株式交換とは?~メリットとデメリット~
「A社がB社を株式交換で完全子会社化」というニュースを目にしたことはありませんか?株式交換は、会社法第2条に「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう」と明記されています。
例えば、下図のようにA社がB社の発行済株式の全てを手に入れる代わりに、B社の株主に対してA社の株式を交付するのが株式交換です。つまり株式交換の結果、B社はA社の100%子会社になります。
<株式交換のイメージ>

※画像は筆者が作成
株式交換は、企業および株主にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
企業のメリット
上図のA社は原則として自社の株式をB社の株主に渡すことで、B社を傘下に収めることができるため、多額の現金を準備する必要がありません。B社を100%子会社にすることで、経営の効率化や相乗効果を高め、事業強化を図ることができます。また、B社はA社という親会社によるブランドや信用力を活かして、新たなビジネスに挑戦できる可能性が広がります。
B社の株主のメリット
B社の株主は、B社株と引き換えにA社株を受け取ることができます。原則として一定の要件(以下、適格再編)を満たしていれば、株式交換でA社の株式を取得した際には税金はかかりません。つまり税負担を気にせずに、将来的な企業価値向上や株価上昇が期待できる企業の株式を取得できることになります。
企業のデメリット
親会社であるA社の株式を対価とするため、親会社の株主構成が変わります。また、A社が株式交換のために新規株を発行すれば1株当たりの価値が薄まる可能性があるため、A社の既存株主にとって短期的にネガティブに捉えられることもあります。基本的には、事業強化を図るために行われる株式交換ですが、期待した効果が得られない場合もあります。
B社の株主のデメリット
株式交換によって保有銘柄が変更されるため、ポートフォリオのリバランスが必要になる場合があります。交換比率によっては、交換後に受け取る親会社株式の価値が、元の株式の価値を下回ってしまう可能性も否めません。
株式移転とは?~メリットとデメリット~
株式交換に似て非なる用語に「株式移転」があります。株式移転は、会社法2条に「1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう」と明記されています。
例えば、「A社とB社が共同で株式移転により持ち株会社Cを設立」というように発表されます。この場合、A社とB社の株主は新たに設立されるC社の株式を受け取り、A社とB社はそれぞれC社の完全子会社になります。
<株式移転のイメージ>

※画像は筆者が作成
株式移転は、企業および株主にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
企業のメリット
A社、B社ともに、単独では難しかった大規模なプロジェクトや最新の技術開発などに、双方の強みを活かして挑戦できる可能性が広がります。グループ全体の経営戦略を進めるのは持ち株会社Cの役割となり、A社、B社は得意とする事業への専念ができるため、全体として成長の効率性を高められます。
A社、B社の株主のメリット
A社およびB社の株主は、A社株、B社株と引き換えにC社株を受け取ることができます。そのため今まで投資していなかった事業領域に投資でき、リスク分散効果も期待できます。株式移転による経営の効率化、相乗効果によって企業価値向上の効果を享受できる可能性があります。なお、株式交換と同様に、原則として、適格再編であれば株式移転でC社の株を取得した際に税金はかかりません。
企業のデメリット
新たに持ち株会社を運営するためには新たな組織が必要であり、持ち株会社の設立費用のほかに運営費用(人件費、地代家賃他)が発生します。また、法務や経理などの間接部門が既存の企業と重複する可能性もあります。そのため、持ち株会社と事業会社の意思決定プロセスが複数生じることで、判断や実行のスピードが落ちる可能性があります。そのほかにも、企業文化の違いから事業展開が上手く進まない場合もあります。
A社、B社の株主のデメリット
株式移転によって保有銘柄が変わるため、ポートフォリオのリバランスが必要になる場合があります。移転後に受け取る持ち株会社の株式の価値が、元の株式の価値を下回る可能性も否めません。
株式交換と株式移転の事例
株式交換と株式移転の実例を1つずつ、ご紹介します。
株式交換の事例~ダイハツ工業の完全子会社化~
トヨタ自動車によるダイハツ工業の完全子会社化は、2016年1月29日に正式発表され、2016年8月1日の効力発生日をもって、ダイハツ工業株はトヨタ自動車に全て取得され、ダイハツ工業はトヨタ自動車の完全子会社となりました。この株式交換に伴い、ダイハツ工業の株式は2016年7月27日に上場廃止されました。
トヨタ自動車には、新興国市場での競争力を高める上で非常に重要な、軽自動車事業を強化する狙いがありました。また、ダイハツ工業としては、トヨタグループの世界トップクラスの技術開発力、調達ネットワーク、生産ノウハウ、そしてグローバルな販売網を最大限に活用できるようになり、単独では難しかった大規模な投資や新技術開発が可能になりました。
トヨタ自動車とダイハツ工業の株式交換は、それぞれの強みを活かし、役割を明確化することで、グローバルな小型車戦略における競争力を高めるという点で成功した事例といえます。
株式移転の事例~KADOKAWAとドワンゴの経営統合~
KADOKAWAとドワンゴの経営統合および共同株式移転については、2014年5月14日に発表され、2014年10月1日に共同株式移転が実行され、新しく「株式会社KADOKAWA・DWANGO」(現在は株式会社KADOKAWA)が設立されました。KADOKAWAとドワンゴは、「株式会社KADOKAWA・DWANGO」の完全子会社となり、両社は2014年9月26日に上場廃止しています。
KADOKAWAは出版や映像、ゲームなど多様なコンテンツをもっており、ドワンゴの持つ「ニコニコ動画」などのインターネット技術や配信プラットフォームを手に入れることにより、紙媒体の市場が縮小する中でのデジタル強化を図ることが目的でした。また、ドワンゴは動画配信やゲームなどIT技術に強みがあり、KADOKAWAのもつコンテンツを活用し、コンテンツ力の強化とユーザーの拡大を目指しました。しかし、一般的には、当初目指していたような大きな相乗効果を十分に生み出すには至らなかったと評価されています。そこには、企業文化の違いや、仕事の進め方やスピードなどが大きく異なったことで、組織としての一体感を築くのに時間がかかり、迅速な事業展開ができなかったと考えられます。
所有する株が、株式交換・株式移転の対象となったら?
株式交換、株式移転は企業が成長し、変化していくための重要な戦略です。しかし、事例を見ていただいた通り、必ずしもその戦略が成功するとは限りません。所有する株が株式交換や株式移転の対象となったら、投資家としてどのように行動すればよいのでしょうか?
そのような事態になったとしても、基本的には自動的に手続きが進み、株主自身に複雑な手続きが求められることはないため焦る必要はありません。ただし、証券会社から届く案内や企業の発表資料で「目的」「交換・移転比率」「今後の見通し」「スケジュール」などの内容をよく確認しておきましょう。
また、株式交換や株式移転が実行されるまでは、所有している株の売買も可能です。そのため、株式交換や株式移転の発表後は短期的に株価の急激な騰落が生じる可能性もあります。そのような事態が生じても慌てることなく、株式交換や株式移転によって、企業の成長が見込めるのか?期待される相乗効果は実現可能なのか?など経営陣のメッセージと今後の事業戦略を評価して、冷静に行動を選択しましょう。