生産者物価指数(PPI)とは?
生産者物価指数は、「Producer Price Index」のことを指し、頭文字をとってPPIとも称される経済指標です。生産者物価指数(PPI)を発表している国はいくつかありますが、アメリカの労働省が算出している指数が有名です。アメリカの生産者物価指数(PPI)は毎月15日前後の木または金曜日、日本時間では21時30分(夏時間の時期)もしくは22時30分(冬時間の時期)に発表されます。
生産者物価指数(PPI)は、生産者が販売した製品(原材料や中間財も含む)の価格変動を表しています。つまり、生産者視点の物価(卸売価格)が上がっているのか、下がっているのかを表し、景況を判断する指標です。消費者視点の小売価格ではなく、生産者視点での卸売価格変動を反映した指数であるため、「卸売物価指数」ともいわれます。生産者物価指数(PPI)で注目度が高いのは、総合指数(アメリカの生産者が出荷した製品や原材料などの販売価格の動向を測定・算出した物価指数)と、コア指数(総合指数から食品やエネルギー価格を除外した指数)です。
なお、同じように景況判断をする指標の一つに消費者物価指数(CPI)があります。消費者物価指数(CPI)は、消費者が購入する製品などの価格変動を表す指数で、消費者視点、つまり消費者が製品を購入する小売価格における物価の変動を表していることも合わせて知っておくとよいでしょう。
生産者物価指数(PPI)の動きと景況には下表のような関係があります。
<生産者物価指数(PPI)の動きと景況>
生産者物価指数(PPI)の長所と短所
生産者物価指数(PPI)の動きに注目することで、景気の良し悪しが判断できますが、この指数には以下のような特有の長所と短所があります。生産者物価指数(PPI)を活用する際には長所と短所を理解した上で、指数を確認しましょう。
【長所】
生産者物価指数(PPI)の長所の一つに、消費者物価指数(CPI)の先行指標として活用できる点が挙げられます。
生産者が製品を作る際に利用する原材料などの価格が引き上げられると、卸売価格が上昇する可能性があります。つまり、卸売価格が上昇すれば生産者物価指数(PPI)も上昇します。卸売価格が上昇し、最終的に消費者が製品を買う際の小売価格も上昇すれば消費者物価指数(CPI)も上昇します。
つまり、生産者物価指数(PPI)の動きに目を配っておくことで、消費者物価指数(CPI)の動きを予想できるといえます。ただし、生産者物価指数(PPI)が上昇しても、必ずしも消費者物価指数(CPI)も上昇するとは限らないという点には注意をしておきましょう。
また、生産者物価指数(PPI)は製造段階別(原材料、中間財、最終財)や品目別、産業別など細かく指数が公表されているため、物価上昇がどのポイントで生じているかを調べやすいことも長所といえるでしょう。
【短所】
生産者物価指数(PPI)の短所としては、すべての産業が網羅されているわけではないという点が挙げられます。
また、食品やエネルギーなど季節変動が大きい要素がデータに影響を及ぼす点も短所といえるでしょう。冒頭でもご説明しましたが、生産者物価指数(PPI)のうち注目度が高いのは総合指数(アメリカの生産者が出荷した製品や原材料などの販売価格の動向を測定・算出した物価指数)とコア指数(総合指数から食品やエネルギー価格を除外した指数)です。季節変動の大きい要素を省いたデータを確認したい場合には、コア指数を確認するようにしましょう。
生産者物価指数(PPI)をどう活用すればいいの?
生産者物価指数(PPI)の変動、上昇や下落が強い傾向にある場合には、以下のような状況が生じる可能性があることを知っておきましょう。
【生産者物価指数(PPI)の上昇傾向が強いとき】
株価が下落する可能性があります。
生産者物価指数(PPI)が上昇するとき、景気は良化している状態です。しかし、あまりにも景気が加熱しすぎると、中央銀行は金融引締めのために金利の引上げを行う場合があります。金利の引上げが実施され、企業が設備投資などに消極的になれば、賃金にも影響が生じ、消費が落ち込むことになります。その結果、企業の業績悪化につながり、株価が下落する可能性があります。
【生産者物価指数(PPI)の下落傾向が強いとき】
株価の上昇につながる可能性があります。
生産者物価指数(PPI)が下落するとき、景気は悪化している状態です。しかし、あまりにも景気が悪化しすぎると、さらなる悪化を防ぐために中央銀行は金利の引下げを行う場合があります。金利の引下げが実施され、企業が設備投資などに積極的になれば、賃金にも影響が生じ、消費が活発になります。その結果、企業の業績向上につながり、株価が上昇する可能性があります。
アメリカの生産者物価指数(PPI)であれば、アメリカの株式市場全体についての話になるのですが、世界に対するアメリカの経済影響力は大きいため、世界の経済動向をマクロ的に予想する上でも有効な判断材料になります。
また、指標そのものだけでなく、市場の予想を上回っているか、下回っているかについても確認しておくとよいでしょう。指標が上昇していても、市場予想よりも上昇幅が小さければ株価がプラスに動くということもあり得ます。
生産者物価指数(PPI)の上昇傾向が強いときには、アメリカ株以外への投資を検討してみたり、生産者物価指数(PPI)の下落傾向が強いときには、アメリカ株への投資を検討してみたりなど、投資の方向性を考える際のヒントとして活用できます。
【日本にも似ている指標はあるの?】
日本には生産者物価指数(PPI)はありませんが、似ている経済指標に企業物価指数があります。
企業物価指数とは、日本銀行が調査している公表している経済指標です。企業間で取引される財を対象としており、現在時点の価格を、基準時点(2020年)の価格を100として指数化したものです。原則として翌月の第8営業日に公表されています。
生産者物価指数(PPI)からアメリカ経済をのぞいてみよう
過去10年間の生産者物価指数(PPI)のコア指数とS&P500(ニューヨーク証券取引所とナスダックに上場している代表的な500銘柄から構成される株価指数)の推移を見ると、2021年から2022年にかけてコア指数は高い水準が継続し、インフレ傾向が高まっている時期があります。その状況を受けて株価は徐々に上昇しています。その後、コア指数の伸びは鈍化していますがS&P500は上昇傾向にあります。これは、景気の下落に伴い、米FRB(連邦準備制度理事会)が大幅な利下げを行う予想が高まったからと考えられます。このあと、実際に2024年9月に0.5%の利下げが決定されました。
<コア指数とS&P500の推移>
生産者物価指数(PPI)が発表されると、インターネット上にも解説記事が掲載されます。アメリカ労働省の原版データを読むのはハードルが高いかもしれませんが、解説記事に目を通してみると、実際の変動と市場の予測との相違などから、アメリカ経済を学ぶことができますし、今後の世界経済の大きな流れをつかむこともできるでしょう。
普段、生産者物価指数(PPI)という言葉を、あまり目や耳にしたことがなかったという方も、今回の記事を、生産者物価指数(PPI)の動きにふれて、アメリカ経済や世界経済の様子を垣間見るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。