元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引生活では「中長期投資」という言葉は忘れてしまおう 元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引生活では「中長期投資」という言葉は忘れてしまおう

元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引生活では「中長期投資」という言葉は忘れてしまおう

まえがき

また誕生日が来た。いよいよ50歳の大台が目前となってきた。
僕は、この春、思うところがあって、日本株のファンドマネージャーとしてそれなりに長く勤めた会社を、辞めた。

そう多くもない個人資産を信用取引で運用して生活することにした。
それは意識的にそうした、というよりも、結果としてそうなった、というのが正しい。単に、辞めたは良いが次の行き先がなかった。それだけの話だ。

個人投資家として株式市場に向き合うようになった時間はまだ短い。それでも、機関投資家としては気付くことがなかっただろう発見や気づきは少なくない。それらをアトランダムに紹介していければと思う。

自らの将来像すら描けない状況下、企業や市場の「中長期」の未来を予想できるのか

ということで、今回は「中長期投資」である。
個人に向けた投資関係の入門書の類で金科玉条の如く繰り返されるフレーズである。いわく、米国の有名投資家がそれを実践して大成功したとか、忙しい投資家も一喜一憂せずこの方針でいけば安心、等々、このようなサイトを見る人ならば絶対に目にしたことがあるはずだ。

しかし、これから、値上がり益を期待して個別の日本株投資に取り組もう、経験を積もう、とする個人投資家は、「中長期投資」という言葉は忘れた方が良い結果が出る。僕はそのように確信している。というか、僕は自分にそう言い聞かせながら、日々の売買をしている。

なぜか。僕自身、「中長期投資」という言葉が脳裏をよぎるのは、ほとんど全ての場合において、直面する問題から逃げたい、先送りしたい、失敗を認めたくない、そういうときであるからだ。

そもそも、「中長期投資」と簡単に言うが、凡人に、株価予想の前提となる日本経済や企業業績、あるいは市場環境の何年も先の姿を、正確に予想できるわけがないのだ。特定の株式を買ったきり持ち続けて「中長期投資」だと言い張ることは誰にでもできること。にもかかわらず、投資の神様だとか賢人だとか言われる投資家は何人もいないという単純な事実。それが何を意味しているのか、われわれはもっとよく考えるべきだろう。

ところで、にもかかわらず、アナリスト・ストラテジスト・ファンドマネージャーに類する人種は、その「5年10年の先を見据えて」とか、「中長期スタンスで」という類の物言いをすることが多い。これは別に彼らが勘違いしているわけではない。まず、短期的なリターンについての確約を求める投資家(本当にこういう困ったことを聞くヒトが時々いる)に言質を与えないようにしなければならない、という事情が大きい。それに加え、当面の間、向こう数か月くらいは値上がりに確信が持てない、ということを婉曲に表現したい場合に使うことも少なくないように思う。この業界、仮にも、下がると思います、などと口にすると商売に差し支えることが少なくないのである。

「失敗」があるのは当然。ただ「大きな失敗」は全力で避けたい

ある日、A社の銘柄を買う。半月で5%下がる。アレ?と思う。放っておく。3か月で2割下がる。半年で半分になる。中長期投資だから、優良企業だから、などと自分で自分に言い聞かせて保有を続ける。1、2年して、株価が戻る。利益確定をする。

むろん、僕にもこうした経験がある。しかし、このようなケースを「中長期投資が報われた実例」などと喜ぶべきではないと思う。

本当に、最初の段階で、A社の株を買うときに、2年も3年も利益が出ないと思って買ったのか。半年後に半分になると思って買っていたのか。そうではなかったはずだ。すぐにでも利益が出るかもしれない、少なくとも大きく下がることはない、と内心期待したからこそ、買ったはずなのだ。当面は下がるのであれば、下がってから買うはずだからだ。

本来取るべき行動は何だったか。このケースの場合、本来起こるはずがない、半月で5%の損失が発生した時点で、当初買いを決断した投資アイデアをあきらめる、反対売買をする、ということだと僕は思う。

自らの誤りを認めること、また現実にお金が減るのは、むろん、つらい。しかし、いつのことかわからぬ「中長期」の到来を待ってお金を寝かせてしまうのは無意味だ。特に、信用取引の場合、期日到来や追証発生をきっかけに、より損失が拡大した、不本意なタイミングで反対売買を余儀なくされることもあるのだから、失敗を小さいうちに処理することが肝要だ。

偉そうなことに書いている僕自身も、実際にはなかなかスムーズに損切れないことはある。そこで、実践していることが2つある。

ひとつは、平凡ではあるが、値動きが思わしくないと感じた銘柄には必ず逆指値を入れておくこと。いざ株価が下がった(上がった)時にシビれて決断できなくなる事態を避けるためだ。

もうひとつは、常に買いたい(売りたい)新しい銘柄の投資アイデアを考えること。畳ではないけれど、より新しく魅力的な銘柄が出てくれば、内心シマッタと思っている銘柄は片づける決断がつきやすくなる。それが人情というものだろう。

われわれは努力次第で勝てる時代を生きている

思えば、20年以上前、僕が学校を出てある証券会社の営業マンになったころ、約定100万円以下の株式の売買手数料率は3%だったように記憶している。その当時、上記のようなスタイルで売買していれば、手数料だけで資産が吹っ飛んでしまったことだろう。

それが、今や手数料率は概して当時とは比べ物にならないほど低廉になっているし、条件次第で手数料がゼロになる証券会社も現れた。投資の神様のような銘柄選択力がないわれわれ個人投資家にも、失敗の規模を最小化する努力を徹底することで、勝てる時代が到来しているのではないか。僕はそう考えている。

元ファンドマネージャーY

元大手投信会社のファンドマネージャー。
日本株に携わって20数年のベテラン。
団塊ジュニア世代。

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