執筆者:カブヨム編集部
昨今「最低時給を1,500円に」という言葉が話題になっていました。
この1,500円という数字はもともと、岸田元首相も「2030年代半ばまでの全国平均における最低時給額の目標」として掲げていたラインです。その後石破現首相が、自民党総裁選を前に「2020年代に全国平均で1,500円になるよう前倒し」を目指していく旨の発言をしたことから、改めてこの数字に注目が集まりました。
本コラムでは、過去の最低時給の変化について触れつつ、最低時給の上昇がどのような影響をもたらすのかを探ります。
【東京都・全国平均】過去十年の最低時給額の変化
実際に過去10年間における最低時給はどのように変化してきたのでしょうか。
以下の表にまとめました。
年 |
東京都 最低賃金(円) |
東京都 前年比引き上げ率(%) |
全国加重平均 最低賃金(円) |
全国加重平均 前年比引き上げ率(%) |
2024 | 1,163 | 4.5 | 1,055 | 5.1 |
2023 | 1,113 | 3.8 | 1,004 | 4.5 |
2022 | 1,072 | 3.0 | 961 | 3.3 |
2021 | 1,041 | 2.8 | 930 | 3.1 |
2020 | 1,013 | 0.0 | 902 | 0.1 |
2019 | 1,013 | 2.8 | 901 | 3.1 |
2018 | 985 | 2.8 | 874 | 3.1 |
2017 | 958 | 2.8 | 848 | 3.0 |
2016 | 932 | 2.8 | 823 | 3.1 |
2015 | 907 | 2.1 | 798 | 2.3 |
2014 | 888 | 2.2 | 780 | 2.1 |
これを見ると、2024年には全国加重平均で最低時給が1,055円に到達し、東京都に限れば最低時給が1,163円に達していることがわかります。
またこの表で2024年と2014年とを単純に比較すると、東京都・全国加重平均ともに、最低賃金は十年間で275円上昇したことになります(上昇率でみると東京都の場合+27.4%・全国加重平均の場合+30.7%)。
このうえで1,500円という数字を達成するためには、東京都だけで見てもさらに337円・全国加重平均では445円もの上昇が必要です。
「2020年代に全国平均で1,500円」という目標はつまり、過去十年間における上昇スピードをはるかに上回る勢いで上昇していくことを意味しますので、非常に高い目標であることがわかります。
東京都における最低賃金の背景
2024年10月1日以降、東京都の最低時給額は1,163円となり(※1)、前年比+50円という過去最大の引き上げ額を記録しました。
近年、日本の最低時給は着実に上昇しています。中でも東京は日本の経済の中心地であり、最低時給の変化が特に注目されていますが、図でも顕著であるように、東京の最低時給は全国平均を上回る水準にあります。これは家賃や食費などの生活費が他の地域に比べて高いことも反映されていると考えられるでしょう。
最低時給の変化がもたらす影響とは?
手元で使えるお金が増えるように感じるため、最低時給の上昇は歓迎すべきことのように思えるかもしれません。ただし、もちろん、最低時給の上昇にはメリットだけでなくデメリットが生じる可能性もあります。
どのような影響がありそうか、具体的に見ていきましょう。
最低時給の変化①:従業員 と企業への影響
最低時給の上昇は、従業員と企業の双方に影響を与えます。
従業員にとっては収入の増加により生活の質の向上が期待できるというメリットがあります。それにより、従業員の雇用満足度の向上も期待できる面もあるでしょう。
企業にとっても優秀な人材が定着する可能性に繋がると言えそうですが、一方、人件費の増加が経営を圧迫する懸念もあります。特に中小企業では、賃金コストの増加が利益率に直接影響するため、経営戦略の見直しが求められるケースが少なくないでしょう。
さらに、求人の抑制につながる可能性もあり、雇用機会の減少が懸念されるという問題も考えられます。
最低時給の変化②経済全体への影響
最低時給の上昇により真っ先に想起されるのは、消費者の購買力を高める効果ではないでしょうか?収入が増えることで消費が活発になり、経済全体の成長につながる可能性があります。
ただし最低時給の上昇によって、先述したように企業側で経営戦略を見直す場合もあります。それにより、増加した人件費を製品・サービスの価格に転嫁するような対処法がとられる場合、さらなる物価の上昇を招くリスクも考えられます。 そのため最低賃金を上げていくには、常に経済全体への影響を見極めつつ、バランスの取れた政策を検討する姿勢が求められるでしょう。
政府の支援策
こうした経済全体への影響の大きさを鑑み、政府は最低時給の引き上げに伴う企業の負担を軽減するため、業務改善助成金などの支援策を提供しています(2024年11月1日現在 ※3 )。
この助成金は、中小企業が生産性向上のための設備投資などを行い、その事業所内における最も低い賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資等への経費の一部を補助するもので、最低時給の引き上げを円滑に進めるための重要な手段となっています(※ 4)。
また、「中小企業向け賃上げ促進税制(※5)」という、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で賃金引上げを行った場合、増加額の一定割合を法人税額(個人事業主は所得税額)から控除できるという制度もあります(2024年11月1日現在)。
最低賃金は今後も上昇する?
「最低賃金を、2020年代に全国平均で1,500円にする」という目標を表明した以上、今後も上昇していく可能性が十分にあると言えそうです。 ただしすでに述べた通り、最低時給の上昇は労働者の生活向上に寄与する一方で、様々な課題もあります。特に東京では、生活費の高さを考慮した最低時給の設定が重要です。
今後も労働者と企業の双方にとって最適なバランスを見つけることが求められる中、最低時給の動向は注目を集め続けるでしょう。
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