(7740)も業績および配当金の増額修正を発表しました。

タムロン(7740、第21位、4,415円→5,320円、+20.5%)

もともと一眼レフカメラ用の交換レンズが好調だったことに加えて、新たに車載用レンズや監視カメラ用レンズ、内視鏡用レンズも順調に拡大しています。

今年11月に歴代社長による不適切な経費使用が発覚し、そこから第三者による特別調査委員会を設置して、12月に最初の調査報告書を提出したばかりです。

長年の悪弊を出し切ったことと、報告書の提出に合わせて通期の業績見通しの増額修正(売上高を710億円→722億円、営業利益を125億円→131億円)、期末配当金の引き上げ(90円→135円)を明らかにしたことから、株価は一段の上昇へと弾みがつきました。

ギフトHD(9279)も通期業績の上方修正、配当金の引き上げを発表しています。

ギフトHD(9279、第11位、2,032円→2,580円、+27.0%)

「町田商店」を中心に複数ブランドの横浜家系ラーメン店をチェーン展開しています。
コロナ禍で外食各社が厳しい状況にあっても、同社は月次売上高の伸びで確認される業績の好調ぶりが高く評価されてきました。通期の業績がほぼ確定したことから増配に踏み切ったと見られます。

繊維商社の高島(8007)も同様に業績が好調です。

高島(8007、第18位、957円→1,170円、+22.3%)

「100年企業」の高島は祖業が繊維商社ですが、今ではM&Aを活用した多角化を進めており、建材、電子部品、自動車部品、太陽光発電に事業を拡大しています。
業績は好調で、前2023年3月期は電子・デバイス事業が牽引する形で最高益を更新しました。

高島は東証が定めるプライム市場の上場維持基準を、流通株式時価総額と1日平均の売買代金の2項目で満たしておりません。
そのために改善策として昨年から、持続的な利益成長、株主還元、IR体制を強化する方針、を打ち出しています。

12月14日に固定資産の売却益を特別利益として通期の業績に計上する見込みとなりました。
これによって2024年3月期の当期純利益の見通しを増額修正し、従来の17億円から48億円へと大幅に上積みしています。

そしてこの特別利益を原資として、発行済株式総数の12.9%に当たる230万株の大規模な自社株買い、および期末配当金の引き上げ(従来見通しの25円から40円に、うち普通配当25円、特別配当15円)を行うと発表しました。

さらに中期経営計画での利益見通しの引き上げ(2026年3月期の売上高を1,000億円→1,100億円、営業利益を23億円→26億円、戦略的投資枠を100億円超→150億円)を行いました。

高島の例に見られるように、資本効率を高める経営に自らを変革する動きが始まっています。
政策保有株式など不要不急の固定資産を売却して、そこで得られた現金を成長投資に振り向ける、あるいは株主に還元する動きが増えています。
この流れは上場企業の間でさらに増えてゆくことになりそうです。

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11月に続いて12月相場でもMBO(経営陣による自社の買収)やTOBが活発に見られました。
ここで中核となったのは11月に続いてベネフィット・ワン( 2412)です。

ベネフィット・ワン(2412、第4位、1,515円→2,123円、+40.1%)

ベネフィット・ワンには当初、エムスリー(2413)が発行株数の55%を取得するTOBを発表し株価が急騰しました。
大株主であるパソナグループ(2168)もこのTOBに賛同しており、そのまますんなりと決着するかに見られました。

しかし途中から第一生命HD(8750)がエムスリーのTOB価格を上回る買収価格を提示して、ベネフィット・ワンの買収に参戦しました。
第一生命はベネフィット・ワンへのTOB価格を2,123円とし、買収計画を発表していたエムスリーの提示価格(1,600円)よりも大幅に上乗せしています。

第一生命側は年明け1月からTOBを開始します。
最終的にどのように決着するのか、まだ結論は出ていません。
上場企業を上場企業同士が奪い合う、国内ではきわめて珍しいケースとなり、ベネフィット・ワンの株価は12月も一段高となりました。

もうひとつ注目された事例が東京楽天地(8842)です。

東京楽天地(8842、第1位、4,300円→6,840円、+59.1%)

東京楽天地は東京・錦糸町の駅前に大規模なアミューズメント施設を運営しています。
阪急・東宝グループの東京・下町地区の直営拠点として、映画館、レストラン街、サウナ、フットサルなど幅広いファンにアピールするスポットを運営。錦糸町のランドマーク的な存在となっています。

12月6日に親会社の東宝(9602)が東京楽天地に対して、6,720円でTOBを行うと発表しました。
東京楽天地はそれまで東宝の持分法適用会社でしたが、株式の過半数を取得して完全子会社化する計画です。
TOBが成功すれば東京楽天地は上場廃止となります。

これと日を同じくして阪急阪神ホールディングス(9042)は、東証スタンダード市場に上場するオーエス(9637)に対して5,000円でTOBを行うと発表しました。

オーエスも東京楽天地と同様にアミューズメント施設を運営しており、映画、サウナ、ゲームセンターなどのサービスを提供しています。
阪急阪神ホールディングスによるTOBでは100%子会社化を目指しており、成功すればオーエスも上場廃止となります。

阪急阪神ホールディングスも東宝も、小林一三氏が創業した日本有数の企業集団です。
その関連会社である東京楽天地やオーエスは、大都市の一等地に不動産の優良物件を持つという共通点があります。

実質的な解散価値を考慮すれば、株価は長年にわたり大幅な割安状態に置かれてきました。
現状のままではアクティビストに目をつけられて、株式の買い集めが始まる可能性は否定できません。

そうでなくても東証からの上場維持基準を巡る時価総額の基準や、コーポレートガバナンスに基づく親子同時上場に関する説明責任など、株式を上場していることのリスクや不確実性が急速に高まっています。

それならば早いうちにグループ内に取り込んで、非上場化の道を選ぶという選択も以前より有効になっています。
親子上場を巡る動きは年明け以降も活発になる可能性があると見られます。

人材派遣のアウトソーシング(2427)もMBOによって上場廃止を選んだ企業のひとつです。

アウトソーシング(2427、第3位、1,200円→1,740円、+45.0%)

アウトソーシングは人材派遣の中でも製造業の業務請負が中心です。
クライアントは自動車メーカーやエレクトロニクス企業に集中しています。

製造業の間で請負契約が拡大し、リーマン・ショック後に業績が急拡大しました。
株価は大幅に上昇して、2013~2018年の5年間でいわゆる「テンバガー」10倍株、それ以上のパフォーマンスを演じ、みごとに成長株の評価を市場から獲得しました。

しかし最近はコロナ禍もあって業績が伸び悩み、それを埋め合わせるためにM&Aを駆使した強引な拡大路線を追求したため、とうとう会計処理の不適切が発覚したばかりです。

2022年1月に再発防止策を公表し、2023年11月にはその修正策を発表したばかりですが、12月になると力尽きたかのようにMBOによる非上場化を選択すると発表しました。

このほかにも株価の上昇にはつながっておりませんが、日本製鉄(5401)は米国のUSスチールを2兆円で買収する計画を発表し、三菱ケミカルグループ(4188)はジャンマーク・ギルソン社長が降板するという大きなニュースが次々と明らかになりました。

日経平均に見られるように株価の動きは小さくとも、年の瀬に際して企業サイドの動きは一段と活発になっているように見えます。

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続いて12月相場で値下がりの目立った銘柄、「COOLな銘柄」をご紹介します。

引き続き小型成長株が軟調な動きを余儀なくされました。

ファーマフーズ(2929、第6位、1,283円→1,002円、▲21.9%)
セルソース(4880、第8位、1,598円→1,279円、▲20.0%)
エニーカラー(5032、第11位、3,850円→3,110円、▲19.2%)

エイチーム(3662、第14位、684円→574円、▲16.1%)
ネットプロHD(7383、第17位、243円→205円、▲15.6%)
オーケストラ(6533、第27位、1,278円→1,116円、▲12.7%)

各企業に具体的な悪材料、売り材料が出ているわけではありませんが、総じて業績の伸び悩み、あるいは業績はよくても株価の評価にほぼ織り込まれたと見られる銘柄が大きく下落しています。

小型成長株は2022年暮れ~2023年前半にかけて、長期金利の上昇とともに株価が大きく下落に転じました。
その長期金利は日米ともに11月半ば以降は低下方向に変わりつつありますが、しかしまだ株式市場では小型成長株の転換点は見られません。

ここではセルソース(4880)を例に取り上げます。

セルソースが12月15日に発表した2023年10月期の決算は、売上高が45.1億円(+5.5%)と増収を維持しているものの、営業利益は12.2億円(▲22.2%)へと大幅な減益を余儀なくされました。

続く今2024年10月期の決算も、売上高は53.6億円(+19.0%)と大幅な増収となっていますが、営業利益は10.0億円(▲17.8%)の減益が継続する見通しです。

セルソースは再生医療の核となる幹細胞加工受託サービスを行っています。
提携する医療機関も拡大しており事業は順調に伸びていますが、さらなる業容拡大を見すえて製造拠点の拡充や人員の大幅な増強という先行投資に資金を重点配分しています。
その部分が費用の増加となって利益を圧迫しています。

インフレの時代に入り、小型成長企業の成長投資が以前よりも資金面でかさむようになってきました。
それが成長企業の利益圧迫につながり、グロース株受難の局面を招いているようにも見えます。

大型株ではトヨタグループの株価下落が目につきました。

トヨタ紡織(3116、第35位、2,550円→2,238円、▲12.3%)
東海理化(6995、第36位、2,478円→2,175円、▲12.2%)
ジェイテクト(6473、第39位、1,356円→1,194円、▲12.0%)

ここでも政策保有株の売却が影響しています。

12月半ばにデンソー(6902)がトヨタグループ3社の政策保有株をすべて売却したことが判明しました。
12月15日付で日本経済新聞が報じています。

今回デンソーが売却したのは日野自動車(7205)、豊田合成(7282)、愛知製鋼(5482)です。
報道では売却額はそれぞれ18億円、25億円、5億円とされています。

トヨタグループではグループ企業相互で株式を持ち合ってきました。
それが徐々に持ち合い解消の方向に向かっています。
今回の売却対象とされた3社もデンソー株を保有しており、それも売却されている可能性が高くなっています(デンソー株は12月相場で▲8.1%下落しました)。

結束の固いトヨタグループの企業同士でも政策保有株の売却がお互いに進むほどですから、日本中の至るところで同様のケースが増えていると見られます。
今回の報道をきっかけにトヨタグループの株価が急落しましたが、いずれもすぐに株価は落ち着きを取り戻してその後は徐々に値を戻しています。

資本効率を高めるための持ち合い株式の売却は、今後ますます加速すると見ることができそうです。
その時に様々な面で投資のチャンスありと考えておくべきでしょう。

資本移動に関連する銘柄

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2023年12月 東証プライム市場 値上がり率・値下がり率上位表
鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

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