インフレが及ぼす影響とは?
物価が継続的に上昇していくことを指して、「インフレーション(インフレ)」と言います。
インフレは、企業におけるコスト増からくる価格転嫁や市場に出回るお金の量が増えることによる影響など、実に様々な背景から生じ得ます。見方によってメリットもデメリットもあるため、私たちの生活にとって一概にインフレが良いとも悪いとも言い切れません。
ただ、スーパーや薬局など日常的な買い物をする中でも、物価の上昇を感じる…という方も多いのではないでしょうか。
このコラムではインフレが生活に及ぼす影響を理解し、資産運用においては具体的にどう考えていくのが良いのかをお伝えしていきます。
基本を知る!インフレの影響
インフレが起きると、個人や社会において次のような影響が発生します。
- 物価・生活費の上昇:物価の上昇に伴い、食品、家賃、公共料金などの基本的な生活費が増加し、支出が多くなることで、家計に負担がかかりやすくなります。このことにより買い控えが起きたり、「今後物価が上がるなら今のうちに買っておこう」と消費が促進されることもあります。
- 貯蓄の価値減少:インフレが進むと、現金や銀行預金の実質的な価値が減少します。例えば銀行に100万円預けておいたとしても、インフレにより実質95万円分の価値しか持たなくなるといったことが起こり得ます。一方、現金の価値が減少するということは、借金の価値も減るという考え方もあり、固定金利で借金をしている場合は将来の返済負担が軽く感じられることもあるでしょう。
- 金利の上昇:中央銀行がインフレを抑制するために金利を引き上げることが多く、これによりローンやクレジットカードの利息が増加する可能性が高まります。
- 企業のコスト増加:原材料や労働力のコストが上昇し、企業の利益率が圧迫されることがあります。ただし、コストをうまく転嫁できれば、利益率が高まり、雇用増などにつながり経済が活性化します。
- 輸出競争力の低下:インフレで国内生産の製品の価格が上昇すると海外に輸出した場合、高価に見えてしまうため、輸出競争力が低下する可能性があります。ただし、インフレが進む国では通貨の価値が下落することもあり、その場合、 通貨安の影響で輸出品は安くなるため、輸出力競争力が向上することになります。
これらはあくまでもインフレの影響における傾向的な話であり、確実にすべての事象が発生するわけではありません。
しかし、個人にとっても企業にとってもインフレは少なからぬ影響を及ぼす可能性があるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
株式市場はインフレに強いって本当?
株式投資家にとっても、インフレが株式市場にどんな影響を与えるのかは気になるところでしょう。一般的に株式は、「インフレに強い資産」といわれています。 なぜなら、販売しているモノやサービスの値段が上がれば企業の収益が増加し、株価は上昇しやすい環境になるからです。
ところが、インフレへの警戒感から株価が下がるというケースもあります。
これはなぜでしょうか?
理由の一つに、金利の上昇が挙げられます。中央銀行は急激なインフレを抑えるために、金融政策として金利を上げます。金利の上昇は株価にとってはマイナス要因となります。
【金利上昇と株価の関係】

※画像は筆者が作成
「良いインフレ」と「悪いインフレ」とは?
一口にインフレと言っても必ず株価が上がるわけではなく、金利などほかの要因が絡んでくるということがお分かりいただけたと思います。
実は、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるといわれます。
緩やかなインフレで、企業が物価の上昇を商品やサービスに転嫁することができ、その結果企業の収益が増加します。働く人の賃金も上昇し、消費が増えれば、経済が活性化され景気も良くなります。これは、株式相場にも良い影響を与えることになります。このような状況が「良いインフレ」です。
一方、原油価格の高騰などにより物価が急激に上昇してしまい、賃金の上昇にうまくつながっていない場合、人々は消費を控え、景気も冷え込んでしまいます。これが「悪いインフレ」です。
特に今の日本では、物価の上昇と比べてなかなか賃金が上がらないため、企業側も商品やサービスを値上げすると業績が下がるという懸念があり、値上げしている企業は一部です。このような状況では、インフレで企業業績が良くなり、株価が上がるとは考えにくいでしょう。
インフレに負けない運用を考えよう!
では、急激なインフレに備えるには、どのような運用を考えたらよいのでしょうか。
インフレに強い資産と言われているものは、株式のほか、投資信託、不動産、金や原油などが代表的です。
【インフレに強い運用】

※表:筆者作成
インフレ対策案①現物資産への投資
まずは、株式ではなく、実質的なモノを所有する(実物資産へ投資する)ことによって、物価上昇のメリットを享受する運用方法です。
具体的には不動産や資源への投資です。ただし実質的なモノを持つことは固有の知識や手間、コストなどがかかることが多く、例えば、不動産を購入するには多額の資金が必要になります。そこでREIT(上場不動産投資信託)を利用して少額から投資をする、資源であれば、すでに開設済みの証券口座で売買できる資源関連ETF(金や原油)などを利用し、手軽に投資をしてみるとよいでしょう。
インフレ対策案②株式への投資
株式での運用なら、インフレの影響を受けにくい企業に投資しましょう。
例えば、独自の製品やサービスを持っており、その業界で確固たる地位を築いている企業や、市場シェアがかなり高い企業などです。個別の企業を研究することがむずかしければ、成長企業をファンドマネージャーが選択して運用してくれるアクティブ運用の投資信託を選択するのもよいでしょう。
賃金の上昇を伴った「良いインフレ」下であれば、金利の上昇で一時的に株価が下がることはあっても、長期的に見れば経済は上向きで、株価の上昇につながることになります。短期的な視点で慌てて売ってしまったりせず、政府の方針(例えば、賃上げ政策の内容や進行度合い)を確認したり、投資先がインフレに強い体質のものかどうかなどを確認することが大切です。