H2A打ち上げ成功で関心高まる「月面着陸」関連企業 H2A打ち上げ成功で関心高まる「月面着陸」関連企業

H2A打ち上げ成功で関心高まる「月面着陸」関連企業

9月7日に日本のロケット「H2A」47号機の打ち上げが成功しました。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)では22年10月に小型機「イプシロン」6号機、今年3月には「H3」初号機の打ち上げに失敗していただけに、今回の打ち上げ成功は国産ロケットの信頼性が維持されたという点で一息ついた格好です。
なお、月面着陸を目指していた民間の宇宙開発ベンチャーであるispaceは、4月に着陸に失敗しています。
一方、この間にインドはISRO(インド宇宙研究機関)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が、8月23日に月面着陸に成功しました。
月面への探査機の着陸に成功したのは、米、旧ソ連、中国に次いで4か国目。世界で初めて難易度の高い月の南極に着陸しています。

日本は出遅れた格好ですが、今回の打ち上げ成功により巻き返しが期待できる状況となっています。
今回のH2Aには日本初の月面着陸を目指す小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」と、X線天文衛星「XRISM(クリズム)」が搭載されています。
特にSLIMはJAXAが開発した月探査機で、独自の画像処理技術などを駆使して、月面の狙った場所に誤差100メートル以内の高い精度で、ピンポイントに着陸する技術の実証に挑戦することになっています。
順調にいけば今後3~4か月で月の周回軌道に到達し、その後1か月で着陸準備に入るそうです。
早ければ来年1月にも月面着陸に進む可能性があり、5か国目の月面着陸を目指すことになります。

SLIM(宇宙科学研究所)

SLIMには2つのミッションがあります。

  1. 月への高精度着陸技術の実証を目指す(従来の月着陸精度である数キロメートル~数10キロメートルに対し、100メートルオーダーを目指す)。
  2. 軽量な月惑星探査機システムを実現し、月惑星探査の高頻度化に貢献する(小型・軽量化で高性能な化学推進システムの実現、電源システムの軽量化)。

SLIMの関連企業は

【推進系】
メインエンジン:三菱重工業(7011)、京セラ(6971
国産技術であるセラミック燃焼器を使用し、世界的にも例のない「幅広い推進範囲とパルス(信号)作動」を実現している。

スラスター(姿勢制御):IHI(7013)100%子会社のIHIエアロスペース
様々な噴射パターンが生み出す並進力・回転力により、姿勢制御、軌道変換、ピンポイント着地を支える。

【制御系】
着陸レーダー:三菱電機(6503
垂直降下フェーズで月面に対する高度・速度を測定するためのセンサー。

【電源系】
薄膜太陽電池:シャープ(6753
SUS(ステンレス箔)ラミネート電池:古河電池(6937
打ち上げ時の振動に強く、真空中での充放電に耐える。

今回のH2A47号機の打ち上げ成功によって、打ち上げに失敗した後継機で新型の次期主力ロケットH3の開発も前進します。
H3で問題となったロケット2段目のエンジンはH2Aの改良型で、機器など共通する部品も多いということです。H3は打ち上げ費用の削減など国際競争力で優位性がありそうです。

JAXA | H3ロケット

H3では柔軟性、高信頼性、低価格の3つの要素を実現する計画です。
ロケット組立工程や、衛星のロケット搭載などの射場整備期間をH2Aの半分以下に短縮する予定です。
毎年6機程度を安定して打ち上げることで産業基盤を維持し、H3が実用化されれば月面開発などで日本が優位に立てる可能性が浮上します。

三菱重工業がH3のプライムコンタラクタとして機体開発を取りまとめ、JAXAは三菱重工とともにロケット開発を進めています。

【キー技術担当事業者】
三菱重工業(7011):エンジン、ロケット射点設備など
IHI(7013):液体酸素、液体水素ターボポンプなど
日本航空電子工業(6807):ロケット用慣性センサユニット、レーザージャイロなど

まとめ

三菱重工業(7011)

H2Aの打ち上げは2007年からJAXAより同社に移管されている。スペースXなど、世界の潮流である民間主導の流れをけん引する役割を担う。H3で主体的な役割を担う。

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IHI(7013)

SLIMでは100%子会社を通じスラスター(姿勢制御)で貢献し、H3では液体酸素、液体水素ターボポンプなどを担当。

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川崎重工業(7012)

H2Aなど国産ロケットの多くで射点設備の開発、設計、施工を担当。H3でも同社の設備が打ち上げ運用に使われる可能性が高い。射点設備はロケットの点検、整備を行う施設のほか、液化水素貯蔵タンク、水素ガス処理場、高圧ガス噴射設備など幅広い知見が必要になる。

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ispace(9348)

23年4月に月面着陸失敗も、ミッション1に掲げた10つのマイルストーンのうち、8つめの「月面軌道上での全ての軌道制御マヌーバ(姿勢制御など)の完了」までは行うことができ、データ収集なども進んだ。24年3月までにソフトの改良などを行い、24年中に打ち上げを予定し2回目の月面着陸挑戦を実施する予定。

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和島英樹

和島英樹

経済ジャーナリスト。

日本勧業角丸証券(現みずほ証券)入社。株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年ラジオNIKKEIに入社。
東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。
2020年6月に独立。企業トップへの取材は1,000社以上。
ラジオNIKKEI担当番組に「マーケット・プレス」など。
四季報オンライン、週刊エコノミストなどへ寄稿多数。
国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)。
日本テクニカルアナリスト協会評議委員。

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