マネタリーベースとは? マネーストックの違いをやさしく解説 マネタリーベースとは? マネーストックの違いをやさしく解説

マネタリーベースとは? マネーストックの違いをやさしく解説

マネタリーベースとは

マネタリーベースとは、日本銀行(日銀)が世の中に直接出すお金のことです。具体的には、「現金」と「日銀当座預金」の合計で、お金の流通量を表わす統計として日銀が毎月公表しています。

この統計で「現金」は「日本銀行券発行高」と「貨幣流通高」、つまり紙幣と硬貨の合計です。「日銀当座預金」は、金融機関が日本銀行に開設している当座預金のことで、金融機関同士の資金移動や日銀との取引の決済に使われています。

マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

マネタリーベースは日銀が世の中に供給するお金の「最初の層」、つまり「ベース」で、土台になる部分です。日銀が市中の銀行にお金を供給し、企業や個人に貸し出されて世の中に広がっていく流れの出発点となります。

マネタリーベースは、欧州などでは「ベースマネー」と呼ばれ、また、経済学では「ハイパワードマネー」と呼ばれることもあります。

日本では、2013年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任してからマネタリーベースが急拡大しました。

<マネタリーベース(季節調整済・平均残高)の推移>


マネタリーベース(季節調整済・平均残高)の推移

※グラフは日本銀行の公表データを元に筆者が作成

日銀が毎月公表しているマネタリーベース統計の内容は、日々の残高の平均である「平均残高」と、その前年比である「平残前年比」、「季節調整済・前期(月)比年率」、および「月末残高」です。

なお、前年同月に特殊な要因があった場合には、その影響で前年比が大きく変化することがあり、これを「前年の裏要因による変動」と呼んでいます。

そのため、マネタリーベースの動向を分析する際には、前年比だけでなく必要に応じて季節調整済・前期(月)比年率も確認するとよいでしょう。

マネタリーベースが拡大するとどうなる?

マネタリーベースが増える(拡大する)と、銀行はお金を貸しやすくなります。一般的に、世の中に出回るお金の量が増えれば、経済が活発化しやすくなります。反対に世の中のお金の量が減ると、景気にブレーキがかかりやすくなります。

<日銀がマネタリーベースを増やすとどうなる?>


日銀がマネタリーベースを増やすとどうなる?

※図は筆者作成

ただしここまでの説明は、マネタリーベースの拡大が「お金の供給側(銀行)にとってお金を貸しやすい状態になる」ということで、本当に世の中にお金が出回るためには、企業や個人が「借りたい」と思わなければなりません。

企業や個人が業績低迷や将来不安のために「お金を借りたくない」と思ったり、手元にお金が充分にあって「お金を借りる必要がない」と考えたりするならば、銀行がお金を貸したくても出回るお金の量は増えません。

マネタリーベースと物価・為替・金利・株価の関係

マネタリーベースの拡大や縮小は、物価や為替、金利、株価に影響を及ぼします。それぞれの関係を確認してみましょう。

・マネタリーベースと物価の関係

マネタリーベースが拡大すると、お金の出回る量が増える分、経済が活発になって消費が促され、物価が上がりやすくなるといえます。

・マネタリーベースと為替の関係

マネタリーベースが拡大した結果としての物価上昇に関連して、相対的に円の価値が下がり、円安外貨高という構図になりやすいといえます。

・マネタリーベースと金利の関係

金融緩和政策によるマネタリーベースの拡大は、金利を下げる政策そのものです。これによって短期金融市場の金利が下がり、短期の貸出金利や預金金利が下がります。また、長期金融市場は、投資家が先行きの金利動向を読みながら取引をする場ですから、低金利の長期化が見込まれれば長期金利も下がる方向に影響を受けます。

・マネタリーベースと株価の関係

マネタリーベースの拡大によって物価が上昇すれば、相対的にモノなどの資産価値が上がりやすくなります。株式や不動産なども資産のうちの1つとして上昇しやすくなります。

また、為替の円安外貨高の結果、円安が追い風になる業種の株価は上昇しやすく、円安が不利に働く業種の株価は下がりやすくなるでしょう。

さらに、低金利になった結果として企業の借入れコストが抑えられ、投資家の資金は低金利を避けて株式に向かいやすくなることから、株価上昇の要因となる可能性があります。

マネーストックとは? マネタリーベースとどう違う?

ここまでみてきたマネタリーベースとは異なる概念ですが、「マネーストック」もお金の流通量を示す統計です。マネタリーベースと同様、日銀が毎月集計し、公表しています。

マネーストックは、金融部門を通じて経済全体に供給されている通貨の総量で、金融機関・中央政府以外の経済主体が保有する通貨量の残高です。具体的には一般法人、個人、地方公共団体などが持つ通貨の総量です。

マネーストックが中央銀行から市中の金融部門を経て経済全体に供給された通貨量であるのに対して、マネタリーベースは中央銀行が直接供給する通貨量です。

ただし、マネーストックにおける「通貨」の範囲は、国や時代によって異なり、一本化された共通の定義があるわけではありません。現在の日本では、対象とする通貨の範囲に応じて、「M1」、「M2」、「M3」、「広義流動性」という4つの指標が作成・公表されています。

<マネーストックの各指標の定義>


マネーストックの各指標の定義

※表は筆者作成

「M1」は、日常的に使える決済手段としての現金通貨と預金通貨で構成されています。

「M2」と「M3」は、「M1」に準通貨やCD(譲渡性預金)を加えた指標です。準通貨の大半は定期預金です。定期預金は解約して現金通貨や預金通貨に替えれば決済手段になりますから、預金通貨に準ずるとされています。「M2」と「M3」は金融商品の範囲は同じですが、預金の預入先が異なります。「M2」は国内銀行に限定されており、「M3」は全預金取扱機関が対象です。

「広義流動性」は、「M3」に何らかの流動性がある金融商品を加えた指標です。例えば、投資信託の解約代金は銀行預金に振り替えられるため、金融商品間の資金の流出入があっても広義流動性の額は変わりません。

これらはすべて、国内居住者のうちの一般法人、個人、地方公共団体などが持っているお金や金融資産が対象です。

なお、マネーストックは2008年5月以前は「マネーサプライ(通貨供給量)」という名称でした。サプライ(Supply)は供給という意味ですが、「保有残高」という概念の方が適切であることから、日銀はStock(保有)を使った名称に変更したのです。

その後、金融の自由化が進み、金融経済の環境が変化したこともあって、日銀の金融政策の手段は変わりました。世の中が保有している現金通貨や預金通貨の量を増減したとしても、景気へのインパクトが弱くなってきたため、旧マネーサプライであるマネーストックではなく、日銀が直接供給するお金の量であるマネタリーベースが金融政策の対象になったというわけです。

まとめ

マネタリーベースは、日銀が直接供給する土台となるお金で、経済の出発点と捉えることができます。そのため、金融政策の操作対象に適しているとされ、現在、日銀が政策目標のターゲットにしています。

一方、マネーストックは、企業や法人が保有するお金の総量で、経済の実態を把握するうえで有効な統計です。

マネタリーベースやマネーストックの統計は、経済や市場の動向をつかむ手掛かりになります。金融政策を直接受ける土台のお金の量なのか、それとも経済活動の中で自然に流通しているお金の量なのかを意識すると、2つの統計をうまく使い分けた判断ができるでしょう。

石原 敬子

石原 敬子

大学卒業後、証券会社に営業職で約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使し、対話を重視し行動を起こさせるコミュニケーションを心がけている。「資産形成はライフプランありき」がモットーで、ご本人が納得してお金を使うことをゴールに据えるスタンス。主な業務は個人相談、金融関連の執筆、セミナー等の講師、マネー座談会やワークショップのコーディネイター。

<資格> CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、終活アドバイザー®

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