自社株買いは株主還元の一つとして好感
高配当などで株主に還元する姿勢を強める企業には注目が集まる傾向があります。
決算期には、増配を発表した銘柄が買われる一方で、減配を見込む企業は売られてしまい、株価が下落するなどの動きが見られます。
配当などと並んで株主還元の一つとされているのが、自社株買いです。
自社株買いとは、
上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことです。
自社株買いがなぜ株主還元になるのでしょうか。
株式市場から自社の株式を購入すると、1株当たり純利益を算出する時に、分母である発行済み株式数が減少し、1株当たり純利益を高めることができます。 つまり、自社株買いをすることで、業績を上方修正したことと同じ結果になります。
また、配当性向(当期純利益のうち配当金として何%支払うかを表したもの)を表明している企業では、配当金も増えることになります。
(例)1株当たり配当金=1株当たり純利益×配当性向
配当性向が30%で1株利益が100円から120円に増えると、配当金は6円増える。
自社株買いが株価上昇につながることは、PERやROEの指標からも説明することができます。
PER(株価収益率)は、企業の利益に対して何倍まで株価が買われているかを示し、数値が高ければ割高、低ければ割安と判断されます。
自社株買いにより1株当たり純利益が上がると、PERが低下し株価が割安と判断され、買われやすくなります。
また、収益性を測る指標として投資家から注目されるROE(自己資本利益率)を高める効果もあります。ROEは当期純利益を自己資本で割って算出しますが、自社株買いは自己資本から除外されるためROEが改善します。ROEが上がると、収益性が高まったと見られて選好されやすく、株価上昇につながることが期待されます。
企業の目的と投資家の着眼点
自社株を買うには、企業は余剰資金を用意し、手続きや取得した株式の処分など結構な手間がかかるにもかかわらず、なぜ企業は自社株買いを決定するのでしょうか。
前述のように株主への還元や収益性などの指標を改善させて投資妙味を増やすこと以外に、敵対的買収に備えることを目的とする場合もあります。
経営者同士の同意がなく行われる敵対的買収は、経営権を獲得するために過半数の株式取得を目指すことになります。それを防ぐ手段としても自社株買いは有効です。自社株買いにより1株当たりの株価が上がれば、買収相手は経営権を獲得するためにより多くの資金が必要になるからです。
このように、自社株買いはさまざまな目的があって決定されるものですが、市場ではポジティブな材料としてインパクトがあります。
ただし、投資家としては、そのポジティブな状態が継続するかどうかを注視する必要があります。
自社株買いには企業の資金を用いるため、経営の安定性を測る自己資本比率が低くなっていないかをチェックし、設備投資や事業活動に充てる資金の備えが十分あるかどうか押さえておきましょう。
自社株買いが行われたという点だけでなく、中長期的な企業の発展という視点で、事業内容の改善による利益の見込みなど業績予想にも着目して投資判断することが大切です。