鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(10月相場の振返り編) 鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(10月相場の振返り編)

鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(10月相場の振返り編)

鈴木一之です。
2020年10月の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」をまとめるに当たって、まずはじめに10月相場の全体像を振り返ってみます。

10相場の振返り

好調な8月~9月相場とは打って変わって、10月相場は神経質な動きとなりました。
日経平均は9月末の23185円から10月末には22,977円へと、わずか▲0.90%ほどの小さな下落となりました。

一方でTOPIXは1,625から1,579へ、▲2.83%と少し大きめの下げを記録しました。
また東証マザーズ指数は1,226から1,171へ▲4.49%の下落と、株価指数の中では最も大きな下げとなりました。

マザーズ市場は8月から9月にかけて、独壇場とも言ってもよいほど大きく上昇しました。
その反動としての下落があったと見ることができます。
10月相場は株価指数の上下動を見る限りでは、月間を通して弱い値動きに終始したことになります。

株式市場は3~4月にかけて大きく下落しました。
6月ごろまでは「いずれ景気と株価の2番底がやってくる」という恐れが根強く残っていました。

そのような恐れがどうやら杞憂に過ぎず、2番底は回避されそうだという見方に変わってきたことが、9月から10月にかけての株式市場の堅調さの背景だと思います。

コロナ危機がもたらした世界的な経済活動の停滞と、それによる空前の金融緩和、あふれ出したマネーが株式市場に流れ込んで、世界の至るところで株価の上昇が見られました。
日本も例外ではありませんが、諸外国との比較では上昇は限られています。

米国をはじめ海外の株式市場は、日本よりも値動きは大きくしかも軟調な値動きとなったので、むしろ日本の株式市場はそれらに追随せずに済み、日本は独自の堅調さを示したと見る人も多いようです。

しかし日本株の現在の堅調さを単純に「堅調」と表現してよいか、という点には「?」マークが付きます。
海外マーケットの上昇が顕著だった今年の夏ごろに、日本では(マザーズ市場を除いて)上昇気流にまったく乗ることができないという状態が長く続きました。

日本には「GAFAM」に代表されるような、米国が主導するテクノロジー業界の大規模な技術革新の波に乗り切れてないという状態が現在も続いています。

テクノロジー銘柄の株価高騰が行くところまで行ってしまい、米国株などはバリュエーション上であまりにも割高な水準にまで到達したために、9月後半からは一部の銘柄には調整局面が訪れています。
日本の株式市場はそれまでが出遅れていた分だけ、買いやすい水準にあるという点で逆に注目度が上がっています。

過剰な投資マネーの行き場がようやく日本にも波及してきたと見るべきでしょうか。

日本の場合、コロナ危機と共存できる成長企業の多くはマザーズ市場に属しています。
その分、日経平均やTOPIXを構成する銘柄には旧来型の重厚長大の大型株、バリュー株が多く含まれています。
それがネックとなってどうしても出遅れ感が目立っています。

各国の大胆な景気対策の効果が出始めており、世界経済が徐々に持ち直しの方向を強めています。
とりわけ中国の回復が顕著です。
株価上でもこれまでは見向きもされなかった景気敏感株(すなわちバリュー株)が上昇する日数が増えてきました。

あとから市場に参加するのであれば、先駆した割高な銘柄よりも割安な銘柄へと投資スタンスは傾きます。
日本株が今になって底堅さを見せているのはそのためと考えることができます。

いずれにしても緊急事態宣言が解除された5月末から、夏を過ぎて9月まで一貫して続いてきたグロース株偏重の物色の傾向が徐々に変化している点は10月相場では見逃すことはできません。

確かに10月相場はそれ以前とはずいぶんと様子が変わって、異例づくめの展開となりました。
概況を述べるに当たって、(1)米国の大統領選挙、(2)コロナウイルスの感染拡大、(3)テクノロジー株の動向、(4)日本の政治情勢、に分けて述べてゆきます。

(1)米国の大統領選挙

11月3日に投票が行われた米国の大統領選挙が、投資家心理とマーケットの情勢に大きな重石となっていたことは疑いの余地のない事実です。

この稿を記している11月8日(日)時点では、選挙結果も徐々に固まっています。
民主党のバイデン候補が優勢で勝利宣言を行いました。
しかしここに至るまでにはかなりの紆余曲折がありました。

米国では9月29日(火)に第1回目のテレビ討論会が開催されました。
ここでトランプ大統領は、司会者が静止するにもかかわらず再三にわたってバイデン候補の発言をさえぎるような割り込み発言を連発しました。

討論会とは名ばかりの、ののしり合いのような格好となり、終了後の各方面からの評価は大統領選挙の歴史でも「最悪」、「最低」というひどいものでした。

討論会の終了直後から、リアルタイムでマーケットが開いていた9月30日(水)の東京株式市場の昼過ぎから、売り物が集中して株価は急落しました。
その後の選挙戦はバイデン候補がかなり有利に進むとの見方が強まり、トランプ大統領の再選はむずかしいという流れがこの時にほぼ固まったと見られます。
10月相場はそのようにしてスタートを切りました。

そこからの1か月間は、「バイデン・ラリー」を織り込む格好で株価は推移してゆきました。
バイデン候補と民主党が推し進める政策をマーケットが織り込む動きが、日本を含めて世界中で広がったと見られます。

具体的には、民主党の政策綱領にある「富裕層と大企業への増税」「キャピタルゲイン課税の強化」、財政支出の拡大による「大きな政府の実現」、それらが影響する「株価下落、金利上昇、ドル売り」、というシナリオです。
4年前の「トランプ・ラリー」とは正反対の展開です。

劣勢に立たされたトランプ大統領は、追加の所得補償という短期的な効果を狙ったばらまき型の景気対策を急ぎ、議会との折衝に臨みました。
しかし民主党は目前に迫った大統領選を意識して、財政規律を重視するという姿勢に傾いたため、この景気対策を巡る議論はまるでかみ合わないまま前進しませんでした。

結果的に大統領選挙を目前にして議会折衝はまとまらず、その一方でコロナウイルスの新規の感染者数は拡大する一方となりました。(トランプ大統領も陽性反応が出て一時入院を余儀なくされました。)

10月相場を通じて米国の株式市場は上値が抑えられ、債券市場では徐々に金利の上昇が進み、それらが日本の株式市場にも重くのしかかる結果となりました。

(2)コロナウイルスの感染拡大

新型コロナウイルスの感染の再拡大も、一段と深刻になっています。
欧州と米国を中心とした先進国で急速に感染者数が拡大しました。

北半球の気温が低下する秋冬の感染シーズンに入ったことも理由のひとつです。
しかしそれ以上に、観光立国でもある欧州諸国がバカンス期間中に失った観光収入を少しでも取り戻そうと、夏に移動制限に関する規制を緩めたことが大きな原因と見られます。

10月12日に英国のリバプールで再び都市封鎖が発動されたのを皮切りに、10月15日にはパリでは夜間の外出禁止令が発動されました。
同じ日に北アイルランドでも都市封鎖が課されました。ペスト蔓延を食い止める中世の時代に戻ったかのようです。

10月22日にはイタリア北部のミラノでも都市封鎖が実施され、10月27日にはフランスで1日に5万人を越える新規感染者数が記録されたことから、フランス全土にも4週間のロックダウンが敷かれました。
10月30日にはイングランドも都市封鎖が実施されました。

一方でワクチンや治療薬の開発は思うように進展しておりません。
10月14日にはイーライ・リリーが治療薬の開発を一時中断すると発表しました。

10月22日には、アストラゼネカとオックスフォード大学がフェーズ3の治験を行っていたワクチンの治験で初の死亡例が報告されました。
このワクチンは世界で最も完成に近いと見られていただけに、関係者の落胆は予想以上に大きなものとなりました。

どうやら人類が新型コロナウイルスのワクチンを手にするのは、当初の楽観的な見通しよりもどんどん遠ざかっているように見えます。
最初のうちは年内にも、あるいは2021年4-6月ごろにも入手できると期待されていたはずです。

それが現時点では、早くても2021年半ば過ぎ、あるいは2021年後半に延びたようなムードとなっています。

未知のウイルスに対するワクチンを開発するには、本来であれば5年以上の時間がかかります。
それを今回は特例的に、安全基準を緩和してまでワクチン開発を急いできました。
しかし、人類が持てる最先端の英知を傾けても、安全が最優先される分野だけに急ごしらえでは対処しきれないところがどうしてもあります。

やはりワクチン開発にはある程度の時間が要る、ということがあらためて判ってきました。
しかし遅れれば遅れるほど、人々の移動が制限され、苦境に立たされる産業が出てきます。
それらは人と人との接触が欠かせないサービス産業~旅行、航空、交通、飲食、小売、介護、病院、興行など~です。
各国が追加的な救済措置を急いで組む算段をつけています。

(3)テクノロジー株の動向

コロナウイルスに対抗するのも技術革新です。
引き続き米国のプラットフォーマー「GAFAM」に焦点が絞られます。
コロナウイルスの感染状況を抑えるべく、人々の行動履歴を追跡するにもこれらの企業が持つデータの力が必要です。

「GAFAM」を中心に世の中が動いている事実は変わりません。
しかし心なしか、従来のような圧倒的な強さが少しずつ影をひそめるように感じられます。
ひょっとしたら意識的に、自らの図体を小さく見えるようにしているのかもしれません。

米議会は「GAFAM」のトップを呼び公聴会を頻繁に開いて、結果として公共の利益を阻害する意図の有無を追求してきました。
10月21日には、ついに司法省がグーグルを反トラスト法違反で提訴するに至りました。
グーグルと司法省との間で長い法廷闘争がここから始まろうとしています。

反トラスト法提訴の第1報が流れたのが10月7日です。
そこから徐々に「GAFAM」をはじめとしたテクノロジー銘柄の株価に頭打ちの傾向が見えるようになりました。

10月20日にネットフリックス(NFLX)が7-9月期の決算を発表しました。
売上高と利益は過去最高を更新しましたが、世界の会員数の伸びは220万人と前の期より大きく鈍っており、これによってネットフリックスの株価は大幅安を余儀なくされました。

同じように10月29日に「GAFA」がそろって決算発表を行いました。
コロナ禍においても、いずれの企業も好決算を発表しましたが、それにもかかわらず株価はさほど反応を示さなくなっています。

テクノロジーの巨人たちの株価はいずれも大きく上昇しており、それぞれのバリュエーションは警戒心を抱かせるまでに高まっています。それが株価の足踏み状態を招いている可能性があります。

日本でも夏ごろからマザーズ上場銘柄を中心として、小型成長株の株価が高騰を続けました。
一例を挙げればBASE(4477)です。

コロナ危機で売り上げが激減した中小企業は、地方自治体に申請して持続化給付金を支給されます。
それを元手にEコマースを開始する場合、その一連の作業を支援する仕組みをBASEはビジネスとして提供しています。

BASEの株価はGW明けの5月7日に1,515円でしたが、7月末には6,480円まで4倍に上昇しました。
さらにその後も高騰を続け、10月8日には17,240円の高値を記録しました。
これが目先のピークとなりました。

BASE(4477)

BASEと同様にマザーズ銘柄の多くは、10月半ばにひとつのピークを形成するようになりました。
ちょうど米国の「GAFAM」の株価の動きと同じようなタイミングです。
グロース株の多くが「GAFAM」の株価をなぞっているようにも見えます。

マザーズ銘柄の今後の株価に関しては、業績の動向が重要となります。
11月中旬にかけて発表される各社の決算動向を注意深く見守る必要があります。
現在の割高な株価のバリュエーションが許容されるような、企業業績の伸びがきちんと確保されるのか。

これほどまでのマザーズ銘柄の株価の上昇が、きちんとした企業業績に裏づけられているものなのか、それとも単なる「理想買い」の域から出ないのか。
高い成長期待が実際の決算内容から認められるものなのかどうか。それがここから問われることになるはずです。

小型成長株の今後の株価は決算数字に左右されるものとなりつつあります。
決算内容によっては、再び上昇基調を取り戻す銘柄もあるでしょうし、反対にピークをつけたと判断される銘柄も出てくる可能性もあります。

その一方で、これまで見送られていた東証1部の電機セクターの中から、継続的な買い人気を集める銘柄が見られるようにもなっています。
村田製作所(6981)TDK(6762)などが代表例です。

村田製作所(6981)

10月13日にアップルがイベントを開催して、新型の「iPhone12」を世界に向けて発表しました。
日本でも予約受付の段階から評判は上々のようです。

8月以降、米国がファーウェイへの半導体の全面禁輸措置を発表して以来、ファーウェイは半導体の調達難から思うようにスマートフォンが製造できない、との見方が広まりつつあります。
それによって日本の半導体セクターに対してもマイナスの影響が出るとの見方が広がりました。
画像素子で世界首位のソニー(6758)にも影響が及ぶと指摘されました。

ソニー(6758)

しかしその一方で、ファーウェイが苦戦する間隙を突いて、アップルやOPPOなどファーウェイのライバル企業がスマホ生産を増加する動きも広がっています。
同じ材料をプラスと見るか、マイナスと見るか、投資家心理は様々に揺れ動きます。
結果としてテクノロジー企業に対する心配は杞憂に終わり、一連の「アップル関連株」が総じて堅調な動きを取り戻しているのも理解できます。

(4)日本の政治情勢の変化

9月は自民党総裁選の月でした。派閥横断的に圧倒的多数を獲得した菅政権が発足して1か月。
日本学術会議の人事問題ばかりが報じられましたが、10月26日にようやく臨時国会が召集されました。
そこで菅首相による初の所信表明演説が行われました。

その演説の中で注目を集めたのが「2050年に温暖化ガスの実質ゼロ」という方針です。
これは意外感を持って受け止められました。

菅首相と言えば、前職の官房長官の時代から地方創生と通信料金の引き下げが持論で、自民党総裁に就任してからは、今度はデジタル庁の創設、少子化対策としての不妊治療の保険適用オンライン診療の恒久化、が重点政策として取り上げられてきました。

所信表明演説でもその諸点が前面に出てくると見られていました。
しかしそれが唐突に「2050年の温暖化ガス、実質ゼロ」宣言です。
地球環境対策が急に浮上しました。
原発再稼働への布石と見ることもできますが、それ以外の政策が急に後景に回ってしまったようにも思えてきます。

臨時国会は会期が41日間と短く、審議はもっぱら緊急性の高いコロナ対策法案が優先されることになります。
そこで従来からの目玉政策である省庁のデジタル化や種々の規制緩和は、年が明けてからの通常国会に回されることになります。そこでじっくりと審議されることになりそうです。

菅首相の所信表明演説から日を置かずに、「5中全会」を開催していた中国も「2035年までにガソリン車を全廃」との方針を打ち出しました。
自動車産業の育成を重点とする中国はエコカーの普及で世界の主導権を握ることを目標としています。
そこであらためてエコカー普及策が前面に打ち出されました。

どの国も現時点ではコロナウイルスの感染抑制が国家レベルの最優先課題となっています。
それに対して日本では、景気テコ入れ策の一環として「GoToトラベル」に続いて、「GoToイート」「GoToイベント」「GoTo商店街」など、旅行、飲食、地域商店街など特定産業の救済措置が相次いで導入されています。

コロナウイルス封じ込めの観点からは批判の声も上がっていますが、これらの政策によって地方の主要駅や繁華街を中心に人の出が急速に戻っているのも事実です。
経済活性化とコロナ封じ込め、という二律背反の課題にどのように取り組んでゆくのか。
インフルエンザの蔓延する季節でもあり、ここから年末年始に向けての経済動向が非常に気になるところです。

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。
相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

呼びかける時は「スズカズ」、「スズカズさん」と呼んでください。

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
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