株主優待制度を廃止する背景
株主に自社製品やサービスを贈る優待制度を廃止する企業が最近増えています。個人投資家に人気がある制度を、いったいどのような理由で廃止を決定しているのか気になります。
2022年4月の東京証券取引所の市場再編で、株主数の規定が現在よりも緩和されることが理由の一つとして考えられます。東証1部に代わるプライム市場で必要な株主数は800人以上となり、現在の東証1部の2,200人以上から緩和されます。つまり個人株主を確保する一つの策としての優待制度の必要性は薄らぐことになります。個人投資家からは支持されてきた優待制度ですが、実は機関投資家や海外投資家からは優待の活用が難しいため評判がよくありませんでした。
優待制度の廃止を決定する企業は、公平な利益還元の観点から、配当金による利益還元の充実を図るとしています。優待制度廃止の決定とともに増配を発表する企業には投資家の関心が集まります。
ただ、強固な財務基盤が安定的な株主還元を可能にするため、借入が多すぎないか、潤沢な現金がある企業かどうかチェックが必要です。
株主還元を継続できそうな企業に注目
直近1、2年の間に株主優待を廃止し、代わりに増配を発表する企業に注目してみましょう。
さらに、手元資金がある企業であることも選定基準として抽出してみました。
財務の安全性が高い企業は、仮に本業が赤字でも不況時の抵抗力が強いと言えます。
エービーシー・マート(2670)<小売>2022年2月末の優待を最後に廃止。
配当等の利益還元を優先する方針を表明。
靴小売専門店最大手。スニーカーの品ぞろえを強みに『ABCマート』を直営展開する。韓国、台湾へ進出。
BEENOS(3328)<小売>2021年9月末の優待を最後に廃止。増配を発表。
2021年9月期は25円とし前期比で5円の増配に。2022年9月期の配当予想は27円。
主力は越境EC事業。ブランド品買い取り販売や国内外でのベンチャー投資・育成事業も展開。
エレコム(6750)<電気機器>2021年3月末の優待を最後に廃止。増配を発表。
期末配当を前回の1株あたり34.5円から37円へと修正している。
コンピューター周辺機器メーカー大手。PC周辺機器のファブレスメーカー。マウス、キーボード、スマホ関連で首位。
タナベ経営(9644)<サービス>2020年9月末の優待を最後に廃止。配当を重視。
2021年10月に1株を2株にする株式分割を実施。2022年3月期の配当予想を23円とすることを発表している。前期(2021年3月)の年間配当は43円だが、株式分割を考慮すると増配になる。(1株が2株になるため、23円×2株=46円)
経営コンサル大手。コンサルと法人向けセールスプロモーションを柱とする。
いであ(9768)<サービス>2021年12月を最後に優待廃止。増配を発表。
配当予想を1株あたり30円から35円に増配。2022年12月期の配当予想は40円予想で、前期より5円の増配となっている。
環境調査・分析で最大手の建設コンサルタント会社。アジア市場や国内民間市場を開拓中。
このように株主優待を廃止すると、優待品を株主へ贈る輸送コストを削減でき、経費負担を抑える効果もあります。実は、コロナ禍で経営環境が厳しいことを理由に優待制度を廃止している企業もあるため、廃止の背景をしっかり押さえましょう。
株主還元を強化する企業例