株式アナリストの鈴木一之です。
「HOTな銘柄、COOLな銘柄」の2024年11月号をお届けします。
全体相場の振り返り
11月の日経平均の月間騰落率は▲2.23%でした。
8月初旬に日経平均株価が史上最大の下げを記録して調整局面に入った東京市場は、それ以降はマイナス基調が続いていました。
それが先月はようやくプラスに転じたところでしたが、しかし11月相場は再び軟調な動きに変わっています。
TOPIXはもう少し小幅ですが、それでも11月相場は▲0.56%と軟調な動きに落ち込みました。
11月は3月決算企業の中間決算の発表が集中した月でもあり、株価指数の軟調な動きとは逆に、好決算をはやして急上昇する銘柄も数多く見られました。
軟調な動きが続いていた小型株市場は、ようやく反転しました。
東証グロース市場250指数(旧・東証マザーズ指数)は+2.06%で3か月ぶりにプラスとなりました。
軟調な11月相場の中では数少ないプラスの株価指数ですが、新興企業の市場が好調だったかというとそうでもありません。
先月にプラス転換できなかった分だけ遅れて浮上したという側面が大きいように思います。
15年振りの過半数割れ、与党大敗の衆院選
秋は政治の季節です。
10月末に実施された衆院選では、自民・公明の与党はまさかの大敗が確定しました。
自公合わせて公示前の279議席から64議席も減らし215議席にとどまりました。
過半数の233議席を大きく下回っています。
自公の過半数割れは2009年以来、15年ぶりのことです。
政治資金規正法の収支報告書に不記載の議員を非公認として臨んだ自民党はもちろんのこと、厳しいのは公明党です。
党首の石井啓一代表まで落選して、選挙直前に就任した党代表を早くも辞任することとなりました。
石破茂首相は勝敗ラインを「与党で過半数」としていましたが果たせず、政権を維持するために新たな連立の枠組みを模索することとなりました。
米国主要3指数の史上最高値更新を生んだ米国大統領選挙
そして迎えた11月。東京株式市場は8月と9月の激しい変動をなんとか乗り切って、10月からは少しずつ落ち着きを取り戻してきました。
それでも株式市場の内部という以上に外部要因、マーケットを取り巻く周囲の状況が激しく動き出しています。
米国では4年に一度の大統領選が実施され、共和党のドナルド・トランプ前大統領が再選を果たしました。
事前の世論調査では民主党のカマラ・ハリス副大統領との大接戦が予想されていましたが、ふたを開けてみれば激戦州と言われた7つの州をすべてトランプ氏が勝利を収め、開票から半日もしないうちに当選確実が報じられました。
トランプ候補の圧勝です。
この結果を受けて米国の株式市場はすぐさま全面的に上昇しました。
大統領選の直後からNYダウ工業30種、S&P500、NASDAQの主要3指数がそろって史上最高値を更新しました。
11月第1週の主要3指標の上昇率はいずれも史上最高を記録しています。
それと比べて欧州、およびアジア各国の株式市場は動きの鈍い状況が続いています。
トランプ大統領の再選は「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏率いる米国市場だけにとどまり、日本、アジア、欧州にはとまどいの雰囲気も感じられます。
株式市場の微妙な評価がその辺の温度差を物語っています。
トランプ再選は世界全体に衝撃的な変化をもたらすか
世界中のメディアがトランプ氏再選の本質的な意味を特報で解説し分析しています。
それらの多くが、これからの米国は「想像を絶する破壊的な方法で」変化してゆき、今回の大統領選は「第2次世界大戦後で最も大切な選挙」と位置づけられる、という方向性を見いだしています。
同時に今回の米国民の選択は、米国内にとどまらず、広く世界全体に対して衝撃的な変化をもたらすことを覚悟すべきだとしています。
米国以外の国でこの結果を喜んでいるのはロシアのプーチン大統領でしょう。
さっそくトランプ氏と対話する用意があると述べました。
トランプ政権下ではウクライナ戦争への米国の関与が大幅に減る可能性が高まっています。
イスラエルのネタニヤフ首相も両手を挙げて歓迎する側に立ちます。
今後の相場を占うトランプ政権が打ち出す政策の行方
トランプ氏の政策で主だったものを挙げれば、関税の引き上げ、減税の恒久化、移民規制の強化、環境規制の緩和です。
このうち関税の引き上げは、米国の貿易相手国にほぼ等しく影響を与えます。
米国に輸出する国は関税への引き上げに直面し、特に米国は中国に対して厳しい姿勢で臨むことになるでしょう。
日本企業も影響は免れず、生産拠点を中国から他国に移す流れが加速する可能性が強まります。
メキシコの生産拠点をどうするか、足元の業績の厳しい自動車および自動車部品業界の悩みは一段と深まっています。
個人所得税に対する減税措置、いわゆる「トランプ減税」は議会での審議を経て恒久化の方向を目指すことになります。
2期目はこれに法人減税も加わる見通しです。
一連の政策が実施されると米国の財政赤字は大幅に拡大し、再びインフレ圧力にさらされることになります。
大統領選直後から米国の長期金利は上昇し、銀行業界にとって追い風になりますが、産業界の資金調達力には悪影響が出てくると見られます。
環境規制はバイデン政権で大きく前進しましたが、それが再び転換される可能性が強まっています。
米国は再びパリ協定から離脱することになるでしょう。
エネルギー資源の開発が再開されることになり、再エネ補助金は削減される見通しで、これには当のエネルギー会社ですら戸惑いは隠せません。
リーマン・ショックで大幅に強化された銀行規制も緩和されると見られます。
米国の投資銀行株は選挙直後に軒並み大幅高となりました。
通貨はドル高が進行しやすい状況ですが、ドル高を嫌うトランプ氏が果たしてどこまでそれを許容するのか。
新たな通貨政策を打ち出してくるのか、現時点ではまだ不透明です。
閣僚人事を含めてトランプ政権の政策の行方が今後の相場を占う上でとりわけ重要になったと見られます。
HOTな銘柄
続いて11月相場で上昇が目立った銘柄、「HOTな銘柄」をご紹介します。
11月相場は政治状況が不安定だったために、これまでになく個別銘柄の物色に投資資金がシフトしたように感じられます。
10月相場もそうでしたが、物色の柱となるテーマらしいテーマが存在せず、個別銘柄の個々の材料を評価する動きが丸1か月間、継続しました。
電線株関連
そのような状況において、引き続き電線株がしっかりしました。
10月相場ではフジクラ(5803
5803
)が牽引役を果たしましたが、11月相場ではそれは古河電工(5801
5801
)にスイッチしました。
決算発表を好感して株価が急騰しています。
古河電工(5801 5801 、第4位、3,839円→6,155円、+60.3%)
11月7日に古河電工が発表した2024年第2四半期の決算は、生成AI向けの光ファイバーが好調で、通期の営業利益がそれまでの見通しの250億円から380億円に引き上げられました。
前期比で3.4倍になります。
これを受けて翌日以降の古河電工の株価は2日連続してストップ高まで買われ、その後の1週間で+6割も上昇しました。
同業のSWCC(5805
5805
)、住友電気工業(5802
5802
)も大幅高となっています。
SWCC(5805 5805 、第15位、5,430円→7,530円、+38.7%)
電線株の高騰に象徴されるように、電力会社の設備投資に関連する銘柄は引き続き底堅い動きを見せています。
国際エネルギー機関の予測によれば、世界の電力需要は生成AI向けに今後一貫して高まることになります。
2030年には世界の電力需要は3.3万テラワット/時まで増加すると見られ、これは2023年の年間需要から+6,700テラワット/時も増えることになります。
増加分だけで日本の年間使用電力の7倍に達します。
この増加分のほとんどが生成AI向けを中心としたデータセンター向けです。
先進国では大手IT企業がクラウドを経由してビッグデータを一段と必要としており、その膨大な需要に沿ってデータセンターへの投資が急拡大しています。
IT先進国であるアイルランドや台湾では、あまりの電力需要の高まりからデータセンターの新規開発を制限し始めたほどです。
データセンターには光ファイバーや光コネクタのほかにも、室温を一定に保つ空調設備が必要とされます。
朝日工業社(1975
1975
)やダイダン(1980
1980
)をはじめ空調工事会社の決算発表では好決算の事例が相次ぎました。
朝日工業社(1975 1975 、第5位、1,284円→1,923円、+49.8%)
MBO・TOB関連
データセンター向け、電力設備投資関連株とともに、11月相場ではMBO(マネジメント・バイアウト)やTOBの動きも引き続き活発でした。
株式の支配権を巡る動きが一段と強まったのも11月相場の特徴のひとつです。
非上場化の道を選択する上場企業が目立っています。
IーPEX(6640 6640 、第1位、1,608円→2,944円、+83.1%)
精密加工を得意とするIーPEXは11月7日にMBOを発表しました。
1963年創業の歴史のある会社で、精密金型を得意としています。
パソコンやスマホのコネクタの製造も行っています。
本社が京都市にあるいわゆる「京都銘柄」で、実質無借金、自己資本比率も安定しています。
財務内容は良好ですが業績の波が大きく、前期は最終赤字を余儀なくされました。
PBR(株価純資産倍率)は1倍を下回ったままの状態です。
そこで創業家一族の小西家によってMBOが実施され、非上場化の道を選択することとなりました。
西本Wismettacホールディングス(9260 9260 、第10位、1,330円→1,926円、+44.8%)
西本Wismetacは日本の食材を海外で販売し、同時に海外の食材を日本に輸入しています。
経営はオーナー色が強く、業績は安定しており大きな落ち込みはありません。
しかし逆に大幅な伸びも期待しにくい事業の構造を持っています。
11月11日の決算発表に合わせて、創業家が「ワイエス商事」の名義を通じてMBOを実施することとなりました。
現在の社長である洲崎良朗氏はMBOした後も取締役として同社の経営にあたる予定です。
ID&Eホールディングス(9161 9161 、第7位、4,365円→6,480円、+48.5%)
11月19日には旧・日本工営のID&Eホールディングスが東京海上ホールディングス(8766
8766
)よりTOBによって完全子会社化されると発表されました。
最近の異常気象による自然災害の甚大化に備えるために、東京海上は建設コンサルタントとして実績の豊富な旧・日本工営を子会社化することを決断したと考えられます。
KADOKAWA(9468 9468 、第22位、3,343円→4,335円、+29.7%)
買収やMBOによる非上場化のスキームではありませんが、11月20日にソニーグループ(6758 6758 )がKADOKAWAを買収するとの報道が流れ、KADOKAWAの株価が大幅高となる場面がありました。(会社側はその事実を否定しています。)
KADOKAWAはアニメ、映画、ゲーム、書籍を通じて自社制作のコンテンツを多数保有しています。
知的所有権を多く保有するコンテンツホルダーは、それらを活用することで何度でも売上げを計上することができます。
ビジネス環境がますます不透明になる環境下で、安定的な収益源を有するという理由から11月相場では、サンリオ(8136 8136 )、任天堂(7974 7974)、東映(9605 9605 )、東宝(9602 9602)のコンテンツホルダーがいずれも堅調な値動きを示しました。
東映(9605 9605 、第24位、4,910円→6,360円、+29.5%)
東映はアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」の配信が好調で、「ワンピース」、「ドラゴンボール」の版権ビジネスが伸びています。
スタンダード市場に上場する東映アニメーション(4816
4816
)も株価が堅調で、は上場来高値を更新しました。
その他の物色銘柄
個別銘柄への物色はこのほかにも活発です。
紳士服の青山商事(8219
8219
)は11月12日の引け後に決算発表を行い、そこで配当方針を変更して翌日の株価はストップ高まで買われました。
その後の株価も堅調で5年ぶりの高値まで上昇しています。
青山商事(8219 8219 、第2位、1,317円→2,253円、+71.1%)
今回発表した新しい配当方針は連結ベース配当性向を70%、あるいはDOE(自己資本配当率)3%のいずれか高い方を採用することとしています(それまでは配当性向40%でした)。
これによって年間配当は従来の61円から127円に増額されることになり、青山商事の業績は依然として厳しいものの、それを上回る魅力が大胆な配当金の増額によってもたらされています。
同じようにTHK(6481 6481 )も決算発表の直後から急激な株価の上昇が見られました。
THK(6481 6481 、第12位、2,565円→3,609円、+40.7%)
11月12日に発表した第3四半期の決算発表に合わせて、THKは中期経営計画である「2026年度までの5か年計画」の経営目標を手直ししました。
これまでの計画は、2026年度に売上高で5,000億円、営業利益で1,000億円、ROE(自己資本利益率)で17%という目標を掲げていました。
しかしその後の激しい経営環境の変化で、より現実的な数値目標に切り替え、それが翌日以降の株価の大幅な上昇につながりました。
新しい方針では、ROEは10%超、そのために当面の自己資本を3,000億円程度とする、配当方針としてDOE8%、そのために機動的な自社株買いを実施する、などとなっています。
合わせてROEの計算式の分子である利益のリターンを引き下げて、代わりに分母である自己資本そのものを減らしてゆく方針も取り入れました。
THKの株価はこの発表から大きく上昇し、その後も高止まりの状態を続けています。
そのほかの個別銘柄の動きも活発でした。
武蔵精密(7220 7220 、第3位、2,011円→3,305円、+64.3%)
ホンダ系の部品メーカーである武蔵精密は、子会社の「武蔵エナジーソリューションズ」が開発した「ハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)」の工場の拡張計画を発表して好感されました。
HSCは従来の製品よりも急速充電と放電が可能なキャパシタ(蓄電システム)です。
急増するデータセンター向けの蓄電池として今後も需要が伸びると見られています。
トランプ大統領時代を迎えてビットコインの価格が急騰しています。
12月初旬にはついに1ビットコインが10万ドルの大台を突破しました。それに合わせてマネックスG(8698
8698
)の株価も急上昇しています。
マネックスG(8698 8698 、第14位、730円→1,018円、+39.5%)
米国では金利の上昇が鮮明化していることから、日本でも銀行株が堅調です。
既存のメガバンクや地方銀行の株価も堅調ですが、預金集めの容易なネット銀行が頭ひとつ抜きん出ています。
りそなHD(8308
8308
、第46位、1,020円→1,250円、+22.5%)
群馬銀行(8334
8334
、第32位、869円→1,090円、+25.4%)
楽天銀行(5838
5838
、第16位、3,134円→4,281円、+36.6%)
プライム市場では楽天銀行(5838 5838 )、スタンダード市場では住信SBIネット銀行(7163 7163 )がそれぞれ高値を更新しています。
COOLな銘柄
半導体関連
反対に11月相場で値下がりの目立った銘柄、COOLな銘柄としては半導体関連株が挙げられます。
11月1日にレーザーテックが発表した2025年6月期の第1四半期の決算は、売上高は367億円(▲22.3%)、営業利益は159億円(+54.9%)と大幅な増益を記録しました。
しかしこの数値が市場の期待に届かなかったことから、レーザーテックの株価は発表直後から一貫して下落基調をたどっています。
世界的な生成AIブームの中心に位置するエヌビディアも11月末にかけて8-10月期の決算発表を行いましたが、売上高が前期実績で+9割増、今期予想も+7割増という驚くべき決算内容であっても、他の半導体関連株にプラスの影響を与えるようなポジティブな動きが少なくなりました。
レーザーテック(6920 6920 、第7位、23,475円→16,440円、▲30.0%)
「ブラックウェル」の過熱問題や供給能力など、数々の難問を抱えながらもそれでもあいかわらず猛烈な業績を示しました。
しかし決算発表直後のエヌビディアの株価はアフターマーケットで一時▲5%下落しました。
市場予想を上回る決算を打ち出しても、さらにそれを上回る予想がすでに出回っていたために、その水準には届かなかったという理由で株価は下落しました。
レーザーテック以外の半導体関連株も同様の軟調な動きが見られました。
芝浦メカトロニクス(6590
6590
、第5位、10,880円→7,360円、▲32.4%)
タツモ(6266
6266
、第6位、3,710円→2,595円、▲30.1%)
ローツェ(6323
6323
、第8位、2,305円→1,664円、▲27.8%)
エヌビディアの好業績はすでに既定路線のものとなっており、マーケットでは誰も驚かなくなっていること自体がリスクとして認識されるようになっています。
TOWA(6315
6315
、第19位、2,028円→1,583円、▲21.9%)
日東紡(3110
3110
、第25位、7,530円→6,000円、▲20.3%)
SUMCO(3436
3436
、第28位、1,493円→1,203円、▲19.4%)
野村マイクロ・サイエンス(6254
6254
、第34位、2,162円→1,766円、▲18.3%)
トレックスセミコンダクタ(6616
6616
、第39位、1,550円→1,277円、▲17.6%)
ソシオネクスト(6526
6526
、第40位、2,922円→2,415円、▲17.4%)
トランプ政権では貿易面で対中国の規制が強まることはほぼ確実と見られます
生成AI向けの半導体開発競争も一段と激しくなっており、高い利益予想を続けることに対するリスクも日を追って強まっていると感じられます。
以上
鈴木一之のHOTな銘柄 COOLな銘柄
政治関連の話題で揺れた日米株式市場 HOTな銘柄、COOLな銘柄(2024.11.15)
石破政権の行方に注目高まる日本株市場 HOTな銘柄、COOLな銘柄(2024.10.18)
歴史的な暴落と回復を見せた日本株市場 HOTな銘柄、COOLな銘柄(2024.09.12)
米国大統領選挙2024(2024.08.16)
テクノロジー株の牽引でS&P500とNASDAQは最高値更新 HOTな銘柄、COOLな銘柄(2024.07.12)