アンモニアが脱炭素の切り札として急浮上しています。
20年10月に、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。
20年12月にまとめられた「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、再生エネの洋上風力・蓄電池、水素発電における水素産業創出などに並び、火力+CO2(二酸化炭素)回収での燃料アンモニア産業の創出が掲げられています。
脱炭素電源では「再生エネ50~60%」、「原子力+CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)/カーボンリサイクル30~40%」に次ぎ「水素・アンモニア10%」が目標となっているのです。
政府はアンモニア燃料の使用量を2030年に年300万トンとする目標を設けています。
アンモニアは、現在は肥料などで用いられていますが、燃焼時にCO2を出さないため、火力発電で利用すれば脱炭素に活かすことができます。
カーボンニュートラルには排出量が多い発電分野のCO2減少が重要になります。
石炭火力発電所で燃料としてアンモニアを20%混ぜた(混焼した)場合、100万キロワットの大型設備6基分と、四国電力並みの発電容量を賄えるといいます。
アンモニアを混ぜた分だけ、CO2を減らせるためです。
アンモニア(NH3)は成分の中の多くの水素を含み、貯蔵や持ち運びが容易。
既に化学原料や肥料として活用されているため、輸送インフラも整っているのです
化石燃料依存による地球温暖化の進行を防ぐために、次世代エネルギーとして水素が注目されています。
現在、水素の貯蔵・運搬方法としては700気圧で圧縮するか、摂氏マイナス253度に冷却し液化する方法が用いられています。
ただ、圧縮や液化に伴うエネルギーロスが大きいという問題があります。
水素をできるだけ常温・常圧に近い条件で、貯蔵、運搬する水素キャリア技術が求められています。
その解決策の一つとして注目されているのがアンモニア。
アナリストによれば、液化アンモニアに含まれる水素ガス量は液化水素の1.7倍、圧縮水素の約3倍になるとしています。
澤藤電機と岐阜大学は17年にプラズマと水素分離膜を組み合わせたPMR(プラズマメンブレンリアクター)という装置を開発し、世界で初めてアンモニアから燃料電池用の高純度水素を得ることに成功しています。
18年にはPMRの高出力化に成功したと発表。
アンモニアから99.999%の高純度水素150NL/h(PMR1本あたり)を製造できるという。
NL/hは0℃、1気圧での1時間当たりの発生量を指す。
将来的には500NL/Hを目指し、水素ステーションや燃料電池発電機などへの応用が期待されるとしています。
アンモニア関連7銘柄
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澤藤電機(6901)
木村化工機(6378)
澤藤電機(6901)、木村化工機(6378)と岐阜大学は19年に世界で初めて低濃度アンモニアから高純度水素を製造し、燃料電池の発電に成功したと発表しました。
アンモニアは食品、発電、半導体など多くの製造業で用いられていますが、それらの工場から排出されるアンモニア排ガス・排水は水質汚濁防止法や総量規制制度に準拠して、何らかの方法で処理する必要があります。
現在は触媒燃焼法や蒸気式蒸留法で処理しているが、化石燃料を使用するためにCO2やNOx(窒素酸化物)の排出が避けられません。
木村化工機のヒートポンプ式蒸留法と澤藤電機のPMR水素製造装置(商品名はH2 HARMONY)および燃料電池発電システムをコンバインド(接続)し、低濃度アンモニア水から高純度水素を製造し、燃料電池で発電することに成功しました。
処理するための消費電力を賄うだけでなく、余剰電力が得られるということです。
カーボンニュートラルを実現した上で、発電ができることになります。
IHI(7013)
20年10月に、IHIと日本エネルギー研究所、サウジアラムコが進める、ブルーアンモニアのサプライチェーン実証実験に成功したと発表しています。
ブルーアンモニアとは石化由来ではあるが、CO2をオフセットしたものを指します。
一般的なアンモニアと区別した名称です。
具体的には、天然ガスからアンモニアを製造する際に排出されるCO2を分離してEOR(石油増進回収)やCCU(CO2回収貯留)に利用されることからカーボンニュートラルな燃料となります。
このブルーアンモニアの一部を2,000kw級のガスタービンの燃料として利用する混焼実験を横浜事業所で開始しました。
天然ガスにアンモニアを50%混ぜて燃焼する試験で、アンモニアは燃やしてもCO2を発生しないため、発電設備からの排出量を半減させることができます。
日揮ホールディングス(1963)
18年10月に同社と産業技術総合研究所(産総研)は、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成、および合成したアンモニアを燃料としたガスタービンによる発電に世界で初めて成功したと発表しています。
製造から発電に至るまでCO2を排出しないアンモニアを活用したエネルギーチェーンの確立に前進したとしています。
東京電力ホールディングス(9501)
中部電力(9502)
東京電力ホールディングス(9501)と中部電力(9502)が出資するエネルギー関連企業JERAは21年2月に、マレーシアの国営石油・天然ガス大手のペトロナス社と脱炭素分野での協に関する覚書を締結したと発表しています。
CO2を出さないアンモニアの生産に乗り出します。
LNG(液化天然ガス)の利用促進のほか、アンモニア・水素燃料のサプライチェーン(供給網)構築に関して連携します。
ペトロナスはアジア有数のアンモニア製造事業者。
生産場所や規模は今後詰めていきます。
JERAは国内最大の火力発電所を有しています。
CO2対策として今後はアンモニアに加えて水素を段階的に活用する見通しです。
報道などでは2040年代にはアンモニアだけを燃料とした発電設備を稼働させる考えでう。
JERAは連携によって、CO2排出をなくすため再生エネ由来の電力によるアンモニア製造に乗り出すとのことです。
味の素(2802)
味の素(2802)や東京工業大学などが設立したつばめBHBは、アンモニアの生産を手掛けています。
1か所で大規模生産して、輸送・保管するのではなく、需要地ごとに小型プラントによる分散生産で、最終消費地で供給。
輸送や保管コストの削減を図ります。
報道によればラオスの水力発電で余った電力を使ったアンモニアの生産に乗り出します。
アンモニアの課題は価格の高さです。
現状では発電燃料として利用すると石炭より5割、LNGより3割割高と推計されます。
政府では大量に使うことで、2030年までにLNG並み価格を目指すと報じられています。
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和島英樹
経済ジャーナリスト。
日本勧業角丸証券(現みずほ証券)入社。株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年ラジオNIKKEIに入社。
東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。
2020年6月に独立。企業トップへの取材は1,000社以上。
ラジオNIKKEI担当番組に「マーケット・プレス」など。
四季報オンライン、週刊エコノミストなどへ寄稿多数。
国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)。
日本テクニカルアナリスト協会評議委員。