英ポンド相場の今後(英選挙後)
2019年12月12日、英下院総選挙が行われ、下馬評通り、保守党が365議席(47増)獲得し大勝しました(総定数650、過半数326)。労働党は203議席(59減)と歴史的大敗。残留を掲げた自民党も11議席(1減)と振るわず、党首スウィンソン氏自身も落選しました。一方、同じく残留を掲げる党でも、スコットランド国民党は48議席(13増)と躍進しました。
2016年6月23日に行われた国民投票でEU離脱が決まった時、多くのメディアは「離脱派議員の甘言に一部の英国民が騙された」「もう一度、国民投票をすれば、おそらくEU残留となる」等々、英国民がよく理解していなくて最悪の決断を下したという見方が流布されていました。しかし、先日の総選挙からわかることは、英国民の意思は明確に「離脱」にあり、それは揺るぎのないものだったということです。自称エリートの見方が間違っていました。
これまでEU離脱法案を議決しようとしても、可決に必要な過半数を得ることができず大混乱していましたが、ジョンソン首相率いる保守党は今回の選挙で過半数を優に超える議席を獲得しました。問題なく1月末日までに離脱法案を可決することができるでしょう。
離脱法案を可決した後、英国は「移行期間」に入ります。この間に、英国はEUやその他の国々と、どのようなやり方で貿易を行うのか貿易交渉が行います。いわゆるFTA交渉です。ところが、このFTA交渉はかなり時間がかかると想定されています。通常、数年です。そのため、「移行期間」は2020年末日が期限ですが、交渉がまとまらず時間が必要な場合、2022年末まで、最長2年延長することができます。
ところが、ボリス・ジョンソン首相は、意外な行動に出ました。2020年末日の離脱期限を延長しないという法案を定めることにしたのです。これには、多くの関係者が驚きました。
英国民は一刻も早くEU離脱したいと願っている。そうであるならば、移行期間末日に、たとえ貿易交渉の合意がなくても離脱すべき、とジョンソン首相は考えたのでしょう。想定の中から全く消えていた「合意なき離脱」が復活した瞬間でした。
前回のコラムにおいて、もし保守党が総選挙で勝利した場合、国民投票時の下落を取り戻す動きとなるため、英ポンドは急騰し、対円で150円程度、対ドルで1.40ぐらいまで戻すのではないかと書きましたが、実際、英ポンドは対ドルで1.3515、対円では148円前後まで急騰しました。ここまでは、シナリオ通りだったと言えます。ところが、ジョンソン首相が「合意なき離脱」の可能性を復活させました。金融市場は「合意なき離脱」の可能性をマーケットに織り込まなければならなくなりました。
仮に、「合意なき離脱」の可能性が25%だとします。合意に基づき秩序だってEU離脱する場合のポンドの適正レートを対ドルで1.40、反対に「合意なき離脱」となった場合の英ポンドの対ドルレートを1.00とします。この時、ポンドの有り得べき市場レートは、1.40から25%だけ1.00方向にシフトさせた1.30と言うふうに考えることもできます。ただ、「合意なき離脱」の可能性が25%よりも大きく、50%とみなされる場合、ポンドの市場レートは1.20にシフトすべきです。
現状、「合意なき離脱」の可能性が何%あるのか。それは簡単にはわからないところがありますが、一般的に言われている25%であれば1.30が適正レートと考えて良いかもしれません。
ポンドドルは総選挙後に1.35に達しましたが、かなり買われすぎであり、1.4方向と思っていた適正水準が1.30とむしろ下方にシフトしてしまいました。これ以上、ポンドを買うわけには行きません。むしろ、少しロングポジションを整理して1.30方向への動きに備える必要があることになります。じっさい、こうした考え方から、1.35まで急騰したポンドドルは1.30方向へと調整を余儀なくされました。
今後は、ますますジョンソン首相への注目度が高まることになります。スケジュール的に注意しなければ行けないのは2020年6月。6月末日まで、各国とのFTA交渉が順調に行かなかった場合、英国は期限延長をリクエストしなければなりません。しかし、ジョンソン首相は延長のリクエストなど、しないでしょう。その時、金融市場は少し荒れることになります。
そして2020年末日が近づくにつれて、またマーケットは荒れることになります。おそらく、FTA交渉は到底間に合わない状況なのに、ジョンソン首相はなんとか2020年末に離脱するよう、各方面に圧力をかけることでしょう。
ただ、ブレグジットも同様な動きでした。10月最終日までにブレグジットを実現すると公約していましたが、保守党内の造反により、会期の延長をEU側にリクエストせざるを得ませんでした。今回も誰か知恵者が、何らかの策を編みだすでしょう。
メインシナリオ
志摩力男氏 プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒 ゴールドマン・サックス証券会社、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。
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