米国のEV(電気自動車)の優位性が2つの点から関心を集めています。
ひとつはEV大手テスラが開発した充電インフラが米EVのライバルメーカーに採用の動きが出ていること、もう一つはバイデン大統領の新たな米国内自動車向け環境規制の導入です。
テスラの充電規格はNACSという独自規格で、一般的には「スーパーチャージャー」と呼ばれています。
自社で高速充電施設を整備しているスーパーチャージャーは出力が高く、短時間で充電ができる強みがあります。
米ではほかにバイデン政権が普及を後押ししているCCSという充電規格があり、ゼネラルモーターズ(GM)やフォード・モーター、フォルクスワーゲンなどが採用しています。
大手調査機関などによれば、テスラは23年1~5月期の米バッテリー(B)EVの販売台数シェアが61%と断トツ首位で、スーパーチャージャーの設置台数もCCS規格を凌駕しているとのこと。
こうした中、今年5月にはGM、フォード・モーター、がNACS規格の充電インフラの利用に合意したと発表しています。
3社合計で米BEVの7割のシェアを有しており、今回の合意はNACSが米国のスタンダードになる可能性を示しています。
そもそもNACSは「ノース・アメリカン・チャージング・スタンダード」の略。
それ以前はテスラコネクタと呼ばれていました。
テスラはNACSの情報を公開し、どのメーカーでも使えるようにしたことで、米国自動車団体が主導する北米の標準規格になりそうです。
充電規格の公開に踏み切ったのには、バイデン政権が2022年8月に成立させたインフレ抑制法(IRA)の存在があるともされています。
この法律では米国で補助金を受けられるEVは(1)米国、カナダ、メキシコで最終組み立てがされている(2)電池に関連する部品の5割が米国、カナダ、メキシコで製造されている(3)電池材料の4割が米国とFTA(自由貿易)を結んでいる国で採掘あるいは精製されている、などの規定があり、IRAという名前ですが、事実上の環境規制です。
自国のEV企業を優遇する仕組みともいえ、条件を満たさなければ、補助金なしの高い価格でEVを売るしかありません。
日本メーカーでは日産自動車がNACSの採用に踏み切りました。
また、トヨタは2025年から米国でEVの現地生産を始め、ホンダや日産自動車も追随する見通しです。
米国ではEV普及に急速に舵を切り始めました。
NACSの事実上の標準化や米国企業への税制優遇は、米国EVメーカーの優位性が当面継続することを意味しているといえそうです。
以下に関連銘柄をピックアップします。
世界最大級のEVメーカー。イーロン・マスク氏が少数のエンジニアと起業し急成長している。米国政府の施策は同社にとって追い風。NACSの普及はスーパーチャージャーの関連収入につながる可能性大。EV長距離トラック向けの充電設備の整備で米国政府に9700万ドルの補助金を申請とも報じられている。
米国の老舗自動車メーカー。売上高で世界5位レベル。輸入車との競争激化で2009年に経営破綻し国有化。2013年に国有化解消で復活。EVやバッテリー生産に積極投資を進める。2035年までにはガソリン車を全廃方針。
GMと並ぶ米国の大手自動車メーカー。不採算事業をリストラする一方で、EV分野を強化。2020年に電動SUV「マスタング・マッハE」を発売。EV事業と従来車の事業を分離する計画。自動運転関連にも前向き。
テスラの元副社長のピーター・ローリンソン氏らが設立した企業と、SPAC(特別買収目的会社=上場させるための会社)が合併して発足。ピーター氏はテスラの高級セダン「モデル3」の開発を率いたという。高級EVセダン「ルーシッド・エア」の製造販売が核。
米国の新興EVメーカー。アマゾン・ドット・コムやフォード・モーターなども出資。ピックアップトラック「R1T」、SUV(スポーツ用多目的車)「R1S」などを手掛けている。ジョージア州アトランタに第2工場を建設する計画との報道も。業績は先行投資で赤字が拡大傾向。アマゾンは2023年7月にリビアン製のバンを導入すると発表している。
EVの開発を手掛ける。BMWやアストンマーチンの一部車種のデザインを手がけたカーデザイナーが同社を率いている。SPAC活用の上場企業。SUV「フィスカー・オーシャン」などを展開している。2021年に台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業と、EVの量産することで合意したと発表している。