退職金にかかる税金と具体的な税額の計算方法のまとめ 退職金にかかる税金と具体的な税額の計算方法のまとめ

退職金にかかる税金と具体的な税額の計算方法のまとめ

退職金は多くの企業で導入されている制度ですが、その内容や受取り方は企業によってさまざまです。受取り方によっては、税額を計算する際のもとになる所得の種類や税額の計算方法が異なります。当記事では、退職時に一括で受取るケースにおいて、どのような税金がかかるのか、税額の求め方について解説します。

退職時に一括で受け取った退職金は、退職所得として所得税および復興特別所得税と住民税がかかります。

所得税は、企業から支払われる給料など個人の収入にかかる税金のことで、国に納める税金です。1年間(1月1日~12月31日)の収入から一定額(所得控除)を差し引いた金額(所得)に、規定の税率を適用して算出します。

なお退職所得は分離課税といって、他の所得と切り離して税額を計算します。


住民税とは、市区町村民税と都道府県民税のことで、地方公共団体から課される税金です。
1月1日時点で住所のある都道府県と市区町村に納めるもので、前年の所得に応じて負担を求める「所得割」と、定額の負担を求める「均等割」があります。

こちらも所得税と同様に、他の所得と切り離して税額を計算します。


厚生労働省の中央労働委員会が調査・発表したレポート「令和3年賃金事情総合調査」では、大卒総合職の人が定年退職した場合のモデル退職金が2,563万円となっています。

新卒入社から定年退職まで勤め上げた人の多くは、このように退職金が千万円単位になることから、そこに所得税や住民税がかかると税金が高額になるのではないかとの懸念があるかもしれません。

そこで、退職時に一括で受取った退職金については前述の通り、退職所得として他の所得とは別に取扱うことで税制面での軽減措置が取られています。加えて、退職所得には当該所得にのみ適用できる退職所得控除があり、税金が高額になりにくい仕組みになっています。

国税庁は退職金を「長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものである」と定義しており、こうした退職金の性格から他の所得より税負担が軽くなるよう配慮されています。

退職所得控除額の計算方法は、次の通り勤続年数によって異なります。


勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

勤続年数が20年を超えると、20年を超えた年数分は勤続年数1年あたり40万円から70万円に増額されることから、長く勤めた人ほど控除額が大きくなる(つまり税額が少なくなる)仕組みです。

ここからは勤務先から支払われる退職金に対して、税額はどれくらいになるのか計算する方法について解説します。

まずは、税額を計算するための課税退職所得金額を計算しましょう。


課税の対象となる退職所得金額は、退職金から退職所得控除額を引いて、さらに2分の1をかけて求めます。計算式は次の通りです。

(退職金 − 退職所得控除額)×1/2=課税退職所得金額

例えば、

  • 勤続年数 15年
  • 退職金1,000万円(退職所得控除額 600万円)
この場合、課税退職所得金額は200万円になります。これは一例ですが、課税される所得が1,000万円から200万円に減額されることからも、他の所得よりも大幅に税負担が軽減されていることがわかります。


所得税の税率は、所得に応じて次の通りです。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

引用:国税庁「No.2260 所得税の税率」より編集部作成

課税退職所得金額が200万円の場合は、表の3行目の区分に該当するため税率は10%、控除額は9万7,500円となります。これをもとに所得税を計算すると、次のように求められます。

200万円 × 0.1(10%) - 9万7,500円 = 10万2,500円

なお、2037年までは復興特別所得税といって東日本大震災の復興財源となる税金が2.1%の税率で発生しますが、これについてはモデルケースで計算する際に詳しく解説します。


住民税の税率は一律10%とシンプルです。

課税退職所得金額 × 0.1(10%) = 住民税額

先ほどの例と同じく課税退職所得金額が200万円だった場合は、それに対する10%なので住民税額は20万円となります。

ここでは、国税庁がモデルケースとして設定している以下の条件で退職金を受取った人の税額を試算してみましょう。


  • 勤続30年で定年退職
  • 退職時に退職金を一括で受取り
  • 退職金は2,500万円

このケースでは勤続30年なので、以下の計算式で退職所得控除額を算出します。

800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年) = 1,500万円

次に課税退職所得金額を求めます。

2,500万円 - 1,500万円 × 1/2 = 500万円


課税退職所得額500万円に当てはまる所得税率と控除額を次の一覧表から探します。


課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

表の4行目、「3,300,000円 から 6,949,000円まで」に該当するため税率は20%、控除額は42万7,500円です。これをもとに計算すると、所得税は次の通り求められます。

500万円 × 0.2(20%) - 42万7,500円 = 57万2,500円

2037年までは復興特別所得税が加算されるため、その税率である2.1%分を加算します。

57万2,500円 + (57万2,500円 × 0.021(2.1%)) = 58万4,522円(1円未満は切り捨て)


住民税の税率は一律10%なので、上記の計算で求められた課税退職所得額の500万円に10%を掛けて求めます。

500万円 × 0.1(10%) = 50万円

先ほど求めた所得税と合わせて、このモデルケースの税総額は108万4,522円となりました。

退職金にかかる所得税、住民税は源泉徴収によって納めるのが一般的です。給料やボーナスのように天引きで徴収された後の金額が支払われるため、原則、確定申告をする必要はありません。

勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、その書類をもって所得税と復興特別所得税の課税関係が終了する仕組みになっています。

同書類を提出しない場合は、退職金に対して一律で20.42%の所得税(復興特別所得税も含む)が課税され、源泉徴収されます。

なお、退職時に同書類を提出しなかった場合や、例外的に税金が納め過ぎになっている場合は、確定申告することで還付される可能性があるので、所轄の税務署に相談してみるとよいでしょう。

短期間で退職した場合は税額の計算方法が異なります。ここでは、役員で5年以内に退職した場合と従業員で5年以内に退職した場合の2つのケースについて解説します。


この場合の退職金は、「特定役員退職手当等」に分類されます。

5年以内の短期在籍の場合、勤続年数に応じて退職所得控除額を差し引くことができますが、その次に2分の1にすることはできません。

退職金-退職所得控除額=課税退職所得金額

つまり、特定役員退職手当(実質的な役員の退職金)から勤続年数に40万円を掛けた金額を差し引いて求められた額が、課税退職所得金額となります。

例えば役員として勤務した年数が4年で、役員退職金として500万円が支払われたとすると、課税退職所得金額は以下のように求めることができます。

500万円 - (40万円 × 4年) = 340万円

「4年3ヵ月」「4年6ヵ月」といったように1年未満の端数がある場合は繰り上げとなるため、いずれも5年として計算します。


この場合の退職金は「短期退職手当等」に分類されます。

従業員として勤続年数が5年以内の人が受取る退職金については、2022年1月1日から取扱いが変更されているので、ここでは変更後の税額計算方法について解説します。

この場合は、退職金から退職所得控除額を差し引いた金額が300万円以下か、300万円を超えているかによって取扱いが異なります。


退職金から退職所得控除額を差し引いた金額 課税退職所得の金額
300万円以下 (退職金-退職所得控除額)×1/2
300万円超 150万円+(退職金-(300万円+退職所得控除額))

勤続年数20年以下のため、退職所得控除額は、40万円×勤続年数で求めます
例えば

退職金300万円、勤続年数5年の場合(退職所得控除額は200万円)
(300万円-200万円)×1/2=50万円
退職金1,000万円、勤続年数5年の場合(退職所得控除額は200万円)
150万円+(1,000万円 −(300万円+200万円))=650万円

上記の課税退職所得の金額に、所得税、復興特別所得税の税率をかけて税額を求めます。

退職金にかかる税金の仕組みと計算方法について解説しました。一般的には個人が確定申告により納税するケースは少ないですが、退職金にかかる税額がどのように決まるのかを知っておけば、事前に大まかな税額を見積もることができます。

これから受取る退職金の大まかな金額がわかる場合は、その金額と勤続年数を用いて計算してみてください。

※本記事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券からの提供です。(掲載元記事はこちら
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田中タスク

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エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、現在は自動売買を中心に運用中。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力し、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中。


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