抗がん剤としてADC(抗体薬物複合体)の存在感が増してきています。
この分野で先行している第一三共が2023年10月、新たに米メルクと3つのADCについて戦略的な提携を締結したと発表しました。
また、アステラス製薬も尿路上皮がん患者への併用療法での試験結果が良好だったと発表。
日本が強みを有している手法だけに、今後のさらなる拡大が期待されています。
ADCとは抗体に薬物を結合させたバイオ医薬品の一種。
抗体の選択性と強力な化学療法の細胞殺傷力を併せ持っています。
抗体が狙った細胞や組織にピンポイントで薬を運ぶことができ、ほぼがん細胞だけを攻撃することができます。
一般的な化学療法では、周辺の正常細胞にも影響を及ぼすことで副作用が出るリスクが大きくなります。
ADCはがん細胞内でのみ、薬剤を「弾頭」のように放出するよう設計されています。
結果として、全体としての薬物投与量を抑えられるメリットもあるようです。
ADCの構成要素は(1)抗体(2)リンカー(3)薬物の3つです。
抗体は特定の異物にある抗原(目印)に特異的に結合して、その異物を生体内から除去する分子のこと。
リンカーは薬物と抗体のつなぎ役で、薬物は治療標的に効く薬となります。
ADCが血液中を循環し、がん細胞に到達するとまず抗体ががん細胞表面の特定のたんぱく質に狙いを定めて結合し、がん細胞にADCが取り込まれると抗体と薬物を結ぶリンカーが切断され、薬物ががん細胞を内側から攻撃するという仕組みです。
ADCのコンセプトは1990年代にドイツの学者によって提唱され、製薬各社が研究開発に取り組んできました。
しかし、実用化への壁は厚く、日本では2005年に米ファイザー社製が初めて承認を受けました。
ただ、あまり実用的ではなかったとされています。
第一三共は2010年に新たなADC技術の確立に向けた研究チームを発足。
2013年に独自の新たなADC技術を確立し、2015年に対外発表しました。
この技術を英製薬大手のアストラゼネカが注目。
19年3月にDS-8201(開発コード、製品名はエンハーツ)に関するグローバルな開発、商業化契約を締結しています。
第一三共は契約一時金やマイルストン(開発段階に応じた収入)など最大で7,600億円を受け取る契約になっています。
エンハーツは乳がん領域で2019年12月に米国で承認を取得しています。
同剤にとって初の承認取得で、米FDA(食品医薬品局)に同年10月に承認申請が受理されてから、わずか2か月で承認されました。
その後、適応拡大されて順調に売上高を伸ばしています。
エンハーツは24年3月期の第2四半期の累計売上高が1,451億円(前年同期比2.1倍)となっています。
通期では4,336億円を見込みます。
関連銘柄をピックアップします。
2023年10月21日に、米メルク社と提携しADC技術の抗がん剤3製品を共同で商業化すると発表している。契約では最大220億ドル(3兆3,000億円)を受け取る。国内製薬会社の契約では過去最高額という。がん分野で世界トップクラスの開発・販売力を持つメルクと組むことで将来的な売上高を伸ばすことを狙う。メルクとは肺がんや卵巣がん向けのADCを開発する。臨床試験を進めており、一部でがんの進行を抑え、生存率を上げるなどの有効な結果も示されている。早期承認の可能性もあるとみられる。
2023年9月22日に、ADCの「PADCEV(パドセブ)」について、尿路上皮がんを対象とした第3相試験で良好な結果が判明したと発表している。また、10月23日には尿路上皮がん治療薬パドセブの対象患者への臨床試験で有効な結果を得たと発表。米メルクのがん免疫薬「キイトルーダ」と組み合わせる手法で、化学療法と比較して死亡リスクが53%減少、全生存期間数も大幅に伸びたとしている。外資系証券のリポートでは欧州での発表時に、会場から大きな拍手と歓声が起きたという。
2021年6月に米ブリストルマイヤーズスクイブ社とADCである「MORAb-202」の共同開発・共同商業化に関するグローバルな独占的戦略的提携契約を締結したと発表している。エーザイ初のADC。2022年6月には米臨床腫瘍学会年次総会のポスターディスカッションで、MORAb-202の臨床1相試験で安全性や有効性についての最新の知見を発表した。
2023年8月に米イミュノジェン社と、日本を対象としたADCである「MIRV」の独占的開発・販売に関するライセンス権を取得したと発表している。卵巣がん治療のために開発された初のADCで、日本での製造販売承認申請に向けて開発を進めていくとしている。FDAは22年にMIRVについて一部の上皮性卵巣がんや卵管がんなどの治療薬として早期承認している。
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