選挙と株価の関係は?過去の傾向と相場への影響をわかりやすく解説 選挙と株価の関係は?過去の傾向と相場への影響をわかりやすく解説

選挙と株価の関係は?過去の傾向と相場への影響をわかりやすく解説

「選挙は買い」のアノマリーとは

日本では、国政選挙が近づくと「選挙は買い」という株式市場のアノマリーが話題になることが多いです。選挙前後に株価が上昇する、いわゆる“ご祝儀相場”です。
過去の事例や株価変動のメカニズムを確認しながら、投資家として心得ておくべきポイントを整理してみましょう。

アノマリーとは統計的な経験則のことで、必ずしも科学的な根拠があるわけではありません。「選挙前に株を買うと値上がりする」というのは、過去の相場の動きから観察された傾向にすぎません。

とはいえ、衆議院選挙や参議院選挙の前後には株式市場の動きが活発になり株価が上がったケースは多くあります。
背景には、政策の安定や景気対策への期待から投資家心理が前向きになり、株を買う人が増えることなどがあると考えられています。
こうした経験則から、多くの投資家は「選挙前は株価が上がる」と期待する傾向があります。

果たして、選挙前に株を買うのは正解なのでしょうか?

過去の選挙と株価の動き

過去の選挙を振り返ると、選挙の種類や時期によって株価の動きには特徴があることがわかります。
まず、衆議院選挙は解散によって総選挙が行われるため、政権交代の可能性があり、市場に与えるインパクトは比較的大きくなります。衆院選に際し解散発表前日から投票日前までの株価変動を見ると、短期的な調整や反発が頻繁に起こっています。ですが、新しい政権への期待感が市場に広がり、株価が上昇することが多かったことがわかります。

<衆院選と日経平均株価の関係>


(衆議院議員総選挙一覧表より筆者作成)

2005年の小泉純一郎内閣下での郵政選挙では、自民党圧勝への期待から株価は上昇しています。また、2012年は自民党が政権復帰し、アベノミクスへの期待が高まりました。この期待が株価の上昇を促進したとされています。

このように、衆院選では解散発表から投票日までの短期的な株価動向に、政策や政党の勢力図に関する市場の期待や不安が反映される傾向があるのです。

これに対し、参議院選挙は衆議院のような解散がなく、選挙日程も予測可能であるため、短期的な株価変動は比較的穏やかと見られています。
選挙そのものが株価を動かすというよりも、選挙結果によって示される政権基盤の安定性や政策期待が相場に反映されると考えられます。

<参院選と日経平均株価の関係>


(参議院議員通常選挙一覧より筆者作成)

参院選後は、景気対策や予算編成の方向性が見えてくる秋以降に、株価が落ち着きを取り戻すことが多い点も特徴といえるでしょう。

例えば2019年の参議院選挙後は、米中通商協議の進展が不透明感をやわらげ、市場には落ち着きを取り戻す動きが見られました。

参院選では、短期的な「ご祝儀相場」というよりも、投票結果を受けた政策方針や政権の安定への期待が、時間をかけて株価に反映される傾向があります。

過去の傾向を整理すると、衆議院選挙では解散から投票日までの短期的な動きに注目し、参議院選挙では投開票後から年末にかけての相場の方向感を見るとよいでしょう。

また、過去の選挙を振り返ると、総理大臣の交代や与野党の勢力バランスの変化も、投資家心理に影響を与えてきました。

1990年代前半には、政権交代が相次ぎ政治の不透明感が広がった時期に株価が下落する一方で、政策の方向性が明確になった場面では市場が落ち着きを取り戻す傾向が見られました。

例えば1993年の細川連立政権誕生や1994年の自社さ連立政権など、政権構造がめまぐるしく変化した時期には、投資家心理が不安定になり、株価も上昇または下落どちらのトレンドか判断しにくい流れになりました。

2000年代以降も、政権交代や政策スタンスの転換をめぐって市場が敏感に反応する局面が繰り返されています。2001年の小泉政権発足時には「構造改革」に対する期待が株価上昇を支えた一方、2009年の民主党政権誕生時には政策の不透明感から株価が下落するなど、政策への信頼度が市場心理に直結してきました。ただ、2009年の衆院選後には新政権による経済政策への期待が高まり、日経平均株価は上昇しました。これは不透明感の後に方向性が見えたことで市場が落ち着きを取り戻した例といえます。

近年では、政権が安定している場合や選挙結果を受けて経済政策の継続が期待される局面では、株式市場も比較的穏やかに推移する傾向が見られます。2022年の参院選後、岸田政権の政策が維持されるとの見方から市場は大きな混乱を見せず、むしろ為替や金融政策への注目が高まりました。

選挙で株価が動く要因

株価が選挙前後に変動する背景には、複数の要因があります。


  • アノマリーや心理的要因
    「選挙は買い」といわれるのは、経験則に基づく心理的効果です。投票結果が予想され、経済政策の安定が見込まれる場合、投資家の不安が期待に変わり株価が上昇しやすくなるとされています。景気が緩やかに回復している局面では、選挙をきっかけに株式市場への期待感が高まり、上昇基調が強まることがあります。

  • 政策期待や産業関連
    選挙の争点や政策によって、特定の産業や企業が恩恵を受けると見込まれる場合、関連銘柄が選挙前に買われる傾向があります。例えば、選挙で防衛費増額が争点になると、防衛システムなどを手掛ける企業の株価が上昇しますし、「デジタル庁」設立や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が公約になると、ITサービス、クラウド、通信インフラ企業の株価が動きました。今後の新政権の政策の恩恵を受けやすい分野としては、防衛、経済安全保障、エネルギー政策がキーワードになるでしょうか。

  • 外国人投資家の動向
    日本株の大口保有者である外国人投資家は、政治リスクや為替リスクを意識して売買する傾向があります。選挙前の不透明感から一時的に売られることもあれば、選挙後に政策安定が確認されると買い戻されることもあります。実際、2012年の衆院選後には、外国人投資家の買い越しが続き日経平均上昇の一因となりました。

  • 景気や海外要因
    選挙は国内事情ですが、株価はグローバルな影響も受けます。米中関係、為替、金利動向など海外市場の不安定さが選挙前後の株価変動に重なると、単純なアノマリーでは説明できない動きになることがあります。
    例えば、2019年の参院選後には米中通商協議の進展が株価上昇の追い風となり、選挙だけでなく海外要因も重要であることが示されました。

投資家が心得ておくポイント

選挙時期の株価動向を知ることは有用ですが、過度に短期的な値動きに振り回されることは避けるべきです。投資家として意識すべきポイントは次の通りです。


  • 長期的視点を重視する
    選挙による短期的な値動きは一過性であり、長期的な資産形成には大きな影響を与えません。一時的な値動きや噂に惑わされず、自分の投資戦略を守ることが重要です。

  • 自分の投資ルールを再確認する
    投資対象、リスク許容度、売買ルールを整理し、衝動的な売買を避けることで安定した投資が可能になります。

  • 関連銘柄には注意を払う
    選挙の争点に関連する銘柄を保有している場合は、政策動向やニュースに注意し、必要に応じてポートフォリオを調整することが賢明です。例えば、防衛政策が強化される見込みであれば、関連株の急騰・急落に注意する必要があります。

  • 情報の取捨選択を冷静に行う
    マスコミ報道やネット情報に影響されすぎず、自分の分析や判断を軸に行動することが求められます。

  • 分散投資や定期積立の重要性
    価格変動に左右されないためにも、銘柄や資産を分散させること、購入するタイミングを分けて投資することのメリットを再確認しましょう。選挙時期の一時的な値動きに焦って売買する必要はありません。

「選挙は買い」というアノマリーは、過去のデータ上の傾向として存在しますが、実際の株価は、景気、為替、政策期待、海外市場の影響など複数の要因に左右されます。
投資家としては、選挙というイベントを理解した上で、短期的な値動きに振り回されず、自分の投資ルールと長期戦略を守ることが最も重要です。
選挙で話題になる銘柄や政策に目を向けつつも、冷静に判断する姿勢が安定した資産形成への近道といえるでしょう。

執筆者:村松祐子

村松祐子


ファイナンシャルプランナー(CFP®1級FP技能士)。金融・証券インストラクター。1987年より、大手証券会社において外国株式の東京証券取引所上場に際し、販売促進に携わる。資料作成、および、顧客向け株式セミナー、社内勉強会の運営に従事。1990年より富裕層向け資産運用コンサルティングに従事したのち、 株式調査部に転籍、経済・株式の調査を経験、機関投資家向け週間マーケットレポートの作成に携わる。資産運用の相談、経済・市場調査の経験を踏まえ、それらを総括したサービスを提供するFPへ転身。現在、資産運用・株式投資の個人レクチャー、セミナーのほか、ライフ&マネープラン相談を実施している。一人ひとりに合った資産形成の提案には定評があり、自立した個人投資家の育成にも力を入れている。『FPコスモス』代表。

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