米国では肥満症治療薬の市場が急拡大しています。
かつては夢の薬といわれた“やせる薬”の分野ですが、実際に発売が開始されると需要は想定以上となっています。
米国では国民の約4割が肥満とされていることで、今後の拡大も想定されます。
市場をけん引しているのはデンマークの製薬大手のノボノルディスク社と、米イーライ・リリー社の2社です。
両社の株価は右肩上がりの推移となっています。
肥満症治療薬はもともと、2型糖尿病の治療薬に使われるGLP-1受容体作動薬に、ダイエットの効果があるとして話題になっていました。
何とか手に入れようとして適用外処方で使用されることが増えて、社会問題化していた経緯があります。
FDA(米食品医薬品局)は2021年に、ノボノルディスクが糖尿病薬を転用して開発した肥満症治療薬「ウゴービ」を承認しました。
すぐに生産が追い付かなくなるほどの人気となっているのです。
また、イーライ・リリーが2023年12月に米国内の薬局で販売を開始した肥満症治療薬「ゼプバウンド」も販売好調で、時価増額は電気自動車(EV)大手で一世を風靡したテスラを上回っています。
使い方は糖尿病のインスリン注射と同じです。
ペン型の注射器を自分で下腹部や太ももに薬剤を注入します。
これにより薬剤が血糖値を下げ、中枢神経に働きかけることで、少量の食事でも満足感を得られる仕組みになっています。
注射は1週間に1回だけでよいそうです。
肥満の定義は、WHO(世界保健機関)によると体重を身長の二乗で割った「BMI(Body Mass Index=体格指数)」が30以上を指します。
また、25以上では「過体重」といわれます。日本では25以上が肥満です。
報道などによれば、米国の成人のカロリー摂取量は1日平均3,900キロカロリーで世界最高だそうです。なんと、日本人の1.5倍に相当します。
肥満は糖尿病や高血圧症、脂質異常症など様々な病気につながるとされています。
肥満症の患者も増加傾向です。
肥満症の解消は心不全などのリスク低減になるほか、医療費の削減、元気に仕事ができれば生産性の向上にもつながります。
米調査機関では肥満が米GDP(国内総生産)を7%押し下げていると試算しているそうです。
米大手金融機関によれば肥満症治療薬の世界市場は2030年までに1,000億ドル(約15兆円)と2023年比で16倍以上に膨らむと予測しています。
市場は今後も拡大する可能性が大きいといえそうです。
関連銘柄をピックアップします。
米医薬開発・製造の大手。
世界で初めてインスリンの実用化に成功。
糖尿病や腫瘍領域などに強い。
FDAが2023年11月に肥満症薬「ゼプバウンド」の製造販売を承認。
同年12月から販売を開始し、大型新薬に成長。
利用拡大を目指し、独自の販促用サイトを設置。
デンマークのヘルスケアメーカー。
糖尿病薬を転用して開発した肥満症治療薬「ウゴービ」がFDAから承認され発売。
増産のために米医薬品の3工場を買収。
業績の将来性を期待され株価が上昇。
高級ブランド展開する仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの時価総額を抜き欧州最大に。
ウゴービは今年3月に心血管疾患の治療薬としても承認された。
バイオ分野の専門医療メーカーで世界トップ級。
遺伝子組み換えなどのバイオ技術を用いて新薬を開発。
バイオ医薬品のパイオニア。
米国の複数のメディアで肥満薬市場への参入が報じられている。
それによると月1回の注射で減量効果が見込め、服用を中止した際に再び体重が増加する「リバウンド」が起きにくい新薬候補。
年内にフェーズ2(臨床第2段階)の治験結果を公表する見通しとしている。
ロシュ系の製薬大手。
同社が開発した肥満症向け新薬候補「オルフォルグリプロン」への期待感が高まっている。
飲み薬(経口薬)で身体的な負担が少ない点も評価材料。
イーライ・リリーに権利を譲渡。
国際共同臨床試験は最終段階。開発や販売に応じた収入を得る。
感染症や疼痛・中枢神経領域に強みがある医薬品準大手。
同社が米国で開発している肥満症薬MGAT2阻害剤「S-30309」はGLP-1製剤とは異なるアプローチ手法。
中性脂肪再合成に関わる酵素であるMGAT2に作用し、中性脂肪の再合成による体内への吸収を抑制するメカニズム。
2024年4~6月にも中間段階の臨床試験(治験)結果の速報が開示される可能性がある。