各国中央銀行の出口戦略の行方は
4月の金融市場では中央銀行の金融政策が注目されました。各国で金融緩和と財政出動による経済の回復がみられる中で中央銀行の出口戦略が注目されるようになりました。
最初に出口に向かったのはカナダでした。4月21日に行われたカナダ中銀の金融政策では国債購入の減額を決定しました。週40億カナダドルの購入を30億カナダドルに減額したことでカナダドルが上昇しました。ドルカナダは1.26から1.2130付近まで下落しカナダドルは2017年9月以来の高値まで上昇しました。カナダ円も85円台から89.80付近まで上昇しました。
4月28日に行われたFOMCではティーパーリングの時期についてのヒントを市場は探していました。しかし記者会見でパウエル議長はティーパーリングに関してはまだ時期尚早で議論もしていないと述べました。
注目ポイント
・弱い米雇用統計で利上げは遠のく?
5月7日に発表された4月の米雇用統計は予想を大幅に下回る弱い数字になりました。非農業部門雇用者数は予想の98万人に対して26.6万人の増加とかなりショッキングな数字でした。3月分も91.6万人から77万人に下方修正されました。
一方でU6失業率(不完全失業率、パートタイムなどを含めた数字)は10.4%と横ばい、長期失業率は43%に低下(前月は43.4%)労働参加率は61.7%に上昇(前月は61.5%)、週当たり労働時間は35時間(前月34.9時間)、時間当たり賃金は30.17ドルに上昇(前月29.96はドル)と、良い数字も出ました。
雇用の回復が減速したのは確かですが雇用の増加は4か月連続しています。
・雇用が減速したのは失業していても余裕があるから?
今回の雇用者数の増加が少なかったのは労働者が賃金の安い職種につかなくなっているからのようです。失業給付が手厚く出ているので、あえて賃金の安い職種で働く必要がなく、時給20ドル以下の製造業では人員の確保が難しくなっているようです。
また学校がリモートになり親が育児で職につけないといったこともあるようです。2月の求人数は736.7万人とかなり高水準の求人があり経済は確実に回復していますが、このように仕事の質とのギャップがあるようで雇用に結びついていないようです。
・半導体不足も雇用を抑制
製造業の雇用もさえないものでした。製造業は18,000人の雇用減となり特に自動車関連は27,000人の減少となりました。半導体不足によって自動車生産が抑制されていることが原因のようです。
・現在の雇用状況ではFRBの利上げは遠のく?
米雇用統計の発表直後に米10年債利回りは一時1.5%を割れて1.469%まで低下しましたが結局1.6%付近まで反発しています。
手厚い失業給付は9月まで続くので、そうなると9月までは雇用の増加が緩やかになる可能性もあり、FRBが簡単にティーパーリング(資産買い入れ縮小)に踏み切らなければ緩和政策が継続して株価にとっては良い材料と市場が判断したために7日に米国株は上昇しました。
経済は好調、雇用は緩やかに増加、緩和政策は継続と市場は良いとこ取りをしています。
米10年債利回りは1.5~1.75%付近で落ちついており、FRBがすぐに緩和縮小に向かうことはないようです。しばらく株式市場はまだ低金利と経済の回復の恩恵を受けて底堅く推移しながら、通貨はどこの中央銀行が緩和縮小に向かうかを探る流れが続くと思われます。
・緩和縮小が見通せない円は下落する?
米雇用統計でFRBの緩和縮小はやや遠のきました。とはいえカナダに続き英国、オセアニア、米国などは経済が順調に回復すれば近い将来緩和縮小に向かう可能性が高いです。しかし日本はまだ縮小へは時間がかかることを考えると緩やかな円安が継続するものと思われます。
豪ドル円に注目
豪ドル円は長期的には82円付近がサポートされ85.65付近まで上昇し3月18日の高値85.45を上抜けしています。
日足のRSIは74%、週足は73%とオシレーター系の指標は高値圏を示唆していますが上昇トレンドは続いています。
日足は一目均衡表の転換線が84.80、基準線が84.35、25日移動平均線が84.30、一目雲の上限が83.85付近にいししています。84円付近が短期的なサポートになっておりここが維持できれば90円方向への上昇を予想します。
2013年4月の高値105.30~2020年3月の安値59.80のフィボナッチ・リトレースメント61.8%戻しが88付近、下落前の戻り高値が90.30付近となり、このラベルが今回の上昇のターゲットと予想します。
一方で84円付近を下抜けした場合、一旦上昇トレンドは終了し、上昇前の安値82円付近への下落を予想します。
日足
月足
チャートは豪ドル円の日足と月足です。 日足は一目均衡表、25日移動平均線、RSI、MACD、スローストキャスティックス、DMIです。
月足は一目均衡表、RSI、MACD、スローストキャスティックス、DMIです。左側の数字は105.30~59.80のフィボナッチ・リトレースメントです
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YEN蔵こと田代岳
株式会社ADVANCE 代表取締役
米系のシティバンク、英系のスタンダード・チャータード銀行と外資系銀行にて、20年以上、外国為替ディーラーとして活躍。
その後、独立し個人投資家として為替、株のトレードを行うとともに、投資情報配信をセミナー、メルマガ、YouTubeなどで配信している。
為替を中心に株式、債券、商品、仮想通貨と幅広くマーケットをカバーして分かりやすい解説を行っている。
長期のファンダメンタルズ+短期のテクニカルを組み合わせて実践的なリポート、セミナーを展開。ドル、ユーロなどメジャー通貨のみならず、アジア通貨を始めとするエマージング通貨でのディーリングについても造詣が深い。
また海外のトレーダー、ファンド関係者との親交も深い。
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