金価格が高騰する背景から見えるもの
金(ゴールド)は古くから「有事の資産」と呼ばれ、世界中の投資家に選ばれてきました。
株価が下落したり為替が乱れたりしても、金はその価値を保ちやすく、資金の避難先となり得ます。
金価格を押し上げる主な要因は、「実質金利の低下」と「世界経済の不安定化」です。
実質金利とは、名目金利(銀行の金利など)からインフレ率(物価の上昇率)を差し引いたものを指します。たとえば、各国の中央銀行が景気を支えるために金融緩和を行うと、名目金利が低下する可能性が高まります。同時に物価が上昇すれば、実質金利はさらに下がることになります。その結果、利息がつかない金の相対的な魅力が高まり、投資先として選ばれやすくなるのです。
また、政治不安や財政赤字の拡大などにより通貨への信頼が低下した場合や、国際的な緊張・紛争などの地政学リスクが高まった際にも、金に資金が流れやすくなります。
実際、2008年のリーマンショック、2020年の新型コロナウイルス拡大、2022年のウクライナ侵攻など、世界的な危機のたびに金価格は上昇してきました。2020年以降、各国の金融緩和やインフレの進行を背景に、金価格は1トロイオンス=2,000ドル前後から上昇し、2025年10月8日には史上最高値圏となる約4,000ドルを突破しています。
こうした動きは、金が“世界の不安や信認の変化を映す資産”であることを示しています。
最近では、中国やインドなどの新興国がドル離れを進めるなか、各国の中央銀行が外貨準備の一部として金の保有を増やす動きも加速しています。
しかし、金は利子や配当を生まない資産です。それにもかかわらず、なぜ世界の投資家は金を選び続けるのでしょうか。
なぜ市場は金を選ぶのか
金が選ばれる最大の理由は、「信用リスクのない資産」であることです。
株式や債券のように企業や国の信用に依存せず、発行体が存在しないため、破綻や倒産の影響を受けません。インフレで紙幣の価値が下がっても、金そのものの価値は失われません。
地上に存在するすべての金には限りがあり、「価値の貯蔵手段」として中長期的には選好されるという見方があります。
もう一つの理由は、金が世界共通の価値を持つ「無国籍資産」であることです。
どの国でも通用し、為替や政策の影響を受けにくいため、政治や経済が混乱すると投資資金が金に逃避する傾向があります。
こうした理由から、金は「安全資産」として位置づけられています。
とはいえ、「価格が下がらない資産」というわけではありません。世界情勢が安定し、投資家心理が落ち着く局面では、金価格が下落することもあります。
つまり、金の値動きは「人々の不安心理」を映す鏡といえ、いわば「お金の保険」の役割を果たしています。
過去の金価格の値動きから世界情勢を読む
金の値動きを振り返ると、世界情勢と密接に関係していることがわかります。
金は、経済や政治の不安が高まると上昇し、安定してくると下落するという逆張り的な動きを見せます。その理由は、投資家が危機のときに「逃げ場」を求め、安全資産である金を選ぶからです。
2008年:リーマンショック
アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、世界的な金融危機が発生し株式市場が暴落しました。ドルやユーロといった通貨への信頼が揺らぐなか、投資マネーが金に流れました。この時期、金は“最後の価値の拠りどころ”として買われ、価格は急上昇しました。各国の中央銀行が金融緩和に動いたことで、実物資産である金の魅力が一段と高まりました。
2020年:コロナショック
世界的なパンデミックにより経済活動が止まり、企業収益や雇用環境が急速に悪化。株式市場は一時的に大幅に下落しました。
不安が世界を覆う中で、投資家は「どの通貨も信頼できない」という心理に陥り、金を安全資産として購入しました。
金価格は1トロイオンス=2,000ドルを突破し、過去最高値を更新。これは、「不安こそが金を押し上げる材料」であることを示す象徴的な局面でした。
2022年:ウクライナ侵攻
ロシアのウクライナ侵攻により、世界的な地政学リスクが一気に高まりました。
エネルギー価格が上昇し、インフレ懸念が強まったことで、投資家は再び金に資金を移しました。2022年後半には米国の利上げ局面が始まると、ドルが急上昇します。これにより金価格は一時的に上昇を止めるなど、地政学リスクと金融政策の影響が拮抗する状況が見られました。
2023〜2024年:米金利上昇局面
インフレ抑制を目的に米連邦準備制度(FRB)が利上げを継続したことで、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)レートが引き上げられ、金利水準が大きく上昇しました。金利が上がると、利息がつかない金は相対的に不利になります。このため、金は一時的に値を下げる展開となりました。しかし、下落が続いたわけではなく、景気減速懸念が出るたびに買い戻されるなど、金の底堅さも見られました。(下のグラフを参照)
<金価格と世界情勢の関係>

(データ出典:米国セントルイス連邦準備銀行 FRED「Federal Funds Effective Rate」FRED公表データ、XAU/USD(国際的なスポット金価格)出典Investing.comに基づき筆者作成)
金価格が暴落する条件とは
ここまで、金が安全資産として選ばれ、価格が上昇する背景を見てきました。しかし、その一方で、金価格が下落する局面も存在します。では、どのようなときに金は値を下げやすいのでしょうか。
- 世界経済が安定しているとき
投資家がリスク資産(株や不動産など)に資金を戻すため、金からリスク資産へ資金が流出する傾向にあります。 - 金利が上昇しているとき
金は利息がつかない資産です。金利の高い債券などが魅力的になると、相対的に金の価値が下がりやすくなります。 - ドル高のとき
金(ゴールド)はドル建てで取引されるため、ドルが強くなる(ドル高)と金は割高に見え、価格が下落しやすくなります。 - 中央銀行や大口投資家が売却したとき
特に中央銀行が金を放出すると、需給バランスが崩れて価格が下がることがあります。
これらの条件が重なると、金価格は大きく値を下げることがあります。
そして、まさに2025年10月28日現在は、これまで上昇していた金価格は、一時1トロイオンス3,880ドル台になり、3週間ぶり(10月6日以来)に安値をつけました。投資家はリスクを取って積極的に株式などに投資しようという姿勢が強まり、安全資産とされる金は売りに傾いたのです。
金価格の下落は「価値を失う暴落」ではなく、世界経済の安定や金利上昇、ドル高などの要因により、「リスク資産に資金が戻る過程」で起きる自然な動きです。金価格の下落を恐れるのではなく、長期的な資産形成の仕込みチャンスと捉えることもできます。
豊富にある金投資の楽しみ方
金投資にはさまざまな方法があります。初心者でも始めやすい手段を紹介します。
- 金貨・金地金を購入する場合、実物を手にする安心感がありますが、保管場所や盗難リスクには注意が必要です。運用という側面よりも、コレクションや記念としても選好されます。
- 純金積立は毎月一定額で少しずつ金を積み立てる方法です。価格が高いときも安いときも買い続けることで、平均購入価格をならす効果が期待できます。
- 金の投資信託金価格の値動きに連動する投資信託を通じて、少額から投資ができます。たとえば、「三菱UFJ純金ファンド」は金の現物価格に連動する投資信託で、実際の金地金を裏付け資産として運用しています。金融商品のため、保管の手間もなく証券口座を通じて手軽に投資が可能です。
<金投資の方法の例>

※上記の商品は一例であり投資を推奨するものではありません。上記の投資信託は、金に投資するという点では共通ですが、運用方針、為替ヘッジの有無、信託報酬などに違いがあります。純資産額の大きい順に掲載しています。いずれも新NISAの成長投資枠対象です。
※上記の表は筆者が作成しています。
未来に備える~資産防衛の一手として
金は、古くから「危機に強い資産」として位置づけられてきました。
ただし、価格には変動があることも理解しておく必要があります。
最近では金価格に下落傾向が見られましたが、一方で、歴史的に、景気後退や金融危機・戦争・パンデミックなど、将来への不安が高まる局面では、安全資産としての金が再び注目を集めてきました。
近年は、各国の中央銀行による金の買い増しが続いており、通貨に代わる価値の保全手段として再評価されています。
また、金は株式や債券との相関が低く、インフレにも強いとされます。そのため、長期的な分散投資の選択肢として保有を検討する価値がある資産といえるでしょう。




