給料は上がらないのに物価は上がる?スタグフレーションとは 給料は上がらないのに物価は上がる?スタグフレーションとは

給料は上がらないのに物価は上がる?スタグフレーションとは

スタグフレーションとは?

景気や給料がこれといって上がっている感覚はないのに、日々の生活での買い物をはじめとした生活費はじわじわと上がっている気がする、という経験をしたことはありませんか? そのとき、スタグフレーションが私たちの足元に近づいてきていたのかもしれません。

スタグフレーションとは、経済成長が停滞または後退しているのにもかかわらず、物価は上昇している状態をいいます。このスタグフレーションをより深く理解するためには、インフレーションとデフレーション、そして物価変動の理由について知っておく必要があります。

前提知識:インフレーションとデフレーションとは

【インフレーション(インフレ)】
インフレーション(以下、インフレ)とは、物価が上昇している状態を指します。緩やかなインフレは企業の収益増加や設備投資を促すため、経済成長を後押しします。経済の活性化に伴い、労働者の給与増加につながる可能性もあります。ただし急激なインフレは、給与の価値が目減りするため、インフレに伴って給与水準の上昇が見られない場合には消費者の購買力が低下することもあります。低所得者や年金生活者には、より大きな影響が生じます。

【デフレーション(デフレ)】
デフレーション(以下、デフレ)とは、物価が下落している状態を指します。消費者としては同じ金額で購入できるモノやサービスの量が増え、購買力は向上します。しかし、企業にとっては、売上減少や収益悪化を招くため、設備投資や新規雇用を抑制する可能性があります。その結果、労働者の給与低下や雇用についての不安が消費を冷え込ませる悪循環に陥る場合もあります。

<インフレとデフレのイメージ>


インフレとデフレのイメージ

※画像は筆者が作成

なぜ起こる?物価変動の理由

物価変動は、「需要と供給のバランス」、「原材料費のコスト」などの理由で生じます。

【需要と供給のバランス】
ある商品やサービスに対する需要が増加し供給が追いつかない場合、価格は上昇します。逆に、供給が過剰になると価格は下落する傾向があります。

【原材料費のコスト】
原材料のコストが高騰すると、それを原料とする製品の価格も上昇する可能性が高まります。一方で、原材料のコストが下落すると、それを原料とする製品の価格も下落する場合があります。原材料の価格そのものの騰落だけでなく、為替レートの変動、世界経済の動向、生産効率(技術の向上、輸送費や人件費の上昇など)が原材料費のコストに影響を与えることもあります。

スタグフレーションは、厄介な経済現象

スタグフレーションとは、経済が活発な状態で起きるはずの物価上昇が、経済成長が停滞または後退している状況下で生じている状態をいいます。つまり、「景気と物価が逆の動きを示している」経済現象です。スタグフレーションが長引くと、消費者の生活水準の低下や企業の収益悪化につながる可能性があります。また、スタグフレーションは単一の理由だけではなく、複数の要因が絡み合って生じる経済現象であるため、解決には慎重な政策判断が求められます。

スタグフレーションの何が問題なの? 私たちの生活や投資への影響とは?

スタグフレーションが生じると、私たちの生活や投資にとって以下のような悪影響がもたらされる可能性があります。

生活への影響

スタグフレーションが生じると、食費や光熱費といった生活必需品にも物価上昇の影響が及ぶため、家計に大きな影響を与えます。その一方で給与が上がりにくい状態になれば、消費者は生活が苦しいと感じて買い控えをするようになります。企業にとっても、原材料費などのコスト上昇の中、売上が伸び悩む状態となれば収益が悪化します。給与水準を維持するために、人員削減や新規採用の抑制が検討される場合もあり、失業率が高まる可能性があります。

投資への影響

前述のように、スタグフレーションは企業の業績悪化をもたらす可能性があります。もし、投資家が企業業績の悪化や将来不安を見込んで、株式の売却を進めれば株価が下落する場合もあるでしょう。
また、物価上昇は債券の実質的な価値を低下させますし、物価上昇を抑制するために政府が利上げを行えば、既存債券の価値がさらに低下します。そのため債券市場においても、混乱が生じる可能性があるでしょう。このような株式市場や債券市場の混乱から資産を守るために、価値が保たれやすい金やコモディティなどの実物資産への投資が注目を集める動きも生じます。

図:スタグフレーションのイメージ


図:スタグフレーションのイメージ

※画像は筆者が作成

スタグフレーションの事例

スタグフレーションの事例を2つご紹介します。

事例 1:1970年代のオイルショック

【スタグフレーションが生じた背景】
1970年代の日本は、高度経済成長を経て、エネルギー消費量が増加していました。その状況下、1973年に第四次中東戦争を契機としたOPECによる原油価格の大幅な引き上げを原因として第1次オイルショックが生じました。原油を輸入に依存している日本の経済は、原油の価格高騰に大きな打撃を受けました。その後、さらに1979年にイラン革命による第2次オイルショックが追い打ちとなり、原油価格が再び高騰しました。

【具体的にどんなことが起きたのか】
二度のオイルショックにより、日本では物価が急激に上昇しました。第1次オイルショック時には「狂乱物価」と呼ばれるほどのインフレが発生し、生活必需品の買い占めなどが起こりました。企業は原油価格の高騰によるコストの増加を価格に転嫁したため、消費者物価指数は大幅に上昇しました。一方で、原油価格の高騰は、企業の生産活動の抑制、設備投資の意欲減退につながり、景気は後退しました。その結果、物価上昇と景気後退が同時に進行するスタグフレーションという深刻な状況に陥りました。国民生活への大きな影響に対して、政府は金融引き締めなどの対策を講じました。

事例 2:イギリスのEU離脱

【スタグフレーションが生じた背景】
2010年代にイギリス国内では欧州連合(以下、EU)からの離脱を求める声が徐々に高まりました。その声とは、EUの法律や規制からの解放、そして自国での国境管理権の奪還を求めるものでした。2015年頃には、EU内の自由な移動による移民の増加が社会問題となり、イギリス国内で離脱を支持する声が高まる大きな動機となりました。また、EUの共通政策はイギリスの経済的利益に必ずしも合致しないとの考えが広がる中、2016年6月に国民投票が実施され、イギリスのEU離脱という歴史的な決断が下されました。

【具体的にどんなことが起きたのか】
2016年のEU離脱決定後から移行期間を経て2020年に離脱しましたが、2016年末には対ドルで大幅な安値を記録しました。このポンド安はイギリスが輸入する商品の価格高騰を招き、2022年には消費者物価指数が急激に上昇しました。一方で、EUとの新たな貿易関係の構築の遅れや、将来の経済に対する企業の不確実感から投資が抑制され、2023年には経済成長が停滞する局面も見られました。このように、2020年代初頭にかけてイギリスの経済はスタグフレーションの特徴を示す動きとなりました。イギリスでは、スタグフレーションに対して金利政策や財政政策を講じましたが、EU離脱による貿易障壁や労働力不足などの様々な理由により経済成長は緩やかなものであり、スタグフレーション脱却には至っていません。

スタグフレーションへの対策をどう考えるか

一筋縄ではいかない厄介なスタグフレーションに備えて、私たちはどのような対策を講じておけばよいのでしょうか。

まずは家計を把握して支出の見直しを行い、生活防衛を図りましょう。その上で、インフレに強い金などの実物資産(現物、投資信託など)や、所有している金融資産と異なる動きをする資産(外国株、外貨など)への分散投資を積立などでコツコツ始めるのも一案です。

ひとたびスタグフレーションに陥ると生活者としても投資家としても厳しい状況となります。しかし、経済状況は常に変化していきます。生活防衛、分散投資いずれにしても、情報収集に努め、柔軟に対応していく姿勢が肝要です。日ごろから知識を身につけて様々なリスクに対応できるように賢く備えを講じて、自らの生活と資産を守っていきましょう。

ご注意事項

キムラミキ

キムラミキ

ファイナンシャルプランナー 社会福祉士

日本社会事業大学で社会福祉を学んだ後、外資系保険会社、マンションディベロッパーに在籍後、FPとして独立。現在は、株式会社ラフデッサン 代表取締役として、個人向けライフプラン相談、中小企業の顧問業務をお受けする他、コラム執筆、セミナー講師、山陰放送ラジオパーソナリティとしても活躍中。
また、ライフワークとして障がい児・者の親なき後の経済準備についての啓発活動を行う上での課題研究を行うため、放課後等デイサービスや学習に困り感のある子供の学習支援教室にて、障がいのある子供たちの学習支援にも取り組んでいる。

株式会社ラフデッサンHP
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