元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引と株主優待 元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引と株主優待

元ファンドマネージャーの投資コラム 信用取引と株主優待

個人投資家ならではの楽しみ、株主優待

テレビに有名人が出演し盛大に宣伝してくれたこともあってか、株主優待がブームである。僕も、個人投資家になってみると、株主優待というものが楽しみになった。

かつての僕は、全くと言っていいほど株主優待には関心がなかった。株主優待品は換金してファンド資産に組み入れられることになっているとはいえ、保有株数に正確に比例して優待品の数が増えるわけではないので、配当のようにファンドのリターン(ファンドマネージャーとしての僕の成績)の源泉としては頼りにならないからだ。

正直、会社に株主優待を充実させる(特に金券の類で)お金があるのなら、1円でも50銭でも良いから配当という形にして欲しい、と考えていた。実際、僕は、業績取材の席で、会社の人にそのような要望を伝えたことも一再ならずある。

それが個人投資家になって、実際に株主優待品を手にしてみると、わりと嬉しいものだ。実際、僕がテレビに出演している有名人のように徹底して使い倒せるかというとさすがにそんなことはなく、人にあげたりしてしまうのだが。日常、パソコンの画面に映る数字が増えた減ったで一喜一憂している中、実際に形あるものを手にしたことで得た充実感のようなものが、嬉しさの源泉なのだと思う。

現物買いと一般信用売りの組み合わせは面白いアイデア

もっとも、信用取引を手掛けるにあたり、株主優待については覚えておくべき基本事項がある。

まず、信用取引の買いでは、株主優待はもらえない。株主優待をもらうなら、現物買いだ。 なぜなら、信用取引で買った株は、証券会社にお金を借りている関係で、名義が証券会社のものになっているからである。なお、証券会社の倉庫には株主優待品が山となってあふれている、などというようなことはない。上述のように、株主優待は株数に正比例して提供されるものではないからである。

それよりも気をつけなければならないのは、信用取引の売り方になった場合のこと。具体的には「制度信用取引」で売り建てを行った場合だ。この場合、株主優待の権利付き最終日に逆日歩が大きく(時には株主優待品の価値以上に)跳ね上がることが少なからずあるのだ。実際の逆日歩がいくらになるかは事前にわからない。巡り合わせが悪いと、意図しなかったロスが出ることになりかねない。少なくとも、自分が売り建てしようとする銘柄がどのような優待を行っているかについては、事前の十分な確認を心がけておく必要があるだろう。

例外は、「一般信用取引」を活用した売り建てだ。これは上述の逆日歩問題は存在しない。もっとも、これは取引する証券会社の在庫の有無によって利用できたりできなかったりすることがある点には留意しなければならない。そのため、株主優待への人気が高いと予想される銘柄の場合、早めの対応が必要になるだろう。

それでも、うまく活用できれば、別のコラムで触れられているように「現物買い・一般信用売り」を組み合わせて、リスクを抑えた株主優待の権利取りができるようになる。これはちょっと僕も一度何かの銘柄で挑戦してみようと思っている。

今後も企業は株主優待強化の方向へカジ

今後も、株主優待は、いっそう充実されていく、とみていいだろう。企業としてみれば、株主の属性が機関投資家に偏るのは避けたい、という意識が働きやすい。細かな業績変動をさほど気にせず企業の「ファン」になってくれる個人投資家を獲得するツールとして、株主優待は大きな武器となるからである。特に、今後は、数年単位で長期保有する投資家への優待をより強化する動きが活発化しそうだ。

僕も、こうした株主優待強化の風潮は、理屈はさておいて、決して悪いものではないと思うようになっている。現状、株式を保有している世帯はおよそ2割程度にとどまるとされ(注)、まだまだ一般的とまでは言えないように思う。それだけに、言葉は悪いが「物に釣られる」形であっても、株主優待が多くの人にとって株式に触れるきっかけとなって、やがて本格的に株式に資産を振り向けるようになるのであれば、日本の株式市場に厚みを増す結果をもたらすと考えるからだ。

注:現在保有している金融商品(外貨建を含む)・株式:単身世帯=19.6%、二人以上世帯=20.2%(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」令和元年)

元ファンドマネージャーY

元大手投信会社のファンドマネージャー。
日本株に携わって20数年のベテラン。
団塊ジュニア世代。

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