「決算短信」を読み解く 「決算短信」を読み解く

「決算短信」を読み解く

決算短信とは何?

企業の状況を知るのに役立つのが「決算短信」です。
これは、企業が3ヵ月ごとに発表する経営の定期報告書です。
上場企業は四半期ごとに決算短信を開示する義務があり、決算日から45日以内に公表します。

さらに詳しい情報は有価証券報告書(※)に掲載されていますが、有価証券報告書は年1回の提出のため、速報性のある決算短信のほうが、投資家にとってはいち早く企業の動向を把握できる情報といえます。

※有価証券報告書は、上場企業などが年に一度、投資家や一般の人に向けて会社の詳細な情報を公開するものです。投資家保護と市場の透明性を確保するために、提出が義務付けられています。原則として事業年度終了後3か月以内に提出することが必要です。

決算短信には、売上や利益などの数値データに加えて、業績の増減要因や財政状態、今後の見通し、配当の方針なども記載されており、投資判断の重要な材料になります。
この資料の目的は、いま企業がどのような状況にあるのか、そしてどの方向へ向かっているのかを投資家に伝えることです。

決算短信を確認する方法

上場企業は、年4回(3ヵ月ごと)に決算短信を開示します。

たとえば、3月決算の企業の場合、第1四半期決算短信は4月から6月、第2四半期決算短信は4月から9月、第3四半期決算短信は4月から12月の情報がまとめられています。

第4四半期の決算短信は4月から1年分の通期の成績がまとめているため、「通期決算短信」や単に「決算短信」といわれます。1年間の売上・利益や配当の実績、新年度の業績予想も掲載されるため重要な決算資料とされています。

東京証券取引所は、決算期末後45日以内に決算短信開示を行うことが適当、30日以内の開示がより望ましいとしています。そのため、決算発表後30日から45日以内には決算短信を確認することができます。

決算短信は、各社ホームページの投資家情報・IRライブラリのページに、決算説明会資料とともに掲載されており、PDFファイルを開くことで閲覧できます。
その他、TDnet、EDINETでも閲覧することができます。

TDnet(適時開示情報伝達システム)は東京証券取引所が運営する上場企業の公式発表を集めたサイトです。企業名や証券コードでの検索により最新の決算短信が見つかります。

EDINET(エディネット)は、金融庁が運営していて、主に有価証券報告書など詳しい資料を探すときに便利です。決算短信より少し後に出る年に1回の詳しい報告書が中心です。

決算短信の基本構成と注目ポイント

決算短信は「サマリー情報」と「添付資料」で構成されています。
「サマリー情報」は決算短信の冒頭に記載され、企業の業績が手早く把握できる要約情報です。
「添付資料」は、サマリーの裏付けになる説明です。気になるところを確認したいときにみます。

●サマリー情報

  • 経営成績
    売上高や利益などが前年同期比や増減率とともに記載されている、いわば企業の成績表です。
    「前年同期比」つまり前年と比べてどう変化したかに注目してください。

  • 自己資本利益率(ROE)も押さえておきたい指標です。株主からの出資金を使ってどのくらいの利益が出せたのかを表します。
    近年は、政府や証券取引所から企業への要請もあり、売上や利益の増加よりも資本効率を重視するようになっています。

  • 財政状態
    企業の健康状態を表します。
    資産(企業が持っているモノやお金)、負債(借入や支払いの約束)、純資産(資産-負債)、自己資本比率(借金に頼らず経営できる力)が記されます。自己資本比率が高いほど借入に偏っておらず財政基盤の安定感があります。

  • キャッシュ・フローの状況
    企業の「現金の出入り」を記録したものです。お金が順調に回っているかどうかの確認ができます。

企業は、次のような活動を通じて現金を動かしています。

営業活動:商品やサービスの販売など、本業によって獲得した現金
投資活動:設備投資や買収など、将来の成長のために使用した現金
財務活動:借入や株式発行で資金を調達したり、借金を返済したりなどで動いた現金
このうち特に重要なのが営業活動によるキャッシュ・フローです。これは、企業が本業で稼いだ現金の流れを示しています。


  • 配当の状況
    1株当たり配当金や、利益の中からどれくらいの配当を株主に還元するかを示す配当性向も記されています。近年、株主還元を強化する傾向があるため配当性向を明示、あるいは目標値を引き上げたりする企業が増えています。

  • 今後の業績予想
    企業は、次の期間にどう成長を見込んでいるのか売上高や利益などの予想を示しています。過去の実績と照らし合わせて強気か慎重かを読み解きます。

  • 注記や事業のリスク
    見逃しがちですが、「広告費を減らしたため」「研究開発費を抑えた結果」など、利益の背景や注意点が書かれていることがあります。投資判断に影響を与える可能性のある重要な情報が含まれていることがあるので、チェックしましょう。

<サマリー情報からチェックするポイント例>


サマリー情報からチェックするポイント例

※自己資本は、株主から出資されたお金や、企業がこれまで稼いで蓄積してきた利益のことで貸借対照表では純資産の部に記載される。返済する必要がない資金。


●添付資料
数字の増減理由、事業ごとの成績、企業の見通しなどが具体的に説明されています。特定の事業だけ急成長していることや、地域ごとに好調または不調があるかもここで確認できます。


  • 国際会計基準(IFRS)と日本会計基準(J-GAAP)
    企業により採用している会計基準が異なり、決算短信の冒頭に会計基準が記されています。IFRSは海外の投資家にもわかりやすい国際的なルールで、日本会計基準は国内で広く使われているルールです。
    近年、日本企業の中でもIFRSを採用する動きが増えています。
    資本効率の改善や株主還元の強化が求められる中で、IFRSを導入することで国際的な基準に適合し、海外投資家からの信頼を得ることが期待されるからです。
    グローバルな視点から見ると、IFRSの導入が企業にとって重要な戦略となってきていると言えるでしょう。

決算短信を読むポイントは、以下の3点です。

  • 数字の大きさよりも、以前の数字からの変化(増減または変わらないか)
  • 数字の背景にある企業の考え方
  • 今後はどうするのかという予想と戦略

この3点を意識して読むと、決算短信が単なる数字だけの情報ではなく、より理解しやすくなります。

投資に活かすポイント!決算短信で確認したいこと

決算短信を投資に活かすためには、単に数字を追うだけでなく、多角的な視点から分析をすることが重要です。
決算短信で注目するポイントをトヨタ自動車の2025年3月期決算短信を例に見てみましょう。

2025年3月期決算短信(IFRS)連結 2025年5月8日公表

2025年3月期決算短信(IFRS)連結 2025年5月8日公表

トヨタ自動車はIFRS(国際会計基準)を採用しています。
2025年3月期(2024年4月から2025年3月まで)は、増収減益という結果になりました。
一見すると“減益”という結果に不安を感じるかもしれませんが、「添付資料」まで目を通すと営業利益の主な増減要因が記されています。
さらに詳しく知るために、決算説明資料を見ると減益の主な理由は「人への投資」「成長領域への投資」によるコスト増であることがわかります。
つまり未来のための支出だったわけです。
これらから、人的資本への投資を積極的に行っている企業姿勢がうかがえます。
これらの投資は、短期的には利益を圧迫するものの、長期的には成長を見据えた戦略的な支出と考えることができます。


  • キャッシュ・フロー(CF)
    営業活動でしっかり現金を稼いでいて、将来に向けた投資(新技術・設備投資)も積極的に行っています。

  • 財務の健全性
    国際会計基準において、重要な指標の一つである親会社所有者帰属持分比率(※)は38.4%です。(※日本会計基準では「自己資本比率」)
    流動比率(流動資産÷流動負債)も125%以上であり財務が安定しています。

  • 収益性・経営の効率性の指標
    本業から利益を稼ぎ出す会社と判断する「営業収益(売上高)営業利益率」は10.0%、ROE(自己資本利益率)は13.6%を示し、企業の収益力が評価できます。

  • 株主還元の強化
    配当は、2025年3月期年間90円(24年3月期比+15円)、期末50円(+5円)と減益の中でも長期保有の株主に報いる安定増配の方針を示していることがわかります。

このように、まずは1社の決算短信を読んでみてください。
気になる会社であれば面白く感じやすく、前年の数字との変化に注目すると読みやすくなります。
そして、読みながら数字の増減の背景を想像してみてください。
図やグラフで解説された決算説明資料などの情報と併せると、より理解が深まり、投資の判断材料に有用です。

執筆者:村松祐子

村松祐子


ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士)。金融・証券インストラクター。 1987年より、大手証券会社において外国株式の東京証券取引所上場に際し、販売促進に携わる。資料作成、および、顧客向け株式セミナー、社内勉強会の運営に従事。1990年より富裕層向け資産運用コンサルティングに従事したのち、 株式調査部に転籍、経済・株式の調査を経験、機関投資家向け週間マーケットレポートの作成に携わる。資産運用の相談、経済・市場調査の経験を踏まえ、それらを総括したサービスを提供するFPへ転身。現在、資産運用・株式投資の個人レクチャー、セミナーのほか、ライフ&マネープラン相談を実施している。一人ひとりに合った資産形成の提案には定評があり、自立した個人投資家の育成にも力を入れている。『FPコスモス』代表。

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